まず16曲入りという点がいい。キレイにまとめるよりも、言いたいことをすべて言うその姿勢は、ズカイの集大成として出された1stフルアルバム『ちゃちな夢中をくぐるのさ』にふさわしい。先日の〈ナノボロ2022〉に出演した際に、まんくも(Vo / Gt)が「人生をかけて作った」とMCで語っていたが、それも頷ける作品だ。先に結論を言おう。本作は「夢とか希望を信じないあまのじゃくが歌う応援歌」である。
まず、ズカイというバンドがどのような変遷をたどったかをざっと説明する。元々、4人組の時代はフォーキーなインディ・ロック、Real Estate(リアル・エステイト)やParquet Courts(パーケイ・コーツ)の初期のようなサウンドメイクであったものが、メンバーチェンジを経て5人組+シンセサイザーのサポートを加えた6人体制になって以降、よりシンセポップやドリームポップといったジャンルへ志向が移った。本作でも”ナデ・ナデジェラシー”でみられるシンセサイザーが印象的な80sポップス風な味付けや、“ムーンライト”でのモジュレーション系のエフェクターを使ったギターとまんくもの優しい歌声が見せるドリーミーなサウンドスケープは、今の彼らを特徴づけている。その一方で“卒アル”では、それまでのズカイにはないラウドでメロディアスな音像も披露している。
それらをズカイの音楽たらしめているのが、まんくもの歌である。彼は希望や夢を歌わない。M1“反省モードおしまい”では〈今の僕はホント嫌い 人のせいにして欲しがり坊や〉とネガティブな自意識を吐き出し、〈優しく問いかけるのが優しさと言うならば 君の言う優しさ 僕で言えば悲しさ〉や〈今を見つめなきゃねって簡単に出来たなら ニコニコしてマイホーム建てただろう〉というように、あまのじゃくでありながら、同時に理想の人生を歩めていない人間の肖像を描いている。人によっては「理想の人生を歩めていない」というとネガティブな印象を受けるかもしれない。だが最初にも書いたが本作は応援歌である。なぜならまんくもが言いたいメッセージは「今日を生きて」なのだから。
あまのじゃくな自分に対して言及する一方で、死を連想する言葉も印象的に登場する。M4“ぽーいっ!”では〈人身事故で 遅れ出てます〉やM6“K.K.T( けいけんち )”では〈でも料理長は酒タバコで死にかけた〉のようにだ。またM14″気に留めないで”ではストレスからくる不眠症で悩まれているような描写も出てくる。そんな人間に対してまんくもはある時は〈気に留めないで〉と励まし、ある時は〈パッパラパーは難しい でも死ぬよりはマシさ〉のように自殺するくらいなら逃げろと歌う。
そしてラストの“涼しい顔”で〈明日は見ないで 今日生きて〉と歌う。元々この曲は2nd EP『夢ばかり見すぎて』に収録されていたナンバーだが、当時の歌詞は〈明日また会えたらね〉であった。つまり本作では「今日を生きて」という部分が足されているのだ。素直でない故か、〈今日を生きるとかごまかして ボツになるようなメロディ ららら〉と後に歌詞が出てはくるが、それならば歌詞としてこのメッセージを新たに付け加える意味がないし、なにしろこの曲は没にならずにこうやって私たちの耳へと届いている。
正直、「今日を生きて」というメッセージを歌うバンドや、アーティストなんて山ほどいる。だが、ズカイが「今日を生きて」というメッセージを打ち出すのは特別だ。なぜならそれまでまんくもは自分のことを歌にし、作品は自身のモノローグであった。現状・未来への絶望、社会への妬み・嫉み、またはそのような現状から鼓舞するというもの。本作でもその名残があり、〈止まるのはナシな気がする〉(“夜行バス”)や〈あいつらと違って僕ら深く考えこんじゃうもんね〉(“ムーンライト”)といった歌詞に散見される。そしてこれらの歌詞に共通するのは主語が「僕」である。しかし「今日を生きて」の例を挙げた“涼しい顔”や”気に留めないで”は、「僕」ではなく「君」に向けられている。そういう点から考えると、本作は今までの自身を歌うズカイを見せつつ、他者に対して目を向けたズカイの姿も見せた、まさに集大成的なアルバムなのだ。
初期の名曲“ビックウェーブはまだ来ない”で、その存在を知ったが、あれから6年。『ちゃちな夢中をくぐるのさ』は、バンドとして何段階も成長した姿だけでなく、未来への展望をも見せてくれた。「人生をかけて作った」その言葉に偽りなしの作品だ。
ちゃちな夢中をくぐるのさ
アーティスト:ズカイ
仕様:CD / デジタル
リリース:2022年9月28日(水)
価格:¥2,750(税込)
収録曲
01.反省モードおしまい
02.屋根がない校舎の夢
03.ムーンライト
04.ぽーいっ!
05.夜行バス
06.K.K.T(けいけんち)
07.卒アル
08.ある別れ話(boy side)
09.目鼻口とエアリーショート
10.次回予告
11.MEMORY CARD
12.ナデナデ・ジェラシー
13.ラジオメール
14.気に留めないで
15.酸素
16.涼しい顔
ズカイ
ズカイは2019年末より現在の編成となり活動を本格化。コロナ禍でも精力的にリリースを続け「目鼻口とエアリーショート」「気に留めないで」はサブスクで一躍彼らの名前を広めた。昨年秋には自主制作ミニアルバム『たくさん願い溢れて』をリリース。ツアーを経てクリスマスには羊文学『1999』のカバーをサプライズ配信。羊文学メンバーを含め国内外大きな反響を得る。THISTIME RECORDSへの所属を発表し、バンド史上初のアナログ7インチ『酸素/気に留めないで』リリース。加藤マニを監督にむかえ撮影された表題曲「酸素」のMVはまもなく10万回再生を達成、各サブスクサイトともに過去最高の再生数を記録すると、活動拠点である大阪を中心に徐々にアンセム化していった。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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