INTERVIEW

僕の音楽から誰かのための音楽へ – YMBが語る最新作『Tender』とバンドとしての成長

YMBが6月29日に4thアルバム『Tender』をリリースした。本作ではレイドバックされたビートが心地のよい“rain”や、ラップを駆使する“SHOCK!!!”や“fall”など、3rdアルバム『トンネルの向こう』(2021年)で見せたソウル、ブルース、ヒップホップの要素を先鋭化。さらに“joke”ではプロデューサーに久米雄介(Special Favorite Music)を迎え、変化も求めた作品に仕上がっている。今回、ANTENNAはYMBの現在地についてソングライターの宮本佳直(Gt / Vo)といとっち(Ba)の2人に話を伺った。

MUSIC 2022.07.04 Written By マーガレット 安井

大阪を中心に活動している4人組バンド・YMB。彼らを初めてANTENNAでインタビューしたのは2019年のことだ。まだ宮本佳直といとっちの2人で活動しており、宮本の楽曲作りへの異常な執着や1stアルバム『CITY』は自分のメランコリックな心の内を具現化したことについて語ってくれていた。

 

以降、YMBは作品ごとに変化してきた。2ndアルバム『ラララ』(2020年)ではメンバーとしてヤマグチヒロキ(Dr)、今井涼平(Gt)が加入し、宮本といとっちが結婚。そのようなポジティブな出来事も反映され、J-POP、シティ・ポップ、インディ・ポップを経由した、ファニーなギターロックとして仕上がっている。反面、3作目の『トンネルの向こう』はソウルやヒップホップに傾倒し、コロナ禍における宮本自身の悩みや葛藤、そして同じく苦しんでいる「誰か」のためにメッセージを届ける作品となった。そして4thアルバム『Tender』はさらにソウルやヒップホップのエッセンスをつぎ込んで、コロナ禍が当たり前になった日常を投影した内容となっている。

このように作品ごとに解説すれば、YMBはキャッチーなポップソングという枠組みのなかで、さまざまな変化をしてきたバンドだということがわかる。そしてこの過渡期はサウンドだけでなく、宮本のバンドに対する信念にも訪れている。もともとYMBはソングライターである、宮本がつくった曲を再現するというバンドだ。当然ながら主導権は宮本であり、自分自身のことを歌にしてきた。だがコロナ禍を経て、彼は自分のためではなく、誰かのために音楽を作るようになった。そして自分主導だったバンドも、メンバーたちと一緒に作り上げるスタンスになってきている。周りを受け入れ、個人ではなくバンドとして成長している今のYMBについて宮本、いとっちの2人にインタビューをした。

自分のダメな部分が出た“SHOCK!!!”

──

今回のアルバムには宮本さんがソロ曲として2021年2月にYouTubeで公開された“SHOCK!!!”が収録されていますね。この曲を発表して以降、『トンネルの向こう』、そして今回の『Tender』でも宮本さんがラップをする曲が増えたと思います。

宮本佳直(Gt / Vo)

宮本佳直(以下、宮本)

Twitterだけで公開している曲とかでは、ラップっぽく言葉を詰め込んだ歌も出してはいました。でもリリースされた楽曲※としては、確かにそこからかもしれないですね。僕は学生時代から RIP SLYME や、RHYMESTERなど、日本のヒップホップをずっと聴いていて、沢山歌詞を作る中で、自然に韻を踏むというか、言葉と言葉の響き合いを重視した作詞スタイルの曲が増えていきました。一曲に込められる文字数は限られているのに、それを有り合わせの言葉で埋めたくはなくて。言葉の意味はもちろん、響き、リズムも突き詰めて、はまる言葉に必然性を持たせ、言葉数は多いけど、密度の濃い作詞を目指しています。

 

ただ『CITY』(2019年)や『ラララ』(2020年)の時は、自分の中で「それをやっていいのかな」という意識がありました。僕がそういうラップ的なスタイルで歌うのって、自分たちの曲を聴く人のイメージの中には多分ないだろうな、という思いもあって。それにアレンジ面でもメンバーの技術やキャパシティが、追いついていなかったので出せずにいました。今はどんなデモをつくっても、メンバーが全部受け入れてくれてくれるので。純粋に面白いものとか、自分の好きなものをつくろうとなると、ラップ的なものに寄ってきているという感じです。

※“SHOCK!!!”の宮本ソロバージョンは『little escape / think』に収録 

http://thistimerecords.shop-pro.jp/?pid=159374605

──

もともと宮本さんのソロ曲であったものが、YMBとしてリリースされるのは今回が初めてですよね。なぜこの曲を入れたのでしょうか?

いとっち

私が「入れてほしい」と宮本さんにお願いしたんです。私、めちゃくちゃ怠惰なんですよ。毎日寝られるなら、寝て過ごしたいし、漫画もずっと読んでいたいし、夜更かしもしたい。そんな私から見たら、宮本さんってやる気の塊なんです。朝早く起きて制作したりと、モチベーションを高く持ち続けているし、落ち込んでるところとか見たことがない。

 

だからこんな前向きに頑張っている人が、あの曲を歌うことはすごく意味があることだと思っています。〈朝まで going 暴飲暴食 SHOCK!!!〉とか〈荒れたままのシンク目を逸らした〉とか。それが私にとってすごい応援になったというか、宮本さんにもそういうところがあるのかと。

いとっち(Ba)
宮本

今話を聞いていて、いとっちはそんなふうに聴いてたんだというのがわかりました。ただ僕としては、この曲は別に怠惰を肯定しているつもりはなかったです。
いとっちは僕はいつもすんなり曲を仕上げていると思ってますが、しんどい時もあるんですよ。思ったように曲ができなかったり、前につくった曲の方がよかったと思うこともあったり。そうやって制作に悩み、いろいろ考えていくうちに、生活が荒れてしまうことはあって。正直、自分のダメな部分が一番出ている曲だと思います。

 

ただどんなに悩んで途中でボツにしたくなる曲でも、一応形にするようにはしています。最後まで作らずに投げ出すというのはあんまり意味ないと思うし、自分では「あんまりよくない」と思ったものでも人に聴かせたら「めっちゃいいやん」と言ってくれることもあるし、自分も後から好きになることもある。“SHOCK!!!”に〈これじゃバッタもんのスクラップ場〉という歌詞があるのですが、これはそんなふうに一応作り切ったけど、やはりボツになって、溜まりに溜まったデモたちのことを指しています。

僕だけの作品ではなく、バンドで1つの作品を作り上げている

──

本作では Special Favorite Music の久米雄介さんがプロデュースされた楽曲“joke”が収録されています。どういう経緯で、プロデュースすることになったのでしょうか。

宮本

もともと僕が Special Favorite Music を好きだったというのはあるのですが、以前、僕らが企画したイベントに出ていただいた際、人間的にフィーリングが合って。それで「プロデュースしてほしい」という気持ちが出始めました。

──

宮本さんは以前、インタビューで「別に僕の曲を誰が演奏してもいいし、誰か演奏してくれたらいいんだろうなってずっと思ってます」と語っていましたよね。だから私はバンドマン気質というより、プロデューサー気質の人なのかと思っていました。だから今回のプロデュースが少し意外で。

宮本

自分はYMBの曲に関しては、ある程度のデモを作ってバンドでアレンジしていくことが多いですが、久米さんならそのバンドアレンジをより洗練された形で製品としてパッケージングしてくれるんじゃないかと感じて。前からプロデュースに長けた人の意思や技術が加わったら自分の楽曲がどう変わるのか知りたかったので、この機会にお願いしました。

──

YMBはそもそも「宮本さんがつくった曲を再現する」というコンセプトがありましたが、久米さんに参加してもらう意図を聴くと、その方針も変わったのかなと感じました。

宮本

「再現する」という部分は変わってきたと思います。もちろん今も、全パートが入ったデモは持っていきますが、僕のデモが全てではなくなっていますね。むしろ、バンドでつくり上げていく方がYMBのメインになっている。

──

アレンジとかもメンバーに任ている部分はありますか?

宮本

あります。今回のアルバムでも、“似たもの同士”の2番で、ガラッとビートが変わりますが、あれは僕のデモには全くなくヤマグチが持ってきたアイデアです。「このビートがすごくいいから、バンドでどうやってこれを形にしていこうか」とみんなで考えて、調整しました。だから僕のデモはあくまでも歌詞と構成、メロディを伝える手段であって、それ以上には意味を持たなくなってきています。

──

宮本さんは、それを受け入れられるようになったという感覚なのでしょうか?

宮本

人の手が加わるのは以前から全然嫌ではなくて。デモはデモとして自分の中に残っているので、自分がつくり上げたやつはこれ。YMBとして世の中に出すものはこれ、みたいに切り分けられるようになったという感じですね。

──

宮本さんの中にYMB、yoshinao miyamoto の2つあるみたいな?

宮本

そういう部分はあるのかもしれない。今までは yoshinao miyamoto bandという意識をもってやっていたけど、今はYMBという四人のバンドとして成り立っていますね。今回『Tender』をつくるにあたって17曲のデモを制作しましたが、その曲たちに関してはどうアレンジしてもいいし、どの曲を選んでもかまわなかった。

──

バンドを始めたころから、なぜそのように変化したのでしょうか?

宮本

まだ『CITY』の頃はメンバーが僕ら2人だけだったので、アルバムの構成を決めるにしても、アレンジを決めるにしても、僕主導でやるしかなくて。『ラララ』でヤマグチと今井が加入して今の体制になっていましたが、アルバムの構成などに関してはまだ僕といとっち主導だったような気がします。

いとっち

もともと私と宮本さんの2人でやっているところに、サポートとして入ってきた2人なので。最初は「2人の言うことを聞かないといけない」みたいな気持ちはあった気はします。自分の意思をはっきり言わなかったし。

宮本

しばらくはサポートの感じが抜けきらないままだったと思います。だからそのころはコミュニケーションがぎこちない部分もあって、バンドとしてちゃんと咀嚼しないまま、アイデアだけを組み合わせて楽曲を製作していました。ただ毎回、面白いものはできているんですけどね。今のような、バンドとして1つのものをつくり上げるムードみたいなものができてきたのは『トンネルの向こう』からで、本作でやっとそのスタンスが決定的になりましたね。

──

バンドとして1つのものをつくる、そのきっかけみたいな出来事とかはありましたか?

いとっち

今井が「YMBは、リズムがめちゃくちゃ弱い。だからクリック練習をもっとしっかりやらないといけないね」ということを、みんなの前で初めて言ったんです。

宮本

僕はその場にはいなかったんで、あとからその話を聴いたんですよ。だから練習をするのもいいけど、前々からメンバーそれぞれのクリックを捉える感覚が違うと思っていたので、みんなで ZOOM を繋いでリズムに対しての意思をすり合わせるところから始めました。

いとっち

そこでみんなで1つの目標に合わせて練習できるようになって、一体感が出たんです。たぶんそれ以降、誰かの発話に対してみんなで考えるようになったと思う。

コロナ禍で芽生えた自分の歌を誰かに届けたいという意識

──

コンセプトに関しても伺いたいのですが、YMBは1年に1度とかなりのハイペースでアルバムを制作されています。そしてアルバムごとにテーマが違う印象を受けますが、ご本人としては意識されていますか?

宮本

そこまで意識はしていないのですが、1年あったら絶対バンドは変わると思うんです。演奏の技術、メンバーのやりたいこと、活動内容、それに自分たちの生活も変わってくる。だから1年1回はその変化を「アルバムという形で出したいな」という意識は、YMBにはあると思います。だから毎回アルバムを出す前に、「今年のアルバムはどうする?」みたいな会議をしていて。

 

ただ歌詞に関しては、僕ら2人はバンドメンバーでありながら、夫婦でもあるので、自分たちの生活を反映した歌詞になりがちです。だから『Tender』もコロナが常態化した今の生活を歌にしていています。

──

その「コロナが常態化した自身の生活」がどういう風に歌詞として反映されたのでしょうか。

宮本

例えば“似たもの同士”。いとっちはこのコロナ禍で日記を始めたんです。この楽曲ではその内容がすごく反映されています。例えば〈ぬるま湯で夢 うなされたって 知らなかったよ 疲れていたんだね〉とか。

いとっち

Twitterにあげている日記を見てもらえればわかるのですが、私の考えていることって、めちゃくちゃ暗いんです。正直、毎日が早く過ぎてほしいと思いながら、いつも過ごしていて。それを宮本さんに言うと「そんな時間を無駄に過ごしていたらダメだよ」と怒られるんで、だからマンガとしてアウトプットしています。

宮本

あと“fall”は「コロナで世間の状況が変わってしまい、自分ではどうすることもできず、アジャストしないといけない状況に追い込まれている。だけど、寝る時ぐらいはそういう世間からは解放されて、快適に過ごしましょう」ということをメッセージに込めました。睡眠って根源的な欲求じゃないですか。生活の中で、何も考えずに身を任せられる、快適な瞬間というか。その時間はとても重要だと思っていて。

──

宮本さんは『CITY』や『ラララ』で自分自身のことを歌っていたと思うんです。でも、今は他人に対してメッセージを送っていると思います。

宮本

今は、少なくともYMBが出すものに関してはさまざまな人に聴いて欲しいなと意識するようになったと思います。『トンネルの向こう』の制作がそのターニングポイントになったと感じていて。コロナ禍になり、みんなが等しくしんどい状況で、自分もしんどかった。その時に初めて他の人に対して、自分の立場でできる励ましのメッセージを送りたいという意識が芽生えたんです。そんなことを考えているうちに、自分の作曲は自分のものだけではなくなったという感覚をすごく受けました。

──

支えてくれる人がいるからこそ期待に応えたい、という意識はありますか?

宮本

それはめっちゃくちゃありますね。この3年でYMBに関わってくれる人たちが増えました。その人たちって、音楽で生活をしているんですよね。だからその人たちに対して、「趣味のように自分の好きな曲をつくって、発表できたらそれでいい」というレベルにいつまでも収まってはいけないと思うようにもなりました。

 

いろんな人に支えてもらっているという意識もあるし、まだ何も返せてないっていう意識もある。お世話になっている人へ、音楽を通して貢献していきたい。そのためにも今まで以上に、いろんな人に聴いていただける作品をつくらないといけないという気持ちが、すごく強いです。YMBを続ける意味は、そこにもあるのかなと思っています。

Tender

 

アーティスト:YMB

仕様:デジタル / CD

発売:2022年6月29日

価格:¥1,980(税込)

 

収録曲

1. Tender

2. joke

3. rain

4. SHOCK!!!

5. ありがとうもいらない

6. 似たもの同士

7. fall

YMB

 

2015年より大阪を中心に活動している。新しくもどこか懐かしいポップミュージックを日本語で歌う4人組。引きこもって宅録をしていた宮本佳直(Gt / vo)をいとっち(Ba / vo)が外に連れ出して活動開始。様々なサポートメンバーを迎えて活動していたが、2019年2月よりヤマグチヒロキ(Dr)と今井涼平(Gt)が加入し現体制となる。

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