集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』ライヴレポート
過去と未来が交錯したナードマグネット
KANA-BOON終了後、本日の司会FM802の樋口大喜、高樹リサの両名が登場「次のバンドの呼び込みは、彼らのライヴでよくいう言葉を、会場の皆さまと本日の出演者で言って送り出しましょう」と言い、ULTRA STAGE舞台上には本日出演者が一堂に会す。そして19時5分、出演者と会場の観客が今日のヘッドライナーの名台詞が野音に響く。
「ナードマグネットだ、この野郎!!」
ナードマグネット(Photo:石崎祥子)
本日の主催であり主役、ナードマグネットが登場。映画『ネバーエンディングストーリー』のテーマで颯爽と須田亮太(Vo / Gt)、藤井亮輔(Gt / Cho)、秀村拓哉(Dr)、前川知子(Ba / Cho)の4人が舞台に出てくると、会場からは「待ってました」と言わんばかりの大きな拍手が巻き起こる。「パワーポップ代表ナードマグネットだ、この野郎!!」と須田が叫び“アップサイドダウン”から楽曲がスタート。ハード・ロックを思わせるファズを利かせたギター・リフと心地のいいメロディー・ラインが会場を支配する。
2曲目は今回このフェスにどうしても呼びたかったが、諸事情のために呼べなかったオーストラリアのソウルメイト、The Wellingtonsに捧げるナンバー“Song For Zac & Kate”を披露。その後、“家出少女と屋上“披露し、藤井がダブルネック・ギターに持ち替え、“透明になろう”を披露。ところが曲冒頭でメンバーがまさかの演奏を間違え、やり直し。須田が「13年やってるのに」と笑顔で言い、ファニーな空気が流れ込む。
秀村拓哉(Photo:石崎祥子)
前川知子(Photo:石崎祥子)
そしてライヴはスペシャルゲストを迎えてのセッションに突入。最初のゲストはフレンズから三浦太郎が登場。一緒のステージで披露するのは大阪では初となる共作“MISS YOU”を演奏。「ナードマグネット最高!」と三浦太郎が後にし、続いてのゲストはTransit My Youthから鎌野ゆうとナカヤマポンタの女性2人が登場。披露されたのはBLACK KIDSのカヴァー“I’m Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You”。鎌野とナカヤマの可愛らしいコーラスとオルタナティブロック風味にバンドアレンジされた楽曲が会場を沸かした。
藤井亮輔(Photo:石崎祥子)
MCでは須田が若いバンドマンが「もっと上に行きたい」という言葉に腹が立っていると語る。
「ライヴは踏み台やない。僕らは10年以上前に扇町パラダイスというライヴハウスを主軸に活動してきて、ASAYAKE 01やTHE YANGはそこで出会った。ここまで来るまで単純な道じゃなかったけど、KANA−BOONとも再開できたし、これからも道を進み続ける。」
経験は無駄ではなく宝物。それを会場の観客に伝えたあとで“THE GREAT ESCAPE“を演奏。そして「もう二度と出会えなくなった僕の友達へ捧げる」といい、本編最後に流されたナンバーは“HANNAH / You Are My Sunshine”。会場から万雷の拍手とともにナードマグネットはステージを後にした。
ナードマグネット(Photo:石崎祥子)
ステージからメンバーがいなくなっても鳴り止まない拍手に答え再度、ナードマグネットが登場。「売れないジャンルをずっと続けられたのは、皆さまのお陰です」と、会場の観客にお礼を伝え「この状況で歌いたかった」と須田が一言漏らしたあとで歌ったのは、彼らのアンセム“Mixtape“。曲が始まると、会場では彼にあわせて集まったオーディエンスが“やあ. さよならなんて信じらんないね“と歌い、最後には“We are infinite!“と拳を振り上げ叫ぶ。これまで私は何度もこの曲をライヴで見てきたし、いくつかのライヴではシンガロングが起こらないこともあった。そういう過去を知ってるがゆえに、今日の“Mixtape“を会場全体が歌う光景は美しく感動的で、自然に涙が頬を伝った。
“Mixtape”が終わり須田亮太が残りの力を振り絞り、声を張り上げ「僕的には(今回のイベント)は大成功だが、トータルでみたらまだまだ失敗の方が上!!」と言い、鳴らされたラストナンバーは“僕たちの失敗”。会場は観客のモッシュとクラウドサーフの嵐が巻き起こり、熱狂のままライヴは終了した。
須田亮太(Photo:石崎祥子)
1つの終着点、1つの出発点
私たちが始まりと呼ぶものは、しばしば終わりであり、終えるということは始めるということ。結末は我々の出発点なのだ。(T.S.エリオット『四つの四重奏』より)
ライヴの全てが終わり、イベントスタッフが会場の片づけを行っている姿を観ながら、僕はアメリカの詩人T.S.エリオットの一節を思い出していた。今回のイベントは彼らの過去を総括するという意味では集大成であり、終着点でもあった。しかし“MISS YOU”以外、ライヴ本編で歌われたナンバーは最新アルバム『透明になったあなたへ』の楽曲群であった。そしてそのどれもがナードマグネットの代名詞であるパワーポップで歌われる情けない恋愛ソングでなく、ポップ・パンク、グランジ、ハード・ロックといったジャンルへ接続し、同調圧力、LGBT、抑圧からの逃避といった、いまこの世界で問題になっているテーマを軸にしている。
それを集大成の場である『ULTRA SOULMATE 2019』で披露した。そしてライヴ終盤での「失敗の方が上」と言った須田の叫び。そこから考えると、このフェスはナードマグネットをいま以上に飛躍させるための出発点としてもあったと感じる。この時のライヴを見た私、ならびに観客誰しもが、いつか彼らはとんでもない大きなバンドに成長して、大阪城野音よりも大きなステージで歌うと思ったに違いない。
もちろん、そこに至るまでは今まで以上に蕀の道かもしれないし、回り道を強いられる可能性もある。しかし心の通ったソウルメイトがいる彼らなら、どんな困難も必ず乗り越えて、次なるステージで私たちを待ってくれるはずだ。そういう希望にも似た確信が『ULTRA SOULMATE 2019』のナードマグネットにはあった。結末は我々の出発点。ナードマグネットは新たなるスタートラインから一歩を踏み出そうとしている。
ナードマグネット(Photo:石崎祥子)
ライヴ情報
ナードマグネット『透明になったあなたへ』リリース記念 だいそうさくツアー ファイナル
日時:2019年11月3日(日) OPEN 17:00 / START 18:00
場所:心斎橋BIGCAT
出演:ナードマグネット(ワンマン)
料金:前売 3,000円(+1ドリンク代別途)
チケット:一般発売中
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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