【くるりメジャーデビュー20周年 特別企画】君は12枚を選べるか?くるりファン3人による くるりアルバムランキング座談会
1998年10月21日に“東京”をリリース、今年でメジャーデビュー20年を迎えた京都出身のロックバンドくるり。彼らの20年の変遷について少し触れると、岸田繁(Vo. / Gt.)、佐藤征史(Ba.)、森信行(Dr.)の3人が、立命館大学の音楽サークル、ロックコミューンでバンドを結成。2002年にオリジナルメンバーである森が脱退後も何度かのメンバーチェンジを経て、2011年に京都で音楽活動をしていたファンファン(Tp.)がメンバーに加入。2013年から、現体制である岸田、佐藤、ファンファンという3人編成のバンドとなった。バンドメンバーは変わっていったが、くるりの音楽の芯ともいえる懐かしさを感じる叙情的なメロディーと音への飽くなき探究心が生み出す実験的なサウンドはずっと変わらない。そして、もう一つ変わらないことは、毎回違う音楽性のアルバムを世に生み出しているということだ。9月に12枚目となるオリジナルアルバム「ソングライン」をリリースしたが、それも言わずもがな。今までにない“歌もの”と言われている楽曲は、デビュー前からライヴで披露されていたものから、最近作られたものまで様々。オーストラリアの先住民に伝わる人々が生活を育む中で受け継がれてきた目に見えない道という意味を持つ”ソングライン”の名の通り、彼らのこれまでの音楽の歴史も垣間見えるような1枚となった。
さて、今、彼らの歴史を辿るような1枚が生まれたタイミングで、あらためて12枚のアルバムと向き合うことで、何が見えてくるのか。今回、くるりとの出会いや、立場も異なるファン3人がそれぞれの視点で、アルバムの順位をつけ、それについて語り合う座談会を開催した。話を伺ったのは、小学生の頃からくるりを聴き続けているという京都拠点の4人組バンド、Seussのベーシスト奥畑詠大、くるりとは大学時代からの友人でmusic studio SIMPOの代表でもある小泉大輔。そしてファン代表として2008年からくるりのライヴに通っているアンテナライターの筆者、乾も参加し3名で、それぞれのランキングを見ながらざっくばらんに話し合った。ファンであるからこそ、難しいこの課題。それぞれが辿りついた答えはどうなったのか、ぜひ、ご一読いただきたい。
ファシリテーター:堤大樹
Seuss ベーシスト 奥畑詠大のくるりベスト12
1 ワルツを踊れ 2 さよならストレンジャー 3 アンテナ 4 ソングライン 5 THE WORLD IS MINE 6 魂のゆくえ 7 坩堝の電圧 8 図鑑 9 NIKKI 10 TEAM ROCK 11 言葉にならない、 笑顔を見せてくれよ 12 THE PIER |
music studio SIMPO 代表 小泉大輔のくるりベスト12
1 ソングライン 2 THE PIER 3 TEAM ROCK 4 魂のゆくえ 5 図鑑 6 ワルツを踊れ 7 坩堝の電圧 8 THE WORLD IS MINE 9 言葉にならない、 笑顔を見せてくれよ 10 アンテナ 11 NIKKI 12 さよならストレンジャー |
アンテナライター 乾 和代のくるりベスト12
1 ソングライン 2 さよならストレンジャー 3 ワルツを踊れ 4 図鑑 5 THE PIER 6 THE WORLD IS MINE 7 アンテナ 8 坩堝の電圧 9 魂のゆくえ 10 TEAM ROCK 11 言葉にならない、 笑顔を見せてくれよ 12 NIKKI |
実際、12枚をランキングしてどうだった?
奥畑:あらためて思ったのは、単純に全作やっぱりいいなと。今まで順番をつけたことなかったので今、自分のランキングを俯瞰してみると、間違っている気しかしないです。
乾 :どういうところが間違っていると思いましたか?
奥畑:『図鑑』(2ndアルバム、2000年)は好きな曲や代表的な曲もいっぱい入っているのに順位が下になってしまったのが、自分でも不思議。僕は、思い入れで選んでいるのかなと思いきや、明確な基準がないんですよね。この話をいただいてから全部アルバムを聴いたんですけど、そのときに聴いている作品が一番よく感じてしまって、難しかったですね。
小泉:12枚を選ぶのは、めっちゃ難しい。「くるりのこと※1」を読みながら、2日くらいかけて久しぶりにしっかり聴きました。くるりファンの人になんやねんと言われると思いますが、僕は彼らのファンの最初の10人に入っているとして(笑)、好き勝手言ってみます。
それこそ大学生のときに立命館の練習場でやっていた初期の曲が入っているアルバムや、自分が少し関わった『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』(9thアルバム、2010年)に思い入れがあるのかなと考えながら聴き始めたんです。でもアルバムとして曲順とか、作品1枚でどう思うかという基準で聴くとこの順番になりました。初期作品の『THE WORLD IS MINE』(4thアルバム、2002年)や『さよならストレンジャー』(1stアルバム、1999年)が下の方になったのは、よくないという意味ではなく、今アルバムをリスナーとして聴いて並べたらこうなって。明日、聴いたら順位は変わるかもしれないです。
乾 :その日の思いによって変わるということですか?
小泉:そうですね。今あらためて順位を見ると、上位4枚は、音質的に一貫性があるというか、同じエンジニアがまとめたのかな、という統一感が心地よかった。5位から下は録音場所に作品の中でばらつきがあったり、メンバーが変わったりする時期で。アルバムの中ででこぼこがあるのも面白いんですけど、今エンジニアの耳で聴くとこの順位なのかも。
乾 :私もかなり悩みましたが、今回の『ソングライン』(12thアルバム、2018年)がなかったらこの順位じゃなかったと思います。『ソングライン』を聴いて録音環境に興味がわいて、録音に視点を置いて聴いてみました。その後にたまたま、『さよならストレンジャー』を聴いてみたのですが、あまり音の質感に相違がなかったというか、すっと聴くことができて。『さよならストレンジャー』と『ソングライン』って、録音している音の数も録り方も違うのに、音に向かっている感じが同じだと感じたこともあり、この1位、2位という並びになっています。一方で小泉さんと近いんですが、アルバム1枚通して聴くという視点で選んだら、『NIKKI』(6thアルバム、2005年)や『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』が下位になってしまったのかなという印象です。
好きの純度が高いがゆえに迷う、奥畑のベスト12のゆくえ
奥畑:僕、めっちゃ直感というか、感覚でしか選んでなくて。例えばバンドマンの視点とか、ベーシストの視点としてって考えると難しくて。とりあえず、トップ3は思い入れ順です。
本当は2位の『さよならストレンジャー』が一番、思い入れがあって。これは、僕が小学生低学年の時に母親が「日本に天才が現れた!」みたいなことを言って、この作品を買ってきたんです。母は基本洋楽、それもバンド音楽ではなくて、NE-YOみたいなアメリカで流行っているような感じの音楽ばかり聴いている人なのに。僕はそれを従順に聴いて、初めてカラオケで歌った曲もこのアルバムに入っている“虹”でした。くるり以外のバンドの音楽をぜんぜん聴いていなかった時期なので、『さよならストレンジャー』が自分の中で一番のはずと。
大きくなっても、日本の数あるバンドの中でもやっぱりくるりが一番好きだと思っていて、僕は全体を通してストリングスの入り方が凄く好き。ほかにもいっぱいストリングスが入っている曲もあるんですけど、中でもやっぱり『ワルツを踊れ』(7thアルバム、2007年)が1番好きです。ロケ地を一人で巡ったくらいに映画「天然コケッコー※2」がめちゃめちゃ好きで、主題歌の“言葉はさんかく こころは四角”が本作に収録されていることもあって、聖書的に好きなので1位にしました。4位の『ソングライン』も本当は一番と言いたいくらい、めちゃくちゃよいアルバムでびっくりしたんですが、思い入れとか聴いてきた歴史を考えて、このような順番になりました。
ーー『ワルツを踊れ』ですが、ストリングスのどういうところが好きですか?
奥畑:めちゃくちゃ感覚的な話になるんですが、世界が急にばっと広がる感じが気持ちよくって好きです。ギターも普通に6弦でコードを鳴らすよりも12弦で鳴らした方が好きという感覚に似ているというか…。
ーーその感覚的な部分が実体験や思い入れの部分にどうつながっていると思いますか?
奥畑:夕方、中学とか高校の帰り道に『ワルツを踊れ』をよく聴いていて、その帰り道の京阪電車に乗っていた風景を思い出す。それは多分ストリングスがそうさせているんだと思います。『さよならストレンジャー』は、小さい頃から聴いていたというのがありますが、『ワルツを踊れ』の方が1位なのは、そういう理由なんじゃないかな。
ーー当時それを聴いている時ってどうでした?新鮮にワクワクしていたのか、当時からノスタルジーに浸れる音楽だったのか。
奥畑:どちらかと言うと、ワクワクよりもノスタルジー。3位の『アンテナ』(5thアルバム、2004年)にも感じるんですが、例えば映画の主人公がとぼとぼと帰っている感じ。そのシーンに自分が主人公としているような感じで。だからこれを聴きながらとぼとぼ帰りたい。くるり以外でもそういう感触の曲が好きだったりしますね。
ーーちなみに『ワルツを踊れ』と似たような感覚を思い起こす、このアルバムに近いような感覚を覚えるミュージシャンはいますか?
奥畑:どちらかというとその感覚は、『ワルツを踊れ』よりも、『さよならストレンジャー』や『アンテナ』の方が近い気がしますが、「グッド・ウィル・ハンティング」(1997年のアメリカ映画)のエンディングに流れるエリオット・スミスの“Miss Misery”はバンドサウンドだし、まさにそんな感じ。“Morning Paper”(くるり『アンテナ』収録曲)は全くそういう感じではないんですけど、アルバム1枚を通して聴き終わった時にこれこれっていう感覚になっている。そういう雰囲気に浸れるアルバムが上位にきているのかな。その1曲を聴くのと、アルバムを通して聴くのと、ずんってしている感じが一緒。
ーー奥畑さんは、くるりをコピーしたことはありますか?
奥畑:それが、コピーをするという感覚がなかったんです。1曲もしていない。難しいっていうよりも、しようと思ったことがない。
乾 :好きやったらマネしたいとか、同じベースを買ってみたいとか、同じ弾き方をしてみたいという気持ちになるかと思っていました。くるりのベーシスト佐藤さんは、主に指弾きですが、奥畑さんはピック弾きですよね。
奥畑:はい。くるりという存在が好きで、その中の誰かを好きというのがないんです。ビートルズだったら、その時期によって誰が好きというのがあるんですけど、語弊を恐れずに言うなら、プレイヤーとしてくるりからひとつも影響を受けていないです。佐藤さんをすごいとは思うけど、ポール・マッカートニーみたいなベースを弾きたい、という風に思ったことがない。だから、くるりはその上をいく深層心理状態なんですよね。以前くるりが出演したFLAKE RECORDSの 10周年イベント(2016年)に遊びに行った時、佐藤さんの音出しを初めて聴いたんです。開放4弦を8ビートでボンボンボンって弾いていた音が、ちょっとびっくりしてしまうくらい次元が違っていて。そこではじめて、偉大な人だったんだという実感が湧きました。“ロックンロール”(くるり『アンテナ』収録曲)も今回、あらためて聴いたときに、こんなに長い間、ルートだけで進んでたんやと気づきました。これまでベースラインから発見を得ようという発想がなかったんです。
乾 :楽曲を分解して楽器ごとの音を聴くというよりは、くるりの曲をそのまま受け止めて聴いていた。
奥畑:そのまま聴いていました。バンドマンとしてじゃなくて、くるりを聴くときは完全に全身で浴びている状態ですね。
乾 :『アンテナ』はテクニカルなドラムがすごという印象の作品で、仰られていた“ノスタルジー”という感じとは少し違うような気もしますが。
奥畑:これは、僕がそれをどの時に聴いていたか、なんですよね。僕は『アンテナ』が、“グッドモーニング”から始まって“ How To Go”で終わるのがすごく気持ちいいと思っていて。一日の始まりの音楽を“グッドモーニング”で始めるのがすごく好きで。このアルバムは、1枚を通して聴いた時の後味みたいなのが、全曲一緒のように感じます。
乾 :『アンテナ』は、1枚を通して聴く気持ちよさがある作品?
奥畑:そうですね。それでいうと『ワルツを踊れ』が一番じゃないかも…。『ワルツを踊れ』は、単純に好きな曲が多いのかもしれない。その点『さよならストレンジャー』は“ブルース”の最後に、1曲目の“ランチ”の続きのような隠しトラックが入っていて、その終わり方が好きなんです。思い入れが強すぎて、やっぱり1位ですね。
乾 :とりあえず『さよならストレンジャー』が1位で…。
奥畑:『ソングライン』も好きやけど、今『さよならストレンジャー』が1位で、2位、3位が繰り上げで…。やっぱりどの視点で見るかで、順位が全然違ってきますね。みなさんが言っているようなアルバム1枚通して聴くという視点、作品としてだったら、僕は『THE PIER』(11thアルバム、2014年)が上位にくるんですよ。なんならそれが1位でもいいくらい。
乾 :視点で順位は変わりますよね。では、何視点の奥畑さんでいきます?
奥畑:うーん。みなさんが作品でみてらっしゃるので、僕は思い入れでいきますね。でも思い入れにすると、新しいものが下位にきちゃうから難しいなぁ~。一回ブレイクして、みなさんの意見を聞いて、もう少し考えます…。
大学の友人、ファン、制作スタッフ、3つの顔を持つ小泉の選んだ理由
小泉:まず順位を決めるために『さよならストレンジャー』から『THE WORLD IS MINE』を第1期、『アンテナ』から『魂のゆくえ』(8thアルバム、2009年)を第2期、『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』以降を第3期として、3つに分けたんです。それぞれ各期ごとに4枚の順位をまんべんなく決めてやろうと思って、そこから並び変えていくとこの順番になって。昨日の時点の順番ですが、今はもうどれが1位でもいいんじゃないかなと。
奥畑:そうですよね!
小泉:僕がSIMPOを立ち上げたのが2009年で、その辺りにリリースされた『魂のゆくえ』はじっくり聴く時間がなかったのか、今回、初めてちゃんと通して聴きました。めっちゃ完成度が高いし、曲も全部すんなり流れていくし、いいアルバムやなって思って、その驚きで上位にあがっているんですよ。初めて聴いたアルバムかってくらい。でも、あと1週間くらい聴き込んだら、『魂のゆくえ』もまた違った風に聴こえるかもしれないです(笑)
乾 :くるりのアルバムって初めて聴いたとき、何かしら衝撃があるじゃないですか。
小泉:そうですね。「くるりのこと」を読みながら聴いていたんですが、この『魂のゆくえ』は結構、難産やったみたいで…。
乾 :当時くるりは2人体制で、大変だったと言われている時期ですね。
小泉:それを全然知らずに「スタジオ作ってん」って岸田くんに電話して、次のアルバムを作る時に岸田くんがスタジオに来てくれているから、何か変やな、面白いな、とか思いながら聴いていて…。そういうのもあって、ダークホース的な『魂のゆくえ』が上位にきている。
この12枚の前に『ファンデリア』(2ndインディーズアルバム、1998年)と『もしもし』(1stインディーズアルバム、1997年)、『くるりの一回転』(自主制作、1996年)っていうカセットテープがありますよね。そのカセットテープの録音についていったんですが、この自主カセット、インディー盤と最初の4枚を第1期とすれば、『図鑑』は第1期の金字塔みたいな感じがしています。「大学の友達のバンド」くるりが大きくなっていって一つの答えを見つけた、みたいな。そこから転がって、また新しいくるりがはじまる『TEAM ROCK』(3rdアルバム、2001年)のスピード感とか冴えてるなぁと改めて思いました。だから『TEAM ROCK』と『図鑑』はそんなに期間はあいてないと思うんですけど、新しいコンセプトやアルバムとしての曲のまとまりということで『TEAM ROCK』を3位にしてみました。『図鑑』は一番好きやったから、自分も一番になると思ったんですが…。
奥畑:わかります、その感覚!
乾 :一番好きな『図鑑』が1位になると思ったけど、ならなかった。
小泉:うん。なんかね、同じ世代としてスタジオワークっていうか「このエンジニアとやるとこうなるんや」みたいな、着実に経験を積んでいってるし、音に現れていますよね。それを手に入れているし、仕事としてやってたんやなぁって。確実に曲づくりとライヴ、バンド活動以外の「作品づくり」をモノにしているのがうらやましいというか、僕もバンド(ママスタジヲ)をやっていた時期だったので、それを自分自身ができるんやろうかと考えると、すごいなと思ったという記憶がありますね。『図鑑』の時に今のオリックス劇場、大阪厚生年金会館にライヴを見に行ったんですけど、その時の鳴り止まない拍手に感動したのを覚えています。友達が大きくなって、こんなにファンを獲得していたり、こんな大きな拍手をもらえる。自分のことのように勝手に感動していたんやけど、それと並行してちゃんと自分たちをプロデュースというか、スタジオワークを、作品づくりを手に入れている。ほんま「すごいぞ、くるり」ですね(笑)。音楽家。そういう意味でアーティストっぽい感じがすごいと思ったのが『図鑑』。それを完成させたのが『TEAM ROCK』みたいな。思い入れという意味では、曲づくりをお手伝いした『ソングライン』、『THE PIER』、『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』、『坩堝の電圧』(10thアルバム、2012年)。
乾 :プリプロダクションをSIMPOでしていますね。
小泉:だから、スタジオに最初に来てくれた『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』も思い入れで1位に来てもおかしくないのですが、やっぱり聴いていくとリスナーになってきて。『さよならストレンジャー』が12位なのは、全部のアルバムを比べてみたときに、当たり前ですがファーストアルバムだから、まだまだいけるぞという感じがあった。
乾 :もっと伸びしろがあるみたいな。
小泉:でもファーストアルバムは特別なものですよね。勝手なこと言ってすみません。
表現は変わっても、歌の感じや芯の部分、音楽が好きなことは変わらない
ーー評価が違うところのギャップの話を聞きたいなと思うんですけど。例えば『TEAM ROCK』が意外に3人の評価が分かれていますよね。
小泉:そうですね。『TEAM ROCK』は、通して聴けたんですよね。すごく統一感があって。
ーー僕も最初にこのアルバムを入門編として勧められたんですよ。結構、単体で聴きやすい曲が多いと思いました。
奥畑: “ワンダーフォーゲル”とか“ばらの花”が入っているからですかね。
乾 :私の場合は、『TEAM ROCK』は好きな曲が入っているアルバムなんです。だからどうしても曲単体で、一曲だけでリピートして聴いてしまって。このアルバムを通しで聴くことは少ないかも。
奥畑:ちょっとわかるかも。僕はいつも“LV30”をめがけて聴いています。
乾 :多分、そういうところかもしれません。私の10位から12位は一曲聴きしがちなアルバム。
奥畑:自分は『図鑑』をもっと好きだと思ってたんですけど、曲単体で聴くことが多いかな。でも、その時によって狙っていく曲が違っていて、聴きはじめた高校生くらいのときは“青い空”や“街”、高校でバンドをはじめたときは“ロシアのルーレット”を狙っていて、ちょっと大人になっていくと“屏風浦”とか“宿はなし”へと変わっていったんです。一曲を狙って聴く系が多いというか。でもそれでいったら『THE PIER』が12位っておかしい!『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』も『坩堝の電圧』は、1枚を全部通して聴きたいので、狙っては聴かないんですよ。アルバム1枚を通して聴くと考えると…、また順位が変わるかも…。
乾 :さて、いろいろとお話しをしてきましたが、どうですか、順位は変わりましたか?
小泉:今日、現在ということで、この順位で。明日は変わるかもしれないけど。
奥畑:僕も、今日のところはこのままでお願いします。最後に小泉さんに聞きたいんですけど、改めて今回くるりの全部のアルバムを聴いて、音楽性とか表現される世界観がアルバムによって違うと思ったんです。逆にずっと変わっていないところってありますか。
小泉:当たり前ですが音楽が好きということ、ですかね。夢中になり続けているというか。昔、ロックコミューンのミーティングの後に、いつも行っていた喫茶店でBGMのJ-POPのコード進行分析したり、毎週(笑)。
今も、久しぶりに会っても「なんかいいのんあった?」って岸田くんが聞くから、「これよかったでー」って、学生の時みたいに最近聴いてるバンドの話になるし、ギター持ったら、わざとダサい響きのコードをドヤ顔でジャーンってこっち向いて弾いてニヤニヤしてるし。変わってないなーっ、音楽好きやなっーて思いますね。こんだけやって、まだまだ好きなんやって。
ランキングで見えてきた、くるりと“今”のソングライン
今回、面白かったのは、それぞれが好きだと思っていた1枚が、1位になっていなかったことだ。私自身、思い入れだけでいうと、くるりを聴くきっかけとなった「ワルツを踊れ」が断トツで1位のはずだった。しかし、悩んだ末に、あらためて順番をつけてみると、このような結果となっていたのだ。ファンには、思い入れというものがあるのが常だが、不思議なことに、くるりのアルバムには常に発見がある。だから、その時、自分が聴いたタイミングで、そのランキングが変動してしまうのだろう。しかし、くるりの音楽の芯が変わらないように、くるりファンがくるりの楽曲が好きだという芯は揺るがない。悩ましい思いになることは請け合いだが、みなさんも今一度、くるりのアルバムを聴くことで、自分とくるりの”今”のソングラインを辿ってみてはいかがだろうか。
※1 くるりのこと くるり結成からの20年の軌跡を1冊にまとめたロング・インタビュー本。くるり・宇野 維正著、2016年。
※2 天然コケッコー くらもちふさこの同名の漫画が原作となった映画。主人公の少女と東京から来た少年との、ひと夏の交流を描いた作品。ロケ地は島根県。主演 夏帆、岡田正将、監督 山下敦弘、脚本 渡辺あや、音楽 rei harakami、主題歌くるり。2007年。
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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