京都の新星が放つ、荒々しい性春とドラマチックな物語
初期のサンボマスターや銀杏BOYZのような、思春期の煮詰めた妄想と潔癖な姿勢を感じさせる音楽。それをサンボマスターとオナニーマシンのスプリットアルバム『放課後の性春』(2003年)の名を借りて「性春」という風に私は呼んでいる。近年ではULTRA CUBが代表例だったりするが、新たに歴史を塗り替えてくれるバンドが誕生した。
くるり、おとぼけビ~バ~などを輩出した、京都立命館大学の音楽サークル〈ロックコミューン〉で結成されたバンド・THE HAMIDA SHE’S。1st EP『純情讃歌』の中で描かれるのは、ひたすら脳内で目の前にいる女の子のことを考えあぐねながら、実際は1mmたりとも進行していない状態だ。そんな現状を、荒々しいギターリフにぶつけながら奏太(Vo / Gt)はパンクスと狂気を入り混ぜて歌う。さらに歌声を補強するかのごとく、力強いユニゾンが楽曲にさらなる推進力をもたらす。これらの特徴は、THE HAMIDA SHE’Sが「性春」の薫りを感じさせるバンド群の直線状に存在することを証明してくれる。だが同バンドの面白さは「性春」だけに留まらない。
THE HAMIDA SHE’Sの持ち味、それは楽曲の中でストーリーを描けている点だ。例えば“サイケデリックな彼女”は彼女との生活を描写しながらも、見事なちゃぶ台返しを披露。また“ロマンチックトラッシュ”では自分の思いを伝えきれず音楽へぶつけるという内容は、みうらじゅんの小説『色即ぜねれいしょん』(2004年)を思い浮かべる。さらに“銀河大衝動”はこの曲だけで聴くとセカイ系的な作品という印象だが、“オレンジ”を聴くと「切ない男の物語」という別の解釈が生まれる仕掛けだ。
ストーリーを描くための言葉の選び方も秀逸だ。特に感じたのは“黒髪のあの娘”。彼らは運命の人に対して「僕の主人公となった黒髪のあの娘」と歌う。しかし恋という感情を全面に出すのならば、主人公ではなくヒロインという言葉の方が適切である。だがそれをしないのは恋だけでなく、憧れも持っているのではと考える。好きと憧れが入り混じった思春期独特の感情をこの曲では「主人公」という言葉で見事に表現している。
サウンド、歌い方だけを見れば男臭くて荒々しい。しかし言葉一つ一つを丁寧に扱い、心の機微をとらえたドラマチックな楽曲をつくる。相反する魅力が共存するバンド、それがTHE HAMIDA SHE’Sなのだ。
純情賛歌
アーティスト:THE HAMIDA SHE’S
仕様:デジタル
発売:2024年2月21日
収録曲
1.サイケデリックな彼女
2.黒髪のあの娘
3.オレンジ
4.ロマンチックトラッシュ
5.銀河大衝動
配信はこちら
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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