INTERVIEW

よそ者がつなげた京都のシーン ‐ 折坂悠太と重奏 –

いろいろな場所で、多種多様な音楽が流れる京都の街。豊かな音楽文化を育む反面、どこか「いちげんさんお断り」の精神にも通じる、気心が知れた仲間内だけに閉じてしまうような風潮もある。そんなこの街で、独自の音楽性を磨き活躍してきたのが、ギタリストの山内弘太、鍵盤奏者のyatchi、ドラマーのsenoo ricky、コントラバス奏者の宮田あずみの4人。最初から一緒に音楽を奏でていたかのようにステージでは息の合う彼らだが、「重奏」というカタチで彼らの音を重ねたのは“よそ者” である折坂悠太だった。

MUSIC 2021.12.01 Written By 乾 和代

重奏メンバーの音の魅力

重奏を形づくるそれぞれが持つ音の魅力。個々の音を身近に感じているのは実際に音を奏でているメンバーだろう。そこで彼らの魅力を紐解くために、今回“他己紹介” という形式で、メンバーからメンバーへ、人柄とプレイスタイルについて紹介してもらった。それぞれの個性を感じる音源もセレクトしてもらったので、ぜひそちらもご一聴あれ!

宮田あずみ 〈From senoo ricky〉 

──

初めて出会ったのは?

ricky

2007年か2008年頃、元田中の〈cafe ZANPANO〉だったと記憶してます。

──

出会った時の第一印象は?

ricky

会った時は(〈cafe ZANPANO〉の)店員さんだったから音はわからないけど「キレイなお姉さんがいるな」と(笑)

──

一言でいうと、どんな人物?

ricky

ベースという他の楽器に比べ、縛りや制限が多い楽器を扱う人には珍しい、感情や情景をありありと表現できるタイプの人で、周りにあまりいないタイプ。アタックもドローンもリズムもメロディもハーモニーも、すべてちゃんと気持ちがいい塩梅のところで音を鳴らせる人。

音の個性を感じるオススメの音源

かりきりん『かりきりんライブ音源』(2021)

宮田あずみ Profile

「薄花葉っぱ」に10年間在籍、脱退後、戦後発行されていた児童詩集『きりん』に音を付けて演奏するデュオ「かりきりん」、バンド「Colloid」にてコントラバスを、ちょうどよい拍子ユニット「数えきれない」にてエレキベースを、そして2019年より、折坂悠太(重奏)でコントラバスを担当。最近は、ソロ活動として“浮自のはら”名義で、極たまに朗読活動のための作品も制作。

 

senoo ricky 〈From 山内弘太〉

──

初めて出会ったのは?

山内

いつだったか、ドラムは〈UrBANGUILD〉でゆーきゃんさんのバックで叩いているのを見たのが初めてだったような。(もぐらが一周するまでの佐藤さんがギターだったような)あるいはTurntable Filmsの〈磔磔〉ワンマン? でマンドリンを弾いていた時か。初めて話したのは、いつだったか覚えていない。重奏初リハの時に初めてまともに話した可能性があります。初めて認識したのはYouTube(アコースティックギター片手に歌ってる)でのビデオ。

──

出会った時の第一印象は?

山内

ライブの方は、この人ドラムも叩けるんだ〜大きな体で小さな音量のドラムだなぁと思ったような。滲むような音像だったのが素敵でした。マンドリンも弾けるんだ。あれ同一人物なのかな? などなどの印象です。ビデオの方は、この人ギターうんまーってなりました。

──

一言でいうと、どんな人物?

山内

台湾狂(現地の交通ライブカメラをチェックするほどに)。汗王(自ら命名)。例え王。笑いが遅れてやってくる。フィクサー。情報通。全員知り合い。

──

プレイスタイルについて教えてください。

山内

エモコーラス、溜め。フィクサー。名MC。ドラマティック。

音の個性を感じるオススメの音源

sistertail『enter』(2006)

 

山本精一&くいだおれ – 「ONG LINE」@全感覚祭2018

senoo ricky Profile

京都出身のシンガーソングライター、ドラマー。現在は無期限休止だがギター&ボーカルとしてsistertailとしても活動。ギター弾き語りでは、京都を中心に日本全国や台湾など海外でも演奏活動を行う。ドラマーとしてはLLama、YeYe、山本精一、七尾旅人、折坂悠太、川本真琴、ゆーきゃん、吉田省念、松ノ葉楽団など数々のミュージシャンの録音やライブに関わる関西屈指の感覚派ドラマー。

yatchi 〈From 宮田あずみ〉

──

初めて出会ったのは?

宮田

はっきりと正確には記憶してないのですが、恐らく〈UrBANGUILD〉であった“ピアノを弾く人五人総当たりライブ”みたいな企画だったかと。

──

出会った時の第一印象は?

宮田

まず構えが。ピアノに向かった時の姿勢(精神的なやつじゃなくて、や、結局その表れなんでしょうけれど定かではないので)が、本当に独特で、畳一畳分くらいある半紙に書道するような、マグロを解体するような、本当に凄い気迫の構え。そこから、もの凄く繊細で丁寧な音が紡がれて。柔らかくて優しいけど、ふわふわしておらず芯のある実直な音だなぁと思いました。

──

一言でいうと、どんな人物?

宮田

おじいちゃんと三歳児のミックス。日本酒。無骨なようでロマンティスト。不器用を凌駕する丁寧さ。無駄なことはしないけど、余白ありきの寛容さ広大。芯がものすご強い。ぶれない。

──

プレイスタイルについて教えてください。

宮田

情感や景色が押しつけがましくなく、淡々と美しく広がっていく。広がっていくのだけど自由奔放・縦横無尽というのともまた違っているというか、ピアノは何かと網羅してしまいがちだったりもできますが、余念のないシンプルさで必要最小限の美しい響きを優しく丁寧にしかしゆるぎなく紡いでいくなぁと、いつもうっとりしています。ソロのライブを観てると、短編オムニバス映画のようなそれ自体が一つの映画のような、感覚になることが多いです。(yatchiさんの想定した物語とは別で勝手に)シンセはピアノよりもストイックな役割をもってる感じがします。総じてロマンティックなんだけど甘ったるくないストイックさが根底にあって、ぶれない世界観をつくっている、のか?な?

音の個性を感じるオススメの音源


yatchi『metto Piano』(2015)


ムーズムズ『Flashing Magic』(2015)

yatchi Profile

神戸市生まれ、京都市在住。2005年頃からムーズムズの鍵盤を担当。2015年に、初のソロピアノアルバム『metto piano』を、2018年に、セカンドピアノソロアルバム『第3区間ピアノ』を発表。2019年より、折坂悠太(重奏)でピアノを担当。他にも、吉田省念バンド、Turntable Filmsをはじめ京都界隈を中心にサポートも務める。

山内弘太 〈From yatchi〉 

──

初めて出会ったのは?

yatchi

うろ覚えですが、201年1月頃に〈京都GROWLY〉で、確かメシアと人人のレコ発イベントで、彼はquaeruというバンドで、僕はムーズムズというバンドで出演させていただいた時だったと思います。

──

出会った時の第一印象は?

yatchi

ライブ後に、少し挨拶程度交わしたそうなのですが、ハッキリとは覚えておらず、ただ、なんとなく好青年な方だったなと……。

──

出会った時の第一印象は?

yatchi

ライブ後に、少し挨拶程度交わしたそうなのですが、ハッキリとは覚えておらず、ただ、なんとなく好青年な方だったなと……。

──

一言でいうと、どんな人物?

未知との遭遇。まだ分からないという事です。あと、ジェントル。

──

プレイスタイルについて教えてください。

彼の音に出会った時から衝撃でした。ギターであらゆる音色を出すもんですから。何をどうしてこの音が鳴ってるかとか分かりません。それに、当時、僕には感覚的になかったドローン的な音での長尺ライブとか。ハート、精神が強くないとなかなかできない気がしています。即興であらゆる人たちと、いつでもどこでも演奏できる柔らかさと瞬発性があると思います。ただ、当初は割と弘太君といえばこの感じの音の雰囲気を持ってるなと言えたのですが、勝手な主観で、最近は特に今までのプレイスタイルに縛られる事なくもっと多様な、というか、逆にスタンダードな音や弾き方も進めているような気がしています。それも、元に強いプレイスタイルがあってこそで、より幅広いスタイルで山内弘太節が炸裂していくと思います。

音の個性を感じるオススメの音源

山内弘太『submerge』(2020)


咖喱山水『Sound Meals vol​.​1』(2020)

山内弘太 Profile

京都市上京区、堀川団地在住。ギタリスト。即興演奏、映像、ダンスとの共演など国内外問わずあらゆる場で活動。2017年、銭湯で録音したソロギターの音源“In the Sento”をhoge tapesよりカセットリリース。ユニットquaeruのメンバー。サポートギタリストとしても活動。咖喱山水とのプロジェクト”Sound Meals”や、堀川会議室での音楽イベント主催にも携わる。

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