MASS OF THE FERMENTING DREGS を最初に観てから、もう10年以上の月日が経過した。記憶が曖昧な部分はあるが、FUJI ROCK FESTIVAL ‘07の”ROOKIE A GO-GO”に出演した神戸出身の3ピースバンド、それくらいの知識しか持たずに観たライブは今でも色濃く印象に残っている。轟音で渦巻くギターと、力強いドラムビート。そして、攻撃的でありながらグルービーなベースラインと、そこに融合する宮本菜津子(Vo / Ba)の伸びやかでハリのある歌声が魅力的なバンドであった。
それからも僕は彼女たちを観にライブハウスへ行き、2012年に活動休止をした時には悲しみに浸り、2015年に活動再開した時には喜びに打震えた。そして時は流れて2020年。7インチ・レコードのシングル『You / うたを歌えば』を買った僕は、家に帰りすぐレコード・プレイヤーで本作を聴いた。
宮本の落ち着いた歌声と抑制のあるサウンドで男女の何気ない日常を歌にしている“YOU”。90年代オルタナティブロックの出で立ちで、ノイズを効かせたギターと、どっしりとしたアンサンブルを聞かせてくれる。ただ決してうるさくはならず、宮本の歌声を浮き出たせる作りになっている。
宮本菜津子のソロアルバム『なまみ』(2017年)にも収録されていた“うたを歌えば”は、宮本がメイン、ユニゾンで小倉直也(Vo / Gt)が歌う軽快なギター・ポップである。ディストーションをきかせたギターからスタートし、輪郭が際立ったベース・ラインと吉野功(Dr / Cho)の軽やかなドラムビートが心地よい。
2曲聴いて10年前の彼女たちを思い返すと全体的にサウンドが明るくなったことに気がつく。1stアルバム『MASS OF THE FERMENTING DREGS』(2008年)はダークながら攻撃的で、初期衝動の塊をそのまま音にした作品であった。そして衝動をむき出しにし、鋭くアグレッシブに立ち回るサウンドは『ワールドイズユアーズ』(2009年)、『ゼロコンマ、色とりどりの世界』(2010年)と作品を重ねるごとに、エモーションはそのままに徐々に丸みを帯び、交通整備の行き届いたサウンドへと仕上がっていった。2012年からの活動休止を経て2018年に出したアルバム『No New World』では、それまでやらなかった打ち込みを使用し、小倉をボーカルとして起用するなど、更に新しいMASS OF THE FERMENTING DREGS像を打ち出してきた。
こうして見ていくと彼女たちは急に変わったわけではなく、ひとつひとつを積み重ねて、今のサウンドに辿り着いたことに気がつく。しかしその積み重ねの裏にはメンバーの脱退や活動休止といった、バンドの歩みを止める出来事が幾度となくあった。そしてその度に彼女たちは音楽をやり続けることを選択し、新しいバンドへと生まれ変わったような衝動を手にしていたように感じる。現に再結成をした際のインタビューで宮本は、新しいバンドを結成したような感覚だと語っている。それに活動するフィールドをメジャーからインディーズに移したことで、自分たちのかっこいいと思える音楽を制約なく自由に作れていることも、変化の一因なのかもしれない。『You / うたを歌えば』は10年以上、自分たちと向き合うことでできた音楽であり、MASS OF THE FERMENTING DREGS というバンドの歴史を感じる1枚だ。
『You / うたを歌えば』
アーティスト名:MASS OF THE FERMENTING DREGS
仕様:LP
発売:2020年6月3日(水)
価格:¥1,650(税込)
収録曲
1.You
2.うたを歌えば
MASS OF THE FERMENTING DREGS
2002年、兵庫県神戸にて結成。ベースボーカルの宮本菜津子を中心に、女性メンバーのみの3ピースロックバンドとして活動をスタート。その後、メンバーチェンジを経て現在は宮本と小倉直也(Gt&Vo)、吉野功(Dr&Cho)の3人編成で活動をしている。轟音のすごみを押し出すオルタナティブなサウンドと宮本が描く叙情的な歌が融合したときに生まれるカタルシス。その音楽性と完全燃焼を信条とするライブパフォーマンは唯一無比の求心力に満ちている。2007年にEMIミュージック・ジャパン主催のオーディションで最優秀アーティストに選ばれ、その特典としてデイヴ・フリッドマンによるプロデュースでUSレコーディングを実施。2008年に1stアルバム『MASS OF THE FERMENTING DREGS』、2009年に『ワールドイズユアーズ』、2010年に初のフルアルバム『ゼロコンマ、色とりどりの世界』をリリース。2012年に活動停止を経て、2015年に再始動ライブを行う。2017年に再始動後、初となる音源『スローモーション リプレイ』をFLAKE RECORDSよりリリース。そして、2018年7月4日にフルアルバム『No New World』をリリース。
Webサイト:https://www.motfd.com/
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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