南堀江Knaveに人が集まる理由 – 真面目と誠実さが生んだライブハウスの在り方
大阪・南堀江にあるライブハウス〈南堀江knave〉。活きのいい若手バンドから、ベテランまで、さまざまなミュージシャンがこのハコに集まってくる。その裏にはどこよりも真面目にライブハウスの在り方に対して向き合う、店長とブッカーの姿があった。
今年で22年目になる〈南堀江knave〉(以下、〈Knave〉)。過去にはハンブレッダーズ、ヤバイTシャツ屋さん、みるきーうぇい、ココロオークション、Easycomeなどこのライブハウスを起点として花開いたバンドがたくさんいることでも有名な場所だ。同時に大槻ケンヂ、ウルフルケイスケといったベテランミュージシャンも定期的に出演しているハコでもある。若手からベテランまで、さまざまなミュージシャンがここに集まるその理由は一体何か?
それを探るべく、今回ANTENNAでは店長上原隆博さん、ブッカーの倉坂直樹さんにインタビューをした。当初私は〈Knave〉はバンドマンたちのことを思い、広めるための努力を行ってきたハコだと考えていた。後に語られるが同ライブハウスがやってきた取り組みは、「自分たちが好きなバンドを推していきたい」という思いが募った結果のように感じられたからだ。しかし話を聞いて強く感じたのは、推しを作りだしたいという熱意よりも、常にライブハウスに対して真摯に向き合い、包み隠さずに現実と対峙するスタッフたちの真面目な人柄だった。
南堀江knave
住所 | 〒550-0015 大阪市西区南堀江3-11-21 Tall Valley B1F |
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TEL | 06-6535-0691(14:00~23:00) |
Webサイト | |
X(旧Twitter) |
持てる力で全力で推すライブハウス〈Knave〉の今まで
〈Knave〉の創業は2002年6月9日。もともと神戸のライブハウス〈チキンジョージ〉のプロデュースにより、大阪・東心斎橋に誕生したが、翌2003年に南堀江の地に移転した。移転の理由について上原さんに聞いたが、オープン当初からのスタッフではなかったため、当時の話はよくわからないとのことだった。しかし上原さんが入職した2005年ごろの〈Knave〉は、今とはだいぶん違っていたと語る。
元からあった〈チキンジョージ〉のバイブで、どうしてもアコースティックというかオーガニックな感じの演者さんが多かった。インディーズの若手の人もいるんですけど、大人の方が多かったです。実際、ツアーなんかで来る演者さんは神戸は〈チキンジョージ〉に出て、大阪は〈Knave〉に来ることがほとんどでした。
〈チキンジョージ〉といえば1980年から神戸の地で続いている老舗であり、憂歌団、上田正樹、大江千里など数々のアーティストを輩出したハコだ。その老舗で腕を振るうアーティストたちの、大阪の拠点が〈Knave〉の立ち位置だった。しかしながら現在のラインアップをみると、ベテランバンドが出演しているものの関西のシーンを今後揺るがしていくような若手バンド、アーティストが定期的に出演している。なぜ現在の形になったのだろうか?
倉坂の前任者のブッカーだった堤野が2007年ごろに入ってきてから徐々に、若手のバンドも積極的に入るようになってきた。
堤野さんは当時、『見放題』のメンバーとも関わりもあったので、〈Knave〉にそのつながりのアーティストが出始めたと思います。
大阪のライブサーキットイベント『見放題』。その実行委員長である民やん氏と堤野氏は関りが深く、2011年には音楽事業を展開する企業株式会社CLOUD ROVERを共同で設立した。このCLOUD ROVERがマネジメントをしていたアーティストの1組にココロオークションがいる。
ココロオークションをはじめ、→Pia-no-jaC←、蜜など多くのアーティストが〈Knave〉をホームだと公言している。その理由は、このライブハウスの制度である『GOLD MEMBERS』にある。
『GOLD MEMBERS』は「荒削りだけどかっこいい」「激推ししたい」と思ったアーティストを選出し、 全方位で協力・応援していくシステムであり、2006年より開始。前述したアーティストを含め過去には、アシガルユース・HAPPY・林青空・みるきーうぇい・Easycomeなどが選出された。
昔のライブハウスって、ハコバン※っていたじゃないですか。でも時代とともに、それもなくなっているという実感があって。それで「ここから出たというアーティストをライブハウス側が作らないといけない」という話になり、うちが持っているレベルの人脈のすべてを使ってアーティストを推していこうという企画を立ち上げたんです。
※ライブハウス専属のバンド
どのバンドも一切手を抜かず、愛情を持って接する。それは他のライブハウスでもそうなのかもしれないが、〈Knave〉は『GOLD MEMBERS』という仕組みとして取り入れたのだ。そうすることで演者にも明確に愛情の強さが伝わり、またこの場所に出たいと思う動機につながったのだろう。
勝ち負けにこだわりながらイベントを行う〈Knave〉の姿勢
現在、〈Knave〉に出演する若手バンドのブッキングは倉坂さんが主に担当している。彼がここで働き始めたのは2013年のころ。それ以前は〈三国ヶ丘FUZZ〉でライブハウスのブッキング業務を行っており、同ライブハウス出身であるKANA-BOONとはバンド活動全般の相談にも親身に乗っていたという。倉坂さんはブッキングするバンドに関して、「あまりポリシー的なものはないが、自分が貢献できることをやっている」と語る。
その彼がライブハウスの業務以外に行った取り組みの一つが、『裏堀江系vol.01』(2016年)というコンピレーションアルバムの作成だった。ナードマグネット、Easycome、ヤバイTシャツ屋さんなど当時〈Knave〉に出ていたバンドを集めた作品であり、倉坂さんは自身のブログで「僕の思い出作りのためです」とコメントしていた。しかし今振り返れば、これがリリースできる最後のタイミングだったと話してくれた。
僕はThe denkibranというバンドをやっているのですが、『MINAMI WHEEL』などのサーキットイベントで、CD-Rで作成した自作のコンピレーションアルバムを無料配布していたんです。もともとThe denkibranのライブでも入場者特典でコンピを作り続けていて。今でいったらプレイリスト作って配りますみたいな感じですね。そうすれば自分たちだけでなく、ライブハウスの集客にもつながると思ってやっていました。
でもそのせいで、大阪のサーキットイベントで無料コンピを作って配る人がすごく増えたんです。それでコンピとか作ってもあんまり効果がなくなってきていると思ったので、最後のまとめできちんとしたコンピを作って終わらせようと考えたんです。
倉坂さんが最後のまとめとして作った『裏堀江系vol.01』。奇しくもコンピがリリースされた同年の11月にはヤバいTシャツ屋さんがメジャーデビューしたため、本作はこのタイミングだからこそカタチとしてできた作品となった。
また倉坂さんが手がけた〈Knave〉での企画には、2015年より開催した30代以上のバンドマンたちを主軸としたイベント『MISOJI CALLING』、その後進となる『MISOJI RIOT』がある。堀江近辺のライブハウス・飲食店を会場として行われたイベントで、ナードマグネット、craft rhythm temple、The denkibran、waybeeなどが出演。堀江の一日を盛り上げた。このイベントを開催しようとした理由について倉坂さんはこう語る。
あれはもう完全に堺から心斎橋に出てきた僕が『ライブサーキットができるの⁉やってみたかった!』と思ったのが理由です。あとサーキットやってワイワイされるラストぐらいの時期だったんですよね。今ではバンド主催でサーキットも増えたけど、昔は「サーキットイベントやります」というだけでインプレッションを稼げたんですよ。
あと歴の長いバンドが『MINAMI WHEEL』とかに呼ばれなくなってきたんで、ならば自分らで年に1回サーキットやろうかという感じでやりました。当時でいうとナタリーとかでインタビューとかしてくれないから、自分たちで座談会をやって記事化したりバンドの紹介記事を書いたりしたんです。
『裏堀江系vol.01』『MISOJI CALLING』双方に共通して「自分たちが好きなバンドを推していきたい」という思いが募った結果、生まれたもののように感じられる。しかし倉坂さんは、好きだけで突き動かされたわけではなく、勝ち負けにこだわりながらイベントを行っていたと話す。
例えば他のライブハウスでも思いつきそうなイベントを、〈Knave〉がやっても面白くない。他のライブハウスと同じ土俵には乗らないイベントを考えています。ただ最近、年齢やインプットが減っているせいもあるのか、少しネタ切れになっているので。前と同じやり方じゃ無理かなと思い、立て直しを図っているっていう感じです。
惑い中で次の一歩を考える〈Knave〉の今と未来
倉坂さんが立て直しを図っていると話した後、今後の〈Knave〉の在り方について気になり両者に「今後どのようにしていきたいか?」という質問をした。すると上原さんはこう話を切り出した。
今日インタビューを受けてわかりました。〈Knave〉はこれじゃダメだなって。
突然の告白に驚いたが、上原さんは話を続けた。
今までの話って、数年前のものばかりなんです。イベントも古いものだし、ピックアップされるアーティストも歴の長い人ばかり。それって新しいことを見いだせていないし、もう死んでいるライブハウスだと思います。インタビューをされながら、正直、恥ずかしいなと思いました。
ライブハウスとして常に一定の賑わいを見せているのだが、確かにコロナ禍になって以降は主だった企画やアクションを行ってはいない。〈Knave〉は方向性を模索していたのだ。
インタビューだから前向きな話しをしたいんですがカッコつけずに言うと、僕ら自身も年齢を重ねながら運営するとなると守りに入ってしまう。僕たちの理想としては今以上にノンジャンルで新しいことをやりたい。でもそう思いながらも具体的な解決策が浮かぶわけでもなく、まだ守りの方へ片足を突っ込んでいる。
時代に対応できなかった部分はある。コロナで少し未来が早回しに来たじゃないですか。5年後かなと思っていたのが1年後に来たり、配信もスタンダードになるだろうとは思っていたけど、コロナ禍の1年で普及したり。その未来が想定より早く来たため、対応できるアイデアを持ち合わせていないまま、今に至っているという感じです。
惑いの中にある〈Knave〉。しかし話を聞くと具体案はないものの、今後やりたいと思うことはあると語る。
規模感はさておき、バンドをきちんと売ってあげたいです。最近は新しい出会いも増えてきて。スタンダードとはわずかに外れるけど、ポピュラリティもあって、もう少し人気が出てもおかしくない若いバンドが何組もいて。マネジメントというと少し大げさだけど、そういうバンドをライブハウスとして売り出していきたいですし、また何か楽しいことできそうな気がしています。
確かに上原さん、倉坂さんの話を聞くと今はまだ惑いの中にあるのかもしれない。しかしながらコロナ禍以降も、〈Knave〉は賑わいを見せながら多くのアーティストから愛され続けている。この理由を考えた時に、僕は二人の人柄が多くのアーティストをひきつけるのではないだろうかと思った。
このインタビューでも包み隠さずに語ってくれたことが、それだけ真摯にライブハウスへ向き合っている証明ではないだろうか。そしてこの真面目で実直な人柄こそが多くのアーティストたちをひきつける魅力にもつながっているように感じる。
さまざまな悩みや葛藤があるかもし知れない。しかし過去の実績にあぐらをかくことなく、誠実に自身の在り方に疑問を投げかけながら模索する姿勢は次なる一歩を生み出すに違いない。そう遠くない未来、この惑いは消える。上原さん・倉坂さんが〈Knave〉に対して真剣に思いをぶつけている姿を見ているとそんなことを感じた。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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