ボロフェスタ2024 Day3(11/4) – 偶発的な衝撃を与え続ける、私たちの居場所
今年23年目を迎えた、京都のインディ・フェス『ボロフェスタ』が11月2日(土)〜4日(月・祝)の3日間に渡り〈KBSホール〉にて開催。2日には〈CLUB METRO〉にてナイトイベントも行われた。2014年から毎年ライブを追いかけてきたANTENNAでは今回も編集部あげて総力取材!ライター独自の目線で『ボロフェスタ』を綴っていく。本記事では最終日である4日(月・祝)の模様をハイライト。
パーティー・ナビゲーターである土龍が、ピンク色のつなぎで元気よく登場したかと思うと、突如の爆発音。スクリーンに映し出されたのは『ボロフェスタ2024』の、”4”の縦棒が爆破で壊れた画像。
このままではフェスが開催できない。そこで土龍はフロアに用意された台車に乗って、野球のスライディングのように、ステージの端に用意されていた巨大な黒い布に勢いよく滑り込んでいく。布には、ピンクの巨大な文字「ボロフェスタ2024(「4」の縦棒はない)」と書かれており、なんと自分自身が縦棒になることで数字を完成させる。
と、文字にするとかなり伝わりづらいオープニングからスタートした『ボロフェスタ2024』。23年目となるが、相変わらず丸くなることを知らないカオスなフェスだと感じる。
近年のストリーミングサービスは視聴傾向からパーソナライズをして、おすすめの作品・アーティストを紹介してくれる。たしかにそれで新しい出会いは増えるかもしれないが、同じような音楽と出会うことも多い。一方でこのフェスはそういう個々の趣向とは一切関係のないポップス、オルタナティブ、パンク、アイドル、さまざまなジャンルから、スタッフたちが思うカッコいいアーティストを提示していく。そこで感化された瞬間の爆発力は相当なものだ。
先日公開された土龍と、今年出演を果たす水平線、171(イナイチ)、ゴリラ祭ーズ、モラトリアムのフロントマンたちによる対談記事では、『ボロフェスタ』に衝撃をうけて感化されていった若者たちの体験談が語られているが、それこそこのフェスの狙いでもある。
今年もさまざまなジャンルのアーティストが出演した『ボロフェスタ2024』。その3日目の様子を語っていく。
期待の若手アーティストが集結した街の底(Jose、Nagakumo)
〈KBSホール〉の地下1階にある〈街の底ステージ〉。ここでは毎年地元のアンダーグラウンドシーンで活動するバンドや、若手アーティストが出演し、熱演を繰り広げる。今年は「路線を変更して〈nano〉でワンマンをソールドするイメージがつくかどうかで選んだ」と土龍がインタビューで語っていたこともあってか、注目度の高いミュージシャンたちが並んだ。
「〈街の底ステージ〉は地元のカッコいいバンドに出てほしい」と土龍から紹介を受けて、トップバッターに出演したのは京都の4人組ロックバンド、Jose(ホセ)。“落葉樹の夢”から〈街の底〉を揺らすような轟音とささくれたギターリフが会場を支配する。しかしながらアヤト(Vo / Gt)によるすごみのある歌声は繊細でありながら力強く、どれだけサウンドが大きく鳴っていても会場の隅々まで届く。
“ハプワース”、“blue”など熱量高く推進力のあるナンバーをたたみかけ、“こころ”の冒頭ではしっとりとした歌も披露。彼らの歌に感化されたのか、拳を振り上げて幾度となく歓声を上げる観客も散見された。「今日は本当に最高でした。しかしこの出来事を思い出にする気はないし、これからどんどん上がっていきたいと思う」そうアヤトがフロアに語り掛けて、披露したラストナンバーは“シンキロウ”。気高くもあり、力強く突き進むJoseのサウンドは圧巻であった。
〈街の底〉の空気を清々しくさせたのは大阪出身の4人組バンド、Nagakumo。と、「4人」と書いたものの、今回はオオムラテッペイ(Ba)が欠席し、急遽3人での出演となった。
まずはコモノサヤ(Vo / Gt)が一人でステージに立ち“ボール”を披露。さわやかなアコースティックギターの音色と優しくもおおらかに包み込むようなボーカルが〈街の底〉を浄化させていく。続いて、オオニシレイジ(Gt)が登場し、ボサノバテイストな“思いがけず雨”、“6月は愛について”の2曲を演奏。普段からソロ・デュオでの活動も行っていることもあってか、その対応力が光る息の合った演奏をみせてくれた。
自分たちの音楽ジャンルを「ネオネオアコ」と自称するNagakumo。アコースティックな編成で披露される音楽はメロウで洒落ている。しかしバンドとしての彼らの持ち味は重厚感のあるオルタナティブなサウンド。ホウダソウ(Dr)を加え、オオニシがベースへとパートチェンジし、3人編成で“CITY GIRL”を披露。そのサウンドは確実にロックバンドとしての片鱗が垣間見えた瞬間であった。
Jose、Nagakumoそれぞれジャンルは違えど〈街の底〉をそれぞれの形で掌握していた。その姿を観ていると、改めて現在の関西音楽シーンの充実っぷりを肌身をもって体感した。
さまざまな歌を聴かせてくれたシンガーソングライターたち(佐野千明、柴田聡子)
今年の『ボロフェスタ』では弾き語りで豊かな歌を披露するシンガーソングライターも数多く出演した。〈KBSホール〉の野外にある飲食店スペースで演奏をしていたのは京都在住のシンガー・佐野千明だ。“橋の途中”ではアコースティックなギターサウンドと、サポート・rengeの鍵盤ハーモニカの音色が秋晴れの青空に染みゆく。
その後も“夏の影”、“サンダル”といった楽曲を披露。佐野の魅力は周りの音と溶け込む「淡さ」である。彼女のサウンド・歌声は優しく柔らかで、くっきりとした色合いを持たないパステルカラーのような音楽だ。だからこそ野外の喧騒に打ち勝つのではなく、一緒に調和しながら音楽を作り出してゆく。“星のイレズミ”でリバーブをかけて周りの騒音と混ざりながら音楽を奏でる姿は、その意志を感じた。
今年2月にアルバム『Your Favorite Things』をリリースした柴田聡子が『ボロフェスタ』に5年ぶりの帰還。バンド編成ではなく弾き語りでの出演ではあったが、その紡ぐ音の1つ1つが会場を心地よく緩やかに揺らしていく姿は印象的であった。
まずはピアノの弾き語りで“Your Favorite Things”“Movie Light”など同アルバムの楽曲をつぎつぎと披露していく。ライブを観ながら、改めて彼女の作るグルーヴには舌を巻いた。彼女の音楽は楽曲自体はシンプルであり、フレーズに関してもオーセンテックなものである。しかしながら歌う際に言葉のイントネーションを巧みに操り歌うことで、思わず身体を動かしたくなるようなサウンドを作り出す。『Your Favorite Things』をリリースした際のインタビューで、柴田はDestiny’s ChildやTLCを音楽への目覚めとして語っていた。いわば生粋のR&Bリスナーであった彼女がそのルーツを色濃く出した楽曲が演奏されたこともあって、ムーディーで優雅な時間がフロアを浸食していく。ほぼMCなく楽曲を披露し、会場を後にした柴田聡子。なんとも気持ちのいい空気が、〈KBSホール〉を包んだ。
パンク・オルタナティブは「平等で自由な遊び場」だと語りかける(Limited Express (has gone?)、KING BROTHERS)
サウンドチェックからフロアで暴れまわり、フロアを沸かせていたのはLimited Express (has gone?)。ライブが始まってからも、ホールに設置された龍のオブジェがあるやぐらの頂上まで登ったYUKARI(Vo)が「We are Limited Express (has gone?)」と叫び、“No more ステートメント”、“ギャーギャー騒げ”を立て続けに披露。フロア全体を自由に走り回りながら歌う姿に応えるかのように、フロアでも観客が騒ぎだしてお祭り状態へと化する。
ライブ終盤、「ここが『ボロフェスタ』!」と叫び“Live or die, make your choice”が演奏されると、フロアに脚立が出現。YUKARIがよじ登り、ラストナンバー“INVITATION”がはじまった。脚立の前で各々の好きなように音楽を楽しむ観客たちの姿を観ると、ライブは年齢、性別、国籍など一切関係なしで楽しめる平等で自由な遊び場だと私たちに思い起こさせてくれる。MCでYUKARIは「音楽を楽しめるのは平和であるから」「誰も殺すな、殺されるな」と語っていた。その強い願いが、Limited Express (has gone?)の持つ自由に遊ぶスタイルに直結しているように思えた。
自由に遊ぶ、そういう意味では〈GREEN SIDE STAGE〉のトリを飾った西宮の狂犬KING BROTHERSも忘れられない。“ルル”からスタートし、マーヤ(Gt / Scream)が「スピーカーの上に乗ってはダメ、あっちのステージ(〈ORANGE SIDE STAGE〉)に乗ってもダメ。でも人の上に乗るのはいい!」と言い、観客へダイブ。捨て身の行動に観客も大盛り上がりだ。その後、観客を乗り継ぎながらフロアを移動。別ステージで次のアーティストを待機していたであろう観客にも「こんにちはー!!」と頭上から挨拶をかます。もう十数年近くKING BROTHERSを観ているが、彼らはいつも我が身を顧みずコミュニケーションを図り、気づけば会場全体を自分たちのホームへと変えてしまう。
その後も“XXXXX”、“Kill your idol”などを披露。もはやこの場を自分たちのホームに仕上げた状況で“マッハクラブ”を投下。そして曲の途中では、ドラムセット、アンプをステージから下ろして、急遽フロアライブを敢行し、己のスタイルをぶちかます。さらにマーヤは「ロックンロールを未来に届けろ! 受け渡せ!」と叫びながら、観客の頭上を遊泳。もはや独壇場ともいえるようなアクトで爪痕を残したKING BROTHERS。ライブ後も会場からはしばらく観客の騒めきが止まらなかった。
メジャーの最前線で活動するアーティストが集結(梅田サイファー、でんぱ組.inc)
「僕らはサウンドチェックしていますが、皆さんは盛り上がるチェックをしてください」とリハーサルから観客をアジテイトしたのは梅田サイファーの面々。MC含め11人編成で2年連続での『ボロフェスタ』への出演となった彼らだが、本番前にもかかわらず今年も見事なマイクリレーで会場を沸かす。本編ではテークエム・KOPERU・KennyDoesで“韋駄天S**t”を披露し、三者三様の高速ラップで観客のボルテージを上げる。次の“スイッチ”ではメンバーが集合し、巧みなライムと心地の良いフロウでバイブスは頂点へ。
ライブ中盤、KennyDoesの「この場所をホームの梅田に変えてもいいですか」のMCから“梅田ナイトフィーバー’19”がスタート。きらきらと光るミラーボールのなか、心躍るディスコサウンズとラッパーたちのパフォーマンスで『ボロフェスタ』を盛り上げていく。さらに“Rodeo13”ではKOPERUがステージから降りてフロアでラップする。盛り上がる観客を見ていると、もはやここは〈KBSホール〉ではなく、彼らのホームグラウンド〈梅田NOON+CAFE〉ではないかと錯覚してしまうくらいだ。
実力を見せつけるパフォーマンスを披露した梅田サイファー。出番前がLimited Express (has gone?)のフロアライブだったこともあってか「来年は13人、バラバラのところでやりましょう」と語っていた。現にR-指定などを含めたフルメンバーでの出演はまだない。それが叶った瞬間、どのような光景が見られるのか。いまから楽しみで仕方がない。
(Photo:渡部 翼)
今年も『ボロフェスタ』では梅田サイファーを含め、メジャーの最前線で活動するアーティストたちも多く出演した。なかでも注目すべきは、2025年のラストライブをもって活動終了を発表したでんぱ組.incであろう。
ライブ直前にフロアに龍が舞い降りて会場を舞い踊り、くす玉を引くと登場したのは「次はでんぱ組.inc」の文字。ステージ上ではメンバーがそろい1曲目に披露したのは“ギラメタスでんぱスターズ”。以降、“商売繁盛!元祖電波屋!”などの勢いのあるでんぱソングで会場を沸かせる。
小鳩りあは「でんぱ組.incの最後の『ボロフェスタ』、刮目せよ!」とMCで観客に伝えていた。そもそも最初に出演したのは2012年のこと。以降、このフェスで何度も素晴らしいライブを披露してくれた彼女たち。もちろんこの12年あまりで、メンバーが変わり、それぞれのライフステージも変わった。ただステージ上で踊り歌う姿はいつまでたっても色褪せてはいない。
ライブ後半戦では“バリ3共和国”“Future Diver”とたたみかけ、ラストは代表曲“でんでんぱっしょん”。白い衣装とカラフルなリボンがステージ上で舞う中で、フロアではスタッフが一丸となり先ほどの龍の置物を動かし、彼女たちのステージを盛り上げる。お祭り騒ぎの『ボロフェスタ』最終公演となった。
(Photo:渡部 翼)
「思うがまま」を突き進む、ボロフェスタ第一章(PEDRO)
でんぱ組.incの『ボロフェスタ』は終わりを迎えたが、再び始まりを迎えたアーティストもいる。過去に何度も感動的なステージを披露したBiSHのメンバー、アユニ・DのソロプロジェクトPEDROのことだ。
昨年、活動を終了したBiSH。そのメンバーである彼女が2年ぶりにホームであるこの〈KBSホール〉に帰還。ステージにはアユニ・D(Vo / Ba)、そしてサポートとしてヒトリエのゆーまお(Dr)と田渕ひさ子(Gt)の3人がそろう。「はじめましてPEDROです」その言葉で、彼女の『ボロフェスタ』第一章が幕を開ける。1曲目に演奏された“人”では晴れ晴れとしたサウンドと明るい歌声がホール内を包み込み、続く“祝祭”では瑞々しく疾走感のあるロックサウンドで観客を揺さぶる。
ライブ中盤、MCでアユニ・D は「『ボロフェスタ』に出たのは8年前。右も左もわからず音楽をやっていたけど、このフェスでライブをして“音楽は思うがままでやっていいのだ”と思った」と語っていた。そしてその精神はPEDROに引き継がれているようにも感じる。初々しくも奇をてらうことなく実直に歌う姿勢。音に身をゆだねるかのようにベースを弾く姿。そのスタイルは音楽が好きで好きでたまらないという自分自身の「思うがまま」を体現しているように感じる。
加えてこの「思うがまま」を実現する、田渕ひさ子の分厚くも丁寧な音作りと、ゆーまおの力強くも手数の多いドラムには驚かされる。逆から言えば、この二人でないとアユニ・Dというミュージシャンを支えられないのではと思う次第だ。ライブで終盤は“魔法”“春夏秋冬”といった重厚感のあるナンバーも披露し、本編ラストは“アンチ生活”。3拍子で奏でられる力強くも推進力のあるサウンドは会場からいくつもの拳を上げさせた。
終了後、止まない拍手とアンコールの声援に応えて再度ステージに登場。演奏されたナンバーは“雪の街”。フィードバックノイズが生み出す甘美なサイケデリアのなかで全身全霊を込めたアユニ・Dの歌は、私たちに音楽を思うがまま楽しむことを教えてくれた。ステンドグラスが照らし出すなかで終わった彼女の新たな第一章。幕開けにしては十分すぎるライブであった。
ボロフェスタはいつでも帰れる、私たちの居場所
シンガーソングライター、アイドル、パンク、HIP-HOP、オルタナティブ、ポップ……。さまざまなジャンルが入り混じり形成されてきた『ボロフェスタ』。そういう普段触れてこないジャンルの音楽から受ける偶発的な衝撃がこのフェスの持ち味であり、その重要性みたいなことは冒頭、さらには過去5年間のレポートで何度も言及してきた。しかしそのカオスさも場所がなければ成立はしない。
フェスというのは正直いつなくなってもおかしくない。先日も福岡で30年以上もの間、愛され続けられていた『Sunset Live』が最後を迎えたのは記憶に新しいところ。いくら愛されていても、簡単に終わってしまうこともある。そういう意味では地域に密着しながら、DIYでカオスを生み出しつつ23年続けられていることはもはや奇跡以外の何物でもない。そしてその裏には飯田仁一郎、土龍などの主催陣の努力、そしてそれに共感をし、一緒に楽しもうとするスタッフがいるからこそ成立する。
では主催者たちは何を思い『ボロフェスタ』を続けるのか。思い出すのは土龍のこんな言葉だ。
スタッフ、お客さん、ミュージシャン、それぞれの中の『ボロフェスタ』というのがあり、それをなくすのは無責任すぎる。〈livehouse nano〉に出演する若いミュージシャンたちから「『ボロフェスタ』に出演することを目標にしている」という声をよく聞くし、全国のお客さんから「今年もやるんですね!」「去年行ってめっちゃ楽しかったです!」「今年も行きたいと思います!」という声も聞く。そういう人々の感情に向き合うと、その想いは無下にはできないですね。
観客や出演者からの『ボロフェスタ』に対しての思い。それがあるからこそ、このフェスは23年間、続けられているように思える。そして思いを抱きながらも、さまざまな事情でこの場所を去らなくなった人々に対して、いつでも戻ってこれるよう居場所を守り続けているのではないだろうか。エンドロールに書かれていた「いつかボロフェスタに戻ってきてください」という言葉には、その強い意志を感じた。
私たちがいつでも帰れる居場所、それを守り続けるために『ボロフェスタ』はこれからも歩み続けるに違いない。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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