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ゼロからイチをつくるライブハウス〈GROWLY〉が育んだ明日へ続く一日-『GOODBYE GROWLY』ライブレポート

2024年12月29日(日)、惜しまれながらも閉店した京都・二条にあるライブハウス〈GROWLY〉。2012年3月19日にオープンして以来、地元のバンドを中心に数々のアーティストが音を鳴らし、つながりが生まれ、数々の楽曲が育っていった。そしていつしか、アーティストはもちろん訪れる人、働くスタッフにとって〈GROWLY〉はかけがえのない場所となっていった。この12年があったからこそ、場所は違えど2025年1月19日(日)に〈なんばHatch〉にて行われた『GOODBYE GROWLY』には、まぎれもなく〈GROWLY〉という場が存在していた。そう思えたこの日の模様をレポートする。

MUSIC 2025.04.07 Written By 乾 和代

『GOODBYE GROWLY』の狼煙を飾るオープニングアクトを務めたRedhair Rosy(ex:the McFaddin)を筆頭に、Age Factory、the seadays 、The Slumbers、the engy、JYOCHO、シンガロンパレード、水平線、SuperBack、No Fun、PK shampoo、FINLANDS、ミスタニスタ、mol-74、LITE、171とこの日〈なんばHatch〉に集ったのは総勢16組。地元京都のお馴染みの面々はもちろん〈GROWLY〉にゆかりのあるバンドが集結した。

このラインアップを1日で楽しめるようにと5階にあるメイン会場のサイドに特設ステージを設置し、通常5階へ向かう導線となる3階エントランスにも新たにステージを設けた3ステージ構成。それぞれ3階の特設は〈さんでぃ stage〉、5階の特設は〈こうぷstage〉、メインは〈らいふstage〉と〈GROWLY〉に通っていた人にはお馴染みのご近所スーパーの名前が付けられた。特に〈さんでぃ stage〉には、〈GROWLY〉のバーカウンターに長らく飾られていたライオンのお面が鎮座し(このライオンのお面は、かつてのスタッフがプレゼントしたものだという)、かつてあったあの場所の濃密な空気を思い出させる。その空気をさらに熱く変容させたのが、このステージの火ぶたを切ったシンガロンパレードだ。

終わりを始まりに変える。シンガロンパレード

ご機嫌なスティーヴィー・ワンダーの“Sir Duke”をバックに、ステージ前に集まった観客の待ち切れない手拍子で出迎えられて登場したのはシンガロンパレードのみっちー(Vo / Gt)、晨(あした)(Ba / Cho)、ジョン=エブリバディ(Dr / Cho)の3人。待ち切れないのもそのはず。彼らは、2023年2月28日に活動を休止。だが、このイベントのためにやって来てくれたという。彼らの出演をオファーした〈GROWLY〉の店長、安齋智輝も見守る中「〈GROWLY〉ありがとう!」というみっちーの熱い雄叫びとともに始まったのは“UFO”。アップテンポのリズムを刻みながらも笑顔のジョン。みっちーも晨も熱を帯びた演奏で、間奏ではマイク前まで躍り出て観客を沸かせる。初っ端からアクセル全開で、約2年のインターバルなどみじんも感じさせない。

 

今回、復活のきっかけとなった安齋にずっと好きだと言われていた曲を、という話の流れでみっちーが歌ったのは“野良でケッコー”。「この一生、野良で結構。吾輩は満足である。みじめでしょう。でもこれで結構。愛されたつもりです」。自分で決めた道を歩いていこうという決意を感じる歌詞が、いつにも増して胸に刺さる。演奏が終わると、関係者エリアで彼らを見つめていた安齋が拍手を送る様子は、いつもPA後ろでステージを見つめている姿と同じ。PA卓でオペレーションを行っているのは約13年間〈GROWLY〉のサウンドをつくってきた金澤孝幸だ。イレギュラーなステージセッティングにも関わらず、あの〈GROWLY〉で感じた熱を帯びた音が確かに響いていた。

そんなタイミングで突如みっちーから発表されたのは「シンガロンパレード、これから気ままにマイペースに活動を再開します!」という宣言だった。〈GROWLY〉と同じく2012年から活動をスタートさせた彼ら。このタイミングで戻ってこれたのはとてもうれしいと話し、「また、きっと入れ物はできると思う。あの時間しかなかった想い出は大切にしていこうね」と言い放ちギターを掻き鳴らして“ルートA”を歌い出すと、観客の力強い手拍子が重なる。ライブができずにライブハウスで観客と会えない日々が続いたコロナ禍につくられたこの歌は、そんな時でも一緒に音楽を楽しみたいという想いから作られた楽曲だ。音源と同様にみっちーの声が重なるサビの部分では、この会場に集まった人の歌声が重なる。場所がなくなっても、また音楽を通じてまた出会えるはず。そんな想いに応えるように、このステージのラストを飾った“Have a nice day”が終わると拍手の後に、流れてきたBGMはさきほど演奏されていた“ルートA”。それはこの場でまた観客と会えたことを祝うような〈GROWLY〉からのアンサーソングのように思えた。

メジャーを経ても立ち返りたい場所。the engy、mol-74

バンドを結成しライブを重ね、メジャーへと歩みを進める。京都にゆかりのあるバンドが育っていく場となっていたのも〈GROWLY〉という場所の特徴だろう。メインステージの左手に作られた5階特設ステージである〈こうぷstage〉のトップバッターをつとめたthe engyもそんなバンドの一つだ。

 

山路洸至(Vo / Gt / Prog)、濱田周作(Ba)、境井祐人(Dr)、藤田恭輔(Gt / Cho / Key)からなる4人組ロックバンドで、2019年にメジャーデビューを果たし、2023年には自主レーベルを発足。今も京都を拠点に活動を続けている。「今日はぶち上げていく!」という力強い山路の言葉通り、ステージ前ぎりぎりまで躍り出て、時に観客のすぐそばまで近づき、そのソウルフルでブルージーな歌声だけでなく全身でグルーヴを表現する。そんな彼の熱が伝播し、観客もリズムに乗りながら力強く手を揺らす。〈GROWLY〉よりもはるかに大きな空間ではあるが、ステージと観客との熱気が混じり合い山路も思わず「あちぃ」とつぶやくほど。一番、踊らされたのは強く打ち込まれる境井のバスドラにメロウな歌声が重なり、深く響く濱田のベースのグルーヴが印象的な“She makes me wonder”だ。抑え気味の照明が演出する暗さとちょっと高めのステージのサイズ感、そして心地よい密集感が〈GROWLY〉でのステージを彷彿とさせる。昨年、11月末のタイミングで〈GROWLY〉でのワンマンをねじ込んだほど、あの場所を愛していた彼らだからこそ、あの場所の距離感を音で、熱で再現してくれた。そう思えたライブだった。

「〈GROWLY〉には2013年7月に初めて出た」ステージで結成間もない時から〈GROWLY〉でお世話になっていると話してくれたのは2010年に京都で結成したバンドmol-74の武市和希(Vo / Gt / Key)だ。感慨深そうに遠くを見つめながら「僕らの12年間を思い出しながら、初めて〈GROWLY〉に出演したころに制作していた曲をやります」と伝えると、井上雄斗(Gt)が切なげなトーンでアルペジオを弾き始め、武市が弾くピアノのコードが重なり、歌い始めたのは“アルカレミア”だ。感情が指に宿っているかのように繊細に奏でられる鍵盤の音に、髙橋涼馬(B / Cho)のベースラインが重なり、先ほどのMCも相まってエモーショナルな空気が増幅されていく。感傷的な空気を振り切るように坂東志洋(Dr)がドラムでリズムを刻むとそのまま“エイプリル”、“%”と立て続けに曲を披露。

 

一呼吸を置くようにマイクを手にすると「〈GROWLY〉はなくなったけど、みんなの記憶の中に〈GROWLY〉がある、 〈GROWLY〉のスタッフのみんなの生活も続いていく。また、この生活の延長線上で再会できることを祈ってます」そう話しラストの曲として“脈拍”を柔らかなハイトーンボイスで丁寧に歌う。「さよなら 忘れたぼくを ただ笑ってください この先 なにがあっても 振り返らないでね」その歌詞が妙に心に響いた。このライブの少し後、2025年2月13日に本年5月末をもってmol-74としての活動を休止することを発表した。彼らの生活もまた、続いていく。ひと休みのさよならだったとしても、生活の延長線上でまた出会える日を願っている。

共に凌ぎを削り合ったバンドが一堂に。ミスタニスタ、Super Back、171、水平線

かつてANTENNAのコラムにて「黎明期の〈GROWLY〉を共に盛り上げてくれた同士のようなバンド」と安齋が紹介していたミスタニスタ。〈GROWLY〉の開店と同じく2012年に活動をスタートした、俺こそがウエムラ(Vo / Gt)、 じょうざき まさゆき(Ba)、 シバガキ シュウイチロウ(Dr / Cho)によるスリーピースバンドだ。

 

俺こそがウエムラが「グッバイしたくないのはミスタニスタの総意。記憶に残る1日にしたい」と熱を込めて話す。そんな発言の後に、3人で音を鳴らして始めたのは忘れたくないという想いが詰まった“君を忘れてしまう、ということ”。歌声以上に、間奏の部分でぶつかり合う3人の音にこそ忘れたくないという焦燥感が詰まっているように思えた。そんな想いも振り切るようにドラムがアップテンポのリズムを刻みラストの曲として始まったのは“ペンドロール”。気持ちのいい疾走感に包まれる。30分間を目一杯楽しみ、とびきりの笑顔を残して去っていった。

〈さんでぃ stage〉をスーパーデラックスダンスタイムに変えたのはSuper Backだ。メンバーの丹野(Vo / Gt / Syn)、小椋(Dr)にサポートベースのコバを加えた3人編成で登場する。“JADA”、“DiscoFunction”と彼らが繰り出すタイトで変則的なリズムとサイケなメロディは一気に観客に伝播する。しかし踊っていたのは観客だけではない。ちょうどステージ横にある3階から5階へとつながる階段は関係者以外は立ち入り禁止になっており、そこが出演者やスタッフがステージを眺めることができるエリアになる。筆者もそこでステージの様子を見ていたのだが、そこが階段なのも忘れるくらい気持ちよさそうに皆が思い思いに体を揺らしていた。

 

ラストを飾った”ピンクカーペッタン”では、丹野(Gt / Vo / Syn)は天を仰いで、赤いコーンをかぶり、その盛り上がりは最高潮に。小椋(Dr)は力強くスティックを振りぬきドラムを叩く。最後はロケット花火のように、スティックも飛んでいった。そんな全力のステージに、観る側も全力で興じる。観客もスタッフも出演者もひとならびに彼らの音楽を楽しむ瞬間は時空を歪め、あの日あった〈GROWLY〉という場を出現させていた気がした。

『GOODBYE GROWLY』のオフィシャルTシャツに身を包み登場したのは171の田村晴信(Vo / Gt)、カナ(Ba / Vo)、モリモリ(Dr)の3人。開口一番、田村の口からはステージ名にちなみサンディで水を買ってきた話が飛び出るなど〈GROWLY〉への思いが言葉の端々からも溢れている。もちろんそれは言葉だけでなく、音にも宿り、モリモリが刻むビートにのって田村がシャウト。カナも髪を振り乱しながら極太のベースサウンドを響かせ、初っ端からフルスピードで“GO GO リトルカブ”、“インターセクション”を立て続けに披露する。「このステージに立てて一番うれしいのは、PAをしてくれているのが金澤さんがいることだ」と口にし、その後、新曲だといってギターでアルペジオを爪弾くと情感たっぷりに歌い始めたのは“快速急行”。ミドルテンポではあるがゴリゴリと低いところで唸るベースラインと途中でキラリと差し込まれるギターのリフが印象的な一曲で、まだまだ進化していく彼らの一面を今まで自分たちのライブでPAをしてくれた金澤にぶつけていたように見えた。

 

その流れで、次に口にしたのは安齋のこと。「彼のために久しぶりの曲を」と言うとモリモリがバスドラを踏み、はじまったのは彼らのLIVE盤『初期のイナイチ』で〈GROWLY〉でのテイクが音源化されている“エネルギー不足”だ。田村はステージを飛び越えて客席でギターを掻き鳴らす。スピードはどんどん上がり、シャウトする声は激しく、メガネも外れ、最後には彼の絶叫がこだまする。最小限のスリーピースで最大限を目指す彼ららしいステージで観客を惹きつけていた。音に、言葉に、そして姿勢に、〈GROWLY〉との関係性が見て取れるそんなステージだった。それを〈GROWLY〉と同じく京都でライブハウスの店長をしている〈livehouse nano〉の土龍が見つめていたのも、この場を〈GROWLY〉の色に染めていた要因の一つだったように思う。

これがいつも通りと言わんばかり言葉なくステージに登場したのは、安東瑞登(Vo / Gt)、水野龍之介(Ba / Cho)田嶋太一(Vo / Gt)、川島無限(Dr / Cho)の4人組バンド、水平線。〈GROWLY〉を拠点に活動をし、昨年12月15日にはワンマンライブを行うなど、幾度も〈GROWLY〉のステージに立ってきたバンドの一つだ。安東と田嶋の重なる歌声がやさしく広がる“かすみ草”、緩やかにうねるサウンドが心地よい“颱”、そして”トーチソング”と寡黙だが確かな熱を感じる演奏で魅せる。

 

ようやく口を開いたのはこの曲が終わった後。田嶋が「前からこのイベントは決まっていたけど、まさか〈GROWLY〉がなくなるとは思わなかった」と話す。特別な緊張感があったようだが、少し話したことでちょっと緊張もほぐれたのか、新曲“シリウス”を演奏した後に「今日は友達や先輩のバンドがでている、とりわけこの〈さんでいstage〉に出ているSuperBack、171、The Slumbers、そして自分らは〈GROWLY〉で出会い親交を深め凌ぎを削り合ってきたライバル。ちょうど拠点や環境が変わるタイミングで〈GROWLY〉はなくなっちゃって、これからなかなか会えなくなるかもしれないけど、〈GROWLY〉が与えてくれた出会いに感謝して、大きいところで集まれたらと思います」と田嶋が高まる気持ちを音にものせて歌いはじめたのは、「Let’s go ロックンロール」と歌い続けていく決意を歌った“ロールオーヴァー”。安東が時にノイズも混じらせながら弾くギターリフはいつもよりもさらにエモーショナルに響いた。

 

曲が終わらないうちに、ステージに漂う感傷的な気分をぶった切るような深く大きな音で踏み鳴らされたのは川島のバスドラ。その音量に負けない声で安東が「僕らがここでできるのは、こんなバンドなのにみんなを踊らせることです!」と強く叫ぶと始まったのは心躍るロックチューン“Downtown”だ。水野のウォーキングベースが弾ける後奏では安東、水野、田嶋が演奏しながらも激しくジャンプしステージをステージを駈けずり回る。それは演奏中に水野のニットキャップがずれ落ちてしまうほど。観客を踊らせるだけでなく、自らも踊りまくり、同期のバンドに負けないという心意気を感じる最高のロックンロールで〈さんでぃstage〉を満たした。

圧巻のAge Factory、ようやくのLITE

「自分がいい青春時代を過ごさせてもらったので、呼んでもらってよかった。」〈らいふstage〉でそう話すのは清水英介(Vo/ Gt)。彼に、西口直人(Ba/Cho)、増子央人(Dr/Cho)を加えた、2010年に結成した奈良発のロックバンドAge Factoryだ。初期の頃から何度も〈GROWLY〉でリリースパーティをしてきた縁の深いバンドの一つである。この日はサポートギターを迎えた4人編成。暗がりのステージを走馬灯のように回るミラーボールが照らす中、ブーストをかけるように歪みのあるギターを掻き鳴らし、増子の叩くビートにのって切り裂くような声で“kicks night”を歌う。曲数を重ねるほどに、音から沸き立つ熱気がフロアにダイレクトに届く。

 

圧巻だったのはラスト2曲。厚みの増すサウンドにも負けない力強い声で“向日葵”を歌う。ハイポジションから打ち鳴らされるドラムのビートに呼応し、夏に咲くあの黄色い花のようにフロアから突きあげられる観客の拳。後奏ではドラムの方に3人が向き合い、ありったけの思いを音に乗せて渾身のサウンドで会場を凌駕する。そのまま清水が激しくギターを鳴らし「TONBO」と叫ぶと、彼らのビートが激しさを増す。彼らが放つ眩しいほどの熱量は人を動かし、モッシュが起こるという場面も。この日は思いの外「忘れないように歌うよ」という歌詞が胸に響いた。誰もが終わってほしくないと思った音が止むと一瞬の静寂のあと、我に返ったような歓声と拍手が巻き起こる。それは強く、強く、フロア中に広がった。

音が鳴り始めると上がる歓声。〈こうぷstage〉のラストを飾るのはLITE。2003年結成、武田信幸(Gt / Vo)、楠本構造(Gt / Syth)、井澤惇(Ba)、山本晃紀(Dr)からなる4人組のインストバンドだ。エッジを効かせた鋭いギターリフにドラムの刻まれるハイハットが巧に重なり、ギターのメロディは複雑に絡み合う。低いところを漂いながらも、徐々に複雑さを増していくベースライン。4人の音が複雑に重なり合い、時に潔い休符をはさみながら音楽が構築されていく。“Ef”、“Deep Inside”、“Crushing”と立て続けに演奏し、彼らが構築するマスロックの世界へとぐっと誘っていく。

 

3曲目の“Crushing”が終わると、一呼吸置くようにLITEは22年目の活動になったと井澤が口火を切る。「21年前、初めてのツアーで地方を回る京都の〈WHOOPEE’S〉でCUSTOM NOISEとLOW-PASSと一緒にライブすることになって、そこからそのシーンでバチバチやってた。その後、その仲間たちが〈GROWLY〉をつくってということは聞いていたけど、初めて呼ばれたのが今日」と井澤が話すと武田がすかさず「俺たち〈GROWLY〉に出ていない」と言う。CUSTOM NOISEは店長の安齋が、LOW-PASSはPAを担当する金澤がそれぞれ所属するバンドである。「俺たちの同期が、新しいライブハウスをつくって12年以上やっている、すごい。結構残念ですよ。俺は、いつか出たかったし。二人が意気消沈する気はしていない。今後新しいところを見つけて次に進んでいくと思うんで、そん時は俺たちを呼んでください」とステージ上から同期の一人としてエールを送る。この日、筆者が安齋と話をした時に彼はLITEのことを「マスロックを牽引してきたバンド。ゼロからイチをつくったバンドだ」と話してくれたが、互いにリスペクトしあっていたことがわかったのも〈GROWLY〉という場所から続くこの日のイベントがあったからだ。その後も、複雑さや激しさを増し、22年目の俺たちだといわんばかりのグルーブで彼らの現在地を示し、ステージを後にした。

明日へ続く終わらない熱、No Fun

最後に舞台に上がったのはNo Funだ。内田秋(Vo / Gt)、南條良太(Gt)、長友拓也(Ba)、小椋貴仁(Dr)、片山來門(Per)、宮本 桃歌(Tp / Key)、山田周(Vn)、古和田佑馬(Dr / Per)、清水佑(Fl)、吉田海(Sax)、山内宙(Tb)のフルメンバーで登場する。ギターリフが鳴っただけで感じる一体感。それは瞬時にフロアへと伝わり、歓喜の声に満ち溢れる。イベントのラストを飾る1曲目として彼らが選んだのは“厳冬期”。管楽器の気持ちのいいユニゾン、高い天井に向かって駆け上がっていく音たち。山田のバイオリンが鳴り響くと、観客から拍手が起こる。今いる場所は確かに〈なんばHatch〉なのだが、この広い空間をNo Funがつくりだす濃密なサウンドが〈GROWLY〉のあのステージへと変貌させていくようだ。初っ端から全身全霊で歌う内田は曲が終わるとこう叫ぶ「本当の楽しいことは自分たちでつくらないとなんの意味もない。そうだような!」と。

 

感情を迸らせる内田の言葉の後に演奏されたのは“集音遊民”。鳴り響く彼らのグルーヴに合わせて、ステージ上のメンバーも観客もそれぞれ体を揺らし、拳を上げ、飛び跳ねている。途中、内田は叫びながらステージからフロアへと飛び込み、その境界線をなくしていく。するとステージの演奏もさらに熱を帯び、この日のソロパートはそれぞれが音に想いを込めているようで、特に山内のトロンボーンは唸るように太い響きの音を奏でていた。彼らを中心に観客も声をあげ音が集まっていく様子は、まさに〈GROWLY〉で見たフロアライブを思い起こさせた。〈GROWLY〉の副店長として働いていた内田が、コロナ禍にライブハウス経営の逆境に立ち向かうべく『不時奏』というイベントを開催し続けたように、彼がNo Funと共につくってきたマインドともいえる熱はいつもそこにある。その熱に惹きつけられ集まった人たちが〈GROWLY〉という場をつくっていたのだ。セットリストは直前に決めたというが、あの場所で過ごした日々を思い起こさせるような「泣いたり 笑ったりした」という歌詞が印象的な“Fjord”、そして、もう会えない人にという前置きで歌われた“Yae Ballad”と、一曲一曲に〈GROWLY〉での12年間とリンクするような思いが込められているように思えた。

 

そして、「〈GROWLY〉を代表して一言。楽しい12年間でした。どうもありがとう。グッバイグローリー」と言って歌い始めたのは“Against New Era”。いつに増して「唄にしたら消えない気がした」という歌詞が心に残った。間奏で、長友拓也のベースラインにのって弾むように清水佑が吹くフルートの調べをバックに「許せない怒りは俺らに任せて、みんなこれから楽しんで生きていってください」と叫ぶ。どうしようもない怒りも憤りも音楽というフィルターにぶつけることで美しく、楽しいものに変わっていく。それを象徴するかのように、山田が弾き始めたノイジーなヴァイオリンのフレーズが徐々に美しいメロディーに変化していった。そしてその横でタムを叩いていた内田が太鼓の革をぶち破ったのか、そんなアクシデントは物ともせず最後はタムをかついでフロアを練り歩く。そしてそのエネルギーにステージ上のメンバーの演奏はさらに力強さを増し、その様子に引き込まれるようにフロアには新たな熱が生まれていく。

 

音が鳴りやんだあとも拍手と「No Fun!」と叫ぶ掛け声が響き渡っていた。アンコールを求める声を全身で感じながら内田は「また、いろんなステージで会いましょう」とフロアに向かって声をかけるとアンコールのための曲名を腹の底から叫ぶ「Fires of Yavimaya」。大きな打ち上げ花火のような一曲を最後にぶち上げて、この日を締めくくった。

「京都の音楽シーンを一か所に集め、音楽シーン全体を盛り上げる」という心意気で12年間走り続けてきたライブハウス〈GROWLY〉。場所がなくなってもその存在を色濃く感じるのはそこで演奏していたバンド、そこに通っていた観客、そしてそこ「ゼロ」から「イチ」へと丹念に一つの場所を起点に音楽を育ててきたライブハウスのスタッフがいるからだ。

 

この日『GOODBYE GROWLY』が見せてくれたのは「さよなら」という哀愁ではない。12年というと短く感じるかもしれないが、確かに「ゼロ」から「イチ」へと音楽シーンを作り上げてきたライブハウスがあった。そして、そこから育った音楽が鳴り続けていたらまた、新たな場所が生まれるはずだ。そんな萌芽をも感じた明日へと続く一日だった。

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5/10(土)開催の『編集の編集の編集!!!! 第2稿』で制作するZINEに掲載予定の座談会の記事を…

COLUMN
【2025年4月】今、西日本のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「各地域のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」このコラムでは、西日本エリ…

COLUMN
【2025年4月】今、東日本のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東日本のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」今聴いておきたい注目のアー…

REPORT
ゼロからイチをつくるライブハウス〈GROWLY〉が育んだ明日へ続く一日-『GOODBYE GROWLY』ライブレポート

2024年12月29日(日)、惜しまれながらも閉店した京都・二条にあるライブハウス〈GROWLY〉。…