ボロフェスタ2023 Day2(11/4)- タコツボを壊して坩堝へ。ボロフェスタが創造するカオス
今年22年目の開催を迎えた、京都のフェスティバル『ボロフェスタ』。今年は11月3日~11月5日の3日間に渡って〈KBSホール〉、また4日の夜には〈CLUB METRO〉で開催された。2014年から毎年ライブレポートを掲載してきたANTENNAでは今年も編集部あげて総力取材!ライター独自の目線でボロフェスタを綴っていく。本記事では初日の11月4日の模様をハイライトしていく。
予定調和では終わらせないクリトリック・リス
『ボロフェスタ2023』、2日目のトップバッターは常連のクリトリック・リスであった。毎年会場内をかき乱してカオスのような盛り上がりを作り出すが、今年もそれは健在。移動式センターステージに登場し、1曲目は“バンドマンの女”を披露。会場からはシンガロングが沸き起こり、拳が上がる。さらに“中間管理SHOCK”でも〈KBSホール〉が割れんばかりの「サラリーマン!」コール。圧倒的なホーム感にいよいよクリトリック・リスの暴走が開始する。
“よっちょれビート”がスタートすると、スタッフがだんじりのように移動式センターステージを動かし、会場中央に移動。ステージを高速回転するなどして盛り上げるが、「おもろない!」と言いステージから降りて、メインステージに上がり“スカムロッカー”を歌う。さらに“STAY MUSIC”でフロアの奥まで歩き、お客さんにマイクを渡して歌わせるなどやりたい放題。ちなみにだんじりから降りることは本当に予定外であったらしく、音響ブースでスタッフが慌てふためいていた。
最後は“俺はドルオタ”を披露。「めちゃくちゃ めちゃくちゃ やっちゃいな」とコールがとどろき、お祭り騒ぎの中でライブは終了。予定調和では終わらない、クリトリック・リスの魅力が詰まったステージであった。
さえない日でも、日常が続けば幸福(No Fun)
クリトリック・リスのライブからしばらくして、私は会場の外を歩いていた。すると『TALK SESSION「ウクライナを支援する意思表示の大切さ」』が始まった。『ボロフェスタ』では昨年からウクライナで起きた軍事行動の支援として、募金と避難民の方々を迎えたトークセッションが行われている。その話の中で興味深かったのが、デモをする意義であった。
トークセッションに参加されていたウクライナの方々は、最近ニュースで取り上げられる機会が少なくなり、「ウクライナのことが風化されている」と危機感が募ってデモを行っていると語った。個人としては増税、物価の高騰で自分の生活もままならない状態で、他国がどうなっているかについて、確かに二の次になっていたことを正直に告白する。デモは世界を変えるための行為だ。同時に記憶の片隅に追いやられたことを忘れないため、デモは重要な手段であると感じた。ふと、客席に目線を向けるとそこには、先ほどまで〈どすこいSTAGE〉でライブをしていたNo Funの内田秋(Vo)が神妙な顔で話を聞いていた。
ライブのMCで「戦争について、思うことを歌っています」と彼は言っていていた。小椋貴仁(Dr)の力強いビートを軸にし、総勢10人が作り出すNo Funの音楽はダンスナンバーから神秘的なサイケデリアまで多岐にわたり、観客を楽しませる。しかし同時に“殺菌間二合ワズ”で「戦争がもう始まってること知ってる? / 被害者でいたがる連中がshotする / 絶念、胸に空っ風のように吹く」と歌われるように、彼らの曲は内田の内省的な部分や戦争に対する想いがストレートに紡がれている。
特に圧巻であったのは“Low day”。フルート、ヴァイオリンの豊かな音色で、どんどんとうねりが増幅。そこに寄りかかる内田のライムは気持ちが滅入ってしまった日々を描き出す。だがまるで「気が滅入っても、その日常があるだけで私たちは幸せだ」と伝えているかのごとく、最後はステージいっぱいに激しく暖かなサウンドスケープを作り出していた。
さてここから少し筆者は休憩。しばらく当日の模様を伝える役目をANTENNAのホープ竹内咲良にバトンタッチして、彼女の視点からの『ボロフェスタ』を伝えてもらおう。
いくらでも自由に描ける。今この瞬間が俺たちの音楽だ(DYGL、サニーデイ・サービス)
あと数分で14時。〈GREEN SIDE STAGE〉の前方は、既に多くの観客で埋まっていた。誰もが今か今かと待つのは、その洗練された音楽性が国内外で評価されるDYGLだ。
秋山信樹(Gt / Vo)の「みなさんこんにちは、DYGLです。ボロフェスタ初出場です。よろしくお願いします」という一言を皮切りに、1曲目“Waves”から始まる。絶妙な音の重なりの生み出す波動が、会場の空気をDYGL一色に染め上げていった。
2曲目には最新リリースの“Acervation”を披露すると「新曲、4曲続けてやります」と未発表の楽曲を次々に演奏。重厚感のあるものや、展開に変化を持たせた構成のものなど、リリース前ながらも心地よく耳に馴染むサウンドに釘付けになる。全7曲のうち5曲が新曲という思い切りの良さにも驚かされた。
MCでは、秋山が「ボロフェスタは他のフェスとはステージの雰囲気が全然違う。さっき〈街の底ステージ〉も観てきたんですけど、とてもハッピーな雰囲気でいっぱいだった」と語り、ボロフェスタの行うウクライナ支援の取り組みにも触れながら、身近なところだけではなく遠くに住む人や事物について考えて行動することが当たり前になってほしいと願っていた。
最後の“All I Want”では、下中洋介(Gt)と加地洋太朗(Ba)がステージ前方の中央に出て盛り上げる大胆な一幕もあった一方で、メンバーそれぞれの音が際立つ繊細な職人技で観客を魅了した。(竹内咲良)
陽が落ち始める夕方ごろに登場したサニーデイ・サービスは「自由奔放」。この一言に尽きると思う。リハーサルの“Goo”では、大工原幹雄(Dr)の全力パフォーマンスで一気に会場を虜にしたかと思えば、本番初っ端から“TOKYO SUNSET”、“夜のメロディ”とメロウな選曲で緩急をつけてくる。
そして3曲目を披露する手前、曽我部恵一(Gt / Vo)が「いいねボロフェスタ!コールアンドレスポンスの曲やろうよ!」と笑顔で言うと、予定にない動きだったのだろうか、田中貴(Ba)が少し「ん?」と戸惑いの表情を浮かべる。その雰囲気のままに始まったのは“スロウライダー”。「Hey(Hey)鈍行列車(列車)」と音源にもあるコーラスの部分を観客が担い、その場限りの臨時ダイヤが織り成す一体感に包まれた。「このバンド、コロナ禍前までコールアンドレスポンスなんてやってなかったんだけど、みんなの生存確認って意味で始めました!」と曽我部。続いて“魔法”、“コンビニのコーヒー”を披露し「え、もう時間来る?」と時間の早さに驚くも、ここで揺るがないのがサニーデイだ。自由なペースを崩すことなく“春の風”、“セツナ”を二連発。曽我部と田中が向かい合って力強い共鳴を魅せると、会場から大きな歓声が上がる。最後には“青春狂奏曲”の大合唱で締め、中盤にして早くもボロフェスタ2日目のすべてを持っていくような勢いとマイペースさでベテランの風格を見せた。(竹内咲良)
自らのフィールドへ観客を引き寄せるライブ(おとぼけビ~バ~、Sawa Angstrom)
ここからは再び、マーガレット安井の視点へと戻る。
DYGLだけでなく、おとぼけビ~バ~も現在精力的に海外ツアーを行っている日本のバンドの筆頭だ。『SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)』、『コーチェラ・フェスティバル』『プリマヴェーラ・サウンド』などの海外の大型音楽フェスも経験。京都を、いや日本を代表するアーティストとして『ボロフェスタ』に戻ってきた。彼女たちのすごさはそのステージングと演奏力の高さだ。“ヤキトリ”からはじまり、“あきまへんか”、“ハートに火をつけたならばちゃんと消して帰って”など3曲を立て続けに披露。さらに“サラダ取り分けませんことよ”や“孤独死こわい”など惜しげもなく代表曲を演奏していく。
その全ての演奏において、変拍子も取り入れながらも、決め所では一切ズレのない正確なアンサンブルを見せつける。そして以前なら、「バテた。しんどい……」とライブ中で力を使い果たすような場面もあったが、今は弱音を吐かず最後までパワフルなライブを続ける。ラストナンバーの“あなたわたし抱いたあとよめのめし”をやりきった後、颯爽と帰るおとぼけビ~バ~。35分で15曲、まさに疾風怒濤のライブであった。
〈どすこいSTAGE〉に登場したSawa Angstrom。今年メジャーデビューしたばかりだが、過去に2度の海外ツアーを経験し、そのライブも高い評価を得ている。Sawaのよさはどんな場所でも、自分たちのフィールドへと引き込めるところだ。エフェクターを使い、複雑で緻密なビートを構築。そこに児玉真吏奈の歌声が加わると、どんな場所でもクラブに様変わりする。“Sweet Impact”や“Xi Huan Ni ”などシームレスに披露される楽曲の数々に、自然とダンスが起こる。
またエレクトロ・ミュージックであるがゆえ、児玉の歌声にはエフェクトがかかっているが、温かさや優しさが透けて感じる。彼女のシンガーとしての感情表現と音楽との相性を考えたゆえの結論だと思うが、声一つとってもバンドとしての思想がにじみ出ている。丁寧に音楽へと向き合う姿勢こそ、どんな場所でも自分たちのフィールドへ引き寄せる力になると感じた。
ボロフェスタをホームに変えた、梅田サイファーのパーティータイム
ロック、アイドル、クラブミュージックなど、さまざまなジャンルがごった煮になり繰り広げられている『ボロフェスタ』。今年は関西を代表するヒップホップ集団、梅田サイファーも登場。今回はCreepy Nutsとしても活動するR-指定はいなかったが、彼の不在はもはや関係なし。観客のバイブスをしっかりと上げる、素晴らしいアクトを披露してくれた。
1曲目である“KING”が始まると、その流れるライムリレーに舌を巻く。勢いそのままに“かまへん”ではライブではお決まりの「かまへん!」コールをばっちりと決めていく。初出場だが、あっという間に〈KBSホール〉をホームである〈梅田NOON+CAFE〉の雰囲気へと変えていく。そうなれば「今宵の主役は俺たちがもらった!」と言わんばかりに“PARTY”、“アマタノオロチ”などヒットナンバーを次々とくり出す。
個々としてアーティスト活動をするだけあり、その技術やパフォーマンス力は高い。それだけでなく、KOPERUはハイテンションで高速にまくしたてるようなライム、pekoはダウナーながら言葉の一つ一つがわかるライム、ILL SWAG GAGAは力強い咆哮とシャウトを思い起こさせるようなパワフルなライムなど、どのアーティストもそれぞれ個性的だ。そしてその個性が一つの集団になった時、単純に足し算では換算できないくらいの力を発揮する。そういう意味では梅田サイファーは『アベンジャーズ』のような集団である。だからこそR-指定がいなくとも、最高のパフォーマンスを観客に届けられるのだ。
KZから「初めて出たんですけど、『ボロフェスタ』が好きになりました!」「今日の様子を見ていると残り40年は続きそうなので、毎回出たいです」とメッセージを伝え、ラストナンバーとして披露したのはどんな場所でも〈梅田NOON+CAFE〉へと変える魔法のナンバー“梅田ナイトフィーバー’19 ”。曲中でミラーボールが照らしだし、〈KBSホール〉を完全にクラブへと変えてしまった梅田サイファー。また来年も、再来年も『ボロフェスタ』に出てほしいと思えるほどの痛快なパーティータイムであった。
キュウソネコカミがみせる、全身全霊のステージ
『ボロフェスタ』2日目もいよいよトリ。ステージに登場するのは6年ぶりの出演となったキュウソネコカミ。リハーサルでメンバーが全員登場し、今から音だしをするかと思えば、演奏されたのは“ Welcome to 西宮”。ヤマサキセイヤ(Vo / Gt)が歌いだすかと思えば、フロアにダイブして観客を沸かせる。さらにヨコタシンノスケ(Key / Vo)が「今日11月4日は『いい推しの日』なのに、セットリストに入れ忘れたので」と言い“推しのいる生活”を演奏。ヨコタが「今から、本気出せ!」と叫び、会場はさらにヒートアップ。もう一度伝えるが、これはリハ-サルである。
演者も奏者も準備体操はバッチリ。一度、ステージからはけて、紹介映像後に再度ステージに戻ってきた。1曲目“私飽きぬ私”でヤマサキは再びフロアへダイブし、その後BRAHMANのTOSHI-LOWのように観客の頭上で仁王立ちしながら歌う。さらに「焦っています。もっと踊らせないといけないと思っています」と言い、披露したのは盆踊りソング“KDMT25”。祭り囃子を奏でながら「盆踊りの輪のやり方」と書かれた図説のパネルを提示し、会場に大きなサークルを誕生させる。そして彼らを代表するナンバー“DQNなりたい、40代で死にたい”ではヤマサキが観客の頭の上を歩き、筋斗雲を呼び寄せるパフォーマンスを行う。
もはややりたい放題ではあるが、キュウソは「観客を楽しませる」という点においていつも全力投球をする。その発端はインディーズ時代に活動していた〈神戸Mersey Beat〉にあるように感じる。当時、女王蜂、黒猫チェルシー、フレデリックなど個性的なバンドが出ていたハコで、キュウソのパフォーマンスは初めてライブを観た人でも強烈なインパクトが残るようなものへと磨かれた。そして〈神戸Mersey Beat〉から離れて、観客にインパクトを残すだけでなく、楽しませるライブを突き詰めた。その結果が今のキュウソへとつながっているのだ。
ライブ終盤、ヨコタが「ボロフェスタが続いていくように、願いを込めて1曲」と言い、披露されたのは“ハッピーポンコツ”。そして「締めますよぉ〜ぉっ!パン / お開き!!(ё)」でステンドグラスが御開帳。さらにアンコールでは“The band”を演奏し、観客を最高潮に盛り上げてステージを後にした。観客を楽しませるために、全身全霊を注ぐ。その姿は、まさにロックバンドの鏡であると感じた。
タコツボを壊して坩堝にするボロフェスタ
クリトリック・リスから始まり、キュウソネコカミで終わった『ボロフェスタ2023』2日目。詳しくレポートはできなかったが、その他にも素晴らしいアーティストが出演していた。
バンドメンバーを引き連れて、素晴らしいダンスと歌を披露したアイドルユニットのきのホ。。ムーディーで軽やかなサウンドが〈街の底ステージ〉に涼しげな風を吹かせた生活の設計。激しくパワフルなビートとパンクスで街の底を灼熱に変えたニーハオ!!!!。胸の高鳴りをそのまま音楽にしたような楽曲と力強いユニゾンでフロアを沸かせたBrown Basket。穏やかで清らかなサウンドと優しいファルセットを聞かせてくれた高山燦基(band)。『ボロフェスタ』のホストバンドとしてトリ前を任され、思春期の妄想を煮詰めたかのような歌を叩きつけたULTRA CUB……。
素晴らしい演奏をしたアーティストを挙げるときりがない。ウクライナの紛争について考えながら、クリトリック・リスを見て笑い、梅田サイファーで踊り、キュウソネコカミで熱狂する。日本全体を見渡してもここまでロック、ポップ、アバンギャルド、世相などが一つに溶け合うフェスなんて、他には存在しない。
現状のフェスティバルシーンを考えると、ジャンルを一つにまとめるようなラインアップが並ぶものが多い。だが『ボロフェスタ』はそんなタコツボを破壊して、〈KBSホール〉という坩堝の中へとアーティストたちを入れてしまう。結果的にカオスだが、楽しさ、カッコよさ、面白さの全てが詰まったフェスへと仕上がった。インタビューで土龍が「〈街の底STAGE〉、〈どすこいSTAGE〉に出演していたアーティストこそ、『ボロフェスタ』の両翼」と語っていたが、まさにこのフェスの特殊性はそういうごった煮な部分に現れている。セグメントなんて関係なし、カッコよければそれでよし。そんな強い信念みたいなものを感じた2日目であった。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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