サステナブルな理想を追い求めるバンド – (夜と)SAMPOが会社員でありながらバンドを続ける理由
2023年11月より《ワーナーミュージック・ジャパン》から、配信シングル“変身”をリリースし、メジャーデビューを果たす(夜と)SAMPO。メンバー全員が会社員を兼業しながら活動、首謀者である吉野エクスプロージョン(Gt)は元ハンブレッダーズのメンバーであるなど、紆余曲折を経てできたバンドであり、それが音楽の魅力にもつながっている。今回はこの節目となるタイミングで、どのように歩んできたのかや、その音楽性を解説。さらに過去作のレビューも交えながら、同バンドがなぜ人々を惹きつけるのかを明らかにしていく。
『夜と散歩』(2020年)
1.革命前夜
2.January
3.リスタート
4.夜と散歩
リリース:2020年8月1日
(夜と)SAMPO のデビュー作。吉野のエモーショナルでスピード感のあるリフに、いくみの力強くハリのある歌声と滑らかに伸びるファルセットが心地よく響く。その2人に加藤秋人のボトムの効いたベースライン、清水昂太朗(Key)の浮遊感のあるシンセ、寺岡純二の力強いビートが加わり、直球ながらもウィットに富んだサウンドへと仕上がっている。吉野の書く歌は理想を意識するがあまり、自分や周りに対して否定的な部分があらわになる部分もある。しかしそれはその時々のマインドが楽曲に反映されているわけであり、その意味で(夜と)SAMPOは非常に人間臭いバンドだとも言える。これから変わる吉野エクスプロージョンというクリエイターのスタート地点、それが本作なのだ。
『ノストラダムス』(2021年)
1. BACK MY WORD
2. ボスマネジメント
3. 賢明な判断
4. 惑星
5. 海岸通り
6. ノストラダムス
リリース:2021年1月13日
1つのジャンルを突き詰めるのではなく、多彩にジャンルを横断するバンドであることがわかる作品。吉野が作曲したストレートなギターロック“BACK MY WORD”から始まり、加藤が作曲した“賢明な判断”ではフュージョンのエッセンスを組み込み、“惑星”ではムーディーでジャジーなサウンド。1st EP『夜と散歩』よりも手数の多さをみせつけていく。吉野・加藤の双方が自らの得意ジャンルを(夜と)SAMPOのサウンドに落とし込みつつ、時に明るく華やかに、時に妖艶ないくみの歌声が、どのタイプの楽曲でも自身の楽曲へと変えてしまう。過去作のなかでも、最もバラエティに富んだ1枚だ。
『はだかの世界』(2022年)
1. DREAM POP
2. 嫉妬
3. moonlight
4. 届かないラブレター
5. 師走のステップ
6. はだかの世界
7. MAKE IT EASY!
リリース:2022年2月2日
テンポ190、2ビートのポップソング“DREAM POP”、「おのれ 僕の未来に光はない」というネガティブな歌詞なのにもかかわらず、それに反するようなキーボード5台から織りなす多彩で華やかなサウンドといくみのパワフルな歌唱が魅力的な“嫉妬”など、全体的にフックの多い作品となっている。以前、インタビューで吉野は自分の影響源に赤い公園を挙げていた。ストレートなポップソングのように見えて、変拍子や複雑な転調、シニカルさを交えた歌詞などさまざまなフックを散りばめてきた赤い公園。そのポップイズムの延長線上に(夜と)SAMPOもいる。一方表題曲“はだかの世界”では圧倒的な歌で生きることを全肯定し、フックだけではなく、歌でも魅せることを証明している。
“春”(2023年)
リリース:2023年3月31日
2023年3月に配信シングルとしてリリースされた本作。「大人目線の卒業ソング」という触れ込みではあるが、爽快なサウンドといくみのやわらかく華やかな歌声で紡がれるのは先に語った「代償を伴いながら、理想へと突き進む」というテーマである。そしてこの曲の重要なポイントは加藤が歌詞を書いていること。(夜と)SAMPOの作詞・作曲は加藤か吉野が担当している。吉野は自らの生き様をそのまま歌詞へと反映しているのだが、加藤もまた吉野と同じ目線で理想へと突き進む歌詞を書く。以前、吉野からお互い特にテーマを共有したことはないといった話を聞いたことがある。なのにもかかわらず、同じ主題を思い描けているのは双方の持つバンド像がブレていない証明な気がする。
“変身”(2023年)
リリース:2023年11月10日
吉野が言うには、本作は「『何者にもなれない』クライシスへのアンセム」だと語る。スピード感溢れるロックサウンドで紡がれるのは「失敗を恐れて、覚悟ができず手前で止まる人間」と「勇気づけるための後押し」である。重要なのは後押しするサビの部分で「言葉はいらない 夜を間違えにいこう」と、間違えることを前提に歌っている点だ。それまで吉野は、理想へと突き進む精神を描いてきたが、想いが強すぎるゆえ、過去の自分の生き方や周りを否定していた部分もあった。例えば“革命前夜”で「あの人になりたくないな」と歌うように。しかし“はだかの世界”で、どのような状況でも肯定するというメンタリティを手に入れて、理想は絶対的なものではなく本作では「間違えにいこう」と言えるようになった。排他的にならずに、よりおおらかに自己を見つめ直すようになった、常に考えを更新していくバンドとしての本質がつまっている。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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