3年越し、初の磔磔のワンマンでCuBerryが開いた未来への扉
リハーサルの音がやんだ開場直前のライブハウスの中で、CuBerryのKanaco(Gt / Vo)、Yuiko(Dr)、Sue(Ba)、Setsuka(映像 / VJ / Per)の4人が準備していたのは入場特典のサイン入りポスターだ。4人が写ったポスターには『街角シャイガールツアー』の文字。2020年、コロナの影響を受け2度の延期を経て幻となったツアータイトルである。1stアルバム『ニューストーリー』のリリースに合わせて企画されたこのツアーの会場に〈磔磔〉も予定されていて、彼女たちにとってこの場所での初のワンマン公演となるはずだった。特にKanaco、Yuikoにとって〈磔磔〉は思い入れのある場所。かつては村八分に在籍、現在もCRACKS&RABBITSやDUSTのギタリストとして活動している父(koba-yang)のライブを観るために物心ついた頃から訪れていて、憧れのアーティストのライブを体感したこともあれば、CuBerryとして出演したこともあるライブハウスである。
Yuiko「やっぱり〈磔磔〉でライブする時はいつもと違う気持ちになる。いつも本気やけど、ちょっと違うスイッチが入るというか……。」
Kanaco「思い入れはありますね。次にやるなら気合いを入れて、CuBerryが成長してから出たいなって思ってます。」
以前、二人にインタビューした時に、延期となった〈磔磔〉ワンマン公演への思いをそのように語っていたが、『マーメイド release party』と2022年にリリースしたミニアルバムの名へとライブタイトルも一新して、2023年1月15日、3年越しに単独で〈磔磔〉のステージに立った。途中に2度の休憩を挟み披露されたのは2本の短編映画と彼女たちが今できるすべての楽曲を詰め込んだという全22曲。これまでのCuBerryのヒストリーを辿るだけでなく、彼女たちのまなざしが見つめるその先までもが投影されているかのような濃密な時間だった。ステージ上でも現在進行形で成長を続けているように見えたこの日の彼女たち。幕が下りた後に、見出した景色はどのようなものだったのだろうか。今一度、あの濃密な一日を振り返りながらレポートしたいと思う。
映像と音楽との出会い。CuBerryはじまりの第一部
きっかけは映画だった。CuBerryの結成を紐解くと、Setsukaが自身でつくった映画のために音楽を制作してほしいと同じ大学に通っていたKanacoに声をかけたことがはじまりだという。映像と音楽のアートユニットとしての原点に立ち返るかのように、最初にステージに上がったのはSetsukaとKanacoの二人だけ。懐かしそうにCuBerry誕生のなれ染めを口にし、パーティーの幕開けを飾ったのは自身が手がけた2本の短編映画だった。彼女たちのマスコットキャラクターであるイチゴの妖精キューベリーが登場し、アルバム『ニューストーリー』の制作にもつながっていく「ゆうびんやさんと小さな手紙の話」。そして、『マーメイド』のジャケットにも登場する人魚と二人の女性が紡ぎ出す物語『青い城』。映像と音楽の世界を自由に行き来する彼女たちらしい作品が〈磔磔〉のステージに降ろされた白い幕の上に映し出され、編み上げられた音たちが繰り広げる音楽の情景と重なり広がっていった。
どっぷりと映画の世界観に没入した観客の視線をゆっくりと音楽へとフォーカスさせるように、無機質な円のカタチが満月へと変わり、人魚をモチーフとした映像が流れ出すと“マーメイド”のMVの衣装を身に纏ったCuBerryの4人が演奏を始める。Kanacoが奏でるギターリフをきっかけに、Yuikoが鼓動のようにバスドラを深く踏み込み、Sueは鍵盤で幻想的なアルペジオを重ね、SetsukaのVJとバンドが紡ぎ出す音楽が合わさって演奏されたのは『マーメイド』に収録されている“水の底”。はかなくとも美しいだけでは終わらない、彼女たちが描く力強さを内包したマーメイドの物語を立体的に描き出していた。
『ニューストーリー』のジャケットにも使われているビーズで描くイラストが印象的なVJと共に披露されたのは“Mr.Postman”。先ほど上映されたゆうびんやさんがモチーフになっている。映像の中に込められていた可愛らしくも不思議な世界がKanacoの透明感のある歌声と異国感漂うギターリフが重なり合い表現されていく。短編映画と地続きな流れで演奏されることで、作品と楽曲とのつながりが鮮明に浮かび上がってみえるパフォーマンスには、バンドというカタチとはまた違うCuBerryのアートユニットとしてのスタンスがしっかりと示されているように思えた。
そして、Setsukaが「3年ぶりに懐かしい曲を」と言って演奏したのは“のべぼうようかん”。『ニューストーリー』以前からライブで映像とともに披露されていた、未音源化の楽曲だ。浮遊感のあるリズムにのって、スクリーンでは妖精のキューベリーが漂うように緑の四角いようかんの群れの中を泳いでいくアニメーションが流れる。実は、このように映像を介しながらCuBerryのライブを行うのは2年ぶりだという。SetsukaとKanacoが描いた楽曲の世界観をVJとバンドで表現する初期の彼女たちのライブパフォーマンスを思い起こさせるこの一曲には、懐かしさだけでなく、悩みながらも試行錯誤を重ね、CuBerryとして作品を生み出してきた彼女たちの確かな軌跡が込められていたような気がした。
バンドとして挑戦の軌跡が映し出された第二部
SetsukaのVJとともにライブを行っていた初期のイメージから一変。青い光に包まれ、舞台に登場したのはカジュアルな衣装へと装いを新たにしたKanaco、Yuiko、Sueの3人だ。ここ2年は、この体制でライブを行っていたCuBerry。1曲目に選ばれたのはそんな3人体制を象徴するような“ニューストーリー”で第二部がスタート。1stアルバムの表題曲でもあるこの楽曲はサポートメンバーとしてギターを弾いていたKanacoとYuikoの父koba-yangが名誉会長となってライブから退き、Setsukaも留学のためライブ出演から離れていたタイミングで、新しいサウンドに挑戦しようとして生まれた。先ほどの童話的な世界観からがらりと空気が変わり、Yuikoが刻むアップビートにのって、Sueが蠢くような低音のベースラインを重ね、Kanacoが攻撃的でエッジの効いたサイケデリックなギターリフを掻き鳴らす。
その尖った音は、彼女たちがCuBerryとして表現しようとしているライオット・ガールのスピリットに音楽性の舵をぐっと切ったことで生まれた。歌われる歌詞もSetsukaとKanacoによってジェンダー問題に意識を向けたものにしたという。一部でも上映されたSetsukaが制作した短編映画『青い城』では、ポーランドの古いおとぎ話『ワルシャワの人魚』と作家ルーシー・モード・モンゴメリが執筆した同名の作品『青い城』をモチーフにしつつも、国境を越えても変わらない女性が抱える心の傷を物語に組み込むことで、よりジェンダー意識を感じる作品に昇華していた。この楽曲を皮切りに、“観覧車”、“Aライン”、“青い城”、“雨の歌”と『ニューストーリー』に収録されている曲目を中心にライブが進んでいく。そんな中で、印象に残ったのがKanacoが「Sueちゃんが入っていない頃に初めてつくった曲」といって始まった“キューベリー”。弾むようなSueのベースラインに、Kanacoのエバーグリーン感が漂うアルペジオが重なる。初期の頃は映像とともに演奏していただろうこの楽曲も彼女たちの音を聴いているだけであの妖精キューベリーが思い浮かんでくる。手法は変われどバンドではなくユニットとしてCuBerryの世界を表現するのかということを軸に活動しているという姿勢を感じずにはいられなかった。
3年を経て、新しい物語が紡ぎ出された第三部
ガーリーなワンピースに着替えて3度目の再登場となったKanaco、Yuiko、Sue。彼女たちがバンドで描き出した音は、『千夜一夜物語』を思わせるアラブ調の異国情緒が漂う新曲。まだ『マーメイド』に収録されている曲をすべて出し切っていないタイミングであったが、彼女たちのまなざしはその先を見ているのだと言わんばかりに、3人のバンドとしてのふり幅を感じるコンセプチュアルな新曲が披露されていく。そんな新曲に交えてKanacoがライオット・ガールの影響を受けたパンクバンドの一つDelta 5(デルタファイブ)の”Mind Your Own Business”のカバーを演奏する姿には、CuBerryとしてのマインドをカバー曲に重ね合わせてより強く表現しているように思えた。
新曲をすべて演奏したタイミングで、ドラムが心地よく疾走し始まったのは“TWINE”。3人の息のあった演奏は熱を帯び、座っていても心揺さぶられる感じ。“Old Miss”、“けしてしまおう”と演奏を重ねるごとに3人のグルーヴが高まっていき、その熱気に観客も歓声で答える。最後の曲だと言って演奏された“マーメイド”が終わり、楽屋へ続く階段を上る彼女たちの姿がまだ見えているのにも関わらず、会場には一糸乱れぬアンコールの手拍子が起こる。
アンコールではCuBerryの4人に加え、名誉会長の父、koba-yangがギターを持って登場。
YuikoがスティックでカウントするのをきっかけにKanacoは“光の街”を歌う。これまで真剣な面持ちでギターを弾いていたKanacoもkoba-yangの奏でるギターリフに身を委ね、笑みがこぼれる。後奏ではKanacoの「こばやーん」という呼びかけに応え、koba-yangは親子で向き合いネックの左手を滑らかに動かして、気持ちよさそうにギターソロを奏でていた。そんな姿を見ていたYuikoからも笑顔がこぼれ、演奏の最後ではドラミングにも力が入ったのか、かぶった帽子を見事に飛ばしていた。Kanacoが「〈磔磔〉のステージにたつ父を見て育ったので感慨深い」と話していたが、舞台にいる演者だけでなく、観客、PA、従業員の方々を含めたこの場所にいるすべての人々によって、生み出された大団円ともいえる光景が広がっていた。
そして、彼女たちのまなざしの先
濃密な全3部のステージを終え、彼女たちは今何を思っているのだろうか。終演後、彼女たちに話を伺うとSetsukaがこんなことを話してくれた。
「以前は、Kanacoちゃんと相談して歌詞を渡して、それをKanacoちゃんが変える、というプロセスを踏んでいたんですが、今日の新曲は全部Kanacoちゃんがつくっていて。私は新曲をリハで初めて聴いたんですが、どれもめっちゃいい曲って思いました。私はCuBerryが新しい段階に来ているなと思っていて、これまでみたいに私と一緒にやっていくという感じではなくても、ある地点で交わりながら一緒にやっていく姿が見えてきて……。前は映画をつくりたくて、映画の曲をつくってもらって、それ以外の曲も生まれて、アルバムができる、という感じだったんです。でもこれからはそれぞれがやりたいことをしながら、お互いに必要な時に呼び合うみたいな。そんなカタチを探しながらCuBerryとして活動できるのではと思っています」
「もっと好きに生きていい」。これは、ライオット・ガールたちが主張したという一つの考えだ。SetsukaとKanacoが出会ったことによってCuBerryというストーリーははじまった。そのストーリーが進むにつれて、彼女たちがそれぞれの意志でさらに好きを突き進めることで気づいた新しい活動のカタチ。彼女らしく好きに生きていくことで今後どのようにCuBerryに変化をもたらすのか。その兆しが、この日見えた気がする。
Photo:阿部朋未
SET LIST
一部
ゆうびんやさんと小さな手紙の話(映画)
青い城(映画)
水の底
Mr.Postman
のべぼうようかん
二部
ニューストーリー
観覧車
Aライン
青い城
雨の歌
キューベリー
まなざし
Girls Keep Secrets In the Strangest Ways(カバー)
あの子の夢
三部
かけら(新曲)
少年
ばらばら(新曲)
Mind Your Own Business
リボン(新曲)
TWINE
Old Miss
けしてしまおう
マーメイド
EN
光の街
DOOR
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WRITER
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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