私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
15年前あなたは何をしていたか覚えていますか。第65代横綱貴乃花の引退、六本木ヒルズのグランドオープン、地上波デジタル放送がスタートした2003年、京都で一つのバンドが生まれた。バンドの名前はシゼンカイノオキテ。Gt/Vo.佐野ユズル、Ba/Vo.花田マイ、Dr/Vo.吾妻トモエの三人からなり、くるりやキセルを輩出した立命館大学ロックコミューンで結成されたシゼンカイノオキテ。そんな彼らは結成から15年経った今でもバンド活動を続け、今年の9月12日には最新アルバム『話を続けよう』をリリースした。
今回アンテナ編集部ではシゼンカイノオキテの3人にインタビューを敢行。大学時代の話から、新しいアルバムのこと。そして15年の長きにわたり活動休止もせず、同じメンバーで音楽活動を続けられてきた理由まで余すところなく語ってくれた。結論から言えば、このインタビューは一人で音楽をやっていたり、仲間と一緒にバンドを組んでいる人にとって、音楽を続けることへの新しい視点を提示するテキストになっているはずだ。売れることが全てではない。新しい価値観がシゼンカイノオキテには存在する。
音楽の好み的な話はホントに全然しない
皆さんは立命館大学のロックコミューン出身ですよね。立命館大学と言えば複数の軽音サークルとかあるのに、どうしてロックコミューンに入ろうと思ったんですか?
僕はバンドをやる友達がいて、それがたまたまロックコミューンに入っていて、それで「まあ、いいかな」と思って。
私はくるりとかYOGURT-poohとかに憧れて入りました。
私は何個かブースを回って比べてみようと思い、最初にフォークソング同好会KEAKSのブースを観て、丁寧に説明されたから「入ります!」と宣言したんです。そのあとにロックコミューンのブースに行きノリで一回ミーティングに行ったら会計の人が怖すぎて、お金を払ってしまったのがきっかけですね。
そんなロックコミューンで3人が集まり、シゼンカイノオキテとして2003年に結成されたと。なにかきっかけはあったんですか?
みんな別のバンドやっていたんですよ。それぞれがそのバンドがメインという感じで。でも2人(吾妻・花田)がよくサークルにある感じで「バンドしたいね」みたいね感じの話をしてた時に、誘ってもらったという感じで。
佐野さんが私たちを誘って結成したバンドだと思っている人が多くて、「意外!」だと言われます。逆ナンみたいな感じですね(笑)
ガールズバンドみたいな選択肢はなかったんですか?
当時からガールズバンドではできないことをしたいと思っていて。それに私も花田さんもくるりとかGRAPEVINEとか男性ボーカルでのロックに憧れていたので男性のボーカルが良かったんです。でも、私たち二人とも引っ張っていくタイプじゃないんで、引っ張ってくれて、ギター・ボーカル出来る人を探していたら佐野さんに出会いました。
くるり、GRAPEVINEと聴くと今のサウンドってイメージが違いますね。二人は佐野さんの中に音楽的な共通点は見出していましたか?。
音楽性で選んだわけではなくて、人柄ですね。
サークルのノリってそんなもので、音楽性はあまり考えてなくって、3人で出てくるものやったらいい、くらいの感じで思ってました。別に私たちがやりたいことを押し付けるわけではないし、佐野さんが自分の好きなものを押し付けてるわけでもない。
最低限、話が通じたらいいよね。
音楽の好み的な話はホントに全然しない。
今でも音楽の話はあまりしないんですか?
あんまりないですね。「ここパクリたい」と言って聴かすくらいで、普段何を聴いているかも全然話さないですね。サークルの時はCDの貸し借りとかはあったんですけど、今では「最後にCD貸したのいつだろう」、というレベルです。
音楽的な居場所はないし、求めてもいない
今回のアルバム、前回の『読みかけの本を置く』から結構リリースが空きましたね。
2009年頃からレコーディングを始めて、それがプリプロダクションのような扱いになったんです。そこから2011年に『Newest Archive Of Sizenkainookite 2007-2011 vol.1』というEPを出して、そのタイミングでレコーディングした曲を一度整理して、新しく録り直ししたり新曲を加わえたのが今回の作品ですね。
ただマイナーチェンジを繰り返して収録した曲もあって。例えばM07の”mkllez”は時期的には古い曲ですが、演奏的にガチっと固まったのはだいぶん後で。そういう意味では『読みかけの本を置く』以降にやってきたことを全部出した作品なのかなと思います。
今回のアルバムのタイトルが『話を続けよう』であるのは何か理由がありますか?
前作の『読みかけの本を置く』というのは僕が持っているイメージですが、自分の部屋なんですね。そこから本を置いて外へ出よう、という繋がりで『話を続けよう』というタイトルにしたんです。それに前作からかなりスパンが空いたんで「このバンドの話を始めよう、そして続けよう」と再起動的なニュアンスも込めてつけました。
「再起動的なニュアンス」ということは今までバンドとして少し停滞していた、という意識があったということですか。
曲は作っていたし、練習も入っているし、音楽活動としての停滞はなかったのです。ただ外部に向けて何かをしていたわけではなく、ずっと3人で部屋で喋っているような状況で。だから「(バンド)やってるの?」とか「解散してないの?」とか久しぶりに会った友達に言われることもありましたね。
売れるとか関係なく自分たちのことを世の中に伝えたいと。
そうですね。それに前作を作った時(2007年)に比べて、リリースするということが作り手に寄ってきたと感じていて。会社を通さなくても流通は出来るし、発信も出来る。多岐に渡って作り手に委ねられている状況だからこそ、僕らもリリースすることを気楽にとらえようかなと。それに誰にもお伺いを立てなくても良いし、そういう意味では良いのかなと。
シゼンカイノオキテがどういう音楽として捉えられているか、と気にしたことはありますか。
ライヴとか入った時に位置づけしずらいバンドだとは思いますね。だから飲み友達しかできない(笑)。何となく知り合いになるけど、本当はその場所に僕たちの音楽的な居場所はないとは感じています。ただ求めてもいないんですが。
どこにも所属できない感じはしていますね。佐野さんの好みの音楽に寄っていったら絶対ハマる所が出来るとは思うんだけど、今みたいな多様性はないのかと。
ちなみに佐野さんの好みの音楽は何ですか?
僕の好みはbloodthirsty butchersとかDinosaur Jr.とか、レーベルだったらdiscord周りだとかですね。シゼンカイノオキテにもどこかに匂いは残していきたいんだけど、そういうことをしてカッコいいバンドは山ほどでいるので僕がやらなくてもいいかなと思いますね。ただ新曲を作るたびに「これは誰が喜ぶのかな。少なくても僕の親は喜ばないだろうな」と不安にはなります(笑)
リスナーのことは気にされることはありますか?
土門蘭さんのライナーノートにも書いていますが、もう一人の自分的な客観的な人がいて、その人が満足するような曲にはしたいとは思っています。
もう一人の自分とは、佐野さん自身ということですか?
好み的な視点では僕ですが、リスナーとしてはもっと幅広い人。バンドやっていなかった時の僕みたいな人を意識はしてますね。
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歌詞に共感は要らない
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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