ナノボロ2024 Day1(8/31)― 京都の旬を体感!インディーズの魅力が詰まった一日
『ナノボロ』の魅力とは何であろうか。その答えの1つは「今、活きのいいバンドを観られる」であろう。特に1日目は旬である京都のバンドを体感できるラインアップであった。
旬のアーティストがそろった充実のラインアップ
2024年8月31日、今年も『ナノボロ2024』が開催された。いや「開催できた」と言った方が正しいか。台風10号の到来により、『RUSH BALL』などの大型イベントは軒並み中止。このフェスも開催するか否かの選択を迫られた。結果的には雨・風による影響はさほど大きくなく、後半には晴れ間も見えていた。交通機関が動かなくなり物理的に来場できないことも心配されたが、私の体感としてはむしろ去年よりも観客は増えていた印象。特にメイン会場である〈livehouse nano〉は常に満員で、スタッフさんと店長・土龍さんが「前に詰めてください」と何度もお客さんにお願いをしている姿が印象的であった。ちなみに『ナノボロ2024』の運営を行うチームリーダーの村尾ひかりさんいわく、チケットは久しぶりに両日とも完売。2日通し券も昨年以上に売れていたとのことだ。
今年これほどのお客さんが足を運んだ、その要因の一つはSummer Whales、Sundae May Club、ハシリコミーズなど「今、インディーズシーンにおいて注目すべきバンド」がラインアップされていた点だ。『ナノボロ』では普段ライブハウスで働いている人がスタッフとして関わっているため、お客さんに観てほしい活きのいいインディーズバンドをブッキングできている。特に水平線を筆頭とする京都のインディーズシーンの充実度を如実に感じたのがこの一日目であった。
オルタナティブなのに心地の良いロックバンドたち(ゆ〜すほすてる、Summer Whales)
トップバッターはゆ〜すほすてる。オルタナティブ・ロックの持つ力強さと爽快感のあるサウンドとは裏腹にegw(Vo / Gt)の内省的で鬱屈とした歌が魅力的なバンドだ。だが2021年にごっつ(Vo / Gt / Key)、2022年にちゃんかな(Ba)が加入したこともあって、よりバンドとしてのポップネスが拡大したようにも感じる。ライブでも“春よくるな”、“バカンスの夢を見る”ではegwのナイーブさと、ごっつの愛らしさがマッチし、見事なハーモニーがフロアに響いているのが印象的であった。個人的にはポップさと、憂いを感じる心情描写のズレこそこのバンドの持ち味であり、今の状態はまさにその点で1つの完成形を迎えている。
現在京都の音楽シーンでメキメキと頭角を現しているバンド、Summer Whalesが『ナノボロ』に初見参。冒頭から“Escalator”、“Driveway”とオルタナティブなサウンドをフロアにたたきつけていく。衝動性をはらんだサウンドながら、緻密に練りこまれた構成には驚かされる。またAoi(Vo / Gt)の英語と日本語を組み合わせて作り出されるスムースなフロウは何とも心地が良い。個人的には2001年に初めてLOVE PSYCHEDELICOと出会った時のような感覚を思い出した。ラストには“Crack!”、“Sox2”を披露。結成2年足らずながら、その圧倒的な存在感は会場にいた観客の心の中に刻まれたに違いない。
いぶし銀なジャパニーズロックからファンクミュージックまで、幅広さを感じる京都のバンドたち(The Slumbers、踊る!ディスコ室町)
ゆ〜すほすてる、Summer Whalesは海外のオルタナティブ・ロックに根ざしたアーティストであるが、それだけが京都のバンドではない。この日の中盤に登場したThe Slumbersは、日本のフォーク・ロック由来のいぶし銀なサウンドがとにかく魅力的だ。じっくり腰を据えたロックンロールと佐々木智則(Vo / Gt)のこぶしを利かせた歌声はこのバンドの最大の武器である。今回のライブでも“ロマンス”や最新シングル“ブランコ”を披露し、観客を沸かせていた。そして「ラスト一曲!(次の曲は)もうわかるやろ!」と演奏されたのは、彼らの代名詞的ともいえるナンバー“さらば、憧れ”。サビでは会場から〈さあ行け 歌声 / さあ行け その先へ〉とシンガロングが巻き起こる場面も。今回のフェスのなかでも印象的な一コマであった。
またロックだけでなく、フロアに極上のファンクネスとグルーヴをたたきつけるファンクバンド・踊る!ディスコ室町も、京都の音楽シーンの充実ぶりを体現し続けている存在だ。「京都は上京区、室町通り、武者小路を下がったところ、アパートディスコ室町の420号室からやってきた」とお決まりの文句を言った後に、“ピカソ”、“FEEL SO BAD”を披露。その鉄壁のアンサンブルから繰り出される、ファンキーなディスコサウンドによって会場がダンスホールと化する。京都で10年以上ソウルフルなミュージックで観客を魅了してきたこのバンド。ライブを観るのは久しぶりだったが、個人的には演奏・パフォーマンスが充実し、まさに今が旬であるように感じた。ラストはスムースなダンスナンバー“楽しいのがいい”。心地のいい余韻がいつまでも会場を包み込んでいた。
nanoの外で輝いていた京都のバンドたち(地球から2ミリ浮いてる人たち、テトラポット)
『ナノボロ』では〈nano〉の他にもステージが2カ所あり、そこでも今後の京都のシーンの注目株がライブをしていた。象徴的なところだと〈喫茶マドラグ〉に出演した地球から2ミリ浮いてる人たち。ベースをサポートに入れたアコースティックスタイルで“ハッカドロップ”、“風になって”などを次々と披露。このバンドの持ち味はコバタヨシタネ(Gt)が紡ぎだすフォークやカントリーなどのアメリカーナなサウンドと、中野由季(Vo / Gt)の柔らかく心地のいい歌声。このバンドが作り出す空気感はレトロな調度品・ポスターが並ぶお店とマッチし、なんとも心地のいい空間を作り出していた。
そして〈nano〉の上階にある〈□□□ん家(ダレカンチ)〉ではオリジナルブルーグラスバンド・テトラポットが観客を沸かせていた。彼らのライブはとにかくしゃべる。ゆいとなかむら(Ba / Vo)と大平泰輝(Gt / Vo)のコミカルな掛け合いはまるで上方漫才を見ているかのよう。一方、演奏はなかむらボーカルの“どうしょーもない”で酔いどれサラリーマンの心情を軽やかに描写し、太平ボーカルの“ぶらいけ”ではエモーショナルな歌声を披露する。終盤には飛び入りゲストとしてマンドリン奏者のJin Nakaokaが参加し、ラストナンバーの“青い魚”を演奏。ゼロ年代後半にandymoriがやろうとしたポストパンク・リバイバルをブルーグラスでやろうとしているようなサウンドに、思わず舌を巻いてしまった。演奏後、ファニーな余韻が〈□□□ん家〉を包んでいた。
水平線が作り上げた、海原という名の音景
「台風は勢力を弱めましたが、水平線は勢力を弱めません」と開口一番フロアに言い放ち、“颱”を披露したのは『ナノボロ2024』1日目のトリを務めた水平線だ。彼らの魅力は何といっても厚みのあるギターサウンドと田嶋太一(Vo / Gt)、安東瑞登(Vo /Gt)のツインボーカル。この曲では安東のストレートでクリーンな歌声、続く“トーチソング”では田嶋のエモーショナルな歌声がフロアを掌握していく。
なかでも白眉だったのが、終盤に見せた“潮の目”からの“Throwback”の流れ。まず“潮の目”では厚みのあるギターサウンドをインストゥルメンタルで思う存分に発揮。まるで大海原を思い起こさせるような、壮大な音景を作り出す。その勢いを引き継いで演奏された“Throwback”は雄大な海原でゆっくりと水平線に向かう船のように、田嶋の力強いボーカルと推進力を持ったビートがフロアを包み込む。
今年1stアルバム『NEW HORIZON』をリリースし、今京都の音楽シーンでも注目されるべき存在である彼ら。それを証明するかのごとく、アンコールで演奏された“ロールオーヴァー”では、彼らのサウンドに対して熱狂した観客の拳がいくつも上がっていたのが印象的であった。
京都という土壌が作り上げたシーンの充実
振り返ってみると、こんなにも京都には注目すべきバンドがいるということに驚きを隠せない。上記のバンド以外にも、自らのエモーションをサウンドと歌唱に込めて〈nano〉を沸かしたモラトリアムや、力強い語りと心地のよい言い回しで言葉の魅力を最大限に引き立てていた山本夜更も素晴らしかった。また美しくも優しいサウンドの中に変拍子などの仕掛けを次々に入れていた滋賀の不眠旅行。微細な表情変化までも歌声に込めてしまう浦小雪(Vo / Gt)を擁する長崎のSundae May Clubも、素晴らしかったことをここに記しておきたい。
思えば昨年はbedやMASS OF THE FERMENTING DREGSといったベテラン勢が脇を固めていた『ナノボロ』。だが今年の出演者はおおむね京都の出身であり、活動歴も10年前後。しかしオルタナティブ、アメリカーナ、ブルーグラス、フォークロック、ファンクなど根ざしている音楽はすべてバラバラ。まさに京都のシーンの充実ぶりを表しているような1日であった。
中でもSummer Whales、地球から2ミリ浮いてる人たちに関していえば、コロナ禍以降に結成されたバンドだし、今回出演はしていないが、サブマリン、THE HAMIDA SHE’S、オートコード、Akane Streaking Crowdなど、京都では若き才能が次々と生み出されている。この『ナノボロ2024』1日目はそんな京都から輩出された新星たちの充実ぶりが色濃く示されていたように思える。それでいて観客動員数が昨年よりも多いということは、インディーズファンにとっても京都のシーンは熱視線を送るべき存在になっているのかもしれない。
しかしながら「京都の旬をそろえる」だけが『ナノボロ』の魅力ではない。このフェスにはもう1つ魅力がある。それは「一筋縄ではいかないオルタナティブ」である。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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