永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ』について –
バレーボウイズが7月31日に配信&8cmCDシングル『雨があがったら / セレナーデ』をリリースする。“夏” をテーマにした本作は、今年4月にリリースされたミニアルバム『青い』に引き続きプロデューサーに永井聖一、エンジニアには葛西敏彦を迎え制作。楽曲は男女のソロパートを設けるなど、これまでのユニゾンメインで合唱的なアプローチが多かったバレーボウイズとはひと味違った趣向が見られる。
また本作はサブスクリプションでの配信に加え、ZINE『ブルーハワイvol.4』が同封された8cmCDでの販売も発表されている。ZINEは音楽ライターである岡村詩野のインタビューや、バレーボウイズのMV監督である石田清志郎との対談などが掲載予定で、“同封” としてしまうにはなんとも豪華な仕上がり。さらに8月10日にはバレーボウイズとそのスタッフからなるバレーボウイズクラブ主催の夏祭り的イベント『ブルーハワイ’19』を京都VOXhallで開催するなど、まるで夏の話題をすべてかっさらうかのような勢いだ。
活動開始からはや3年。ライヴオーディションTOKYO BIG UP!でのグランプリの獲得、FUJI ROCK FESTIVAL‘17のROOKIE A GO-GOへの出演も記憶に新しいが、気がつけば輝かしい実績を随分と積み重ねてきた彼ら。しかし、ここにきて自分たちの武器にしてきた “夏休みっぽさ” からの脱却も垣間見えてきた。
新しいバレーボウイズが始まろうとしている今、バンドの中核メンバーである前田流星(Vo)とネギ(Vo / G)にその胸の内を聞いた。
バンドの活動の仕方が、メンバーの中で変化してきている。
『雨があがったら / セレナーデ』は、前回の『青い』から直近でのリリースとなりましたね。
“マツリ~猛暑~” とか “七月の嘘” とか、バレーボウイズって夏を連想する曲が多いじゃないですか。だから今年の夏に聴きたい曲を、ちゃんと夏に出そうと思って。それで今年の春に『青い』を録り終わって「ネギちゃん、夏の曲どうですか?」と話を持ちかけて “雨が上がったら” と “セレナーデ” の2曲が出来た感じです。
今回のシングルは夏が終わりかけの切ない感じと、 今から夏!みたいな雰囲気の曲をやれたらいいなと思って作りました。“セレナーデ” は夏の終わりを意識した曲です。夏の終わりって告白をする季節だと思っているんですよね。
夏休みを一緒に過ごして、もうすぐ終わりに差し掛かる。でも2人の関係を終わらせたくないから告白する、みたいなイメージが自分の中にある。そんな過去を回想して、傍にいないあなたを思い切なくなる。だけどそれはマイナスな感情ではなくて綺麗な思い出。そんなことを思って、書いた曲です。
「バレーボウイズは夏を連想する曲が多い」とおっしゃっていましたが、それは意識的に作られているんでしょうか?
僕は夏休みが好きで、バレーボウイズを結成する時も “永遠の夏休み” をバンドのコンセプトとして考えていました。浮かれ気分で何の責任も負わずに羽目を外せる初期衝動の塊のような音楽を作りたい、そう思っていたんです。ただ最近は “永遠の夏休み” がバレーボイズの中で変化してきていて。初期衝動で突き進むだけでなく「僕らの音楽って何だろう」、「自分たちはどういう音を鳴らすバンドなのか」と、細かいところをメンバーと一緒に見直しながら音源を作ろうとしています。そうなるとただただ夏休みを謳歌しているだけではいけなくなる。
バンドとしての活動の仕方が変わってきたということですね。夏休みを抜け出そうとした、ターニングポイントはありましたか。
バンドを結成してから3年経ち、メンバーチェンジを経験し、ライブや音源を作る回数が増えてきました。そうなるとコミュニケーションをとらざるをえないというか、みんなで話し合いをしないとバンドが回らなくなって。
以前は「バレーボウイズは夏休みっぽいから、これやろうぜ!」と僕の意見を中心にバンドが動いていました。でも、これからも長く続けると考えた時に、僕一人の意見ではバンドとしての広がりに限界があるなと気がついたんです。今は「みんなはどんなことをやりたい?」とメンバーに聞き、出てくる意見を大切にしています。そこが夏休みを抜け出したきっかけだと思います。
それとレーベルなどバレーボウイズに関わる人が増えたことも大きいですね。今まで話したことのない人と、密にやり取りをして「一緒にバンドを大きくしよう」とやっているので。自分たちはバンドの経験が豊富ではないし、今もやり方は模索しながら活動しています。
楽曲面ではユニゾンなど、新曲で今までにないアプローチも見られます。
“雨が上がったら” は今までの合唱するバレーボウイズとは違い、1番と2番で男性側の視点と女性側の視点で歌われる曲だったので、男性ソロ、女性ソロのパートを作って、サビはみんなで歌って気持ちの交わりを表現してみました。
実は男女のソロパートを作ろうとアイディアを出したのはオオムラツヅミ(Vo)のお母さんなんです。オオムラが家に帰ってお母さんと一緒にデモを聴いて、次の練習に来たときに「お母さんが男性パートと女性パートで分けたらいいじゃない、って言ってたで」と言いだして(笑)。考えてみたら今までボーカルを男女で使い分けたことがなかったし、歌詞の内容にもマッチしている。やってみたら思った以上に、バレーボウイズの楽曲にはまったので採用しました。
話を聞いていると、バンドとして貪欲に成長しようという意識を感じます。その意識の根源はなんでしょうか?
今以上にバレーボウイズを広めていきたい、という気持ちですね。最初はライブをしても「自分たちが楽しめたら、それでいい」と思っていたし、「メンバーの考えがバラバラでもそれが自分たちの良さなんだ!」くらいに考えていました。でも活動を続けていく中で「僕たちのやっている音楽は多くの世代に聴いてもらえるし、それがちゃんと届いた時に見える景色が違ってくるかもしれない」と可能性を感じてきていて。
新しい曲だけでなく “卒業” とか “あさやけ” といった過去の曲も「もっともっと色んな人に聴いて欲しい」と感じています。だからこれからは、音楽の届けかたも意識したいんです。そう思うようになったのは、レーベルや、MVを作ってくれる方と多く接するようになったからですね。僕たちを手伝ってくれている人たちにも、応えていきたいんです。そう思うと現状維持ではなく、もっとステップアップしていく必要がある。
出来ることなら、僕はバレーボウイズを観客として観たい
メンバーで話し合いをすることで、バンドとしての幅はどのように広がりましたか?
メンバーが率先して、楽曲に対してアイディアを出す機会は増えたと思います。最初の頃はどういうスタンスで参加したらいいか分からず「ネギちゃんがガチっと作ってきた原曲を再現するバンドなのか?」と思っていた時期もありました。今はコーラスの入れる位置や、ギターのリフもメンバーで考えることがありますね。メンバーから提案したらネギちゃんは大体採用してくれますし。
僕はあまり否定をすることがなくて、面白いと思うアイディアなら大概取り入れます。それが友達のお母さんの意見であっても、面白そうならとりあえずやってみる。
ネギちゃんの良い部分って、作り手として柔軟なところだと僕は思っていて、だからこそ今のバレーボウイズがあると思います。作詞も、作曲も、ソロでも音楽活動をしてたら、ライブではフロントに立つのが普通なのに、バレーボウイズは僕がフロントに立って、ネギちゃんはサブで横にいる。これはなかなか出来ない。
確かにライヴを観るとフロントには流星さん、オオムラさんがいて、ネギさんはボーカルでありながら一歩引いてステージに立たれていますよね。
メンバーの斜め後ろに立って、流星たちが歌う姿を見ながら、歌ったりギター弾いたりするのが幸せだと感じるんです。ソロのライヴでも他のミュージシャンと一緒に演奏させてもらったりしますが、その時も一生懸命歌っている方の少し後ろに立ってライヴをするの好きです。
アイドルのプロデューサーみたいですね。
そうかもしれないですね。出来ることなら、僕はバレーボウイズを観客として観たいんです。自分が関わって発案したものが、ステージの上で形になるところを想像したら「幸せだろうな」と常に思っています。だからライブ中でも「僕も下に降りて観客と一緒に歌いたいな」と思う瞬間が何度もあって。ただ現状それはできないので、一歩引いた立ち位置から「あ、いいな」を感じたいです。
そのスタンスが自身の音楽に反映されることはありますか?
ありますよ。一歩引いて観た時に、自分の中で「うわぁ、いいな」という気持ちをバレーボウイズでは音楽にしています。だから自分の感情や経験が題材の曲はほとんどなくて。作ったとしても、バレーボウイズではやらないですね
今後ネギさん以外のメンバーが曲を書く可能性はありますか?
現時点ではないですけど、あったら面白いと思います。なんならメンバーには「楽曲、作ってみたら」とはいつも言っているんです。僕以外のメンバーが作った曲も作品にクレジットされていたら良いなと思いますね。
バレーボウイズと言えば合唱や歌謡曲という “らしさ” がある程度リスナーにも共有されている時期だと思いますが、ネギさん以外のメンバーが作曲すると、その “らしさ” がなくなる可能性もあるとは思いませんか?
それは大丈夫です。バンドは変わっていくものだし、変わっていった方が面白い。例えば「昔は歌謡曲ぽい音楽を作っていたのに、今はめちゃくちゃロックだったりしてたら、おもろない?」と思っていて。ただ、バレーボウイズが今以上にメジャーになり、多くのお客さんに聴かれるようになったら、今度は最初の “永遠の夏休み” のコンセプトに戻りたいとは考えています。
最初に“永遠の夏休み”というコンセプトを考えた時は “単純に自分が好きだから” という理由だけでしたが、バンドについて色々と考えて、大きな舞台を経験し、ひと回りもふた回りも成長したバレーボウイズなら、夏休みの景色も以前とは違ったように見えると思うんです。そして戻りたい夏休みの形が今うっすらと自分の頭の中にあって、そこにたどり着けるまではまだ自分たちの歩みを止めてはいけないと思います。
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好きなことと生活が結びついたお祭りを『ブルーハワイ』ではやりたい
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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