サステナブルな理想を追い求めるバンド – (夜と)SAMPOが会社員でありながらバンドを続ける理由
2023年11月より《ワーナーミュージック・ジャパン》から、配信シングル“変身”をリリースし、メジャーデビューを果たす(夜と)SAMPO。メンバー全員が会社員を兼業しながら活動、首謀者である吉野エクスプロージョン(Gt)は元ハンブレッダーズのメンバーであるなど、紆余曲折を経てできたバンドであり、それが音楽の魅力にもつながっている。今回はこの節目となるタイミングで、どのように歩んできたのかや、その音楽性を解説。さらに過去作のレビューも交えながら、同バンドがなぜ人々を惹きつけるのかを明らかにしていく。
仕事も、音楽もやる。会社員でありながら実力派バンドである理由
そもそも吉野は「仕事を続けながら、やりたいことをやる」ということを前提にバンド活動をスタートさせた。それはナードマグネットの須田亮太など、バンド活動と仕事を両立させているバンドマンの先輩がそばにいたことが大きい。ハンブレッダーズがメジャーデビューし、仕事をしながらの活動が難しくなることから2019年5月をもってサポートとなった吉野。同時に、好きだった音楽をこれからもバンドとして突き詰めたいという思いと、大学のサークルが同じだった加藤秋人(Ba)から「一緒に音楽をやろうよ!」と言われたことをきっかけにメンバーを集め、2019年12月(夜と)SAMPOは結成された。その中には関西で話題を集めていたバンドにいた者もいる。
いくみ(Vo)が在籍している加速するラブズは京都を拠点とする3人組バンドだ。2014年にはRO69が主催するコンテスト『RO69JACK 14/15』で入賞し、関西のライブシーンでは話題のバンドではあったが、2017年に活動休止。その後メンバーであったカーミタカアキはULTRA CUB、藤本卓馬は浪漫革命として活動する。また2022年9月には活動再開し、同年11月には大阪の心斎橋にある〈Live House Pangea〉、2023年12月には京都の〈live house nano〉にてワンマンライブを開催。両日ともにチケットが即日完売するほどの人気バンドだ。
寺岡純二(Dr)が在籍していたフィッシュライフは片平里菜、緑黄色社会、Galileo Galileiなど数々のアーティストを輩出した、10代限定の夏フェス『閃光ライオット』で2013年にグランプリを獲得。また関西の音楽コンテスト『eo Music Try2013』でも準グランプリを獲得し、関西の最大級のサーキットイベント『MINAMI WHEEL』では2013年、2014年と2年連続で入場規制がかかるほどの人気であった。しかし2018年10月に解散している。
確かなバックボーンを持つバンドマンたちが集結している(夜と)SAMPO。だからこそ会社員として活動しながら、確かなクオリティの楽曲を制作できるのだ。
つまづき続けながらも理想を求める(夜と)SAMPOのこれまで
2020年5月5日、Twitter(現、X)にて正式に(夜と)SAMPOの結成を表明。そして7月13日には1st EP『夜と散歩』を配信リリースする。そして8月13日に初ライブ『(夜と)SAMPO First Live”リスタート”』を心斎橋の〈Live House ANIMA〉で開催。もともとCOSMOS(現在、フリージアンとして活動)との2マンライブを予定していたが新型コロナウイルスの感染状況に鑑みて、急遽ワンマンライブとなった。その時の模様は現在でもYouTubeで公開されている。
その後、2021年1月20日には1stミニアルバム『ノストラダムス』をリリース。一見、バンド活動としては順風満帆のように思えるのだが、吉野は思った以上に伸び悩んでいると当時自身のnoteで語っている。
「現状、実は思ったより売れてないんです。MVの再生回数が伸びない。コロナもあって得意のライブができない。できてもちょっと行きにくい…事務所からも特に声はかからない」(ダサくても、やりたいことがある |https://note.com/yoshinoexplosion/n/n5f2f961673ba )
自分たちの実力や魅力をより多くの人に知ってもらいたい。そう思った(夜と)SAMPOは『eo Music Try 20/21』にエントリーする。すると最終のライブ審査まで残り、応募総数1,279組、2,849名という激しい競争の中、見事にグランプリを獲得した。2022年2月2日には2ndミニ・アルバム『はだかの世界』が発売。自分たちの在り方を力強く肯定してきたそれまでの作品とは違い、“DREAM POP”、“嫉妬”など自己否定的な楽曲が並びながら、表題曲でもある“はだかの世界”はそのような現状でも肯定して生きていこうと伝える。
ここまで(夜と)SAMPOの歩みについて語ってきたが、吉野エクスプロージョンは自分たちの歌詞の中の人物のように、常に悩み、葛藤しながらも、理想を追い求める。そういう人間であるからこそ、同じく理想を求めながらもまだうまくいっていない人々の心に、この音楽が突き刺さるのだ。
代償を伴いながら、理想へと突き進む音楽性
次に(夜と)SAMPOの音楽性について考えてみる。まず重要なのは、吉野エクスプロージョンと加藤秋人の二人が主に作詞作曲を担っている点だ。
作曲面でいうと、吉野の楽曲は“革命前夜”や“BACK MY WORD”のようにスピード感があり、ストレートでシンプルなロックを得意としている。一方で加藤はもともとビッグバンドをやっていたこともあり、“惑星”や“賢明な判断”など、ジャズやフュージョンのエッセンスを取り入れた曲作りが得意だ。だがアルバム『はだかの世界』がリリースした際のインタビューでいくみは、前は両者で作風が分離されていていたが、吉野の曲に加藤の要素が乗っかり「1+1は2みたいな楽曲ができあがったという気はしています」と語っている。そのためか吉野が主軸で作った同作の“MAKE IT EASY!”はストレートなロックサウンドよりも、フュージョンのエッセンスが感じられる。
作詞に目をやると「代償とか葛藤もあるが、理想へと突き進む」というテーマは吉野と加藤で共通するところだ。それは彼らがバンドマンだけでなく会社員としても生活をしていることが大きい。地に足をつけた活動とはいえ、本格的にバンドを行うとメンバー全員の予定がとれず、制作やライブなどに割くことができなかったりなど、音楽へどっぷりと比重を置くことはできない。その音楽と生活の間で出てきた、悩みや葛藤がそのまま音楽に反映されている。
同時に同じ境遇を持つ人たちは多いように感じる。バンドマン、絵師、YouTuber・VTuber、小説家、ライター……。本業はありながら、自分の趣味も仕事としている人は一昔前よりはるかに多いし、各々が理想と向き合いながら活動をしている。だが続けていけばいくほど、理想とのギャップに悩み、葛藤をする。そういう人間に吉野、加藤の歌詞は寄り添い、いくみの力強い歌声が理想に近づけるための後押しをする。
(夜と)SAMPOが日本武道館に立てば、世界は変わる
(夜と)SAMPOについていろいろと語ってきたが、「会社員でありながら、メジャーで活動をする」という活動スタイルは意義があると感じる。先ほども語ったが世の中には、やりたいことと仕事の両立ができずに悩んでいる人は多い。今は緩和されつつあるものの、未だに「何かを極めるために、何かを捨てなければならない」というような風潮は残っているし、実現することは苦労を要することだ。
だが(夜と)SAMPOはそのような風潮に疑問符を投げかける。以前のインタビュー※で吉野は「バンドとして大きくなりたいとは思っていますが、それだけではなく、みんなにとってサステナブルな感じでやれたら一番幸せだな、と考えたりします」と語っていた。もしこのスタンスで大衆の人気を獲得すれば、両立で悩む多くの人に希望を与えるに違いない。週末に〈日本武道館〉でライブをして、翌日の月曜日にはメンバー各々が会社に出社する。今は夢物語なのかもしれないが、そのような夢をこのバンドに託してもいいのではないだろうか。
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(夜と)SAMPO作品ガイド
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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