逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール
台風クラブの音楽は孤独である。こんなに明朗で、人なつっこいロックンロールを鳴らしているのに、一人の男が特に何をするわけでもなく、淡い希望を抱きながら生きている。もちろんその傍らには寂しさや悲しみはあるが、男はそれに見向きもせず、いや気づかないフリをしているだけなのかもしれないが、今という時間を楽しんでいるように思える。
〈誰も居ない シーンとしてる/いつも通りの夜道に/たったひとり 期待してる/自分勝手な幽霊が/ほんの少し甘い夜を食んでいる〉“まつりのあと”
1stフルアルバム『初期の台風クラブ』(2017年)発表当時はそんな「孤独なれど、今を楽しむ」という部分に、当時孤独であった私はおもしろみを感じていた。だが時間というのは残酷で、コロナ禍になり、自身のライフステージも変わった。毎日これまでとは違った不安を感じながら、汗水たらし働いていると、「孤独なれど、今を楽しむ」よりも、その傍らにある「寂しさ」「悲しみ」のほうに目が行ってしまう。むしろ台風クラブの音楽は「寂しさ」「悲しさ」に向き合うことができず、ただ現実逃避しているように聴こえてしまっていた。もちろん現実逃避をする音楽が悪いわけではない。だが「台風クラブは自分自身と向き合えているのか?」という疑念が浮かび、次第に彼らの音楽を聴かなくなっていった。
季節が過ぎて2023年。2ndフルアルバム『アルバム 第二集』がリリースされたので、久しぶりに彼らの音楽を聴いた。“へきれき”、“抗い”、“道草”の3曲以外は過去にシングルやライブ特典音源として発表されているが、再ミックスが施されている。すでにリリースしてきたものを中心にアルバムをまとめていくスタイルは『初期の台風クラブ』と同じスタンスである。またサウンドに関してもいなたいギターの音色と乾いたビートで、2トーン、パワーポップ、ロカビリー、R&B……などあらゆるロックスタイルを吸収。前作の“まつりのあと”でみせた山下達郎オマージュのごとく、本作でもドイツの作曲家であるメンデルスゾーンの“結婚行進曲”を”とんがりブーツ”で堂々と使うあたりなど、前作と変わらぬよさがある。
だが例えばベースやドラムの音がクリアになり、主張がはっきりとした音作りや、サウンドに埋もれずボーカルが聴き取りやすくなっている点は大きな変化だといえる。そしてなにより、最大の変化は歌詞だ。前作に感じられた「逃避」ではなく「自己との対峙」に比重が置かれている。1曲目の“野良よ!”はラウドで性急なポップパンクナンバーだが、その歌に以前の浮ついた姿はみじんもない。あるのは喪失とわだかまりを持ちながらも、あがいていく男のポートレートだ。
〈うるさい馬鹿笑いで/青い鳥逃げちまった/手をかざして目を凝らして/生かされるままのザマをみる〉 “野良よ!”
また〈やぶれかぶれでここに生きている/その場しのぎのその日暮らし/期待外れのおれの景色にも/ちょっとばかりの夕日が射せば〉と歌われる“日暮し”の歌詞からわかるように本作には石塚淳(Vo / Gt)の失意とジレンマがにじみ出ている。前作から5年半の歳月で、石塚の身に何があったのかわからないが、確実に言えることは今まで目を背けていた孤独や絶望に、誠心誠意に向き合い、あがきながらロックンロールを制作した結果が、刻み込まれている。
だが同時に〈線路の下で夏を待つ/じっと生き延びる〉(“旅情”)や〈いつか来た道はつづいて/春になれば花散らして/まだここで生きていく〉(“なななのか”)のような歌詞からは、絶望や葛藤を抱きながらも、あきらめずに前に進もうとする姿勢は読み取れる。それはラストに“火の玉ロック”をもってきたことからもわかる。
いつのライブだったか、この曲を演奏する前に石塚は「もう解散してしまったバンドと、いつか解散してしまう俺たちに送ります」と言っていた。〈奴らがともした赤い火が/夕暮れに追い越してゆく〉と歌っている通り、自分たちと同じ土俵で時に戦い、時に励ましあったバンドたちの魂が次々と自分たちをを追い越していく。だが台風クラブはその肉体をもって、じっと待つ一本道にアクセルを突っ込んでいく。俺たちはまだ続けていけると信じながら。
アルバムを聴き終えて、自分でも驚きだったが「まだまだ頑張らないと」という気持ちに掻き立てられた。泥臭く、だけど前へと進むその姿勢は、成果はでなくとも社会であがく自分と重ねることができたからだ。もう一度、再生ボタンを押して “野良よ!”を聴きながら、私は根本 敬『因果鉄道の旅』のあの言葉を思い出していた。私たちが愛したあの言葉こそ、今の彼らには一番お似合いだ。
「でも やるんだよっ」
アルバム第二集
アーティスト:台風クラブ
仕様:CD / デジタル
価格:2,750円(税込)
発売:2023年2月22日(水)
収録曲
01. 野良よ!
02. へきれき
03. 下宿屋ゆうれい
04. 旅情
05. 日暮し
06. 道草
07. とんがりブーツ
08. 抗い
09. なななのか
10. 火の玉ロック
台風クラブ
京都発、”日本語ロックの西日”。 石塚淳(Vo / Gt)、山本啓太(Ba)、伊奈昌宏(Dr)の3人組。2013年に結成、2014年より現在のメンバーで本格的に活動を開始し、2017年に1stアルバム『初期の台風クラブ』をリリース。その後、 2018年7インチシングル『火の玉ロック』、2019年7インチシングル『日暮し』、2020年7インチシングル『下宿屋ゆうれい』、2022年7インチシングル『野良よ!』 と4枚の私家盤シングルをリリースし、2023年にはセカンドアルバム『アルバム第二集』をリリース。
Webサイト:https://taifuclub.com/
Twitter:https://twitter.com/taifuclub
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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