京都出身のシンガーソングライター大槻美奈が作り上げた3rdアルバム『BIRD』はポップの仮面をかぶったプログレッシブミュージックだ。
本作のことを語る前に、少しだけ思い出話をしたい。私は今から2年前に彼女のことを取材した。そのなかで印象的だったことは彼女が「いつもオーケストラをイメージして楽曲を作っている」と言っていたことだ。その言葉のとおり大槻の曲はピアノだけでオーケストラの楽曲を表現するように、幾重にも音を重ねていく。結果、弾き語りライブでは完璧な再現が不可能かと思えるほど彼女の楽曲はピアノの音数が多く、サウンドの厚みが特徴で、その特徴は作品を重ねるごとに重厚なものへと仕上がっている。
3rdアルバム『BIRD』は大槻いわく「自由」をテーマに、様々な個性を持った鳥をモチーフにして描いたコンセプチュアルな作品だ。大槻とサポート・ドラマーの戸渡ジョニーの2人で作りだされた本作は荘厳なピアノの音から、ディレイを効かせたコーラスを合わせた“誕生”からスタートする。続く“ハヤブサ”では軽やかで疾走感がありながらも幾重にも重ねられたピアノ・サウンド、更には後半では戸渡のドラム・ソロが華麗に演奏されていく。“紫陽花と雀”では中盤にテンポが加速し、突然4拍子から3拍子になったりと、目まぐるしく移り変わっていく。自由になりたい美しき白鳥と、その美しさを守る過保護な神様との物語を描く“スワンヘレン”はサビがなくメロディと語りで構成されているなど、大槻の楽曲はどれもポップ・ミュージックの枠を飛び越えた発想で作られたものばかりである。
このようなポップ・ミュージックには見られない手法は以前から使われている。例えば2ndアルバム『SOUND』の“電波ジャック”という曲では、Aメロ、Bメロ、Cメロと何度も違うメロディが出てきて、間奏部分のピアノソロではポリリズムを入れ込むなど、従来のポップミュージックにはあまりみられないオーケストラ的な構造をとっているだといえる。
そう、大槻は音だけでなく構造すらもオーケストラをイメージして楽曲を作り上げているのだ。オーケストラ的な要素を取り入れた音楽ジャンルといえばプログレッシブミュージックだが、キングクリムゾンやエマーソン・レイク・アンド・パーマーの楽曲にはクラシックやジャズの技術や構造が入っている。例えばキングクリムゾンの“21世紀の精神異常者”。ポップ・ミュージックというのは曲が前奏、メロディ、サビのように進行していくが、この曲はイントロ、サビ、以降は各楽器のアンサンブルが数分間続く。
ただ大槻の曲はプログレ的ではあるものの、それを感じさせないくらいポップで耳なじみがよい。それはメロディと伴奏が絶妙のバランスであることだけでなく、使用楽器をピアノとドラムの2つしか使わないことで、緻密すぎず適度に風通しがいいサウンドを作り出しているからだ。だから一見(この場合、一聴というべきか?)すればポップ・ミュージックのような音楽にも聴こえるのだ。昨今では京都出身のシンガーソングライターとして中村佳穂が注目されているが、京都にはまだまだ素晴らしいアーティストが沢山いる。大槻美奈は間違いなく、その1人である。
大槻美奈『BIRD』
リリース:2020年4月9日
定価:2,500円(税込み)
品番:VTM-001
収録曲:
1.誕生
2.ハヤブサ
3.紫陽花と雀
4.拝啓カラス座
5.スワンヘレン
6.リップはフラミンゴ
7.トキの展覧会
8.終焉
公式Webサイト:http://nishihirohiko.info/
現在、郵送にての販売を実施。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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