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邂逅の先に芽吹いた、 新しい景色-『京都音楽博覧会2023』ライブレポートDay1

「すごいぞ、くるり」。この名キャッチフレーズで1999年に1stアルバム『さよならストレンジャー』をリリースしたくるり。結成から27年を経て、10月4日に14枚目となるアルバム『感覚は道標』をオリジナルメンバーである森信行(Dr)を迎え、岸田繁(Vo / Gt)、佐藤征史(Ba)の3人で制作し、我々を驚かせた。17回目となったくるり主催の『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』も同様に新たな試みとして、初の2日間開催に。そして、昨年から始まった「資源が“くるり”プロジェクト」も前回のつながりが拡がり、その取り組みを更新させた。本稿では梅小路公園で行われた10月8日(日)の初日のライブと併せて、イベントと同時進行で行われていた「資源が“くるり”プロジェクト」の模様についてレポートする。

MUSIC 2023.11.29 Written By 乾 和代

完熟たい肥が育み芽吹いた「資源が“くるり”プロジェクト」と地域との現在地

水面下での出会いがステージ上で邂逅として花開いたようにも見えた一日目の『京都音博』。同じように、梅小路公園で「コンポスト」を通じて縁がつながり、新たな一歩を踏み出していたのが「資源が“くるり”プロジェクト」だ。『京都音博』の会場となる梅小路公園にもっと何か還元できないかという思いから、このイベントを通じて排出される食べ残しや余った食材、いわゆる食品残さから完熟たい肥をつくるというコンポストの取り組みを昨年からスタートさせた。

 

1年目は、公園内にコンポスト設置し、人海戦術で『京都音博』由来の食品残さを回収。『京都音博』が終わった後も、ボランティアスタッフが集まり、切り返しという作業を行うことでたい肥を発酵させる。こうして4カ月をかけて成熟させた完熟たい肥はこの公園で活動をしている「京都みどりクラブ」、「梅小路公園花と緑のサポーターの会」へと受け渡されたのだ。イベント当日も、その完熟たい肥が使われたという花壇では色とりどりの花がさいていた。

すべてが手探りで試行錯誤の連続だった1回目を経て、継続された「資源が“くるり”プロジェクト」。今年の大きな変化は、生ごみ回収のアプローチだ。13時、15時、17時と3回に分けて、ボランティアスタッフがリヤカーを使いフードエリア、エコステーションを回り生ごみを集める。この取り組みについてもっと知ってもらおうと新しくのぼりも新調した。集められたごみは計量された後に、コンポストに投入される。今回は出店者への認知も広がったようで、〈小川珈琲〉はフィルターを除いた状態でコーヒーの搾りかすを生ごみ用に分別してくれていたという話が昨年にはなかったエピソードで印象的だった。

岸田によるロゴもプリントされたのぼりとリヤカー
エコステーションで分類された生ごみを回収
〈小川珈琲〉から提供されたコーヒー豆の搾りかす
集めた生ごみはコンポストに投入

1日目にブースにて完熟たい肥づくりについてレクチャーをしてくれたのは、立命館大学で同じ取り組みを先んじて行っていた学生団体「Uni-Com」の学生たち。2日目に完熟たい肥で育ったハーブを配ってくれたのは「京都みどりクラブ」の方々だ。今回ブースに立ち、回収やコンポストへの搬入作業を行ってくれた方は、昨年の完熟たい肥づくりへの見学や参加がきっかけという方々が多い。

 

今回、「資源が“くるり”プロジェクト」の参加者のためにおそろいのエプロンを提供してくれた京都でフェアトレードの事業を行うシサム工房もそうだ。提供されたエプロンの生地はオーガニックコットン、糸は綿、ボタンはヤシの実と、仮にこのまま土に埋めても全てが微生物によって分解できる素材でできている。京都でフェアトレードの事業を行っている会社なのだが、自分たちの活動とのシンパシーを感じ、今回の協力へと至ったのだという。たい肥が熟成していく過程で、活動に関わった人々の関係性も発酵していったことをこの日のブースが教えてくれた。

学生団体「Uni-Com」が用意した完熟たい肥のサンプル
エプロンについて説明するシサム工房のスタッフ
京都みどりクラブの方がハーブについて説明をしている様子

昨年は、コンポストのプロジェクトに加えて、フードコートにて京都由来の余剰食材を使った食品ロス削減の取り組み「しげくるアイス」の販売があったが、今年新たな取り組みとして出店されたのが「RELEASE ⇔ CATCH 衣服の回収 / ¥0Market」である。再利用を目的に古着を回収し、回収された古着を必要とする人へとつなぐという、衣類を“くるり”と再循環させる「資源が“くるり”プロジェクト」との親和性を感じるもの。京都で古着屋などを展開する(株)ヒューマンフォーラムなど京都の事業者が中心に行っているもので、梅小路公園でも『循環フェス』というイベントを開催している。

 

この春に開催された『循環フェス』に「資源が“くるり”プロジェクト」として参加したことが、今回の出店につながったという。共に梅小路公園を拠点に実施されるイベントが趣旨は違えど“環境”というワードでつながったのだ。このブースでは『京都音博』らしく過去のツアーTシャツをはじめ、若者の服がたくさん集まったという。昨年とは違うアプローチではあるが、京都を起点に環境の取り組みの輪が広がっていることを感じた。環境へのアプローチは多種多様で、京都でもいろいろな思いで活動している人たちがいる。来年はもっと、このようなブースが増えているかもしれない。

「RELEASE⇔CATCH」とは、古着回収BOXで古着をキャッチし、アンケート回答者を対象に使用済み衣類を無料で一人3点まで提供する仕組み

環境への取り組みが第二フェーズに入ったともいえる『京都音博』だが、2007年の開催当初から、紙のパンフレットは作らずにごみ袋にタイムテーブルを印字し配布したり、ごみの分別を徹底するなどこのような活動を積極的に行ってきた。「資源が“くるり”プロジェクト」が立ち上がったことにより、その意識はより加速したと思う。この流れを受けて、『京都音博』で排出されるごみを数字で把握しようと実施されたのが、今年初めて導入したというごみの調査だ。どれくらい、どんなゴミが出るのか、調査した結果は今後の『京都音博』の環境への取り組みに生かされるという。

集積場に集まったごみの一部をサンプルとしてどのような種類のごみが多いのかを調査する

1年目の完熟たい肥づくりを経てつながった縁が芽吹き、この活動を支えてくれていることを実感した今回の「資源が“くるり”プロジェクト」。それはどことなく、くるりの『京都音博』のつながりを大事にするブッキングにも通じているのでは、そんなふうに思えた。彼らが、この日のために日々の活動を続けているように、このプロジェクトもこのイベント1日で終わることなく、続けていくことがチカラになる。まだ芽吹いたばかりのこのプロジェクトが毎年花を咲かせるためには、この先もいろいろな人がそれぞれのカタチで関わり続けることが大切なのだ。

Photo by 阿部朋未

『京都音博』2日目のライブレポートと「資源が“くるり”プロジェクト」の立役者である株式会社梅小路ラボの足立毅さんとコンポストアドバイザーの鴨志田純さんに伺った今後のプロジェクトの話はこちら

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京都音楽博覧会2023 Day1 10月8日(日) セットリスト

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