照らされるんじゃない、輝くんだ – 加速する「BRIGHT PUNK」バンド MINAMIS。1stフルアルバム『FUTURES』インタビュー
ELLEGARDENが16年振りの新曲をリリースして世間を騒がせていた2022年9月、エルレ全盛期に青春を過ごした青年が率いるバンドが、1stフルアルバムをリリースした。結成から7年目に突入した5ピースバンド、MINAMISだ。〈渋谷La.mama〉を拠点に一度も活動を止めず、コンスタントに音源も制作し、自主企画『CHABASHIRA FIGHT CLUB』は現在 VOL.30まで続いている。この企画ではSTANCE PUNKSやTHEイナズマ戦隊、D.W.ニコルズといった先輩格からBREIMENやマイアミパーティといった同世代、東京少年倶楽部などの後輩まで幅広い対バンと切磋琢磨。2021年12月には〈渋谷CLUB QUATTRO〉でのワンマンライブが満員となるまでに仲間を増やした。
そんな勢いの最中で発表されたのが、新メンバー清水省吾(Gt)の加入と、これまでギターボーカルだったフロントマン・南雲健太がギターを置いてピンボーカルになることだった。これを機にバンドは一つの姿勢「BRIGHT PUNK」を表明し、今年2022年3月には同タイトルのEPをリリース。全国ツアーを敢行するなど益々エンジンに火がついた。そして9月7日にようやくリリースされたのが、キャリア初となるフルアルバム『FUTURES』だ。
『FUTURES』はポップパンク、メロコアを軸としつつ、いずれもライブで繰り返し披露された楽曲ならではのグルーヴ感が一貫している、今のMINAMISが詰め込まれた作品だ。それは、音源を聴いたリスナーとの、ライブで出会う未来を見据えた、約束の1枚とも言えるだろう。MINAMISは、メンバーがそれぞれ違う夢を抱きつつも、同じ船に乗って一つの光を目指しているような揺るがない強さがある。つまり、海外でも聴かれるボーダーレスな音楽を生み出しながら、同時に目の前の一人ひとりを輝かせることに全力ということだ。必ずやMINAMISのマイルストーンとなるであろう『FUTURES』以前と以降を捉えるため、本作の作詞作曲を手掛ける、バンドの舵取り役・南雲に、拠点としている〈渋谷La.mama〉で話を聞いた。
写真:ハギワラヒカル
MINAMIS
南雲 健太(Vo)髙坂 研多(Gt)清水 省吾(Gt)はむざ(Ba)篠原 佑太(Dr)
全人類を肯定する、5人組“BRIGHT PUNK”バンド。
Webサイト:https://minamis-official.tumblr.com/
Twitter:https://twitter.com/MINAMIS_pdf
全年齢・全世界対象のボーダーレスを目指した『FUTURES』
活動7年目のタイミングで、どうして1stフルアルバムを作ろうと思ったのでしょうか?
実はEP『GO AROUND』(2019年)の後、2020年は春に5曲入りEP、秋にも5曲入りEPを出して、それぞれのツアーを周る予定だったんです。それがコロナでライブも全然できなくなったので、一旦その話はなくなってしまって。
その後リリースされたのは、〈La.mama〉で収録されたライブレコーディングアルバム『starting point』(2020年)ですね。
それからどうやってアルバムを出す話になったのでしょうか?
『LOST』を出した後に、痺れを切らして「曲も溜まってるし、ツアーも周りたい。だから来年はどうしてもフルアルバムを出したい」って言ったんですよ。その頃には他のメンバーも全員同じ気持ちになっていたんです。
南雲さんとしては念願叶ってのフルアルバムだったんですね。
そうなんです。タイトルは「これから」を意味する「FUTURE」ですが、もう一つ「過去から見た今」という意味も含まれています。だから複数形で『FUTURES』。アルバムを出したいのに出せなかった2年前の自分から見た未来が今なんですよね。遮二無二曲を書いていた時期の自分に報いるためにも、どうしても後悔しないアルバムを出したかった。それでギリギリまで粘りました。当然100点取りたいし、101点取れるんだったら101点取りたい。気合の入りまくった最高のフルアルバムです。
全部で何曲の候補から選ばれた10曲が収録されたのでしょうか?
20曲以上の候補曲の中から選んだかな。2年間で書いた曲の中で、フルアルバムからは溢れそうな曲がいくつもあったんですよ。でも俺はアルバムに入らなさそうな曲もどうしても出したかったので、「パンク盤」として先に出しました。
それが『BRIGHT PUNK E.P.』だったんですね。こちらが「パンク盤」だとすると、『FUTURES』はどういった位置付けですか?
全年齢対象のバラエティ豊かなアルバムかな。だからライブハウスが怖いとか、事情があってライブハウスに来られない人も含めて、どんな人にもしっかりと届けたい。今って、性別も年齢も関係ないし、世界中で聴けるじゃないですか。サブスクの分析を見ると、アメリカとか中国、フィリピンでも聴かれてるんですよ。俺たちが目指しているところは、ジャンルを限定せず、聴く人も限定しないボーダーレスかもしれないです。
実はMINAMISのサウンドは、キャリアも長くなってくる中で移り変わりがありますよね。初期のEP『スーパークルーズ』(2016年)は歌ものだったし、『歓喜の渦』(2017年)に収録された“サンクス!ミュージック”の歌詞にはカリプソとかタンゴも出てくるポップなダンスミュージックのイメージ。そして近年はメロコア・パンク寄りの楽曲が増えてきています。
“サンクス!ミュージック”は、MINAMISの音源で唯一、髙坂(研多 / Gt)作曲です。
なるほど!髙坂さんのプレイには、色んな音楽を聴いてきた影響を感じますし、本作ではより顕著になっていますね。“NO NAME”のギターソロのようなハードロック系のフレーズもあれば、“Tiny Party”みたいな王道ポップスに通じるリフだったり、歌うようなフレーズもある。
そう、髙坂はエリック・クラプトンに憧れてギターを始めた男だから、ブルースのギターフレーズも要所に入れてきてます。(清水)省吾もパンクのギターのフレーズをぶちこんできてるし、『FUTURES』は特にメンバーそれぞれの武器が凝縮されてる作品になりました。これまで以上に、アレンジの精度は高いと思います。
精度が上がったのはどうしてでしょうか?
今回は俺が作るデモの段階で、大枠のイメージが出来上がってたんです。それをメンバーに聴いてもらって、みんなが乗っかる方法で作ったので、迷ったときに立ち帰れる道標があったのは大きいかな。全員で、同じ方向を目指せました。昔は俺が弾き語りみたいなデモを作ってきて、それをみんなでどうにか形にする感じだった(笑)。『FUTURES』は音楽的にもレベルアップして、今MINAMISができることの結晶です。
MINAMISのルーツを紐解くプレイリスト
目指す光景は4年前の『AIR JAM』、Hi-STANDARDのライブ
〈La.mama〉では『starting point』のライブレコーディングの他にも、コロナ禍で「MINAMISの朝から生ライブ!」を毎週月曜の朝8時から行ったり、ここを拠点にしていることはMINAMISにとって重要なポイントだと思うのですが、そもそもいつからここで活動されているのでしょうか?
実はMINAMISを結成する前の2013年に、「南雲ケンタ」名義で弾き語りを始めたときから、ここに出ていました。そこでMINAMISのマネージャー、〈La.mama〉のブッキングマネージャーでもある河野さんにも出会いました。弾き語りよりもバンドがやりたかったので、メンバーを集めて、MINAMISの基本の体制が出来たのは2015年末ですね。
では南雲さんが音楽活動を始めてから、ずっと〈La.mama〉が拠点なんですね。
はい。だから河野さんには事あるごとに「アーティストのゴールはライブ」と言われ続けていて、その考えが染み込んでます。それに、俺らの好きなバンドってみんなライブがかっこよくて、楽しい人たちなんですよね。俺らも、そうあるべきだと思ってます。
南雲さんが思い当たる、「楽しかったライブ」は何ですか?
具体的に言えば4年前に観た『AIR JAM』でのハイスタ(Hi-STANDARD)のライブですね。あれは人生最高のライブだったなぁ。俺、あの日は一生忘れない。
そのライブを観たことで、バンドにも変化がありましたか?
「やっぱり音楽って楽しくなきゃ」と思って、楽しさを軸に置くようになりました。それまではどちらかというと、「感動させたい」と思ってたんですよね。でも、楽しさの中に感動があるってそのライブで気づいたんです。もちろん色んな考え方のミュージシャンがいていいんですけど、少なくともMINAMISのライブ後は「楽しかったな」と思ってもらいたい。
南雲さん自身がライブをしていて楽しいと思うのは、どういうタイミングですか?
特にお客さんのいい表情を見て「ちゃんと届いている」と分かった時かな。それを自覚してから、セットリストの組み方を変えたんです。前はやりたい曲をやってたけど、今は「この曲をやれば伝わる」と思える曲をやるようにしてる。だからか、楽しさの強度は増してきました。2021年の12月、〈渋谷CLUB QUATORO〉ワンマンは、観に来てくれた学生時代の友達に「お前めっちゃ楽しそうだったな」とも言われたくらい。
MINAMISでは過去最大キャパのライブでしたよね。
うん、それでも一人ひとりの顔を見ながら歌えるんだと思いました。だからこれからどれだけ規模が大きくなっても、このスタンスは変えたくない。誰かがインタビューで「1対1万人じゃなくて、1対1を1万回やるんだ」って言ってたけど、本当にその通りだと思います。ハイスタのライブで観たような、一人ひとりにちゃんと届いたことで生まれるシンガロングを、MINAMISのライブで見てみたいな。だからまずは、〈La.mama〉のフルキャパ250人の前で、それを実現したいです。
〈ZOZOマリンスタジアム〉で観たハイスタのライブが一つの理想でありつつも、自分たちがやりたいことを実現する場所は変わらず〈La.mama〉なんですね。そのギャップがMINAMISらしい。
単純に俺らが育った場所なのに、まだ250人でのライブは成し遂げてないことだから、まずは絶対にクリアしたいと思ってる。そこにいるみんなで『FUTURES』の曲たちを歌えるまでは、やめられないよね。
「僕」から「俺」へ - 英詞で近づいた、パーソナルな世界
“Over the Blue”は歌いたくなるパートから始まりますね。ハイスタっぽい空気感もあるな、と。
『FUTURES』は殆どの曲が、みんなで歌ってるパートがあるんです。もちろん俺が「ここはみんなで歌おうぜ」ってアレンジの段階で言うんですけど、メンバーいわく、言われなくても歌いたくなるらしくて。今はシンガロングできない状況だけど、だからこそ俺たちが代わりに歌う、っていう意味も込めて、最近はメンバーが歌う曲も増やしてます。
歌いたくなる曲って、どういう曲だと思いますか?
やっぱり、メロディラインのよさが中心にあると思います。反射的に歌いたくなる音って、言語が違っても共通のものなんですよね。だから、最近は海外のアーティストの曲も、言葉のリズムが好きでよく聴いてます。
今回10曲中、8曲は大半が英詞で、これまで以上に割合が増えたことにも関係していますか?
そうですね。実は前から、最初に「いいメロディが思いついた!」って鼻歌を歌っている時って、よく分からない英語なんですよ。帰国子女でも留学してた訳でもないから、文法ぐちゃぐちゃだし、そんな単語ねーよ、みたいな感じの英語みたいな言語(笑)。バンドを始めたころはそれを日本語に変えていたんだけど、英語のままの方がいいと最近は思うようになりました。
響きを重視するようになったんですね。
ハイスタも英詞だから、ライブ中は歌詞の意味が分からないけど、とにかく感動したんですよね。それに、ストレートなことをシンプルな英語で言ってるじゃないですか。すごくかっこいいなと思って。日本語詞だと照れくさいことも、英詞なら言える。
一つ気になったのが、南雲さんの歌詞、一人称が英詞と日本語詞で違うんですよね。今回の歌詞カードに記載されている英詞の対訳は「俺」なんですけど、日本語詞には「僕 / 僕ら」が多く見られます。これも何か関係がありますか?
今言われてハッとした(笑)。最近の英詞の曲で対訳が「俺」になっているのは、自分と近い距離でパーソナルなことを発信しているからだと思います。自分のこと、普段は「俺」って言うんですよ。“Back in My Town”もそうだけど、今回のアルバムは自分と向き合っている時期に書いた曲たちだから、見てきた景色も歌詞になってるし、人生観もよりはっきり現れていると思います。逆に“NO NAME”とか“TRACKS”は日本語詞で、これはどちらかというとみんなに共通する想いだから「僕 / 僕ら」にしたのかもしれないです。
英語の発音やイディオムなどが自然ですが、英語圏の世界観はどこから取り入れているんですか?
俺、アメリカの映画とか、海外のシットコムドラマが好きなんですよ。『フルハウス』みたいな、お客さんがいて、喋るごとに、笑い声が入るやつ。多分そういうところから来てると思います(笑)。小さい頃からハッピーで、キャラもあっけらかんとしてる映画とかドラマが好きで。「え、そこの問題解決してなくない?」みたいな、でも最後みんなで大団円で歌って終わったりするようなね。
なるほど!たしかに『フルハウス』の世界観はMINAMISのライブっぽいですね。自主企画『CHABASHIRA FIGHT CLUB』(以下、CFC)でも、よく対バンと一緒に最後ステージでコラボレーションしていて。5月の爆弾ジョニーとのCFCはまさに大団円って感じでした。
昔から誰かと一緒にやることが好きなんです。高校までやってたサッカーもそうなんですけど、仲間と同じ絵を描いて、同じ絵が見れたときが楽しくて。2022年8月に開催したCFCでは、鉄風東京からFUNNY THINK、paioniaまで、バンドの想いがみんなに伝わって、どんどん輪が大きくなっていくのが目に見えて分かったんですよね。そんな中、最後に演奏できたのが、グッと来ました。対バンした後、他の場所でも何度も再会したり、仲間になっていくのも最高ですね。
聴いてくれる人それぞれが、自ら輝けるような音楽を
他のバンドとの出会いもそうですが、2021年末に新メンバーとしてギターの清水省吾さんを迎えて、一気にMINAMISとして加速しましたね。
ギターを入れる着想は、俺がピンボーカルの曲も増えてきたから「音の厚みがほしい」っていうことだったけど、誰でもいいわけではなかった。全員一致で、昔対バンしてた省吾の顔が浮かびました。ちょうどバンドが向かう方向がはっきりしたタイミングだったので、そこにがっちりはまるのは、音楽的にも人間的にも省吾しかいなかった。
その方向というのが「BRIGHT PUNK」ということでしょうか?ちょうど省吾さんが入った時期から、「BRIGHT PUNK」バンドと標榜するようになりましたね。
そうですね。これも俺が言い始めました(笑)。色んな人に「メロコアでもないし、ポップパンクに全振りしてるわけでもないし、でもパンクだし、MINAMISって不思議だよね」って言われていて。それでしっくりくる表現を考えて、思いついたのが「BRIGHT PUNK」でした。それこそハイスタの“STAY GOLD”じゃないけど、MINAMISの“SUNRISE”では「輝いて」と繰り返し言ってる。俺らって「俺らもみんなも輝こうぜ」って言い続けているバンドなんですよね。
「BRIGHT」は、自分から発するものでもあるし、照らされて光るものでもありますね。
だから「BRIGHT PUNK」は、自ら光ることで聴いてくれた人の人生を照らして、最後にはそれぞれが自分の力で輝いてほしいと思っている俺らに、ぴったりだと思ったんです。
MINAMISのライブが毎回最高を更新していくことで、聴いている側も「自分の人生をよくしていけるんだ」と思える力があると思います。
それめっちゃいいですね!誤解を恐れずに言うと「MINAMISがなきゃだめなんです!」ってなっちゃうよりは、MINAMISを聴いて「自分も成長したい」とか「新しいことを始めてみよう」とか、自分の力で進むきっかけになってくれると嬉しい。あくまでも聴いてくれる人たちが、それぞれ自分の人生の主役であってほしいと思っています。
There is no way I am not the hero in my own story(自分の物語の主役が自分じゃないなんてそんなの嫌だろ?) “Choose life”
FUTURES
アーティスト:MINAMIS
発売:2022年9月7日
フォーマット:CD / デジタル
価格:¥ 3,000(税込)
収録曲
1. Choose Life
2. Kids in the Magic
3. NO NAME
4. Tiny Party
5. The Glow
6. Over the Blue
7. TRACKS
8. Something New
9. Back in My Town
10. This is My Song
『FUTURES』特設サイト:https://lit.link/futures
購入はこちら
MINAMIS BRIGHT FUTURE TOUR
10月7日(金)越谷EASYGOINGS w/ シャンプーズ,MOCKEN,CULTURES!!!,オレンジの街(O.A)[FOOD]042CURRYBASE
10月15日(土)盛岡the five morioka
10月16日(日)仙台FLYING SON w/ SAVE THE YOUTH,EAVENTIDE,EverBrighteller,HxRxTx (FEEBLE-GRIND)
10月27日(木)F.A.D YOKOHAMA w/ STUNNER,THEリマインズ
11月5日(土)柳ヶ瀬ants w/ MARIO2BLOCK,HiYT,カルナロッタ,Stellarleap
11月6日(日)心斎橋Pangea w/ hananashi,SLMCT,AX LITTLE CITY
11月18日(金)MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎 w/ 艶艶 …and more
11月19日(土)福岡Queblick w/ Hate this town,Amberdrops,Kowloon Fanclub
12月4日(日)栄Party’z w/ 日日是好日,PAIL OUT,Jacob Jr.
12月14日(水)SHIBUYA WWW X [ONEMAN LIVE!!]
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WRITER
-
97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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