全員が「ヤバい」と思える音楽に向かって – 愛はズボーンが語る、理想とパーソナルがにじみ出た『MIRACLE MILK』
大阪アメリカ村を拠点に活動をし、脳内から反すうせずに歌われたような歌詞とオルタナティブ、ヒップホップ、テクノ、ハウスなどさまざまなジャンルを自由自在に遊泳するサウンドが魅力のバンド、愛はズボーン。2月7日(水)には4thアルバム『MIRACLE MILK』をリリースし、ますます勢いに乗るこのタイミングでアルバムの内容はもちろん、今に至るまでの轍を振り返ってもらった。
13年間続けてきた末に出た、現時点での「ヤバいもの」。 それが自分なりに『MIRACLE MILK』を言い表した言葉だ。もともとデビューした当初から、歌詞・サウンドの両方からは自由奔放さが感じられるし、ライブハウスではステージに降りて観客と戯れ、無数の風船を投げ込み、会場をかき回すかのようなパフォーマンスを行っている。その姿勢は言語化できない「ヤバさ」を常に求めているように思える。
そんな愛はズボーンの最新作は「ミラクル」「マジカル」「ケミカル」の三つのワードをテーマとし、ヒップホップとオルタナティブを何度も交差させながら彼らの思い描く、ヤバい音楽を突き詰めた作品となっている。では彼らにとってヤバさとはどのようなものか?今回は金城昌秀(Vo / Gt)、GIMA☆KENTA(Vo / Gt)の二人に目指す理想の音楽像などを語ってもらった。
愛はズボーン
2011年結成の大阪アメリカ村を拠点に活動する愛はズボーン。メンバー・チェンジもなく全国ツアーや主催のサーキット・フェス『アメ村天国』を開催し続け、精力的な13年の活動を続ける4人組ロック・バンド。
Webサイト:https://iwzbn.com/
X(旧Twitter):@iwasborn_band
今回のアルバムで「ヒップホップをやろう」とは思っていた
本作は「ミラクル」「マジカル」「ケミカル」をテーマにして作られたとのことですが、この三つを選んだ理由とは?
語感ですね。言っていて口が気持ちいいなと思って。それにマジカルとケミカルは柔軟性の高いワードだなと感じています。マジカルはどんなことでも魔法に例えられるし、ケミカルはSFみたいなことも描ける。それにマジカルを抽象、ケミカルを現実と見立てれば自分の生活と魔法の世界を行ったり来たりする世界観を作れる。その結果、ミラクルな作品になったというオチがつけばいいなと考えていました。
このコンセプトは金城さんが考えたのですか?
そうですね。この作品に関わらず、テーマは僕が決めています。時々イレギュラー的にGIMAちゃんに渡すこともしますが。
GIMAさんに渡そうとするのは理由があってのことですか?
バンドってそうじゃないと面白くない。自分だけでやれるのなら、バンドである必要はないです。信頼できる仲間と一緒にやっているからこそ、そういうことはあってしかるべきだし。それにGIMAちゃんはトリックスター的な部分がある。決まったことを予定通りに組み立てていくよりも、急に言われたことをどう返すかみたいな瞬発力が、僕より何倍もある人なので。
僕的には、できるならすべてそのやり方がいい。バンドだけでなく、普段のコミュニケーションにおいても。不意にふられたことを効率よく遂行するにはどうしたらいいかと考えることが好きだし、急に来た変な球を場外ホームランまで運ぶためにはどうするか考える時が一番ワクワクする。常に「こういう球が来たらこう返そう」とイメージトレーニングをして、その感覚を磨いています。
少し余談にはなるのですが、即興的という話で印象に残っているライブがあって。2016年ごろに〈タワーレコード難波店〉でお二人がインストアライブをやった時に、iPhoneでBlurやRage Against the Machineの曲を流して、自分たちの曲を歌ったことがありました。ほぼ準備もせずにライブをして会場を最大限に沸かせたのは、GIMAさんの言ったことに直結しているなと感じます。
ありましたね(笑)。タワレコのインストアってドラムを鳴らせないんです。でもアコースティックだと、僕はバンドの時ほどよさが出せなくって。ならば普段の愛はズボーンとは違うことをやってもいいのかなと思い、あの形になりました。その時期Netflixで『ヒップホップ・エボリューション』を観ていたのが、影響したのかも。
もともと愛はズボーンの歌唱ってラップ的な要素はあるし、年々その要素は強くなってきている。それに本作だと“ IN OUT YOU~Good Introduction~”では赤ちゃんや牛の鳴き声のサンプリングから始まるところは、ヒップホップ的な要素が強いと思います。
結成当時はオルタナロックをやっていましたが、『どれじんてえぜ』(2017年)のころからBeastie Boysのような曲作りをしたいと思って、ラップをやり続けています。今回は「ヒップホップをやろう」と考えていたので、特に浮き彫りになっている感じがしますね。
今回のフロウのやり方とか、ネタの使い方みたいなのはスチャダラパーに近いですよね。
すごく尊敬しているし、リスペクトしています。ギャングスター的なヒップホップがあまり好きになれなくて、スチャダラのようにカラッとした感じが好きです。ただ自分に内面化されたものを出した結果がそうだったわけで、たぶん僕の脳の中に既にスチャダラが存在してるんだと思います。
再現性のない曲こそ、自分たちが思うヤバい曲
そういうヒップホップ的なナンバーもあれば、“ひっかきまわす”みたいなストレートなポップパンクもあるのが愛はズボーンの面白さだと思っていて。この曲について別のインタビューでは制作方法を戻してみたと仰っていました。
メンバーと「昔の曲がいいな」と話になって。その理由を考えていたら、昔はスタジオで今より3倍くらい長い時間こもって作業していたんです。
普通に8~10時間とか入っていたよな。
何の準備もせずに、とりあえずスタジオに入ってアンプをつなげて音をならして、ああだこうだとメンバーと話す。ライブも今ほどなかったし、スタジオワークが一番の活動みたいな時期だった。その時作られた曲がいいなら、当時より知識やテクニックも上がっているんで、同じことをやればヤバい音楽ができるのかなと思いました。“ひっかきまわす”以外にも“MIRACLE MILK”とか、“ヘルステロイド”もその作り方ですね。
具体的に昔の曲はどういうところがいいと感じていますか?
どうやって作ったかわからないところですかね。8時間かけて曲を作って、次の週で先週のボイスメモをメンバーで聴いて「ここが違うな」「この方がいいな」とか言い合いながら、また8時間かけて同じ曲を作り直す。だからいつまでたっても終わらないんですが、そういう楽曲ってどうやってできたのか誰も思い出せないんですよ。
演奏してみて「あ、ここ転調しているんだ」と気づくこともあったり。
つまり再現性のないものを作ることが面白いということです。以前はいろいろな人から「再現性がないとダメだ」みたいなことを言われて、DTMとかも始めました。でもやりながら、これって本当に面白いのかと思っていて。それに自分でもどうやって作ったかわからないものが生まれた瞬間、体の中からデトックスされていく感覚があります。
そういう曲はお客さんが聴いている感覚で、僕たちも面白いと感じられる。今回のアルバムには“笑う光”などDTMで作った曲もあるのですが、それらは制作状況がまだ目に浮かびます。「あの黄色い線で、ドラムが入ってくる」「ここでベースラインが消える」とか、わかってしまう。だから今はこの記憶を早く消したいんです。お客さんの目線で曲の面白さをわかりたい。
「再現性のないものを作る」という点では、サウンドだけでなく歌詞も同じことが言えると思います。本当に意味がわからないことを歌っているじゃないですか。“ひっかきまわす”だと冒頭に「アバダケダブラビビディバビディブ」と魔法の呪文を唱えてみたり、「いただきますの直前にお邪魔します / どこの誰ともわからぬウォルラス」みたいに文脈もない言葉が次々と湯水のように湧き出る。その原点ってなんですか?
高校のころに洋楽を聴いていて、そのころは和訳がないと歌詞の意味なんかわからなかった。でも何を言っているかわからなくても、音楽が好きという気持ちはある。その時に意味の伝わらない歌詞の方が、より「音楽」を聴けるんじゃないかと考えたんです。内容がわかると「うるさい!」と思ってしまうこともあって。
メッセージが干渉してくると?
そうです。例えば「上海蟹食べたい」と歌詞を書くくるりの岸田繁さんや、「ビルマニア」と歌う吉井和哉さんもそうですよね。その言葉の言い方がかっこいいとか、人間のロジカルではない部分に訴えかける気持ちよさを追求している人が好きだし、自分もそうありたいと思って歌詞を書いています。
私人とアイコンの間で揺れ動くGIMA☆KENTAのパーソナリティ
メッセージの話だと、GIMAさんとの共作である“ヘルステロイド”はリアリティという意味で「ケミカル」なナンバーだと思います。この歌詞はGIMAさんのことを思って書いたとのことですが、「完璧なフォームで走る孤独なレース」「兎角この世は生きにくくともすればファンタスティック地獄」とか個人的には重い歌詞だなと感じました。
確かに重いですね。後半の「安心な冒険よりもブルーなスカイがあるんだぜ」以降の歌詞は自分に向けて書いたイメージが残っている。「安心・安全な道よりも、自分の知らない峠道の方がワクワクするんじゃねえのGIMA☆KENTA。お前もともとそういう人間だったでしょ」みたいなことを思って書きました。
GIMAさんはステージ上では誰よりもはっちゃけてライブしている人ですが、自分に発破をかけることを言い聞かせているとは意外でした。与えられた役割をやり続けている感覚ってあったりするんですか?
年々自然体で生きているようになってきているし、それに反比例して「GIMA☆KENTAをやるんだ」「GIMA☆KENTAをどう面白くしていくか」みたいな気持ちも強くなっている感じはあります。
僕は“ヘルステロイド”の中でGIMAちゃんが書いた「リアルとフェイクにも表と裏があるんだぜ」って歌詞が好きなんです。ある時バンドマンたちとリアルとフェイクは表裏一体だが、双方にはさらに裏があって、偽物のリアル、本物のフェイクもあるみたいな話をしていて。そのような話の後で、GIMAちゃんがこの歌詞を出してきて「これだ!」と思いました。おそらくGIMAちゃんの中には、他者から見た自分と、自分から見た自分みたいなものが、ぐちゃぐちゃと入り混じっている感覚があるのかなと感じています。
愛はズボーンは「生まれた」みたいなことを言っていますが、同じくらいは死ぬことも考えている。死ぬ、生きるという相反する感情をカルマとして背負いながら生きている感覚は昔から持っていて。
その死生観みたいなものはいつから抱いていましたか?
そもそも小さい時、あんまり感情を表に出すのが得意ではなかった。だから布団の中でメンタルバランスを取っていたんですよ。夜に布団で家族や友達など大切な人がいなくなるのを想像して号泣し、次の日その人に対して優しくなれるみたいな。
僕は近くにいるからGIMAちゃんのそういう苦悩はわかるけど、お客さんには見えていないのかもしれない。
GIMA☆KENTAは愛はズボーンのアイコン的な役割を担っているけど、根の部分には私人である儀間建太がいる。両者の狭間で揺れ動いている感覚ですね。
そう言えば、去年の年末ぐらいにGIMAちゃんと僕で「ライブする時のスイッチのオン・オフをなくしたい」と言っていたんです。でも「全然なくなっていないやん」って俺は言っていたし、GIMAちゃんも「いや、なくそうとしているし、そっちもそうやろ」と言い返したりして。なんでだろうと考えたんですが、僕は自宅から電車に乗ってそのままの状態でステージに上がりたい。でもGIMAちゃんはステージの上で踊っているGIMA☆KENTAのままでいたいのかなと思っていて。
前までステージに立っている時が一番生きていると実感できると思っていました。でもそれも少し変わってきているかもしれないです。〈iiie〉※を立ち上げて、ステージをつくったり裏方の仕事を始めてから、ステージ上でどう演者が輝けるのかを考えながら毎日段取りしていると、ライブ満載の生活でなくてもありかなと思えたりする。この間も自分のライブがあって、その前にライブの準備をして、別のライブハウスで「うわぁー」と騒いで、そのまま店に戻ってスタッフに挨拶して片付けをしたり。
スイッチの切り替わりがエグいな(笑)。でもそういう生活だし、周りの人もそれを認知しているから、そういう意味ではスイッチのオン・オフとかはないかもな。
〈digmeout ART&DINER〉の跡地にオープンした、儀間建太と〈LIVE HOUSE Pangea〉店長・吉條壽記による共同プロデュースのボトルショップ。
人に流されず、自分の信念を貫けるようになった
今までの作品に共通して思うのですが、愛はズボーンは「今やりたいことをすべてやろうとしている」という印象があって。今回も制作状況を変えたり、ヒップホップをやろうとしたり。
いや、やりたいことは選んでいます。僕の性格上、生きていればやりたいことは必ず増えるし、際限がない。だから最初から詰め込まないことを前提に、アルバムは作っています。ただ『MIRACLE MILK』は前作と比べるとクオリティが上がったと感じていて。その理由は、自分の手札を見て、少しだけ無理をすれば叶うものしか挑戦していないから。『TECHNO BLUES』(2021年)とかは本当に想像もつかないものを作ろうと思っていました。
今のレベルに合った挑戦をするということに気づけたのも、本作が初めてだったんですか?
初めてです。そこに気づいたのが一番の成長だと感じています。今までは人に流されていた。自分では「こういう方向性で行きたい」と思っていても、違う意見も聞いて取り入れていたんです。でも今回は自分のやりたいことだけを突き通して作ったから、いい作品ができました。
以前から「流されている」という自覚はあったんですか?
ありましたね。基本サボりなので、流されるのが楽なんです。例えばメンバー全員で3時間かけて作った曲があるとして、その曲が「違うな」と思っていても「みんな頑張ったし、これでいいか」みたいな感じが今まであった。
そこから変わったのはなぜですか?
「もう一回やろうか」という言い方とかタイミング、その後のケツの拭き方とかもすべて想像できるようになったからかな。3時間を無駄にしてもう一回作り直す。それで納期が遅れたとしても、レーベルオーナーに頭を下げるのは僕なので。そういう「ごめんなさい」って言うことも想像して動く。そうしないと結果が出ないことがわかったんです。
金城さんの変化はGIMAさんから見てもわかりますか?
わかります。昔より、優しくなりましたし。もともと金城くんは好きなものが次々と出てくる人なんですよ、秒単位で。そこに人の意見とかも入り出したら、違うところに興味が行って、方向性がわからなくなっているところを何度も見てきた。
よくパニックになっていたしね。
でも今はそこから離れて、半径5メートルくらいの中だけで世界を完結させている。
あとコロナが大きかったのかも。一人で考える時間が2〜3年あった。自分のことを見つめるという意味では、よい時間だったのかもしれないです。
人として成長し、作品としてのクオリティも上がった。そういう意味では本作は愛はズボーンの中でも最高傑作かなと思います。
ただいいものができたとは思うんですが、愛はズボーンのメンバー全員が「これはヤバいものができた」と言えるような作品は作れなかった。これまでも自分一人が「ヤバい」と感じることはあるんですが、全員が納得できたことはライブでもないんです。到達はできなかったけど、その境地に一歩近づけた気はするので、次は全員が「ヤバい」と思える作品を作りたいですね。
MIRACLE MILK
アーティスト:愛はズボーン
仕様:デジタル / CD
発売:2024年2月7日
価格:¥ 2,750(税込)
レーベル:TOUGH&GUY RECORDS
収録曲
1.IN OUT YOU~Good Introduction~
2.ひっかきまわす
3.MIRACLE MILK
4.イッチーピーチ
5.ケミカルカルマ
6.最後のひとり
7.SPACE OUT !
8.Strange Yellow
9.ヘルステロイド
10.まじかるむじか
11.笑う光
12.NEW SNEAKER MEMORIES ~album ver.~
MAGICAL CHEMICAL MIRACLE TOUR
3月17日(日) 京都・nano
4月6日(土)広島・4.14
4月7日(日)岡山・PEPPERLAND
4月14日(日)北海道・札幌 KLUB COUNTER ACTION
4月19日(金) 茨城・水戸 LIGHT HOUSE
4月20日(土)宮城・仙台 FLYING SON
4月21日(日)千葉・LOOK
4月26日(金)兵庫・神戸 太陽と虎
4月28日(日)岐阜・ants
4月29日(月・祝)静岡・UMBER
5月5日(日)香川・高松TOONICE
5月6日(月・祝)愛媛・松山 Double-u studio
5月11日(土)福岡・Queblick
5月12日(日)大分・club SPOT
5月25日(土)愛知・名古屋 HUCK FINN
6月2日(日)東京・下北沢 SHELTER
6月9日(日) 大阪・心斎橋 Pangea
料金 : 前売 ¥3,500(税込) +1ドリンク別
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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