INTERVIEW

この先もCHAINSとしてバンドを続ける決意の1枚 ー『decades on』インタビュー&全曲解説

MUSIC 2023.09.28 Written By 乾 和代

『decades on』全曲解説

メジャーレーベル在籍以後のCHAINSのこれまでを辿るように、未録のライブ定番曲から、バンドの現在進行形まで全12曲が収録された結成30周年記念アルバム『decades on』。全ての作詞・作曲を手がけた新村敦史(Vo / Gt)と、制作をリードしたラリー藤本 (Ba)に普段は口にすることがない楽曲たちが生まれた背景について語ってもらった。

1.I am

新村

最初に“風に吹かれて”という歌詞があるのですが、2016年にボブ・ディランがノーベル文学賞を取ったときに、お祝いで作った曲です(笑)

──

この曲の歌詞にある“昔のことなど思い出す”、“転がる石”、“今を見つめて”というワードが、これまでのCHAINSの活動を振り返ってるようにも聞こえたのですが、全然違うところから着想を得て作られていたんでしょうか。

新村

“転がる石”はローリング・ストーンズ。“孤独の旅路”はニール・ヤングやし。

ラリー

いろいろ混じってる(笑)

新村

昔、好きだったバンドを思い返しながら作ったというか。ちなみに“I am”っていうタイトルをつけたのはドラムの伊藤くん。タイトルを決めるのがほんま苦手なんです。

 

2.逡巡

新村

“逡巡”は一番新しい曲。これは、クルアンビンというバンドが最近めっちゃ好きで、こんな雰囲気の曲を作りたいという構想が最初にありました。頭の中で彼らの曲を流して、僕だったら次、こういうコード展開にする、みたいに変えていきながらこねくり回し倒して、それを熟成させていく。そしてクルアンビンの曲の雰囲気をどんどん消していって、自分の曲にしていくみたいな手法で作りました。歌詞は、内容よりもリズムにどう乗るか。リズムに乗るんだったら、意味が通じにくくなってもまぁいいか、と。根本的に洋楽で育ってきてたからそうなっちゃう。

Khruangbin - Time (You and I)(Official Video)

──

これまでどのような洋楽を聞いてきましたか?

新村

小学生のときは、カルチャー・クラブ。中学生はビートルズ一色。高校生でディープ・パープル一色でしょうか(笑)。高校の時にギターを始めて、リッチー・ブラックモアが大好きで。リッチーみたいに速く弾けるようになりたいみたいなという時期があって、大学に入ってからはブルース。

──

“逡巡”は女性コーラスが入っているのが印象的でしたが、あれはどなたが歌っているんですか?

ラリー

みなとまりちゃんという京都在住のシンガーソングライター。昔、shiba in carというバンドユニットをやってたけど、今は一人で気の向くままに活動していて〈マザーシップスタジオ〉のお客さんだったり、一緒に対バンしたり、CHAINSのカバーをやってくれたこともあった。昔からCHAINSと親和性がある人ですがコーラスを歌ってもらうのは初めて。女性コーラスを入れるのは新村の発案で、“メトロノーム”もそうでしたが、女性コーラスをわりと欲しがる。多分ニール・ヤングの影響かと思ってるんやけど。

新村

違うで。あれは、スピッツ。

ラリー

スピッツか(笑)

 

3.メトロノーム

新村

いつもギターを弾いてる部屋の洋服ダンスの上にメトロノームを置いてるんですが、その横で飼っている猫がよく寝てるんですよ。この曲は、その猫を見ながら作ったっていう。

──

先ほどの“逡巡”とは制作する手法が違うということでしょうか。

新村

この曲は詞もほぼ同時。こういう曲を作りたいと思って作ったわけではなく、自然発生的に出てきた。

ラリー

理想的。

──

そういう曲の作り方をする方が多いですか?

新村

ギターを練習しながら出てきた断片的なアイディアを溜めてるんですけど、そのアイディアとアイディアを繋げながら曲を作る場合もあるし、“逡巡”みたいに一つのアイディアがどんどん広がっていっていくときもある。それはいろいろですね。

 

4.⾼松⾃動⾞道

ラリー

この曲はアルバムの中でも古め。

新村

やる気ない時代にできた曲(苦笑)

──

何年くらいですか?

新村

2011年に、ちょっとだけやる気が出た時によく出張で高松に行ってたんです。高松自動車道に津田の松原っていうサービスエリアがあって、そこから見える海がめっちゃ綺麗で。

──

曲をつくった時とレコーディング後で印象は変わりましたか?

ラリー

ライブで長いことやっているから、アレンジができあがっているので、それをどう再現するかをまず考えました。一方でアコギの曲はアコギを中心にドンとでかい音で聴かせたいんで、ドラムを含む他の楽器全てをアコギに合わせるっていう感じにしたくて、通常のリズムベーシックを録る手順とは違ってアコギを一番先に録りました。“I am”もそうです。だから、聴こえ方はライブとはちょっと違うかも。

5.始まりの町

ラリー

2020年に配信でリリースしている曲ですね。2018年以降に配信した曲に関しては、なるべく現在進行形のCHAINSを出そうと考えていました。

 

新村

この曲なんですが、僕の中でジョアン・ジルベルトコードって言っているコードがあるんです。その人がよく使うコードの響きを入れて曲を作りたいな、と思ったのがこの曲を作った動機。歌詞に“東に向かう”と書いているんですが、僕、阪急 東向日駅の近所に住んでるんです。この町に移り住んだ頃のことを思い出しながら歌詞を作りました。

──

気づいてましたか?

ラリー

いや、今日初めて聞くことがめっちゃ多いです(笑)。普段、音楽談義とかほとんどしないので。

João Gilberto - Águas de Março

6.瞬間

ラリー

配信の中で1曲目に入れてるんでリードトラック扱いになります。メンバーとしては、CHAINSのど真ん中みたいな感じの曲という理解です。

新村 

最初、デモテープを作った時は、80年代のハワード・ジョーンズみたいにしたかった。

ラリー

ほんま?どこがやねん(笑)

新村

テクノポップみたいな感じにしたいと思ってデモテープを作ったんですよ。でも、なかなかそんな感じに……。

ラリー

ある程度みんなデモの音を聴きながら予習はするけど、バンドリハでアレンジを投げた時点で、やっぱいつもの感じになって、作者の意図と齟齬が出るっていうのは往往にしてあるかな。

新村

個人的にはスマッシング・パンプキンズみたいな感じになったなーって。最初の意図と違うけど、各自の解釈でやって全く違う方向に行っても、これはこれでええかと。

──

さっきCHAINSらしいというワードがでましたが、どんなところが?

ラリー

この曲はCHAINS知っている人だったら「ザ・CHAINS」って思う曲調かなと思います。1stに入っている“伊丹の空”然り。今回のアルバムのリードトラックになるかなと思ってたので、ラジオ乗りが良くなる様にレコーディングはライブで鳴らしてる音よりはちょっと派手めにラウドに録りました。ライブではもうちょっと静かな感じでやってます。

 

──

そのCHAINSらしさは、バンド結成当初からあったんでしょうか?

ラリー

1stミニアルバム『CHAINS』(1999年)と『decades on』を並べて聴いて、録っている年代や環境が全く違うから当然同じには聴こえないけれど、音の志向性としてはさして遠からずじゃないかなという気はします。いわゆる自分たちのコアな部分とか。敢えていうと何か意図して飾り立てようとはしないところ。だけど旋律と言葉、リズムと楽器間のハーモニー、コード感や温度感などが上手く調和している感じですかね。あくまで主観なんで言葉で言うのは難しいですけど。

 

7.ブランコ

ラリー

これはわりと古い曲。

新村

2011年くらい。“⾼松⾃動⾞道”を作ったぐらいで、ちょっとやる気があった。

──

2011年になにかあったんでしょうか?

新村

東日本大震災があって、その時もいつ死ぬかわからんと思ったからかも知れない。

──

この曲も“⾼松⾃動⾞道”のようにライブで演奏しているんでしょうか?

ラリー

毎回ではないけどライブでは主要なレパートリーとしてやってる曲です。今回アルバムを作るにあたって、昔からやってる未録音の曲をいくつか収録曲の候補として考えましたが、その中で僕がプッシュして入れた曲が“ブランコ”。他の曲もそうなんですけど、例えばプリプロをして、プロデューサーをつけて、大きな商業スタジオで録るということは今のCHAINSの活動規模だとできない。だから〈マザーシップ〉でセルフプロデュースで録るのが前提なんですけど、そうなるとプリプロもほぼ無くすぐ録音ボタンを押す事になるので、リズムベーシックをまず一通り録って、上物の細かいアレンジは追い追い考えようか、みたいな感じで大体録り進めました。この曲はどちらかというと地味めの曲ですが、アルバムの中で重要な位置を占める曲に聴こえてほしいなと思い、制作をしました。

──

なぜ“ブランコ”をピックアップしようと思ったのでしょうか?

ラリー

ライブでいつも安定して演奏できる曲なんですよね。収録バージョンの様にエレキで重心下げてやる場合もありますし、新村がアコギ持って、イトチュー(伊藤拓史 / Dr)もブラシ持って倍テンで軽めにフォーキーに演る場合もあったり。ライブでフックになるような感じの曲でもないんですけど、でもその何も起こらない感じもCHAINSらしいなというのがあって、この曲をお蔵入りにするのはもったいないという思いが個人的にありました。

8.CALIFORNIA

新村

“CALIFORNIA”は、コロムビア時代にアルバムに入れようと思って作ったけど出せずじまいやった10曲の中の1曲。

ラリー

今回の中では一番古い曲だよね。

新村

2003年かな。これは、ニール・ヤングのアルバム『On The Beach』のジャケットを見ながら、その描写です。

Walk On (2016 Remaster)

ラリー

知ってる人だと歌詞の内容がよくわかるよね。

新村

曲調もニール・ヤングを意識して。ニール・ヤングがクレイジーホースと一緒にやっている時の音源みたいな感じにしたいと思っていました。王道のウエストコーストロックみたいな音の配置があって、それにどうしてもしたかった。それでちょっとミックスで一番もめた曲。個人的にはこの“CALIFORNIA”のギターソロが一番気に入ってる。

ラリー

とは言え、先程言った様にプリプロをちゃんとやっていないので、ミックスの細かいニュアンスとかは考えにメンバー間でも差があって、録ってから調整しようとしても難しい事も多くて…何とかそれを少しでも再現できればなと、ミックスでドラムのオンマイクのソースをわざと減らしたりとか、ギターソロに仮想のリーキングを足したりとか、すこし工夫はしました。

9.Can't Quit You

新村

“君をあきらめきれない”っていう意味なんですが、オーティス・ラッシュの“I Can’t Quit You Baby”という曲からタイトルを取りました。彼が2018年ぐらいに亡くなったのがきっかけで、これを作ったのは2019年。曲調は大好きなリトル・フィート。このバンドのギタリスト、ローウェル・ジョージはスライドギターの名手なんです。スライドギターのアイディア自体はコロムビア時代からあったけど、ずっと寝かせていて。マキシシングル『光よりも速く』(2003年)に入っている“放浪の旅路”っていう曲でスライドギターを試したけど、全然弾けてなかった。それからずっと弾いてなかったけど、やる気がみなぎりはじめた2016年にスライドギターにもう一度トライして、“アスリート”でだいぶと弾けるようになったからその流れでもう1回作ってみた曲。歌詞の内容はオーティス・ラッシュに捧げる歌です。

Otis Rush: I`Cant Quit You Baby

──

この曲は、ギターにも思い入れがあると聞きました。

新村

オーティス・ラッシュがES335っていうギブソンのギターを使っているイメージがあって、それに憧れていた。で、京都に来た頃にブレイクダウンというバンドが、めっちゃ好きになって、フロントのお二人も335を弾いていたから、大学2回生の時に男の24回ローンで335を買ったんですよ。だから、そのギターにものすごく愛着がある。それで歌詞にもちょっと出したっていう感じです。

 

10.アスリート

新村

東京オリンピックに感化されたわけじゃないけど、作ったのは2016年。曲は、さっきも話に出たけど、これもリトル・フィートみたいな曲を作ろうってところから。歌詞を書くネタを考えていたときに、たまたまテレビ見てたら東京五輪の誘致が決まったシーンが流れてきたのがきっかけかな。当時、スポーツ選手にインタビューすると「試合を楽しみたい」という人が増えていて、わからんでもないけど、なんかちょっと引っかかる。僕もずっと野球をやっていて、スポ根時代やったのもあって、ひと昔前の体育会系やった人間が思う反発心をちょっと歌詞に入れてみた曲です。

 

11.永遠の⾷卓

新村

この曲は、ビートルズとちょっとザ・ビーチ・ボーイズ。

ラリー

CHAINSのソフトロック(笑)

新村

タイトルは僕がつけたんですが、最初は“永遠なる食卓”でした。

ラリー

楽曲登録するときに僕のミスで“永遠の食卓”ってしちゃったからタイトルは“の”にすることになって(苦笑)

新村

ただ、歌詞は全部“の”にすると歌に乗らないから、そのまま。

 

──

新村さんは曲を作るときにリズムにいかに言葉がのるか、言葉の意味よりも大事とおっしゃっていましたが、曲作りの原点はどこにあるのですか?

新村

やっぱり、はっぴぃえんどかな。彼らはもちろん言葉の意味も大事にしてはるけど……。

ラリー

洋楽って、なかでも僕たちが強く影響受けた黒人音楽はとにかくリズムが強くて、その分メロディがある意味で弱い。日本人は歌曲とか童謡とか朗々とした旋律に慣れ親しんでいるから、リズミックな旋律に日本語を上手いことのっけるって多分みんな悩んで試行錯誤して来ている。

 

最近の若い子はそういう苦手意識もないから、最初からうまいことやってる人も多いけど、僕らの世代とか、黒人音楽好きな人が日本語でオリジナルを作り出すと正直ダサイ人が多かった。もしくはバンドスタンスをコメディに寄せるしか日本語を上手く乗せる術がなかった。取り入れ方のコツがあるのかな。はっぴぃえんどや、はちみつぱい、上田正樹とサウス・トゥ・サウスなんかが自然体で日本語を洋楽ベースに取り入れたパイオニアであることは確かで、みんなそこをお手本としていたので、意味ももちろん大事だけど、おのずと言葉の響きや旋律への乗りの良さを重視してしまうっていうのはわかるなと思います。

塀の上で

12.光の射す⽅へ彼は⾛る

新村

曲を作る動機になったのはペイヴメントの『Terror Twilight』に入っている“Spit on a Stranger”という曲があって、それをずっと頭で流していた。“逡巡”のクルアンビンと同じ作り方。多分ペイヴメントの超ファンでもわからんぐらいペイヴメントが元になってるとは思えないと思う。歌詞は、チンギス・ハーンになった気分で書きました(笑)

Pavement - Spit On A Stranger (Official Video)

──

なぜ、チンギス・ハーン?

新村

テレビでモンゴルのどこまでも広がる地平線、草原みたいなのを観たんです。この感じを曲にしたいなというところから、モンゴルと言えばチンギス・ハーンということで彼になった気分で書きました。

ラリー

本当は先行配信EPは新しく出来た順に出そうと予定していたんですが、新村の考えていたこの曲の世界観のアレンジの再現が配信リリースには間に合わなかったことと、それ以上に“I am”が録音した感触が良かったので、新村の推しで今回“I am”を配信にのせることになりました。でも『decades on』というアルバムタイトルを改めて噛み締めながら全曲並べて聴いてみると、「今まで数十年やってきたけど、これから先もそれは続くよね…」という含みを持たせてアルバムの最後を締め括る意味では、この曲はうまくハマったと思います。

CHAINSの『decades on』のレコーディングにもかかわった〈マザーシップ・スタジオ〉チーフ・レコーディングエンジニア野村智仁さんインタビューはこちらからご覧ください。

保護中: 「おせっかい」な京都のスタジオ、マザーシップ。エンジニア野村智仁が語る、人付きあいと音作り

decades on

 

アーティスト:CHAINS 仕様:CD 発売:2023年9月20日 価格:¥2,750(税込)

 

収録曲

1.I am
2.逡巡
3.メトロノーム
4.高松自動車道
5.始まりの町
6.瞬間
7.ブランコ
8.CALIFORNIA
9.Can’t Quit You
10.アスリート
11.永遠の食卓
12.光の射す方へ彼は走る

CHAINS


メンバー:左からラリー藤本(Ba)新村敦史(Vo / Gt)伊藤拓史(Dr)丸山桂 (Key)横山道明 (Gt)

 

1993年当時に⽴命館⼤学の⾳楽サークル「ロックコミューン」に在籍していたメンバーを⺟体としてR&B/ソウルのカバーバンドとして活動を始める。メンバーチェンジを経て1994年頃から⽇本語詞によるオリジナル楽曲を演奏しだし、ライブハウス『拾得』を中心にマイペースなライブ活動を行なう。 この当時サークルの後輩バンドであったキセルやママスタジヲらと参加した京都系コンピレーションアルバム『ATTITUDE075』が話題となり、1999年ARPRECORDINGSより1stミニアルバム『Chains』をリリースし、これがきっかけで多⽅⾯でライブ活動を展開するようになる。その後、ベース栗本英明脱退などにより⼀時バンド活動が停滞するが、約1年間に渡る不遇の時期を経て2001年末頃ベースのラリー藤本が加⼊し現在の形となる。2002年teenagesymphonyコンピレーションCD『Smells Like Teenage Symphony』にカーネーションやセロファンらと共に参加後、同年夏に2ndミニアルバム『II』を発表。これがコロムビアミュージックエンタテインメントの⽬にとまり、同年11⽉TRIADと契約。翌年の2003年5⽉に初のフルアルバムとなる『⽇和⾒スコープ』をリリースすると同時に、FM京都α-stationでレギュラー番組『ONESTEP BEYOND』を9ケ⽉に渡り担当。その間1stマキシシングル『光よりも速く』を同年10⽉に発売。2004年には期間限定セルフカバーユニット「エンガワ」でのライブ活動やライブ⾳源の限定発売等も⾏う。2006年くるり監修のオムニバスCD『みやこ⾳楽』に“紅い⼥”が収録され、同年12⽉〈京⼤⻄部講堂〉にて⾏われた『みやこ⾳楽祭』に出演。以後現在に⾄るまで京都・⼤阪を中⼼に約⽉1~2回ペースでライブ活動を⾏いながら夏と冬の年2回、京都〈拾得〉で⾃主イベント『ONESTEP BEYOND』を開催している。

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