邂逅の先に芽吹いた、 新しい景色-『京都音楽博覧会2023』ライブレポートDay1
「すごいぞ、くるり」。この名キャッチフレーズで1999年に1stアルバム『さよならストレンジャー』をリリースしたくるり。結成から27年を経て、10月4日に14枚目となるアルバム『感覚は道標』をオリジナルメンバーである森信行(Dr)を迎え、岸田繁(Vo / Gt)、佐藤征史(Ba)の3人で制作し、我々を驚かせた。17回目となったくるり主催の『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』も同様に新たな試みとして、初の2日間開催に。そして、昨年から始まった「資源が“くるり”プロジェクト」も前回のつながりが拡がり、その取り組みを更新させた。本稿では梅小路公園で行われた10月8日(日)の初日のライブと併せて、イベントと同時進行で行われていた「資源が“くるり”プロジェクト」の模様についてレポートする。
くるりとの縁が舞台上でつながる『京都音博』
くるりと出演アーティストの関係性が見えるのも『京都音博』らしい風景の一つ。それがより顕著に見えたのが1日目ではなかろうか。「だいぶと前から注目していた好きなバンドです」という岸田の呼びかけを受け、颯爽と登場したのは今回が初出演の羊文学だ。このイベントが始まった当初は、小田和正、細野晴臣などくるりにとっての先輩アーティストがステージに登場し観客を沸かせていたが、今のくるりの視線は若い世代へと注がれているのであろう。途中のMCで顔をほころばせながら塩塚モエカ(Vo / Gt)が岸田や佐藤と話ができて夢のようと話し、河西ゆりか(Ba)もずっと憧れのイベントに出れたという喜びを伝えていたが、くるりの音楽も若い世代へと確かに届いている。
MCの言葉以上に、羊文学の中にくるりの楽曲が息づいていると感じたのが“ばらの花”にも通じるアルペジオが響いていた“OOPARTS”だ。原曲ではシンセが印象的な曲なのだが、あるインタビューによると3人で鳴らす音にこだわってきた塩塚が、シンセを使おうと思ったきっかけがくるりだったという。ライブアレンジがされていたが最後は塩塚と河西の美しい歌声で終わると思った。それを見事に裏切り、観客の拍手を背に受けながら、塩塚と河西がフクダヒロア(Dr)の方へ向かい合うように集まる。3人で気持ちよさそうに大音響で奏でたアウトロは、間違いなくこの日のハイライトであった。
『京都音博』に出演してほしいアーティストとして幾度も名前が上がってきたハナレグミ。2018年から5年ぶりにこのステージに彼が戻ってきた。前回は永積崇としての弾き語りで、くるりが好きだと言って自身もカバーしていた“男の子と女の子”を歌っていたことを覚えている。今回はバンドセットで、石井マサユキ(G)、高桑圭(Ba)、伊吹文裕(Dr)、YOSSY(Key)という面々と一緒に登場した。1曲目に歌った“My California”の後に「ようこそ、音博へ」と言葉がこぼれるほどこの場に馴染んだ様子でステージに立つ。
残念ながら天気予報通りに降り出した雨に「君たちを温めたい!」とステージ上でステップを踏みながら“独自のLIFE”を歌う。ご機嫌なリズムに大人も子どもも心地よさそうに体を揺らす。そんな観客に向かって「歌いたいでしょ?」と茶目っ気たっぷりな声で投げかけ、始まったのはお馴染みの“オリビアを聴きながら”。彼の目論見通りにサビでは観客の歌声が会場にこだまする。降り始めた雨を忘れるくらい躍らせ、歌わせた彼が最後に選んだ曲は“家族の風景”。温かな歌声と優しい音色で観客を包み込み、前回とは違うハナレグミの姿を見せてくれた。
一人で鍵盤の前に立つと軽やかな手つきで伴奏をはじめ、ここで歌える歓びを歌うように語り出したのは羊文学と同じく初出演の中村佳穂だ。「約10年前、20歳の頃に作った曲を一人で歌う」と言って歌いはじめたのは“シャロン”。鍵盤と一体になったように伸びやかに歌を響かせる姿に、2015年に京都三条〈VOXhall〉で行われた『京都音博』のプレイベントでの彼女の姿が重なる。
彼女の原点から一気に現在地へと景色を変えたのが2曲目の“アイミル”だ。バンドメンバーの越智俊介(Ba)、深谷雄一(Dr)、伊吹文裕(Dr)、植松陽介(Cho)、高橋あず美(Cho)を引き入れると彼女の自由度が増し、鍵盤から離れステージを歩いて歌うようなシーンも。“get back”で植松が渾身の一音を会場中に響かせたコーラスソロも印象的だったが、彼女の歌との化学反応がメンバーのポテンシャルを引き出すようだった。それ以上に興奮したのはラストに演奏された“さよならクレール”だ。原曲でもドラムを叩いている石若駿を招き入れるというサプライズ。後奏のソロを伊吹と石若が交互に叩き、最後にはドラマー3人が演奏するという展開に。称えるようにドラムのメンバーと中村が肩を組みながらステージを後にし、『京都音博』のステージを忘れられないものにした。
2度目の雨の『京都音博』だから描けたストーリー
今年も1曲目から会場をざわつかせたのは、2年連続の出演となったマカロニえんぴつだ。はっとり(Vo / Gt)が開口一番歌いはじめたのは“サンデーモーニング”。昨年はくるりの“東京”のカップリング“尼崎の魚”だったが、今回は“青い空”のカップリングという斜め上のチョイスには彼らへのリスペクトだけでなく、くるりファンへのサービス精神もあったように思う。昨年に引き続きの雨模様だったが、途中のMCではっとりは「音博はこうでないと雰囲気がでない。心配しないで音楽で温めてあげるから」と話し、観客から歓声がこぼれる。
その言葉通り、時にシャウトを効かせ力強く歌う声と彼らの演奏は曲を重ねるごとに、熱を増す。圧巻だったのは“ヤングアダルト”から“星が泳ぐ”という流れ。鉄板曲だからこそ彼らが演奏に込める熱量がダイレクトに伝わってくるようだった。最後にはっとりがギターを爪弾きながら「音楽がつないでいると思っていますか?それも一部あるけど、あなたがつないでいるようなものです」と語り今日この日の感謝を述べると長谷川大喜(Key)が聞き覚えのあるフレーズを奏でる。昨年も最後に演奏した“なんでもないよ、”だ。観客からは自然と手拍子が起こり、曲の最後では大合唱に。昨年と同じ流れであっても今日この場でしか見られない景色をみんなでつくり上げたと感じるそんな一幕だった。
ゲストアクトのトリを飾ったのは槇原敬之。バックバンドで彼の楽曲を彩るのは、くるりとも縁がある屋敷豪太(Dr)と毛利泰士(Mp)、そして秋山浩徳(Gt)、トオミヨウ(Key)、遠藤龍弘(Ba)の5人だ。昨年に引き続き2度目の登場だが、まだこの場で歌っていない曲があると言わんばかりに、前回セットリストに入ってなかった“もう恋なんてしない”を歌い観客を沸かせる。今年は最初から雨を楽しもうというスタンスでステージへと上がったようで、雨の歌だという“Are You OK?”では、楽曲のもつポップなリズムに思わず踊り出してしまう。
今年も変わらず彼の持つ歌のチカラに驚かされるばかりで、季節を先取りして演奏された“冬がはじまるよ”は温かな歌声がダイレクトに耳に届くようにも思え、雨合羽にあたる雨音のことを忘れさせてくれた。あっという間に8曲を歌い終えた槇原が最後の曲に選んだのは昨年と同じ“四葉のクローバー”。昨年この場所で歌い、強く印象に残ったという。2年連続で雨降る中のステージとなった2組が共に、最後に前回と同じ曲を選ぶという展開だったが、だからこそ観客と一緒につくり上げた一体感が増したようにも思えた。これも2日間開催だから実現した贅沢な再会といえるのではないだろうか。
ステージで交差する2023年のくるりの軌跡
日が暮れたタイミングでステージに岸田、佐藤と共に登場したのは、5月から8月にかけて行われた『愛の太陽 EP』リリースツアーでサポートを務めた松本大樹(G)、石若駿(Dr)、野崎泰弘(Key)と過去に幾度も共演をしている加藤哉子(Cho)だ。“琥珀色の街、上海蟹の朝”からスタート。手練れた松本が後奏のギターソロを終え石若がスティックでカウントすると、佐藤は5弦ベースのままシームレスに“ワールズエンド・スーパーノヴァ”へと展開していく。息つく間もなくバンドの臨場感が堪能できる“Morning Paper”そして、対比するように情感溢れる歌声で“潮風のアリア”を聴かせた。前ツアーのダイジェストのような前半が終わると、岸田が満を持して森をステージへと呼び込んだ。
ここからはギアを新しいアルバムへと切り替え、森をメインドラムに“In Your Life”を演奏。石若はシェイカーやタンバリンで楽曲に彩りを添える。思い返せば、今年初のくるりのライブは50周年を迎えた〈拾得〉でオリジナルメンバーだけで行われた。それが『京都音博』を含めた布石になっていたとはと、〈拾得〉でも演奏された“California coconuts”を聴きながら感慨深い気持ちになる。そのまま“aleha”、“世界はこのまま変わらない”とアルバム曲が続く中、去りゆく今日という音博に思いを馳せ、感謝の言葉を述べた岸田が最後の曲として告げたのは“ばらの花”。どっしりとした響きの森のドラムが会場に広がる。件の〈拾得〉でも演奏され、公開された『くるりのえいが』の中でも3人にとって原点ともいえる曲の一つとして、ストーリーの中に組み込まれている。めまぐるしく2023年を駆け抜けてきたくるりの邂逅の先につながるその曲をもって、2日目へとバトンタッチするように1日目の幕を降ろした。
Live Photo by 井上嘉和
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【プロジェクトレポート】完熟たい肥が育み芽吹いた「資源が“くるり”プロジェクト」と地域との現在地
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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