ナノボロ2023 Day1(8/26)‐ 4年振りに体感した熱量、これが『ナノボロ』
4年ぶりに『ボロフェスタ』へとバトンをつなげる祭り『ナノボロ』がいつもの場所に帰ってきた。〈livehouse nano(以下、nano)〉をメイン会場に〈□□□ん家(ダレカンチ)〉、〈喫茶マドラグ〉を会場にサーキットイベントとして開催。2017年から会場の一つとして名を連ねていた〈Live&Bar 夜想〉は移転してしまったが、これまでの日常を存分に体感することができた夏の暑さに負けない、熱い2日間を今年もANTENNAがレポート。本記事では1日目となる8月26日(土)の模様をお伝えします。
「ライブハウスほど泥臭く愛のある場所はない」と力強い言葉を〈nano〉に響かせたのは、今年の『ナノボロ』のボランティアスタッフのチームリーダーである村尾だ。2020年から会場を〈京都KBSホール〉に移し、模索しながらも音楽を止めることなく続けてきた『ナノボロ』。音楽はなくてはならないものと感じたこの数年があったからこそ、歌って、笑って、時に涙して、ライブハウスで感じる温度を体感できる場所に立つことができた喜びをストレートに伝える。その熱はすぐに会場に伝播し、高らかなファンファーレのSEと観客の拍手が混じり合い、一日目の幕が開いた。
かずき山盛りとhananashi。対照的な二組の初めての『ナノボロ』
ライブ前から沸き立つ会場の熱気の中、トップバッターとして登場したのはかずき山盛り。『ナノボロ』も〈nano〉も初めてだという彼ら。あいさつ代わりの‟Welcome to the かずき山盛り”で1曲目から疾走感溢れるビートで観客の心をグッと掴む。すぐさまイサム(Vo / Ba)が衣装をチェンジし、2曲目に披露したのは‟琉球サンライズ”。ハードに飛ばすのかと思いきや途中で曲調ががらりと変わり、ご機嫌な沖縄のメロディにのって観客も巻き込みエイサーを踊る。鮮やかに切り替わる緩急にすっかり心を許したところで、また激しいツービートにのせられるのだが、それが心地いい。彼らのパフォーマンスを目の当たりにするのは初めての人も多いだろうが、序盤からお互いにそんなこと微塵も感じさせない一体感が生まれていた。
終盤は沸き立つ会場をクールダウンさせるかのように、メロウなギターのメロディにのってトップバッターを務めたことへの想いを真面目な表情でイサムが口にする。「この感謝の気持ちを音楽と俺らの歌詞で伝えるしかないと思うんです」といってタイトルコールされたのは“ちんかすだらけの運動会”。後ろにいただろうこのイベントの主催者兼〈nano〉の店長土龍の「最悪や」という愛のこもった言葉も飛び交う中、最高にカッコいいパンクサウンドで観客を魅了。最後には、‟神社”を歌う流れで賽銭箱を登場させ、観客に賽銭を奉納させるというシーンも(お賽銭は近くの御金神社に奉納されたそう)。最後まで全力で、カッコいいと笑いを行き来するというかずき山盛りらしさをさらけだし、4年間のブランクを一気に飛び越してライブハウスでしか感じることができない光景を見せてくれた。
このステージに幾度となく立っていても『ナノボロ』の出演者として初めてこの場に立てたという、どうしようもなくうれしい気持ちをMCで吐露していたのが、京都発スリーピースロックバンドhananashiだ。8月から3カ月連続で〈nano〉でツーマン企画『BLOOM IN LIVEHOUSE』も行っている彼ら。『ナノボロ』が初めてだったとしても〈nano〉は慣れ親しんだ場所といえるだろう。初っ端から誰もが知っているアンセムを歌うこともできただろうが、彼らが1曲目に選んだのは未発表の新曲。メロウながらもサビでは心の奥底から叫ぶように力強く歌声をぶつける木村健人(Vo / Gt)に並々ならぬ気合いを感じずにはいられなかった。
2曲目以降は、緊張感も和らいだのか‟ato”、‟セイタカアワダチソウ”、‟ナイトクルージング”と歌うごとにさらに演奏は熱を帯び、BPMを上げていく。観客も堪らず拳を上げ、彼らの鳴らすビートに身をゆだねる。忘れていたストレートにギターロックサウンドを浴びる心地よさ。観客以上にこのライブハウスで彼らの姿を見てきただろう店長土龍も、終盤は気が付けば最前列へ。彼らのビートにのって、称えるように力強く握りしめた拳を上げていた。観客との距離が近いライブハウスだからこそ、初めてこの場に臨むバンドの想いがすぐに伝播する。その想いに瞬発的に応える観客がいる。音楽性も〈nano〉での出演回数も違う『ナノボロ』が初めてだという二組のステージに、改めてこのイベントがライブハウスに帰ってきたのだということを感じた。
『ナノボロ』ならではの、色濃く心に残る偶然の出会い
今回、久しぶりに小型サーキットフェスとして開催された『ナノボロ』。『ボロフェスタ』でいえばロビーステージのような役割を果たしているのが、〈nano〉の2階に店を構える遊べる居酒屋〈□□□ん家〉と、〈nano〉からほど近くにある〈喫茶マドラグ〉だ。私の過去の経験からいうと『ボロフェスタ』で偶然見たボギーだったり、幽体コミュニケーションズのように、思わぬ音楽との出会いは通常のステージではない場所にあったりする。
昨年の『ボロフェスタ』に出演していたこともありその存在は知っていたが、パフォーマンスを見たのが初めてだったのは〈□□□ん家〉のステージに登場したびわ湖くんだ。着ぐるみの系統で分類するときっとふなっしーと近いのではなかろうかという出で立ちである。その姿だけでも笑いを誘うのだが、LiSAの‟紅蓮華”の歌い出し「強く」をかぎりなく弱い声で歌うことで生まれるどうしようもないギャップに会場中、笑いが止まらない。小さな隙間から懸命に段ボールの切れ端に殴り書きされたコード譜を見ながらたどたどしくギターを弾き、声高に頼りなさげに歌うことで生まれる面白さは新しい発見だといえるのではないだろうか。
真夏日となったこの日、音で涼を与えてくれたのが〈喫茶マドラグ〉に登場したいちやなぎだ。今回は、エレクトリックマンドリン奏者のJin Nakaokaを迎えてのデュオ編成でのステージ。熱い日差しをさえぎるカーテンのようにやわらかく響くいちやなぎの声とアコースティックギターの音色に、Jin Nakaokaのエレクトリックマンドリンが時にさざ波のように、時にイルカの鳴き声のようにと音色を変えながら彼の声音を淡く、優しく彩っていく。いちやなぎが「少しでも涼んでいただければ」という言葉とともに歌いはじめた‟昔日の硝子ブルー”。気持ちの良いリバーブがかかったマンドリンは涼やか。いちやなぎの透明感のある声と混じり合い、集まった人たちに夏の暑さを忘れさせ、この小さな空間を幸せな音で満たしていった。
素敵なバンドと観客がいればそこはライブハウスになる。そこにお酒があればなおよし!そう教えてくれたのは〈□□□ん家〉に出演したぷき(Vo)と村上真平(Gt)による二人組デュオ花柄ランタンだ。「酒場で演奏するのは久しぶりだ」と村上が話し、"POOL,BLUE,POOL”のギターのイントロを弾きながら〈□□□ん家〉のビールを注文するというシーンも。お客さんは言わずもがなだが、店長のミノウラをはじめ、バーカウンターや物販にいるスタッフもみんな二人の奏でる音楽に心地よく身を任せている。酒場だけに酒を飲んで出来上がっていくみたいに、二人の歌に酔いしれてこのステージが出来上がっていく。
『ナノボロ』の最高の思い出が更新されたと村上が話し、最後に演奏されたのは、ぷきがラップを歌う新曲‟やさしいラップ”。お客さんの盛り上がりも最高潮、止まらないアンコールを求める声に応えて歌われたのは‟キャラバン”。最後はアンプラグドで二人の歌がこの場に響く。そこに観客の手拍子が加わり、まるで全員で合奏してるよう。ハッピーエンドだから安心して見ることができるテレビの最終回みたいに、幸せな空間がそこに広がっていた。
ライブハウスだから体感できる瞬間がある
今年の『ボロフェスタ』への出演も決まっているメシアと人人が〈nano〉のステージに登場したのは夕方から夜へと変わる時間帯。冒頭、北山(Vo / Gt)が土龍との出会いは12年前だったなんて話していたが、北山とナツコ(Vo / Dr)の二人から放たれる熱量は1曲目の‟待って”から半端ない。続いて演奏された2曲目の‟たいくつ”ではさらにテンポを上げ、最少人数で圧巻のフルパフォーマンスを見せつける。ギターとドラムというシンプルな構成だが、二人の重なる歌声も相まってまったくそんなことを感じさせない。圧巻だったのは、最後に演奏された‟ククル”だ。一心不乱にギターを弾く北山をナツコが食い入るように見つめ、力強いストロークでドラムを打ち鳴らすのだが、その光景はまるでバンドというよりも両者の音をぶつけ合うセッション、ライブハウスだからこそ体感できる音があることを私たちに示してくれているようだった。
1日目の〈nano〉でのラストをかざるのはNo Fun。2020年にピアノガールの内田秋(Vo)を中心に結成されたバンドが、この日の出演アーティストの中で最多人数となる10人編成。押し気味のタイムスケジュール、配線が多くスムーズに進まないマイクセッティング、転換するスタッフの緊張感が観客にも伝わる。最後のステージを成功させたいというスタッフの気持ちは、集まった人にも伝播し、みんながその様子を見守る姿も『ナノボロ』だから見ることができる景色だったように思う。そんな小さなライブハウスの中で渦巻くいろいろな気持ちを受け取ったとでも言うように、音が鳴る瞬間を待ちわびた観客に向かって内田が雄たけびをあげると、NJのギターの音がフロアに響きはじまったのは‟厳冬期”。力強く吐き出すように歌う内田の声の周りを、フルートやバイオリンのきらびやかなメロディが希望の光のように鮮やかに駆け抜けていく。
序盤から土龍の「サイコーや!」という声が響いていたが、これほど全身全霊という言葉が似合うバンドはいないと思わせる10人の熱のこもった演奏。観客もスタッフも2階にいただろう〈□□□ん家〉の店長ミノウラもみんなで泥臭くも愛のあるライブを分かち合う。『ナノボロ』だから見える景色がそこに確かに広がっていた。「もう、歌えない」なんて言っていたのに、フロア中のアンコールに応えて最後の最後に演奏したのは‟lowday”。途中、‟LowDay,No Fun”と彼らのバンド名が歌詞に内包されているこの曲を聴きながら、この日のMCで内田がバンド名であるNo Funはつまらないという意味だと言っていたけど、曲が終わったあとの歓声と拍手を聞いた瞬間に4年というつまらなかったかもしれない空白がこの最高の瞬間を連れてきてくれたように思えた。コロナ以前のことを思うとすべてが元に戻ったわけではない。この4年で〈夜想〉のように戻る場所を失ってしまった場所もある。でも、確かに帰ってきたという集まった人が放つ熱を感じた『ナノボロ』1日目であった。
Photo:渡部翼
You May Also Like
WRITER
-
奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
OTHER POSTS