愛で自身の問いに終止符を打つ、集大成としての『LAND』
「最も変化した作品」そう断言してもいいだろう。大槻美奈の音楽はピアノを主軸として、伸びやかな歌声と、ライブをそのままパッケージングしたような躍動感あるサウンドを聴かせてくれる。だが3rdアルバム『BIRD』(2020年)以降、バンドスタイルでの演奏を本格的にスタート。さらに多重録音を使用した楽曲制作など、それまでのスタイルから新しい一歩を踏み出す場面も多く見られた。
その流れは本作でも受け継がれており、ポエトリーリーディング、打ち込みの使用など、音源でしかできない世界を構築している。だが本作においての変化はスタイルだけに止まらない。『LAND』では大槻が一貫して考えてきたテーマに、一つの結論を出している。彼女の楽曲は常に「コミュニケーションへの疑問」を歌にしている。例えば2ndアルバム『SOUND』(2018年)の“電波ジャック”や“言葉の兵隊 ”、『BIRD』(2020年)収録の“紫陽花と雀”など、彼女は「思いを相手にどう伝えるか?」というテーマに対して、歌という形で試行錯誤してきた。だがその問いに対して、彼女の歌は確固とした結論を出ずに考えをあぐねている状況であった。
しかし本作では“Destroy and Rebuild”にて「分かり合うのが難しいなら尊重したい」と歌い、“黎明のワルツ”では人を愛することで、誰にもとらわれることなく自分自身を素直に伝えられたことを歌にする。愛をもって相手に接する、それが本作での大槻の回答である。そういう意味では時間とコミュニケーションの重要性を説いたミヒャエル・エンデの児童文学作品『モモ』をテーマにした“Momo”を1曲目に置いたことは大きな意味があるように感じる。
彼女は歌う。「あなたの未来はきっと素敵さ / 全部を愛して進めば愛の連鎖の中で笑う」と。その歌はまるでコミュニケーションに悩んでいた、過去の自分へ言っているかのように。ソングライターとして大槻美奈は成熟した。4thアルバム『LAND』はそれを証明するマスターピースである。
LAND
アーティスト:大槻美奈
仕様:CD ※ / デジタル
発売:2022年12月27日
価格:¥2,500(税込)
レーベル:veggie tempo
配信リンク:https://friendship.lnk.to/LAND
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収録曲
1.Momo
2.黎明のワルツ
3.New Muse
4.Destroy and Rebuild
5.猫町
6.風街
7.螺旋
大槻美奈
1995年12月29日生まれ。京都府舞鶴市出身。
京都を拠点に活動中。
2015年ライブ活動開始。 柔軟でダイナミックなピアノ、力強く伸びやかな歌声。
言葉に思いを乗せた叙情的な歌世界は聴くものを魅了する。
ミャンマー“スミレ日本語学校 校歌”を楽曲提供。
『MOOSIC LAB2018』では、川北ゆめき監督の映画『満月の夜には思い出して』で
全音楽を担当し、異例の「スペシャルメンション賞」を授与。
池袋〈シネマ・ロサ〉、京都〈出町座〉にて単独上映を成功に収める。
音楽で表現できることを日々増やしていけるよう幅広く活動中。
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WRITER
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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