ペペッターズは神戸出身のバンドであり、2011年より活動をスタート。2015年には日本最大のチャリティーロックフェス『COMIN’KOBE』の公開ライヴ・オーディションにてグランプリ、同年の『RO69JACK 2015』でも入賞。また2018年にはチャットモンチーのトリビュートアルバムへの参加オーディションで最優秀賞を受賞し、カヴァーした楽曲“こころとあたま”が『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』に収録されたのは記憶に新しいところ。そんな彼らの初フル・アルバム『materia=material』は日本のポストロックを語る上で、大変面白い作品である。
日本のポストロックはエモやマスロックと密接的な関係があり、例えばデビュー当初のZAZENBOYS、LITEなどに代表される、エモーショナルなサウンド、多彩な変拍子、鋭角的なギター・リフは日本流のポストロックの特徴だといえる。しかし個人的な史観として、2008年のZAZEN BOYS『ZAZEN BOYS4』は変則的なリズムやリフの鋭角さはそのままにしながら、エモーショナルを排し、エレクトロニックとフュージョンをミクスチャーしたサウンドで、日本のポストロックの流れを変えたように感じる。そして、それに呼応するかの如く、東京事変の浮雲こと長岡亮介はペトロ―ルズで、ZAZEN BOYSの流れを汲みつつも音数を少なくし、R&Bを強めたサウンドを展開した。そしてZAZEN BOYS~ペトロ―ルズのフュージョンとミクスチャーした新しいタイプのポストロック、いわゆる「フュージョン的ポストロック」と言うべき音楽の最先端にいるバンドこそ、ペペッターズである。
『materia=material』の肝となる部分はビートとコーラス・ワークである。例えばビート。彼らの楽曲は一聴するとフュージョンらしい、スムーズな音運びと洒落たサウンドであり、それこそ2000年代のポストロックのような明らかな変拍子、ポリリズムなどは使用していない。しかし例えば“飛ぶ”を例にすると、サビで4ビートと2ビートが交差させていたり、“語弊願望”冒頭でのドラムの間の取り方や各楽曲のプログレ的な展開の多さなど、至る所にポストロック的なエッセンスが散りばめられている。つまり彼らのサウンドはZAZENBOYS、ペトロ―ルズの「フュージョン的ポストロック」をやっているのだが、彼らの面白さは「コーラス」でこの音楽を更新しようとしているところだ。
彼らが初期からやっているナンバーに“アザラシ”という楽曲がある。この曲は現在でもYouTubeで聴けるのだが、『materia=material』ではこの曲を再録している。そして再録されたバージョンを聴くと、3ピースとしては異常なくらいに様々な音が飛び交っていることがわかる。
そしてその音数が増えた原因を探求すると、コーラスがボーカルと合わせるだけでなく、音の一部として楽器のように扱われているということに気がつく。そしてこの曲だけでなくアルバム全体を通しても、コーラスが四方八方から聴かせる作りになっている。このため、フュージョンの持つ滑らかなサウンドでありながら、自由に飛び交うコーラスがフックとなり、立体的な音響的空間を作りだしているのだ。
ちなみに彼らの影響を受けたバンドの一つはペトロ―ルズであり、確かにサウンドだけみればペトロールズの轍を歩んでいるように感じられる。しかしコーラスを楽器のようにした音作りは、フュージョン的ポストロックをタイトに作ろうとしてきたペトロ―ルズとは、別の方向へ舵を取ったともいえ、それこそがペペッターズのオリジナリティだと結論付けられる。そう考えた時に『materia=material』はフュージョン的ポストロックのネクスト・ステージと言うべき作品ではないだろうか。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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