おとぼけビ〜バ〜 × 奥羽自慢 - 日本酒の固定観念を崩す男が生み出した純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』とは
京都からワールドワイドに活動している4人組バンド、おとぼけビ〜バ〜の日本酒が発売された。バンドをイメージしたという日本酒は紫色のボトルに、よよよしえがデザインしたラベル。華やかな香りと酸味のあるしっかりとした味わいは、メンバーとの試飲を重ねた末に選ばれたものだという。なぜこのようなコラボレーションが実現したのか。製造元である奥羽自慢株式会社の製造責任者、阿部龍弥さんに話を聴いた。
奥羽自慢株式会社(以下、奥羽自慢)は今年で創業298年になる、山形でも伝統のある酒蔵だ。ただ老舗ながらも、近年では母の日に感謝の気持ちや思いを書いた短箋を日本酒に巻かれた『巻いて届ける母の日メッセージ 巻き文酒』や、ワインの世界では一般的なブレンド技術であるアッサンブラージュを日本酒で楽しむオンラインイベントなど、他の酒造所にはない斬新な企画を次々と生み出してきた。そんな企画の中枢である31歳の若き匠、阿部龍弥さんは今の日本酒業界には「遊び」が必要だと考えており、ワクワクが通じ合えるコラボには積極的に参加したいと語る。
その奥羽自慢とおとぼけビ〜バ〜がコラボしてできたのが、純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』だ。本作は味、ボトル、ラベル、そのすべてでおとぼけビ〜バ〜を表現した意欲作になっている。なぜこのようなコラボが実現したのか。そして造り手とアーティストの思いがどのようにして『おとぼけビ〜バ〜』という名の日本酒に反映されているのか。インタビューをするうちにわかったのは、日本酒が持つ固定概念を崩し、日本酒を飲んでいない層にもその面白さを知ってほしいという、一人の男の信念であった。
奥羽自慢株式会社
1724年(享保9年)創業の山形県鶴岡市にある酒蔵。現在では日本酒「吾有事」「奥羽自慢」、日本ワイン「HOCCA」を手掛ける。また近年では日本酒とアップルワインをブレンドした『Assemblage Sake × Wine』の発売や、日頃の感謝の気持ちや思いを込めたメッセージを日本酒に「巻いて」届ける、『巻いて届ける母の日メッセージ 巻き文酒』を企画するなど、日本酒業界としては斬新な試みを行っている。
固定概念を崩す“遊び”を日本酒でしたい
阿部さんは20歳の頃、奥羽自慢の親会社であり、姉妹蔵である楯の川酒造株式会社(以下、楯の川酒造と略)にアルバイトで入社。最初はあまり興味を持てなかった日本酒だったが、造るうちに「なぜ米と水でできるのか?」と疑問を持ったことと、できたての日本酒の味に感動したことがきっかけで、日本酒造りに興味がわき、26歳の時には製造部の2番手まで登り詰めた。そしてこの頃、阿部さんに1つの転機が訪れる。
休みの日に、楯の川酒造の社長から「来季から奥羽自慢の責任者をやってくれませんか」とメールが来たんです。事前情報もなかったので、最初は「送り間違えたのかな?」と困惑しました。一応、酒造りにおける全行程の作業はできましたが、造りたいお酒があったわけでもないし、自分のブランドを持ちたいわけでもなかった。だがこの機会を逃すと、次は絶対来ないだろうなと思い「僕でよければやらせてください」と返事をしました。
好奇心が強く、新しいことをどんどん取り入れようとする阿部さん。その情熱は現在の奥羽自慢の日本酒へと注がれる。例えば奥羽自慢の主力商品である『吾有事』。山形は吟醸国と呼ばれ、全国新酒鑑評会で金賞を受賞する酒蔵をいくつも輩出してきた場所だ。そんな山形の日本酒の特徴は酸味を抑えたスッキリとした味わいなのだが、『吾有事』は酸味がたった味わいであり「山形らしくないお酒」である。このお酒が生まれた経緯には、1つの失敗があった。
奥羽自慢の新ブランドを作ろうとなり、生まれたのが『吾有事』です。しかし1年目は新ブランドとしてあまり際立った特徴がなかったので、めちゃくちゃコケてしまって。もう造るのはやめよう、という話までなったのですが、何とか2年目も造るチャンスをいただくことができたんです。それで味について酒屋さんに相談したら「尖った方がいいよね」と言われて、思い立ったのが「酸味」でした。個人的にも酸味のあるものが好きでしたし、今まで楯の川酒造全体をみても、酸味を前面に出した日本酒は造ったことがなかった。それで社員たちと相談しながら、山形らしくない酸味がたった尖った味わいのお酒にガラっと変えたんです。
山形の日本酒のイメージの逆を捉えて主力商品となった『吾有事』以降、奥羽自慢ではさまざまなお酒や新しい日本酒の飲み方を提案してきた。前述した『巻いて届ける母の日メッセージ 巻き文酒』やオンラインイベント以外にも、日本酒とアップルワインをブレンドしたお酒『Makuake』の発売や、お菓子メーカーの明治とコラボして『明治 ザ・チョコレート』と相性のいい同社の日本酒を提案する企画など、他の日本酒メーカーとは一線を画すような、コンテンツやコラボに取り組んでいる。このような企画を行う裏には、阿部さんの日本酒業界に対する思いがあった。
11年間日本酒を造ってきて、まだまだ“遊び”が足りないと思っていて。例えば僕、市販のビールが苦手なんです。だけどある日、とある醸造所のクラフトビールを飲んだ時、「すごくおいしい」と感じました。その時にビールに対する固定概念が崩れたんです。だから日本酒が飲めないと思っている人でも「これなら飲める」と、イメージが変わる体験を提供できるようなものを出していきたいですね。
あと見せ方についても堅いと感じることはあります。今はSNSで情報を発信している酒造所もあるのですが、「蔵内の見学はしません」とか「情報は何も開示しません」みたいなところも多くて。そういう部分では、日本酒の酒造所はまだまだ閉鎖的だと思います。もっと開けていきたいという自分の考えが周りにも通じて、協力いただけているおかげで斬新な企画になっているのかなと思います。
ワクワクするものがあれば、どんどんコラボをしたい
日本酒の固定概念を崩したい、そんな奥羽自慢が新たに出す日本酒が純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』だ。おとぼけビ〜バ〜といえば、あっこりんりん(Vo / Gt)、よよよしえ(Gt / Cho)、ひろちゃん(Ba)、かほキッス(Dr)の4人からなり、衝動的に駆け抜けるサウンドと、本音をさらけ出す歌詞。さらにライブではまさに肉を切らせて骨を断つかのような、パワフルかつスリリングなステージ・パフォーマンスが魅力的なバンドだ。
2022年5月25日には3年ぶりの最新アルバム『SUPER CHAMPON』のリリースし、まさに当たるべからざる勢いのおとぼけビ〜バ〜。日本だけでなく、海外での活動も精力的で、今年には海外のライブハウス24か所をめぐる『SUPER CHAMPON Tour 2022』を実施予定だ。しかし、奥羽自慢はなぜ彼女たちのお酒を造ることになったのか。
おとぼけビ〜バ〜さんのレーベル(Damnably)の方が、 Foo Fighters(フー・ファイターズ)や Phoenix(フェニックス)と楯の川酒造がコラボをしているのを見て、お話をいただいたことがきっかけです。ただその時、楯の川酒造は Foo Fighters とコラボをしている最中だったし、もしかしたら奥羽自慢の方が合うのではとも思ったので、姉妹蔵である奥羽自慢が担当させていただくことになりました。
楯の川酒造では過去に Phoenix との『楯野川 純米大吟醸 PHOENIX 』、Foo Fighters とは『 Foo Fighters × 楯野川 純米大吟醸 半宵 碧』『 Foo Fighters × 楯野川 純米大吟醸 半宵 銀』をコラボ商品としてリリースしている。双方とも話題になったが、なかでも Foo Fighters との共作は思い入れが深かったようで……。
楯の川酒造の佐藤淳平社長は Foo Fighters の大ファンで、代表メールにコラボのお願いが届いたとき、普段社長がメールを返すということはまれなのですが、自らものの数分で長文のメールを返信したくらい前のめりでした。いざコラボ商品が販売されると、周りからの反響は大きかったです。普段日本酒を飲んでいる層とはかなり違った人たちが商品を買ってくれました。あとタワーレコードの店頭にも並んだので、その光景はかなり衝撃的でしたね。
楯の川酒造から引き継ぐこととなった、おとぼけビ〜バ〜とのコラボ。阿部さんに、コラボを引き受けるうえでの基準を聞いてみた。
どんなコラボでも、そこに「ワクワクできること」と「お互いに通ずるもの」があれば、どんどんやっていきたいです。今回に関しても音楽と日本酒って、共通するものがあると僕は考えていて。特に、お酒・音楽といった作品を通して自分の思いを表現をする部分は似ていると感じます。最終的におとぼけビ〜バ〜さんという新しいフィルターを通して、日本酒のことを知ってもらえれば嬉しいですし、逆に奥羽自慢というフィルターを通して、おとぼけビ〜バ〜さんを知ってもらえれば、お互いコラボとしては成功なのかなと思います。
純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』と奥羽自慢の今後
純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』の味やボトルデザインはどうやって決めたのか。
奥羽自慢とおとぼけビ〜バ〜とのコラボなので、ベースは奥羽自慢がもつ酸味のあるものを軸にしました。そのうえであっこさん、よしえさんと話し合い、奥羽自慢のお酒を何種類か送り、試飲しながら調整しています。あとおとぼけビ〜バ〜って、パッと見た印象として、色合いがポップですよね。だから味だけではなく、ボトルとかラベルも含めて、トータルでおとぼけビ〜バ〜というものを表現しました。
ボトルは色々試作を重ねましたが、佐藤淳平社長が提案した紫色というのが一番しっくりきたので、それを選びました。ラベルはよしえさんから10 種類以上の案を出してもらい、その中で奥羽自慢側とおとぼけビ〜バ〜側がお互いに「これがおとぼけビ〜バ〜ぽい」というやつを選びました。そしたらたまたま両者とも同じデザイン案を選んだんです。なので全会一致でそれを採用しました。
4月22日に難波ベアーズで行われた『かほキッスバースデーライブ』では完成した『おとぼけビ〜バ〜』が先行販売された。阿部さんも同行し、彼女たちのライブを見たとのことだが、その時の様子をこう振り返る。
僕は今までライブハウスでライブを観に行ったことがなかったので、余計にそう思ったのかもしれませんが、メンバーが生み出すすごい音圧に驚きました。あとファンとアーティストとの距離感が近いなと感じていて。「今日も来てくれたんだ。ありがとう」みたいなアイドルとファンの関係性ではなく、もっと親密な、例えたら家族みたいな感じがあるのがおとぼけビ〜バ〜さんの強みだと思いました。あとコラボにあたってあっこさんとよしえさんとずっとやり取りさせていただいたんですが、いつもはすごく丁寧な言葉でお話をされる方なのに、ライブでは大音量で叫んでいて、やっぱりプロでしたね。
ちなみにこの日阿部さんは60本ほど純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜』をライブハウスに持って行ったとのこと。普段販売している日本酒よりも、高めに設定しているため「売れ残るかも」と心配していたようだが、全て完売。今後も酒屋さんの協力も得ながら、ライブハウスでも販売するとのことだ。最後に阿部さんに今後の奥羽自慢がやりたいことを伺った。
奥羽自慢としては、子どもたちに対しても、何か仕掛けていきたいとは思います。今、日本酒業界は完全に右肩下がりですし、50〜60代が抜けると、さらに飲まない人が多くなってしまう。そのためには子どもや若年層へのアプローチが必要なのかなと考えています。もちろん子どもはお酒を飲めませんが、例えば母の日企画の『巻き文酒』のように、ラベルなどにメッセージをあしらって、記念日の祝い品としてプレゼントするみたいなことは考えています。
私事で恐縮なのですが、僕には子どもが3人いて。息子と娘には日本酒造りが誇れる仕事だと思って欲しいんです。ただ将来、我が子が「お父さんと同じことをやりたい」と言っても、衰退している業界であるなら親としては入って欲しくない。それに自分が盛り返せなかったものを子どもたちに任せるのも、かなり酷なことだと思います。なので今の自分たちの代でこの角度をもっともっと緩やかにして、ちょっとでも持ち直して、堂々と継がせたい職にしたいですね。
おとぼけビ~バ~へも今回のコラボ酒についてお話を伺いました
自分たちのお酒が販売になることへの率直な感想は?
おとぼけビ〜バ〜を味や香りで表現するというのがいままでにないことだったので、日本酒としてリリースできて本当に嬉しいです。日本ではまだまだ無名の私たちとのコラボを二つ返事で承諾していただいたアツい酒蔵さんで、一緒に挑戦していただいたような気持ちで胸がいっぱいです。世界中の方に知っていただきたいです。
日本酒を飲まれた印象は?
まさにおとぼけビ〜バ〜といった印象で、日本酒の香りと味をしっかり感じつつとっても飲みやすい…ラベルからは一見想像しづらい本格派日本酒です。
ラベルのデザインはよしえさんが担当していますが、絵を描くうえでどのようなことをイメージされましたか?
「おとぼけビ〜バ〜×お酒を飲んだ時のちょっとサイケデリックな視界」をイメージしました。飲んでびっくり本格派純米大吟醸という印象になる方がおとぼけビ〜バ〜らしいかなと思い、あまり日本酒っぽいデザインを意識せず描きました。
最後におとぼけビ~バ~の日本酒を買おうかなと思っている人へ、何かメッセージをお願いします。
おとぼけビ〜バ〜『SUPER CHAMPON』のお供にぜひこの一杯を!ぜひ五感全てでおとぼけビ〜バ〜を感じてください!
おとぼけビ〜バ〜 純米大吟醸
発売日:2022年5月18日
価格:¥2,860 (税込)
仕様
酒質:純米大吟醸
原材料:米(国産)・米麹(国産米)
使用米:出羽燦々
アルコール分:15度
精米歩合:50
日本酒度:-5
酸度:1.9
生酒/火入れ:火入れ
保存方法:冷暗所
取扱店舗一覧
(有)阿部酒店
住所:山形県 山形県酒田市幸町1丁目3-25
電話:0234-22-2235
(株)丸俊
住所:山形県 山形県山形市流通センター2-4-3
電話:023-633-3177
URL:https://yamagatamaru.jp/html/company.html
創り酒屋
住所:山形県 山形県酒田市山楯 字南山添75-1
電話:0234-52-3252
URL:http://sakaguratyokusou.com/abouts/
岸田酒店
住所:長野県 長野県小諸市南町1丁目1−8
電話:0267-22-0593
URL:https://www.slow-style.com/shop/kishida/
(株)奥広屋
住所:大阪府 大阪府寝屋川市萱島信和町11-2
電話:072-821-6559
URL:https://jizake-daisuki.com/
㈱とめ河
住所:大阪府 大阪府岸和田市吉井町3丁目16−22
電話:072-445-6034
You May Also Like
WRITER
-
関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
OTHER POSTS
toyoki123@gmail.com