物語が生み出すブッキング – 夜の本気ダンス×『ボロフェスタ』主宰・土龍が語る音楽フェスのストーリー
どのような音楽フェスにも物語がある。例えば邦楽系のロックフェスでアーティストが、小さなステージから人気を獲得し、どんどん大きなステージへとステップアップするのも物語の1つである。しかしそれだけが音楽フェスの物語ではない。主催者とアーティストの関係性や、注目度合いなども物語には大きくかかわる。ANTENNAでは今回、京都の音楽フェス『ボロフェスタ』の主催者の一人であり〈livehouse nano〉の店長・土龍と2023年に結成15周年を記念し『KYOTO-O-BAN-DOSS』という音楽フェスを開催した夜の本気ダンスとの対談を実施。フェスへの思いや理想像、さらにアーティストとライブハウスオーナーではフェスを主催するにあたって変化があるのか、など伺った。
その対談のなかで注目すべきはアーティストのブッキングであった。土龍、夜の本気ダンス共に、今までの関係性の中で紡いだ物語があり、それがブッキングとして反映されていると語る。なお夜の本気ダンスは11月に開催される『ボロフェスタ』に出演が決定している。今回は夜の本気ダンスと土龍との関係性や、それがどの様にブッキングとかかわっているのかも合わせて伺った。
夜の本気ダンス
2008年結成、京都出身、「夜」も昼も聴く者全てを「本気」で「ダンス」させる4人組。2014年のデビュー以降、各地音楽フェスやイベントでは軒並み入場規制を記録する。2016年にビクター《Getting Better》からメジャーデビューし全国ツアーを毎年行っている。2020年にはバンド初となるホール会場でのワンマンライブを東京と大阪で開催しソールドアウト。2023年3月地元京都で主催フェス『KYOTO O-BAN-DOSS』を成功させる。
みなさん、”踊れる準備はできてますか!?”
https://fan.pia.jp/honkidance/
土龍
1976年京都府生まれ。
二条城の東側にある全国でも稀に見る小ささのライブハウス、〈livehouse nano〉の店長兼音響兼照明兼制作兼雑用。毎年秋には仲間と共にロックフェスティバル「ボロフェスタ」を主催。派手好きの単純思考のパリピの一種。
予定調和がないことがボロフェスタの魅力の一つ
ボロフェスタには過去、3回の出演経験を持つ夜の本気ダンス。京都に在住し、「夜も昼も聴く者を本気でダンスさせる」という一貫したコンセプトを持ち、今もメジャーの第一線を走る彼ら。しかしインディーズ時代、京都のバンドとしては意外にも〈livehouse nano〉(以下、〈nano〉)には一度も出演していなかった。
僕は高校生の時にコピーバンドで〈nano〉に出演したことがあって。その時、ほぼ初めてのライブハウスだったこともありリハーサルで音響をやっていた土龍さんに「よろしくお願いします」と言うのを忘れて、それですごく怒られました。
昔の俺、怒らなくてもいいのに……(笑)。ただ夜の本気ダンスからも「ブッキング組んでもらえませんか?」と言ってもらえていたので、鈴鹿と連絡をとって何度かライブをお願いしたけど、タイミングが合わず〈nano〉で演奏したことはなかった。
僕ら〈京都MOJO〉というライブハウスをホームとしていて、あんまり〈nano〉と関わるタイミングがなかったんです。ただ京都の中でも絶対に一度は出ておきたいライブハウスだとは感じていて。自分の好きなバンドも出ているし、そういったところで自分もやりたいなという思いはありました。それにライブハウスって怖いイメージがあったのですが、お客さんとして〈nano〉に行くと、すごくアットホームな感じで、温かさに満ちあふれていて、入りやすい場所だと感じました。
西田一紀(Gt)(以下、西田)僕は当時、別のバンドをやっていたこともあり、神戸や大阪のライブハウスによく行ってました。だから京都のライブハウスはなじみがなく、〈nano〉も客として1回しか行ったことがないですね。
そんな彼らは2015年の『ボロフェスタ』で、初出演ながらいきなりホール内のステージを任されることとなる。従来、地元京都発信のアーティストに関しては、毎年夏に行われる『ナノボロフェスタ』※への出演や、『ボロフェスタ』の地下ステージを経験するなどキャリアを積んでからでないと、ホール内のステージで演奏することは難しい。まさに大抜擢といってもいいこの人選に関して、土龍はこのように語る。
※現在は『ナノボロ』に改名されている。
『ボロフェスタ』は、東西、有名・無名、メジャー・インディーズ、を問わないブッキングをやっています。ただその中で毎年「地元である京都のバンドは誰に出てもらうか?」という所はしっかりあって。そこでその年は人気みたいだし、夜の本気ダンスを呼んでみようかなと思ったんです。
僕のイメージとしては、土龍さんはバンドを良く見ているし、自分でライブハウスに呼んだりして、関わりが深ければ深いほど自分のフェスにもしっかり呼んで、関わりを大事にしている人。だから一度も〈nano〉でライブをやったことがないのに、呼んでもらえたのは驚きでした。
でもライブを見て、観客がブチ上がり、最高のヴァイブスをつくりだしていて「夜ダンを呼んでよかった!」と思いました。
初めての出演となった2015年の『ボロフェスタ』。ライブ終了後にお客として楽しんだ夜の本気ダンスのメンバーたちだが、他の出演者に圧倒されたと話す。
大トリのくるりが本当に素晴らしかった。アンコールで“リバー”をやってね。あれは上がった。
完璧でしたね。あとNATURE DANGER GANGが綱引きをやりだして。
勝手に綱を持ち出して、フロアで急に綱引きを始めたよね。
水曜日のカンパネラが、出たのも2015年でしたっけ?
そう。張りぼてのデロリアンみたいな車に乗ってくるやつね。
くるりがよかったとか、綱引きとか、デロリアンとか、そういうの全部含めて「これが『ボロフェスタ』なのか」とその時、初めて感じました。
カッコいいバンドが出るだけではなく、新しいミュージシャンとの出会いもあるし、変な催し物みたいなものもぶち込む。『ボロフェスタ』は「予定調和じゃない」ところを楽しめるのが魅力なんだと思います。
作り手の顔が見えることこそ、いいフェスの条件
アーティストとして日々、お客さんを音楽で踊らせている夜の本気ダンスだが、2023年3月25日、26日には音楽フェス『KYOTO-O-BAN-DOSS』を開催。彼らがレギュラーでやっているラジオ番組『夜の本気ダンスのラジダン!』を放送するKBS京都にある多目的ホール〈KBSホール〉で行われた同フェスは、ツアー経験もある髭や、何度も対バン経験のある四星球やPanorama Panama Town、岡崎体育、など彼らにゆかりのあるアーティストが集結し、観客を盛り上げた。また関西外からのお客さんが京都を楽しめるよう、おすすめスポットを記した『京 O-KOSHI-YASS MAP』も制作。そんな『KYOTO-O-BAN-DOSS』開催の経緯について米田はこう発言した。
10-FEETさんの『京都大作戦』やASIAN KUNG-FU GENERATIONさんの『NANO-MUGEN FES.』などバンドが音楽を続けるだけでなく、フェスを主催するというルートがあって「俺たちも、やるべきか」という話は前からしていたんです。それで15周年なので、このタイミングでやってみるのもいい機会だと思った。ただ出演アーティストに関しては、15年の間に僕たちが出会ってきた人たちを集めました。僕らは意図的にストーリーを作っていくようなバンドではないのですが、バンドを続けると、意識せずともストーリーが勝手に出来上がっていて。だからそのストーリーの中で出会った人たちを呼べば、イベントとして面白いことになるんじゃないかと思ったんです。
僕はそのフェスに足を運べなかったんだけど、ポスターを見て、「あ、夜の本気ダンスの顔が見えるな」と感じた。ラインアップを見ただけで、彼らが対バンをしてきたバンドたちだとわかったし、夜の本気ダンスが好きな人たちなら面白いと感じるライブをしてくれるアーティストばかりで、めっちゃ良いイベントをやっているなと思いました。
「作り手の顔が見えること」がイベントで一番大切な部分だと僕は考えていて。だから『ボロフェスタ』は僕がいっぱいメディアに出て宣伝をするし、イベントではMCとしても出演する。あとスタッフの写真をエンドロールで流すのも「誰がこのイベントを作っているのか」という所を、お客さんにしっかり見せたいという気持ちもあり、やっています。
作り手の顔が見えるのは信頼の証である。例えば出演者に関していえば、作り手との関係性が見えれば見えるほど、この主催者がどれだけ愛されているかがわかるし、その思いをライブでぶつけてくれると感じる。また出演者として作り手自身が登場し、最高のパフォーマンスをすれば、他の出演者も負けられないという気持ちにもなるし、その思いは観客にも伝わる。
思い出してほしい。『京都大作戦』であれば出演者を見るだけで10-FEETの人柄がわかるし、『京都音楽博覧会』であればくるりが今どういうアーティストに注目しているのかがわかる。そして主催者も出演者として登場し、いつも最高のパフォーマンスを披露する。そしてこれらのフェスは長きに渡り、ファンから愛されている。いいフェスの基準は人それぞれあるが、人柄がにじみ出て、作り手の顔が見えることこそ、いいフェスの条件なのではないだろうか。そんな『KYOTO-O-BAN-DOSS』に関して第2回を行うかどうか、夜の本気ダンスに聴いてみた。
僕らのファンの方からも、「第2回をやってほしい」という声はいただくし、気持ち的にもやりたいです。しかし1回やってみて、計り知れない大変さがあることを感じました。『ボロフェスタ』は20年以上続いていて、本当にすごいなと思います。それにアーティストがフェスをするとなると、バンド自体がしっかりとしていかないと影響が出ると思うので。まずはカッコいいバンドであり続けるということを、一番に考えながら活動していきたい。
今年、夜の本気ダンスをトリ前に任せた理由とは?
主催フェスも成功させ、現在『15th Anniversary TOUR 〜1GO! 1A! O-BAN-DOSS〜』の真っ最中である夜の本気ダンスだが、『ボロフェスタ2023』にも出演が決まっている。今年の出演理由について、土龍はこう語る。
マイケルが〈nano〉の2階にある〈□□□ん家(ダレカンチ)〉でたまに店員として働くこととなり、夜の本気ダンスのお客さんがnanoのあるビルへ遊びに来てくれることが多くなった。そこでそのファンの方々と話をしていると、夜の本気ダンスがとても愛されているバンドだと感じました。それにマイケルとの関係性も密接になり、夜の本気ダンスのやっている音楽とメンバーの人柄みたいなものがわかってきて。今までの『ボロフェスタ』では、カッコいいバンドっていうイメージしかなかったのですが、今は身近な存在になって中身の人柄の魅力もわかったし、その目を持って見るライブは今までよりも良いものになるに違いないと思い、今年オファーをしました。
ボロフェスタのスタッフであり、〈□□□ん家〉の店長であるミノウラヒロキとは、学生時代からの友達で。彼のお店で働いていることもあって、夜の本気ダンスの中では一番、土龍さんとの距離が近いのですが、そう言っていただけるのは、ありがたいですね。
さっき米田が「2回目のフェスをやりますか?」という問いに、「カッコいいバンドであり続けるということを一番に考えながら活動していきたい」と言っていて。その尖り方がカッコいいなと思ったし、『ボロフェスタ』に呼んで良かったと感じています。
そしてここで、土龍は夜の本気ダンスをタイムテーブルのどこに配置したのかを説明しだした。
今年はトリ前の出演を予定しています。水曜日のカンパネラ→怒髪天→夜の本気ダンス、そしてトリはLOSTAGEという感じです。
一同オー!!
当初、怒髪天はキャリアもあるし、お祭りになって終わるから良いかなと考えていたのですが、初日から祭りにするよりLOSTAGEで渋く終わった方がカッコいいかなと思って。それで夜の本気ダンスのお客さんって、音楽リテラシーが高いというか、夜の本気ダンスだけが好きではなく、音楽が好きという人が多いと感じていて。だから怒髪天もLOSTAGEも見てくれると思い、この並びにしました。
トリ前という重要な立ち位置を任された夜の本気ダンス。だが本人たちはいたって冷静に『ボロフェスタ』に出演する意気込みを語ってくれた。
やるしかないですね。土龍さんにとっては、LOSTAGEのことを「無限に語れる」と言ってたくらい好きなバンドのようなので。大役ではありますが、しっかりつなげていこうとは思います。ただ土龍さんは僕らもカッコいいバンドだと言ってくれているので、今まで通りライブをすればいいのかなと感じています。
それにコロナ禍になってから曲にもよりますが、より人を踊らせることに意識を置くようになりました。ライブで歓声やコールアンドレスポンスができなくなったが、踊るということに関しては禁止されていなかった。だから「そもそも踊らせるって何だろう?」「お客さんをどういう感じの曲に乗せたいのか」などを今まで以上に突き詰めるようになりました。だから僕らが今まで通りにライブをやっていると思ってても、皆さんからしたら今まで観た夜の本気ダンスのライブとは全然違うものになっているのかもしれないです。
作り手の顔が見える音楽フェス、『ボロフェスタ』。そして同じ志を持ちながらも、今まで以上にカッコよく突き進もうとする夜の本気ダンス。会場でどんな化学変化を起こしてくれるのか今から楽しみだ。『ボロフェスタ』まであと3週間。さぁ、踊る準備はできてますか?
ボロフェスタ 2023
日時 | 2022年11月3日(金・祝)~5日(日)
KBSホール 11月3日(金・祝)open 11:30 / start 11:55 11月4日(土)open 11:30 / start 11:55 11月5日(日)open 11:30 / start 11:55
CLUB METRO 11月4日(土) open 22:00 / start 22:00 |
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会場 | |
出演 | ※2023年10月10日時点
11月3日 怒髪天 / Base Ball Bear / 水曜日のカンパネラ / People In The Box / LOSTAGE / yonawo / NOT WONK / 夜の本気ダンス / BREIMEN / ズーカラデル / フリージアン / アマイワナ / 豊田道倫 & New Session / 浪漫革命 / ANORAK! / The Slumbers / KENT VALLEY / Superfriends / ラッキーセベン / 幽体コミュニケーションズ / NaNoMoRaL / nayuta / MOTHERCOAT / mess/age / Hwyl / モラトリアム
11月4日 【KBSホール】
TALK SEESION:「ウクライナを支援する意思表示の大切さ」
【CLUB METRO】 パソコン音楽クラブ / Summer Eye / Stones Taro / T.M.P / BODIL / 激 / 5364 / seaketa / mogran’BAR / Shunpuri
11月5日 ZAZEN BOYS / Homecomings / 神聖かまってちゃん / 思い出野郎Aチーム / バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI / Limited Express (has gone?) / Have a Nice Day! / Dos Monos / PK shampoo / AFJB / w.o.d. / 鈴木実貴子ズ / the McFaddin / ボギー / Le Makeup / and more / HARD CORE DUDE / SIBAFÜ / びわ湖くん / FATE BOX / MaNaMaNa / PINKBLESS / 村島洋一 / TOKIMEKI☆JAMBOJAMBO / PULASEI / ZOOZ / ミノウラヒロキ・マジックショー
Party navigator:MC土龍 |
料金 | 一般チケット 全通し券:¥19,000(+1ドリンク代別途) ※前売りのみ KBSホール1日券:前売り ¥6,700 / 当日 ¥7,200(+1ドリンク代別途) METRO券:前売り ¥3,000 / 当日 ¥3,500(+1ドリンク代別途)
学生割引チケット 全通し券:¥17,000(+1ドリンク代別途) ※前売りのみ KBSホール1日券:前売り ¥5,900 / 当日 ¥6,400(+1ドリンク代別途) METRO券:前売り ¥2,500 / 当日 ¥3,000(+1ドリンク代別途)
小中学生チケット(小人) KBSホール1日券:前売り ¥1,500 / 当日 ¥2,000(+1ドリンク代別途) ※小学生、中学生は、保護者同伴に限り有効 |
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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