INTERVIEW

your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マルビル店邦楽バイヤー浦野光広インタビュー

MUSIC PR 2019.05.12 Written By マーガレット 安井

今でも週に一度はCDショップに立ち寄っている。もちろんApple MusicやSpotifyといったサブスクリプション・サービスも使っているが、その中で気に入った音楽があればCDショップに立ち寄って音楽を買うし、店員さんの熱がこもったポップを見ると、お目当ての音楽じゃなくても、つい手が伸びて購入してしまう。おかげでわが家には棚に収納できないCDがテーブルの上にうずたかく積んでる状況だ。そんな私が最近注目しているCDコーナーがある。タワーレコード梅田大阪マルビル店のyour chioceコーナーだ。

タワーレコード梅田大阪マルビル店の一角にあるこのコーナーはインディーズ・バンドの未流通音源を集めており、同店の邦楽バイヤーである浦野光広氏が一人で手掛けている。私が初めてこのコーナーを見た時、大阪の店舗ということで「関西圏内バンドだらけではないか」と思ったが、アンテナでも取り上げたYMBダイバーキリンだけでなく東京、岡山や広島といった日本各地のバンドを取扱い、音楽の種類もポップ・パンクからメロディック・ ハードコア、ポップスと様々。雑多でありながら、まだ名の知れていない様々なインデーズ・バンドと出会えるこのコーナーは新しい発見と面白さに満ち溢れている。そこで今回はyour choiceコーナー立ち上げた浦野光広氏にこのコーナーの設立意図や今後の展望と課題について語っていただきました。このコーナーに行けば、新しいインディーズバンドとの出会いがきっとあるはず。

置きたいバンドが多すぎるくらいで、全く悩みはないですね。毎日楽しくて仕方がない

──

梅田大阪マルビル店のyour choiceコーナーを設立したきっかけについて教えてください。

浦野

もそも僕がタワーレコードに入社したのは、関東だけでなく、関西のインディーズ・シーンを今以上に盛り上げたかったからで。ただ入社当初は品出しをして、レジに入って、どのCDが売れたかチェックをする。そんな作業で忙しく毎日が終わってしまいました。でも少しずつですがCDショップのノウハウや、効率のいい仕事方法を見つけていって。それで仕事にも少し余裕も出てきた時に、Easycomeという大阪のバンドを、ネット販売を主にしているHOLIDAY! RECORDSのツイートで知ったんです。

そのツイートにあった音源を聴いて「めちゃくちゃいい」と思って、1stミニ・アルバムの『風の便りをおしえて』を買いました。その後、調べてみたらタワーレコード新宿店ではEasycomeがすでに販売されていて「あれ?大阪のバンドなのに、何で新宿店にあって大阪の店舗は扱っていないんだろ?」と疑問に思ったんです。それでEasycomeに直接メールして『風の便りをおしえて』を梅田大阪マルビル店でも取扱い始めました。その時に「一部のインディーズや未流通作品だと、業者を通さず自分の手でCDを置くことができるんだ」とすごく勉強になりました。それで「今ならやりたかった地方の未流通のインディーズ作品を中心としたコーナーを立ち上げることが出来るのでは」と思ったんです。それがyour choiceコーナーを始めたきっかけです。

──

your choiceコーナーに置いているCDの基準はあるのですか?

浦野

特に基準は設けていなくて、ジャンルもリリース時期も括りなく置かせてもらってます。ライヴを観たり、実際に店舗に音源を持ってきていただいたり、SNSで音源をチェックしたり、バンドマンからオススメしてもらったり。自分が「良いな」と思ったバンドを置いています。

──

日々、バンドをチェックするのは大変じゃないですか。

浦野

いや、毎日楽しくて仕方がないですね。全く悩みはないです。しいて言えば、置きたいバンドが多すぎるくらい。少しずつですが、お客さんがコーナーに立ち止まって音源を聴いて、それが売れたりするので、やり甲斐しかないです。

──

しかし、網羅する範囲が広いですね。関西のみならず、岡山だったり、広島だったり。

浦野

コーナー始めたころ、広島のヘッジホッグというガールズバンドをPUSHしたんです。そしたらライヴハウスの人に「なんでこんなバンド知っているの?」と聴かれてから、ライヴハウスの人やレーベルの人たちとも繋がるようになり、いろいろ地方のバンドを教えてもらえるようになりました。

──

your choiceコーナーもスペースに限りがあるので、設置できるバンドが限られてくるとは思うのですが、そこにサジェスチョンはないですか?

浦野

本当に自分の「良い」という感覚で置いてます。場所が限られているので、ずっと試聴機に入ってる状況を作るのは難しいですが、長く置きたい気持ちに変わりはありません。

──

従業員が主体的に作っているコーナーを持ったタワーレコードの店舗は他にあるのでしょうか?

浦野

基本的に、タワーレコードは「売れるものを自分たちで作る」というポリシーがあるんで、各店舗いろんな工夫や提案をしてるんです。例えば名古屋の大高店はすごくって。大型店舗ではなくイオンモールの一角にあるお店なんですが、東海地区のインディーズ・バンドを沢山ピックアップしていて面白いです。渋谷・名古屋パルコ・梅田NU茶屋町店には「タワクル」というコーナーがあって、店舗限定アイテムやまだ知られてないアーティストの音源をチェックすることが出来ます。

昔から「自分が好きだと思う音楽を共有したい」という気持ちがあったんだと思うんです

──

『AGAINST 90年代パンク/ミクスチャー共闘篇』という本で自身の音楽遍歴を語ったコラムを書いていますね。この本の中で自分が音楽好きになった経緯として「中学時代に地元の先輩からPENNYWISEを聴かされ、それに衝撃を受けた」と書かれていましたね。

浦野

当時、流行っていたのは小室哲哉さんの音楽だったのですが、自分には刺激が足りてなかったんです。バンドでも、スピッツやMr.Childrenとかは聴いていたのですが、ロックとは当時は思っていなかったです。いや、そもそも「“ロック”というカテゴリーが自分の中では無かった」というのが正しいかもしれません。でも地元の先輩からPENNYWISEを聴かされたとき「ロックとはこれか」ということが直感的に分かって、その後に先輩からRANCIDとかGreen Dayの音源を借りて、「ロックって面白い」というのを学びました。

それである日、先輩が「日本人でカッコいいバンドがいる」と教えてくれたのがHi-STANDARDだったんです。とにかくメロディーがキャッチで覚えやすく、日本人の英詞の音楽でここまで聴きやすい歌は他になくて。そこから日本のインディーズ・バンドを聴き始めましたね。ハイスタとかAIR JAM周辺のCDブックレットは後ろにスペシャルサンクスがあって。そこに書かれてあるレーベルとか、バンドとかを調べてCD屋に行ってお目当ての音楽を探して、それでその音楽が良かったらまたブックレットを見て、という流れでドンドン深堀りしていきました。

──

その後、心斎橋のアメリカ村に入り浸るんですよね。

浦野

そうです。90年代の当時は暇さえあったら行ってましたね。その頃のアメ村はずっと音楽が鳴っているんですよ。夕方からライヴハウスで誰かしらのライヴを見て、深夜から朝までロック・イベントで遊ぶ。本当に活気しかないような場所でした。だからアメ村に行くと年齢関係なく、音楽好きな知り合いとかも勝手に増えるんですよね。

──

そんな音楽好きがこうじて、今のタワーレコードに入社されたと。

浦野

それまでDJイベントとかライヴ・イベントをやっていたんですけど、仕事としては工場で働いていて。給料が良かったんで、お金貰ってはCDを買うことに費やしていたんです。でも、それがいまいち面白くなくて「何か本気になれることをやりたい」と思っていて。それで転職を考えた時に「自分がCD買ったところってどんな仕事しているのだろう?」と興味があったんです。その時にタワーレコード心斎橋店の求人を見て「働きたいな」と思って受けたんです。でもそこで見事に落とされて(笑)。

──

あら(笑)。

浦野

それで次に梅田マルビルのタワーレコードも受けましたが、落とされて。今度は「ちょっと離れたら受かるかな」と思って受けた北花田のタワーレコードもダメでした。でも逆に諦めるのではなく「絶対受かってやる」という気持ちになってNU茶屋町店のオープニングスタッフ募集があってそれで応募して、ようやく受かったんです。

──

それだけ何度落とされても「タワーレコードに入りたかった」という根源って何ですか。

浦野

たぶん昔から「自分が好きだと思う音楽を共有したい」という気持ちがあったと思います。子供の頃にレンタルCD屋へ親と一緒に行って、レンタルしたCDで好きな曲をテープに録音して母親に渡してたんですよ。それが大人になって、20歳ぐらいの頃はDJイベントとかやっていた時には、レコードをカセットテープに録音して「きょうはこれをDJプレイでかけるで」と言ってみんなに配ったりしたんです。そういうところがもしかしたら、根源にあったのかなと思います。

このコーナーを初めて「(タワーレコードでも)自分が好きなことをやれる!」「まだまだ面白いことが出来きそう」と感じることが多くなってきた

──

気になる同業者やお店ってありますか。

浦野

売り手として共感できるのはFLAKE RECORDS和田貴博さんと、HOLIDAY! RECORDSの植野秀章さんですね。和田さんはSYFT RECORDSで店員として働いていた頃から、存在は知っていて。自分が20歳前後の頃には、よく洋楽のレコードを買っていました。今も変わらずレコード店をしながら、海外バンドのツアー組んだり、自社レーベルからリリースしているところに憧れています。HOLIDAY! RECORDSの植野さんは歳も近いし、紹介しているインディーズバンドはセンスが良くて好きだし、尊敬しています。

──

和田さんや植野さんのやり方を見て、your choiceコーナーに活かしている部分はありますか?

浦野

和田さんはよく「聴く人の耳を育てなあかん」と言っていて、僕もそれはすごく正しいなと思うんです。聴くための耳がないと、サブスクリプションみたいな便利なものがあっても、そこから広がらないじゃないですか。だから好きな音楽だけで止まってしまう、というのは避けたいなと思っていて。your choiceコーナーに置き換えると、試聴機は同じ感じの音楽を並べるのではなく、なるべく真逆の音楽を並べて、色んな音楽に出会ってもらえるような体験を意識しています。

植野さんはTwitterの告知の仕方とか、情報の出し方や言葉選びにセンスがありますね。ツイートの中にYoutubeリンクとワンクリックでその紹介したい音が聞けるのは音楽を探している人にとって優しい。

──

3者とも違う場面で活躍されているじゃないですか。浦野さんはタワーレコード、植野さんはライヴハウス、和田さんはレコード屋や海外バンドやレーベル運営だったり。

浦野

でもやっぱり同じ業種で働く人のことは気になります。僕はタワーレコードに守られていますが、2人とも個人店じゃないですか。普通なら「ぬくぬくやりやがって」と思われても仕方がないのに、そういうのを全く見せず、大変なこととか、何が売れてるという話もします。それにこの2人は次はどんな面白いことをするのか楽しみで、常に気にかかる存在です。

──

個人でお店をやろうとは思わないんですか?

浦野

それも思いましたが、自分はタワーレコードで出来ることがまだ大きいと思っています。“タワーレコード”というネームバリューがありますし、お店にいることでアーティストさんたちとの足掛かりもできやすい。それにこのコーナーを初めて「自分が好きなことをやれる!」「まだまだ面白いことが出来きそう」と感じることも多くって。今までなら知識も余裕もなく疑問や不満に思っていたことも、この2、3年でシンプルに「やりたいことがあるから」と出来るようになってきました。

──

最後にyour choiceコーナーの今後の展望とかありますか。

浦野

拡大したい気持ちはあるのですが、もっとこのコーナーが定着するように地道にやりたいと思っています。あとは店内でのインストアライヴやライヴハウスのイベント、取り扱わせてもらっているアーティストメインの企画も定期的にやりたいですね。your choiceコーナーは音源を知ってもらうだけで終わりではなく、最終的にライヴハウスへ行ってもらうことが1つのゴールだと思っています。ライヴを観てもらって、色々感じてほしいし、その時に「店でCDを買ってよかったな」と思ってくれたら最高です。

住所

大阪府大阪市東区梅田1‐9‐20 大阪マルビルB1F

営業時間

11時~23時

TEL

06‐6342-4551

Twitter

https://twitter.com/TOWER_Marubiru

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