雨が降って虹が出るまで、ミュージカル映画のような23分間
雨の日よりも、晴れた日が好きな人の方が多いかもしれない。でも『雨に唄えば』(1952年)の “Singin’ in the Rain”のように悲しみを歌い飛ばす雨とか、虹のきっかけになるお天気雨は案外悪くない。ソウルとJ-POPをルーツに全ての作詞作曲を務める豊田康一郎(Vo / Gt)擁する3ピースバンド・ソウルベイベーズ。今年3月にリリースした初の作品『Soulbabies』EPは、そんな雨が降って虹がかかるまでの一日を描いたような、ロマンとメロウを双肩に持つソウルナンバーが5曲収録されている。徐々にストーリーが進行していくような楽曲構成と「愛してるって言葉も 歌の中だけ 僕から目をそらさないでよ」(メロディをこしらえる)と赤裸々な歌詞が織りなす世界が、まるでミュージカル映画を観ているような心地にさせてくれる、トータル23分間があっという間の1枚だ。
1曲目“メロディをこしらえる”から2曲目“雨とキッチン”、3曲目“凡”までは雨が楽曲のモチーフとして登場する。登場人物の存在を例えるならば「レイブンクローかハッフルパフ」。煙草を吸っても大衆的な「ゴロワーズかハイライト」。決してカリスマではないがきっと純粋な登場人物像が見える具体的な描写からは、庶民に寄り添って歌われてきた中島みゆきを始めとするニューミュージックを彷彿とさせる。しかしそんな日本のありふれた生活風景を表現のベースにしつつ、現代的なR&Bやソウルミュージックに昇華しているという点ではyonawoとの同時代性も感じるところがある。
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4曲目“わからんベイベー”からは雨が止んだようで、快晴の中エンディングに向かう。ライブでもお馴染みで、バンドを体現しているような本楽曲は「夢か現(うつつ)かわからんベイベー」のリフレインが特徴の、幸せな時間を閉じ込めておくような1曲。野中菜都美(Ba)がバースでボーカルをとっており、サビでは豊田とのハーモニーで徐々に高揚感を上げていく。その熱量はサビ後の、軽やかなギターソロのスタッカートに引き継がれていく流れに身を任せたくなる。「メンバーを含む仲間と静岡県熱海市へ車で旅行した際、思いついた曲」と豊田が別のインタビュー記事で語っていたが、旅の思い出を日記に綴るだけでは飽き足らず、創作を通してより深く楽しかった時間を昇華し、さらに何度も演奏することで味わい尽くそうとしているのだろう。彼らのライブは篠原佑太(Dr)の笑顔も印象に残っているが、そうやって幸せをリフレインし続けるためのバンド活動が、ソウルベイベーズなのかもしれない。
2018年に結成したばかりで、バンドストーリーとしてはまだ第一部に過ぎない。しかし3人のメンバーの他にもtommgnとSatoshi Hori(阿佐ヶ谷ロマンティクス)がレコーディングに参加。また活動拠点の一つ〈三鷹おんがくのじかん〉で共演しているシンガーソングライター・金子駿平とのセッション動画が公開されているなど、既に豊田の楽曲が持つ包容力には仲間が集まってきている。
「歪な僕らの世界線は
今日もどこか
欠けているから その隙間から
音が響き 重なりあって 嗚呼」 ー “na-na-na(Happy Song)”
楽曲のルーツに多国籍が同居し、祝祭を生んでいる様と情感込めた歌い方も相まって、『巴里のアメリカ人』(1951年)で“I Got Rhythm”をジーン・ケリーが歌い、周りに子どもが集まってくるシーンを想起した。やはり豊田はジーン・ケリーなのだろうか。登場人物が増えると、物語が展開していくのはミュージカル『オズの魔法使い』(1939年)のときからのお約束だ。これから第二部では、どんな登場人物が登場するのだろう。また豊田が生む楽曲を核として仲間たちが織り上げていく大きなタペストリーには、何が描かれてゆくのだろうか、これからの活動を追いかけたくなっている。
Soulbabies
発売:2022年3月30日
フォーマット:デジタル・CD
収録曲:
1. メロディをこしらえる
2. 雨とキッチン
3. 凡
4. わからんベイベー
5.na-na-na(Happy song)
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ソウルベイベーズ
三鷹・下北沢を中心に活動する3ピースバンド。メンバーは大学時代に出会った豊田康一郎(Vo/Gt)、野中菜都美(Ba)、篠原佑太(Dr)。次回ライブは7月18日(月/祝)に〈渋谷7th Floor〉にて予定している。
Twitter:https://twitter.com/soul_babies
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WRITER
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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