
愚直さと惑いを重ね続けた25年 – LOSTAGE・五味岳久が語る自分に正直な生き方
地元・奈良を拠点に活動するLOSTAGE。音楽を生活の中心に据えながらも、他の仕事を重ねることで、暮らしと表現を地続きに紡いできたバンドだ。嘘のないことだけを選び取り続けていく。その選択が、彼らを25年というキャリアへ導いてきた。
LOSTAGEのボーカル/ベースである五味岳久は、レコード店〈THROAT RECORDS〉の運営やデザインの仕事など複数の仕事をしながら、一つの型に縛られることなく活動を続けてきた。加えて昨今は外部流通やストリーミングには頼らず、ライブ会場や店、オンラインショップなど、自分たちの手の届く範囲でのみ音源を販売している。
日々新しい音楽が生み出され、リスナーの趣向もどんどんと移ろう音楽シーンにおいて、なぜ彼らの音楽は支持され続けているのだろうか。その裏には不器用ながら常に前を向いて歩き続けてきた過去の経験と、常に惑いながらも自分たちの形を選び続ける五味岳久の実直な姿があった。
写真:服部健太郎
五味岳久(ごみ たかひさ)

地元・奈良を拠点に活動を続けるLOSTAGEのフロントマン。2001年にLOSTAGEを結成し、07年にメジャーデビュー。10周年を迎えた11年に自主レーベル「THROAT RECORDS」を立ち上げ、12年にレコード店として実店舗を構える。
THROAT RECORDS
| 住所 | 630-8233 奈良県奈良市小川町14-1 グランテール1F |
|---|---|
| 営業時間 | 14:00〜20:00 |
| お問い合わせ | TEL 0742-23-4700 |
| Webサイト |
自然体で続けるTHROAT RECORDSという選択肢
「都会があんまり得意じゃないっていうか、人ごみとか規模の大きい町はあんまり合っていないというか……。あとドラマー(岩城 智和)のやつが20代前半には結婚していて、子どももいたので。生活拠点をそっちに変えるのはちょっと難しいかなという感じでしたね」
結成以降、奈良を拠点に活動するバンドLOSTAGE。そのフロントマンである五味岳久(以下、五味)が〈THROAT RECORDS〉をオープンさせたのは2012年。きっかけは事務所探しだった。もともとは自宅でCDやグッズの在庫を管理していたが、在庫が増えて手狭になっていたところに、友人の商店の隣のスペースが空いたのでそこを借りたことが始まりとなった。路面店の1階という高立地、ただの事務所とするにはもったいないと考え、自身のレコードコレクションを販売する形でその商売が始まった。商品をチェックしたり、入荷対応をしたり、いろんな細々した雑務が増えて、毎日忙しくなっていく。しかしそれ以上に変わったのはお客さんとの距離感だと語る。
「ライブの時って時間の制限があって。ライブした後に物販で会場が閉まるまでの間に来ている人たちと少しずつ話す感じなんで、あんまりゆっくり話せないじゃないですか。向こうも終電が大事だと思うし。店やと後ろもないから、ちょっと余裕があるというか。決め打ちじゃなくて、リラックスしてカジュアルな話題とかも話しができるのはいいかな。
ただよくも悪くも、何のためにコミュニケーションを取るかって言われたら、音楽にフィードバックさせるためなんで。他愛もない話ばかりになったらなったで、『これがやりたかったことなのかな?』みたいな気持ちにはなりますね。ずっと喋っている人がいて、1日5時間とかその人とコミュニケーションをとって得たものがあったとして、それってどうなるのか、みたいなものはある。まあそれがダメとかじゃないんですけどね、別に」
「本当ならバンドだけやって、それで食えたら一番いい」と語る五味。メジャーレーベルとの契約が終わり、自主的に音源を出す必要が生じた結果、バンドは自然と今の自主レーベルというスタイルに落ち着いていった。生活もあるためオープン当初は「レコード屋として頑張らなければ」と思っていたが、今は「何を売るか」「どこで」「誰に」という枠にとらわれすぎると息苦しくなると実感し、あまり重く考えすぎないよう心がけているという。
「仕事って、(何かを売って)お金を稼ぐことなわけじゃないですか。ライブのチケットを売るとか、作ったCDとかTシャツを売ったり。あと……例えば僕はやってないけど、YouTubeとかね。動画を上げて広告収入を得るとか。いろんなものを売って、みんな生業にしている。
売るものって別に一つじゃなくていいと思っていて。『これしかない』みたいなものを決めると、やらないといけないことが限定されるし、責任も増えるから、やることが面白くなくなっていく気がする。それより何足もの草鞋を履いたほうがつぶしが効くというか、仕事としては楽になっていくし、一つひとつの表現が自由になれるというか」
ただ、最初からこのような考えに自覚的だったわけではないとも語る。
「(日々の仕事を)やってたら『あぁ、でも多分そういうことなんやろうな』って。毎日やっている仕事がバラバラで。明日はライブで、今日は絵を描いて、明後日は店に立ってとか。なんかお金を稼ぐために目の前にあるものに対応をしていく中で、そういう風になっていった。
でも僕から見たら『(仕事が)一つしかないって、逆に不自然』っていうか。音楽以外にもやりたいことあるやろ、みたいなそんな気はしますけどね。僕も今、学んででもやってみたいことがあるし」
想いを渡す嘘のない届け方
LOSTAGEは7枚目のフルアルバム『In Dreams』以降、今の時代には珍しく外部流通や音楽ストリーミング配信を一切せずに、ライブ会場と〈THROAT RECORDS〉の店舗・Webサイトなどで限定販売をしている。なぜ彼らはこの方法を選んだのだろうか。
「なんか店を始めて、CDってもういらないというか。配信でも聴けるし、物としても別に手元に置いておきたいって気持ちがどんどんなくなってるムードを感じ始めていたんで。CDってただの音楽を入れている容れ物で、それをどうやったら欲しいと思ってもらえるかを考えた時に、それに付加価値をつけることが必要かなと。本人から直接届くとか、手渡しで買うとか。そういう思い入れみたいなものがないと、欲しいと思わないと感じたんですよね。
自分の場合は店があるんで、ここから届けるとか、ライブに行って手渡しで売るっていうことに限定して、こだわってやる。それでCDの価値が上がるっていうより、みんなの思い入れが加味されて、特別なものとして受け取ってもらえると思ったんで」
この方法を最初に行った『In Dreams』は累計5,000枚以上を売り上げており、最近も追加プレスを行ったという。しかし、本来音楽を売ることに対して策士的に考えるタイプの人間ではないと、五味は自身のことを評価する。
「昔は音楽だけをやっていきたい気持ちでいたんですけどね。東京のレーベルから声がかかって、UKプロジェクトからリリースして、音楽を生業にしている人たちと関わる機会ができて。そこでやっていたら、その後『メジャーに行った方がいい』と言われて、その時もあんまり何も考えず無自覚にやらせてもらって。
(メジャーに)行ってみたら、周りの人の考え方とか音楽業界の成り立ち方が分かってきて、そこで『このままだったらあかんな』とか『もうちょっとこうした方が良くないか?』と感じることがあったので」
今もなお、配信や外部流通を行わず、このやり方を続けているLOSTAGE。そのスタンスを理解し、共感してくれるリスナーは着実に増えている。そしてそうしたリスナーたちとの関係性が、今のLOSTAGEのやり方を少なからず形づくっている節がある。
「僕らの場合は物語として、こういう生き方があって、こういう場所にいて、こういう生活のバックグランドがあって、そこでできたものを届けます。そういうプロセス込みで、みんなは興味を持ってくれていると思う。それに対して、表現をどうするかみたいな葛藤はあんまりない。もう何をやっても、(そうした背景を込みで)見てもらえる土壌ができている。だから、例えばテレビに出て売り上げを10倍にしますとか、そういうことを考える必要がない。作ったものを今(目の前に)いる人に嘘のない届け方をしている感触はありますね」
「嘘のない届け方をする」。その継続は安易なセルアウトよりもはるかに難しい。しかしその積み重ねこそが五味にとって最も大切なことであり、実際に時間をかけて築いてきた信頼関係そのものでもある。時代に合わせてやり方を柔軟に変えてきたLOSTAGEだが、もし今ゼロからバンドを始めるとしたらどうするのか。そんな問いにも五味は率直に答えてくれた。
「若いバンドの子とかがお店に来て『音源作ったんですけど、どうやって広めていったらいいですか?』という話になった時に、自分だったらどうするかたまに考えることがあって(笑)。今だったら多分、全部のプラットフォームにとにかくアクセスすると思う。別にそういうものに対して悪いと思っているわけじゃないし、自分がいまだにCDやレコードを作っているのは、それまでやってきたことに対する答え合わせというか、そういうものだと思うんで。今から始めるんだったら間違いなくそうしますね」
目的ではなく結果が生んだLOSTAGE
LOSTAGEはしばしば「地方拠点のバンド」というイメージで語られることもある。自分たちの活動拠点を奈良に置き、今も精力的に動き続けるその姿がリスナーに色濃く印象付けられてきたからだろう。しかし、そのことについて五味自身は深くは気にしていないという。
「例えば、2000年代初頭とかに僕らが東京に行ってたらどうなってたかみたいな。わかんないですけど、行ったら多分、今とは別のやり方でやってたはずだし、もしかしたらもうLOSTAGEは終わってたかもしれない。小さな選択肢が生活の中にいっぱいあって、一つずつ選択をしてきた結果、今ここにいる。その中の一個が自分の生まれ育った町で暮らすっていうやり方だったと思うので。それってやりたいことや、表現したいこととかと、本来は関係なかった。」
では、実際に奈良に長く住んでいて、今「たどり着いたその場所で」どういったことを感じているのだろうか?
「住まいを変えることで得る物ってある。他の街からこの街に来て商売を始めている友達がいるんですけど、そういう人と話していると、みんなが見ている奈良と自分が見ている奈良の景色が違うなって感じる時があって。その景色が見えない分、ちょっと損しているかもって思うことはありますね」
この話を聞きながら、同時に「ずっと奈良に居続けているからこそ見える景色も確かに存在するのでは」と感じた。そうした景色こそがLOSTAGEの味になっていることを否定するファンはいないだろう。その、思ったままを五味にぶつけてみた。
「そうですね。難しいなぁ。今いる場所で説得力があるやり方の方を、たまに選んでやってきているだけだから。まあラッキーだった部分もあると思います」
等身大で歩み続ける25年目のリアル
来年には活動25周年を迎えるLOSTAGE。そんな彼らは現在もなお、ライブでの動員が増えてきている。2012年に〈THROAT RECORDS〉がオープンした当初は〈渋谷クラブクアトロ〉がバンドとして最大規模の会場だったが、2025年には〈日比谷公園野外音楽堂〉でのライブを成功させた。こうして地道に走り続ける中で、五味は迷いも感じていると語る。
「現役で居続けるって難しいですね。僕も最近老いを感じているんで。なんかタイムリミットというか、そういうものを決めた方がいいのかもしれないという気がしていて。昔は『俺は生きている限りやって、ステージの上で死ぬ』みたいな方が、なんとなくかっこいいと思いながらずっとやってたけど、ずっと走り続けろって言われたらやっぱしんどいじゃないですか。だから『50歳までやります』とか、なんとなく目的とか区切りみたいなのがあった方がいいかなという気は最近ちょっとしていますけどね」
またバンドを長く続けてきたうえで、苦労したことについても聞いてみた。
「それこそ音楽のことだけじゃなくて、お金のこととか、人間関係とか、メンバーの向こう側にいる家族のこととか、みんなの仕事のこととか考えながらやらないといけないじゃないですか。
でも辞めたらそこから解放されるのかって言われたら、わかんないですよね。抜け殻みたいになって、心に穴が開いてしまうみたいなこともあり得る。今までやっていない時期がなかったから分からないですけど、やらないしんどさも多分あって。どっちにしても、しんどいですね(笑)」
2026年に大きな節目を迎えるLOSTAGE。今後の活動については「どうしようかなって感じですね」とのこと。
「いや、ほんまどうしようかなって。この間、全国ツアーと野音が終わって、今ちょうど一段落した感じなんですけど、(メンバーとは)『ここからどうすんの?』みたいになってる。でも来年の2月まではライブも決まっていて、それをやりながら考えるのかなぁ。なんか多分、次は野音よりでかいキャパを目指すとかじゃない感じもする。
全国ツアーで47都道府県を回ったというのもあるんですけど、自分の暮らしている街に何かを引っ張ってくるというか、この街に何かを還元するみたいな活動に向こう5年ぐらいでシフトしていこうかなと。漠然とですけどね。それこそ『生活(※1)』ってイベントをもう一回持ってくるとか、場所を作るとか。わかんないですけど、今はなんか『この街で何かをしたい』っていう漠然としたテーマがある感じです」
※1 2010年にスタートしたLOSTAGE主催のライヴイベント。これまで、大阪の〈STUDIO PARTITA(名村造船所跡地)〉〈梅田クラブクアトロ〉、茨城県古河市の〈SPACE U〉で開催。なお同イベントは2017年以降、開催されていない。
地に足をつけて、目の前のことと向き合い続けてきたLOSTAGE。がむしゃらさが求められるタイミングも、惑い続ける時間もあったはずだが、それでもなお「自分たちはどうしたいのか」という芯だけは外さずに問い続けてきた。そうして生まれた彼らのキャリアは傍目に見ても、軌跡というには随分と太く力強い線になっている。
これからLOSTAGEがどんな道を歩むのか、それは本人たちにもわからない。現実とガチンコで付き合った分だけ、見る夢も甘いものにならない。それでもLOSTAGEは、黙々と今日もあなたの街に生きた音楽を届け続ける。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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