ボロフェスタ2023 Day3(11/5)- 違う景色を“DO IT YOURSELF”で描く。それが、ボロフェスタ!
今年22年目の開催を迎えた、京都のフェスティバル『ボロフェスタ』。今年は11月3日~11月5日の3日間に渡って〈KBSホール〉、また4日の夜には〈CLUB METRO〉で開催された。2014年から毎年ライブレポートを掲載してきたANTENNAでは今年も編集部あげて総力取材!ライター独自の目線でボロフェスタを綴っていく。本記事では最終日の11月5日(日)の模様をハイライトでお届けする。
「22年間やってきて、毎年違う景色を見せてもらっています」そうステージ上で心情をあかしたLimited Express (has gone?)のJJこと飯田仁一郎。『ボロフェスタ』の代表でもある彼は、パーティーMCを務める土龍とともにこのフェスを牽引してきた。この言葉が象徴しているように22回目となるイベント最終日を飾る3日目はいつもと同じようで、違う景色が確かに広がっていた。
トップバッターの2組がみせた、『ボロフェスタ』が育てたシーン
初っ端からこんなに驚かされるとは。トップバッターとして〈KBSホール〉内の〈ORENGE SIDE STAGE〉に現れたのは思い出野郎Aチーム。フロアの着火剤になったのは1曲目の“独りの夜は”だ。「今夜一緒に踊らないか それぞれの場所で」とマイクにエネルギーをぶつけるように高橋一(Tp / Vo)が歌う。観客も一人ひとりがその場で思い思いに彼らの鳴らすグルーヴィーなリズムに身を任せて踊る。ステージを照らす照明がフロアへと移り、笑顔で踊る楽しげな顔が浮かび上がる様は、まるでステージ上の楽しいセッションがシームレスに続いているよう。
新曲も交えながら、フロアの温度を総勢12名の熱演でぐんぐんと上げていく。ステージという概念を忘れるくらいの繋がりを感じたのは“繋がったミュージック”でのこと。バリトンサックスを吹く増田薫がステージを降り、高らかにトランペットソロを奏でるサポートメンバーのファンファンを観客に混じって盛り上げる。ステージもフロアも関係ない、この日歌ってくれた“フラットなフロア”がそこには広がっていた。トップバッターからこんな展開が観れるとは思わなかったという観客の心の内を見透かしたように、彼らが最後に演奏した“ダンスに間に合う”で、予想外に幕が開き、きらめくステンドグラスがお目見えすると、盛り上がりは最高潮に。今日この日が最高な思い出になるに決まっている、そう思わせてくれた思い出野郎Aチームのステージだった。
どんなステージでも関係なく、彼らの色で染め変えていくのがthe McFaddinだ。それは『ボロフェスタ』初出演となった2021年から変わらない。同じく〈KBSホール〉内に設置された〈GREEN SIDE STAGE〉のトップバッターとして登場。すっと照明が落とされ、彼らの後方にRyoma Matsumoto(VJ)が映像を映し出すと、今年リリースされた新曲“WH3Nwh3re”からスタート。音と光、映像がリンクし、楽曲が立体的にクリエイトされていく。この曲が収録されたEPのリリースを機にツアーを行い、勢力的にライブを行ってきた彼らのパフォーマンスに最初から圧倒される。
途中のMCでRyosei Yamada(Vo / Gt)が2日目の夜の部の〈CLUB METRO〉も含めて毎日『ボロフェスタ』で遊んでいると話していたが、私もこの日、いろんなステージで彼がこのイベントを楽しんでいる様子を目撃した。複数のライブが並走する特性上、観客の数が少ないタイミングもあるがそんな時にフラりと現れ、ライブを思いっきり楽しむ様子は、パーティーMCを務める土龍が観客と混じってライブを楽しんでいる様子に重なる。ステージ上以外でもこのイベントを糧に京都の音楽シーンが受け継がれているのだと感じた。
クラブにも、ライブハウスにもなる。アーティストによって変化するステージ
『ボロフェスタ』のステージは〈KBSホール〉内にある〈ORENGE SIDE STAGE〉と〈GREEN SIDE STAGE〉、ホールと出入口をつなぐ〈どすこいSTAGE〉、地下の一室に設けた〈街の底 STAGE〉の4つ。武道館が時にライブハウスになってしまうように、ステージに立つアーティストによって空間の距離感や雰囲気が変わることを強く感じたのがLe MakeupとZOOZだ。
スタンドマイクにPCを置いた卓、ギター。〈GREEN SIDE STAGE〉が広く感じてしまうくらいシンプルなセットで登場したのがシンガーソングライター、プロデューサーとして活躍しているLe Makeupこと井入啓介だ。光量が落とされたフロアはクラブのよう。ビートボックスから流れ出すリズム、彼のメロウな歌声は不思議と存在感がある。韻が心地よい“カラブリア”は胸の奥に響くリズム、耳元にささやかれているような声を聴いていると、ヘッドホンを着けて彼の音楽と対峙しているかのような没入感があった。そんな彼が最後に選んだ曲は出身地である大阪のことを描いた歌“Dress”。演奏が終わると彼自身も音の世界から解放されたのか、ちょっとはにかんだ笑顔を浮かべ、ステージを後にした。
「ライブハウスKBSホールへようこそ!」なんて口ぶりで観客に挨拶をしていたのは〈街の底 STAGE〉に登場したZOOZだ。この日も16ビートはやお(Dr)のドラムは1曲目からギアをフル回転。ドラムはじまりの“Into the Purple”からスタートし、“In / Out”、“Galaxy”とノンストップで演奏。すでに汗だくの熱いステージに、観客のボルテージも上がる。『ボロフェスタ』初登場とは思えない、ライブハウス特有の一体感が生まれていた。途中には、そのうち5枚目のアルバムに入る予定の超自信曲と言って“Tabasco”を披露。スピード感とくり返されるギターリフで観客をのせていた流れから一転、ミドルテンポで怪しげな曲調が印象的。ナカムラ ユウヤ(Vo / Gt)の声音も変わり、アベ ヒロキ(Gt)が高音のギターソロで魅せる。
新旧織り交ぜながら展開する彼らのサウンドは後半にかけてさらに加速。“Train”では自身の高速ビートに追いつかなかったメガネを飛ばしていた16ビートはやおが象徴的だったが、ホールを濃密なライブハウスへと変容させ、全10曲を全力疾走のプレイで駆け抜けていった。
それぞれに、平和への想いをボロフェスタで示す
普段、つつがなく生活するために押し込めてしまいがちなのが“怒り”という感情なのではないだろうか。でも生きていく上で、この感情も大事なんだと気づかせてくれたのがLimited Express (has gone?)(通称リミエキ)だ。この日のMCで9割怒って過ごしているとも話していたYUKARI(Vo)。その怒りの矛先にあるのは今、揺らいでいる平和について。1曲目の“This world is too small for me”からYUKARIは全身でシャウトしながら、全力で歌う。歌声に乗り切れないエネルギーが体中からほとばしっている感じだ。
MCを挟む度にYUKARIは「平和であってほしい」という湧き出る強い思いを口にする。ステージ上で直接口に出さずとも、JJ(Vo / Gt)は『ボロフェスタ』で「ウクライナを支援する意思表示の大切さ」をテーマにTALK SESSIONをセッティングし、平和への想いを訴えてきた。彼らの根底に流れる想いは、突き刺さるぐらい強い音になって我々の胸を打つ。最後に演奏された“ギャーギャー騒げ”ではYASUNORI MONDEN(Dr)のビートにのって、JJがギターを掻き鳴らし、JUN TANIGUCHI(Ba)とKOMADORI(Sax)がクライマックスを盛り上げた。ストレートに意思を表示するからこそ、私たちはリエミキの音楽に惹かれるのだ。彼、彼女たちの音楽がこのイベントに欠かせないワンシーンを担っていることに気付かされたステージだった。
『ボロフェスタ』の中で一番異色なステージはやはり〈どすこいSTAGE〉だろう。普段は待合室のロビーもこの日ばかりはライブハウスとなる。今年は、京都の名居酒屋〈京極スタンド〉を模した装飾がなされていたが、一番酔っ払い、失礼、ご機嫌な人たちが集まる時間帯といえるこのステージのトリに登場したのは、福岡からやってきたボギーだ。彼を見ないとはじまらないという常連のお客さんがお酒を片手に集まって行く様は『ボロフェスタ』の風物詩と言ってもいいだろう。
ボギー的岡村靖幸節が炸裂する“カルアミルク”、田中邦衛のお面をかぶって歌う“富良野のメリークリスマス”を筆頭とするお決まりのパフォーマンスに、この日この場所に集まった観客のグルーヴがのり、絶え間なく変化していくのがただのお決まりにならないボギーのステージの醍醐味だ。ギターを持たずにステージを飛び出して縦横無尽に歌い、煽り、しゃべっていたボギーだったが、ギターを手にして歌ったのは彼のオリジナルソング“飲もう”。優しいアルペジオにのって、酒を飲もうと歌うのだが、最後のフレーズで“戦争は止めて、飲もう”とやさしく歌う。ただただ、思いっきり音楽を楽しめるのも、平和な日常があるから。それを忘れていないのは『ボロフェスタ』も出演者も、そしてここに集まったみんなも同じだろ?って呼びかけていたのではないだろうか。いつも通り、“贈る言葉”で集まった観客もとい生徒たちに会場外へと胴上げ状態で運ばれていたボギーこと3年B組ボギ八先生を見送りながらそう思った。
未来に続く、2つのエンディング
懐かしさを感じたのは、リハーサルで久しぶりに聴いた“Cakes”のせい。今は、京都を離れてしまったHomecomingsが『ボロフェスタ』に帰ってきてくれたのだと感慨深い気持ちになる。そんなリハーサルから一転、暗闇に包まれたステージが光に照らされるとホール中に響いたのは畳野彩加(Vo / Gt)が弾くギターのリフ。1曲目に演奏されたのは、今年リリースされたメジャー2ndアルバム『New Neighbors』から“euphoria / ユーフォリア”だ。その後も“Here”、“Shadow Boxer”とメジャーデビュー以降の曲が続く。
今年10周年を迎えたHomecomingsにとって結成した2013年から出演している『ボロフェスタ』は特別な場所なだろう、福富優樹(Gt)が途中のMCで『ボロフェスタ』に初めて出演した頃のことを振り返りながら「『ボロフェスタ』にカッコよく帰ってこれることを誇りに思っているし、こういう場所があることに感謝しています。また来年もカッコよく帰ってこれたらと思うので、『ボロフェスタ』はずっと続いてほしいと心から思えるイベントです」と感慨深そうに話してから演奏された“ラプス”にもグッときたが、思いもよらないことがその先にあった。
“HURTS”の演奏の途中で、ギターの調子が悪かったのか畳野が演奏を止める。もう一度とはじまった前奏では石田成美(Dr)がビートを叩き始めると先ほどはなかった観客の手拍子が重なる。時にドラムの方を見ながらメンバーが演奏する様はとても楽しそうで、大学生だった頃から知っている私にとっては当時の姿が重なって見えてしまう瞬間もあった。その流れで最後の曲として演奏されたのは“US / アス”。畳野が「新しい朝」と歌うところでキラキラと回ったミラーボールも素晴らしかったが、曲が最高潮に盛り上がるところで、スルスルと幕が開く。本日2回目のステンドグラスが、カッコよくこのステージに帰ってきたHomecomingsの4人を色鮮やかに照らしていた。
さらっとサウンドチェックで“Honnoji”を演奏し「また来年」なんて嘯いてはけていったZAZEN BOYSの向井秀徳(Vo / Gt)。最終アーティストとしてMC土龍に呼び込まれても、いつも通りと言わんばかりに、ビールをぐいっと流し込み「MATSURI STUDIOからやってきたZAZEN BOYS。暖簾をくぐったら、とりあえずそこに一杯のポテトサラダが」という向井の口上からはじまったのはお馴染みの“ポテトサラダ”。MIYA(Ba)が縦横無尽に繰り出すビート、切れ味のいい吉兼聡(Gt)のカッティング、揺るぎなくリズムを刻む松下敦(Dr)。待ってましたとばかりに観客も音を浴び、思い思いに体を揺らす。“SI・GE・KI”、”This is NORANEKO”、“RIFF MAN”、“Weekend”と聴き知った曲が続いていたが、ここから先がいつもと違った。
向井が新曲をと言ってギターを置き、マイク片手に歌い出したのは彼らしい言葉遊びが冴えた“バラクーダ”。次はギターを手にし、向井の歌心を感じる1曲“チャイコフスキーでよろしく”を演奏。不意打ちで立て続けに演奏された新曲に、この『ボロフェスタ』で何度も聴いてきたからこそZAZEN BOYSのモードの変化を感じる。その後は、“CRAZY DAYS CRAZY FEELING”で帽子を被りサングラスをかけるとラッパーの体で声音を変えてコミカルに歌っていたが、最後は「来年そうそうに新たな作品をお届けします」と種明かしをしてからこちらも新曲、ヒリヒリとしたリズムに向井の歌声が絡む“永遠少女”を披露。セットリスト上ではこれが事前に伝えられていた最後の曲だったが、3日間で温められた祭りの空気に応えるようにアンコールの手拍子に応え「やっぱりいつもの」と向井がつぶやき始まったのは“はあとぶれいく”。シャツの中からマイクを突き出すパフォーマンスも見事にキメて、最高の演奏でステージのエンディングを飾り、エンドロールへとバトンを渡した。
「記憶に残る『ボロフェスタ』になったと思います。また会う日まで、生活の糧になるような『ボロフェスタ』になればいいと思っています。裏方は一人もいない、全員が“表方”。そういうマインドがここにはある」とこのイベントのパーティーナビゲーターのMC土龍も語っていたが、エンドロールで映し出されるのはこの3日間のライブの記録だけではなく、裏方の姿も映し出される。ステージ上のアーティストもそれを支える裏方も、そしてこのステージを見届ける観客も、それぞれがそれぞれの場所で違う景色を見ている。でもその根底に流れているのは、『ボロフェスタ』が培ってきた“DO IT YOURSELF”という想い。エンドロールを眺めながら、音楽を思いっきり楽しんだ今日一日を振り返り、改めてそんなことを思った『ボロフェスタ』だった。
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WRITER
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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