『?』から『Hotokeno』へ。オオルタイチ20周年の軌跡
オオルタイチの内側から溢れでた音楽を、幾重にも重ねて生まれたカセットテープ作品『?』が世に出たのが1999年。電子音と非言語が融合した即興音楽は、ダンスホールレゲエのパトワ語の響きと出会い、言葉を持たない歌へと変容を遂げていく。さらに、数多の人との出会いにより、彼の音楽は多面的に展開。バンド “ウリチパン郡”(現在は活動休止)やYTAMOとのユニット“ゆうき”などソロではなくバンドやユニットでは日本語で歌うことでその音楽に意味合いが帯びる。活動は彼一人の表現だけにとどまらず、2012年に立ちあげたバンドプロジェクトOorutaichi Loves the Acustico Paz Nova Band、折坂悠太やJuana Molinaなどの楽曲のリミックス、水曜日のカンパネラへの楽曲提供、 康本雅子とタッグを組んだ舞台パフォーマンスなど表現の場所も方法もそのたびに変化しながら拡張を続けている。
そんな、幾多の変遷を経て2019年に活動20周年を迎えた彼が、直感と衝動に身を任せて産みだされた楽曲たちをもう一度拾い集め、新たにカタチにしたのが『オオルタイチ20周年コンサート』と同タイミングでリリースされたアルバム『Hotokeno』だ。ここに収録されている曲は、新曲“ほとけの”、2011年発売の3枚目のソロアルバム『Cosmic Coco. Singing for a Billion Imu’s Hearty Pi』から“ソノニ”、キセルを歌い手に迎えた2010年発売のシングル曲“燃えるひみつ”、2018年に水曜日のカンパネラへ楽曲提供した“愛しいものたちへ”、そして、2003年に発発された1枚目『Yori Yoyo』のタイトル曲“依り洋々”の年代もシチュエーションもバラバラな5曲。そして、今回、彼の音楽をカタチにするために集められたのがOorutaichi special band。メンバーは、植野隆司(Gt / Sax)、石田多朗(Pf / Synth / Gong)、トンチ(Steelpan, Cho)、田中馨(Ba / Cb)、岸田佳也(Dr)、成田七海(Cello)、川村蕗倭皇(Vn / Va)の7名。本作は彼らにより録音され、2019年12月7日(土)には、東京の渋谷WWWにてこのコンサートの初演を行った。
そして、2020年1月18日(土)に大阪、千日前ユニバースにて、2回目にして千秋楽となるコンサートが行なわれる。今回、この20周年の真っただ中にいる渦中の人オオルタイチに、このコンサートについて、アルバム『Hotokeno』がいかにして産みだされたのかを伺うとともに、彼の20年の軌跡に迫った。
これまでやってきた音楽は、どれも自分がやりたいと思ってきた表現
大阪の公演に先駆けて、2019年12月7日に東京で20周年のコンサートをされましたが、ライブの初日はいかがでしたか。
照明さんや音響さんなど全部含めたチームでやれたのがこの時初めてだったので、通してみてショーとして改善点はたくさんあったのですが、チームみんなのエネルギーをすごく感じながらライブができました。初演の緊張感と爆発があってとても面白かったです。
どんなポイントを楽しめましたか?
休憩を挟んで二部構成だったんですが、初めはみんなすごく緊張していて。でも二部は曲もアゲアゲなものが多く、メンバーみんなすごくノッてて、お客さんも巻き込みながら演奏できました。
自分の想像を超えるものが見られましたか。
そうですね。全体通して「自分っぽいな」と思いました。
自分っぽいとは?
見せたくないところも見せたいところも全部見せられたというか。自分の部屋を見てもらうような感じ。
今までの活動を通して、そんな自分を見たことがありましたか?
それはないですね。ソロだったらこういうテンションでというのが自分の中にあるので。
例えば、ゆうきだったら歌に意識を向けるとか、ソロで打ち込みやる時はエネルギーを出すことを意識しています。それが今回は全部ある。自分的にプレイが甘くなったところもあると思いますが、それも含めて良かったと思っています。
今回のコンサートを逃すと、そういう姿はなかなか見れないかもしれないですね。
ないかもしれませんね。
今回、この20周年記念公演を行おうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか。
これまでいろいろな形態で音楽をしてきたので、自分のことを知っている人も一面一面でしか知らないことも多いんです。自分がやってきた音楽は、どれも自分がやりたいと思ってきた表現なので、一度の機会でそのまま全部を見せることができればと思いました。
あと6年くらい前にバンドプロジェクト(Oorutaichi Loves the Acustico Paz Nova Band)で自分の音楽を演奏していたんですが、20周年という区切りでそれをまたやってもいいかなと思ったのがきっかけですね。
その構想はいつぐらいから?
2018年の秋くらいです。アイデアが浮かんで、一緒にバンドをしたい人に連絡をとり始めました。
バンドメンバーは、ご自身が一緒に音を鳴らしたいと思われた方に声をかけられたんですか?
はい。植野隆司さん、トンチさん、田中馨さんとかは、以前からバンドプロジェクトでも一緒にやっていたことがあるんですが、今回も一緒にやりたいと思って。ほかにも、まだ一緒に音は出したことはないけど、ライブを見たり、単発の仕事で一緒になって気になっていた人も誘いました。例えば、石田多朗くんは作曲家として活動されているので、普段あまりライブはしないんですが、一度仕事をしたことがあって、すごく面白い人で。
石田さんのどんなところが面白かったんでしょうか。
人柄って言ったらあれなんですけど、同い年だし、話も通じるところがあって。彼自身はすごく深いところで音楽をされてるんですけど、プレゼンテーションがとても上手な方なので、お客さんにも良い架け橋になるのではと思いました。彼にはプレイヤーとしてだけでなく、曲のアレンジをしてもらう構想もありました。
今回のコンサートでは、石田さんがすべての曲をアレンジされているんですか。
曲によってですね。『Hotokeno』の収録曲では、僕が水曜日のカンパネラに提供した“愛しいものたちへ”のアレンジをしてもらいました。ライブで演奏する曲目の中では、あと2曲お願いしています。
お互いに共有できる世界観を通し、言葉で表現した“愛しいものたちへ”
20周年公演から販売される新譜『Hotokeno』は20周年公演のスペシャルバンドで録音されたと思うのですが、収録されている5曲の内“ほとけの”、”ソノニ”、”燃えるひみつ”、”依り洋々”はご自身でリアレンジされたのですか。
はい。“ほとけの”以外の4曲はこれまでリリースしているんですが、もう一度、今のバンドでできる形にアレンジしました。
なぜ、この5曲を選んだのでしょうか。
“愛しいものたちへ”と“燃えるひみつ”は、絶対に入れたいと思っていました。どっちも思い入れがある曲です。“燃えるひみつ”は、リリースした時にキセルさんにボーカルをお願いしたんですけど、自分のライブで演奏しないので聞いて頂く機会が少ない曲なんです。ソロはいつも非言語なので、日本語詞の曲はなかなかしないんですよ。今回のような形じゃないと、再現が出来なかったんで。
水曜日のカンパネラに提供した“愛しいものたちへ”にはどんな思い入れがあったんですか。
“愛しいものたちへ”をリリースしたのが一昨年。水曜日のカンパネラが曲を依頼してくれたのはその時が2回目で。絶妙なタイミングで声をかけてくれて、製作時間も割いてくれて。一曲に時間をめちゃめちゃ長くかけたんです。期間は3カ月ですが、その間ずっと一曲だけを作り込んみました。普段は感覚で作り始めて後から「どういう曲かな」ていうのを自分で探っていくことが多いのですが、正面から書きたい歌詞を書いてどんなメロディが出るか、というアプローチで曲を作りました。これまでにないアプローチでしたが、いい作り方ができたと思っています。
そういう作り方をしたのは、コムアイさんだったからなのでしょうか。
コムアイの存在は大きかったです。伝達力がすごい人なので、歌ってもらうならしっかりした曲風のほうが絶対良いだろうな、と思って。
歌詞は、彼女が歌うことを想定されたのか、それともご自身が言いたいことを書いたのか。
自分が今一番伝えたいことを彼女に託したいという思いがあったと思います。今、彼女とYAKUSHIMA TREASUREというユニットを一緒にやってるんですけど、お互いに共有できる世界観があるような気がしていて、そういうことも意識しながら言葉に落とし込みました。
共有している世界観を言葉に落とし込めるのはすごいですね。
歌詞からメロディが湧いてくることがあってすごく不思議な感覚でした。音階がフワ〜っと出てくるというか。これまでの活動の中でも「歌詞から出てくるメロディ」の重要性を感じていたので、それにがっつり取り組ませてもらえました。
プロダクションとして自分がやりたい世界観が出せた“燃えるひみつ”
キセルをフィーチャリングした“燃えるひみつ”ですが、この曲にはどんな思い入れがあるのでしょうか。
僕はキセルの大ファンで、自分の思い描く楽曲の感じがすごくバチっとできたなというか。原曲はプロダクションとして自分がやりたい世界観を出せた、すごく気に入っている曲です。
“燃えるひみつ”までは日本語の歌詞を歌にされてなかったと思いますが、日本語詞で曲を作ったのは、キセルさんに歌ってほしかったからでしょうか?
それもあったと思います。日本語の曲もウリチパン郡などで歌ってたんで、その融合点のような曲です。キセルさんも、いわゆるJ‐POPではない異質な感じもあり、一緒にやりたいと思いました。
今回、“燃えるひみつ”をご自身で歌ってみて、何か感じましたか?
もう一回「この歌、何なん?」と捉え直してる最中ですね。なんとなく歌詞の世界観はあったんですけど。自分で歌うとなると、気持ちの落としどころは、探り探りなんで。
楽曲の作り方は、いつもの打ち込みと弦楽器などにアレンジされるのと、大きくは変わらないのでしょうか。
“燃えるひみつ”は原曲の中からモチーフを探しました。例えばシンセサイザーで鳴らしている音を、ストリングスにすっと置き換えてみる。そうしてたら、自然と出来上がっていきました。
今回は石田さんが数曲アレンジされているそうですが、どんなフローでアレンジを進めたのでしょうか。
今回はライブの曲目をできるだけ五線譜に書き起こしてみたんです。以前のOorutaichi Loves the Acustico Paz Nova Bandでは、リハーサルスタジオに入って音を自由に出しながらアレンジを決めていっていました。今回一緒にライブをするヴィオラの川村さんやチェロの成田さんは、クラシックをやっている方なので、 完全に自由に、というやり方だと難しいこともあって。
これまでに、譜面化して演奏しようと思ったことはなかったのでしょうか。
なかったですね。今まではフィーリングで成り立っていた部分が多かったので、思いつかなかったです。なので今回は、あえてこうしてみようかなと。
新しい方法を試してみて、どうでしたか?
自分のやりたいことを明確にできて、すごくいい経験でした。意外とみんな、ついてきてくれて。「ここは外せない」っていう部分を口頭で他の人に伝えるのは難しいので、楽譜が地図のような役割を果たしてくれたので、伝わるのが早かったです。
曲を作るっていう行為が日記みたいな感じだった『?』
今回1999年に出したカセットアルバム『?』も20周年記念公演でを再発するんですよ。
おお!ネット上にも詳細情報がなく、『?』のことはずっと気になっていました。『?』はどんなアルバムなんでしょうか。
13曲で、60分。記憶が曖昧ですが『?』というアルバム名は、リリースした時につけたと思うのですが、曲名はなかったですね。
全部、曲名がないんですか?
曲名をつけるという頭がなかったんでしょうね。作った当時は曲を作るっていう行為が日記みたいな感じだったので。再発に際して曲名もつけていません。その時はまだ打ち込みとかも知らなくて、テープのマルチトラックレコーダーというすごくローファイな機材で、4つしか音を重ねられなかったんですけど、ピンポンという多重録音の方法を駆使して、ほぼ即興で音を重ねていくみたいな感じでした。
ということはその音はライブなどでは再現できないわけですよね。
できないですね。なんとなく曲にはなってるんですけど、かなりカオスな感じなんで。一番新しい『Hotokeno』と比べると同じ人が作ったとは思えないと思います(笑)
自分が音楽を作る時に一番良い状態が、自分が作為的でない時
『Hotokeno』に収録されている“依り洋々”ですがファーストアルバムでは“Yori Yoyo”とアルファベット表記だったのを今回は、日本語にされていますね。
もともと漢字の方が先にあったんですが、ファーストを出す時点でローマ字に変えていました。今回はあえて意味が感じれる漢字のタイトルに戻しました。
なぜこの言葉を選んだのですか。
自分が音楽を作ってる時に一番良い状態だと思うのは、自分が作為的でない時なんです。こういう状態の時に残せる音が一番嬉しくて。それを“音楽が降ってくる”みたいな言い方をしますけど、それがあるとしたら、音楽が依ってきてただ広がっていくみたいなイメージが一番自分にしっくりくる音楽観だと思っています。そういう意味合いが大きかったですね。
ファーストアルバムを作った当時からそうだったんですか?
はい。それで、この題名にしたんです。
“Yori Yoyo”は、無自覚ですっと生まれたような感じだったんでしょうか?
“Yori Yoyo”に限らず無自覚のうちに最初のモチーフが出来上がってくる時が多いのですが、実際はそこから、すごく作り込むんで、めちゃくちゃ悩んだりするんです。でも、『?』を作っていた時期は、ほぼインプロヴィゼーションで、自分が意図しない音楽ができる感覚にはまってしまい、どっちらかというとそんな時に感じた音楽観ですね。それがずっと自分の中にあって、今も一番大事だと思っています。年をとるごとに、曲を作ろうという意識が薄らいでいくというか。いろんな人との出会いや出来事に触れて、そういった流れの中でポロっと産み落とされた曲が自分には一番しっくりくると思っています。
『Hotokeno』に収録された曲は、そういう楽曲が選ばれているのでしょうか。
そうですね。“ほとけの”もずっと頭では鳴ってた曲というか、5年前くらいから断片的にはあったんです。自分は時間かかるというか、自然と出来上がるのを待つようなことが多いんです。“ほとけの”に関しては、もっと作り込みたいっていう気持ちはあったんですけど、「この曲は20周年公演までに完成させて出すのが良いかな」って。このタイミングで完成させたいなっていう感覚があって。
“ほとけの”は、最初から日本語にしようと思って作られたのでしょうか?
「どのプロジェクトでやるか」は考えてなかったんですけど、日本語で歌ってましたね。歌詞はなんとなく出てきたんですけど、去年、自分の子どもが生まれたこともあって、そういう想いも含まれています。
ターニングポイントは、次に繋がるポイント
『Hotokeno』の収録曲はそれぞれ、曲が生まれた時期が違いますが、今回、全部作り終えた時に聞いてみてどう感じられましたか?
まだ明確ではないですが、充実したバンドの空気感、統一感は出たように思います。いろんな所から引っ張り込んだ曲をどう見るかより、バンドの良さが込められた。今回、すごいスピード感で仕上げたので、狙い所はないんですよ。ただその時、一番力を発揮できる曲を収録しました。
私の勝手な印象なんですが、人や楽曲に合わせて最適なものを取り出しながら音楽を作っている感じがするんです。それこそ“依り洋々”の「依り」じゃないですけど、依代のような感じがしていました。
そうですね。もっと依代的になれたらと思っています。
この20年を改めて振り返って、ご自身にとってターニングポイントってありましたか。
毎回、ソロでもウリチパン郡でもゆうきでも、アルバムを出すタイミングが大きいですね。それまで、ぐっとためていた力をアルバムを出すことで開放する。そこからツアーとかで新しい出会いが生まれて、さらにそれが次に繋がることがある。毎回アルバムを出すのが、次に繋がるポイントかもしれないですね。
この20周年もターニングポイントになるのかもしれませんね。では最後に、今後の展望などはありますか。
この先、もっといろんなことをやって楽しくなりそうだなって思っています。音楽活動をすることは仕事だったり、自分のためだったり、色んな意味合いがあると思うんですけど、自分の栄養にどんどんなりそうかなって。音楽を作って、さらに人と出会ったりとか、いろんな場所で演奏したりとか。音楽をやることによって、自分が出会いたいことや行きたい場所に行けそうな気がしています。
日時 | 2020年1月18日(土) OPEN 18:00 / START 19:00 |
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会場 | |
料金 | 前売 3,500円 / 当日 4,000円(ドリンク代別途) |
出演 | Oorutaichi special band 【MEMBER】 Vocal, Guitar:オオルタイチ Guitar, Sax:植野隆司 Piano, Synth, Gong:石田多朗 Steelpan, Chorus:トンチ Bass, Contrabass:田中馨 Drums:岸田佳也 Cello:成田七海 Viola,Violin:川村蕗倭皇
ゲスト:康本雅子(ダンサー・振付家)/ Dj shabushabu 出店:Pleased to meet me / 喫茶アオツキ / アジア食堂 歩屋 |
予約 | ①メール予約 cowandmouse489@gmail.com ※キャンセル不可 ※件名に[オオルタイチ 大阪公演]と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご予約内容などを折り返しご返信致します。
②プレイガイド ・チケットぴあ【Pコード:166-741】※電話予約あり:0570-02-9999 ・ローソンチケット【Lコード:55228】※電話予約あり:0570-08-4005 ・e+ |
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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