2020年代のCymbals。その名はNagakumo
ある日、TwitterにHOLIDAY! RECORDSの植野秀章氏からのDMが。「これはYouTubeチャンネル出演の依頼か?」とも思ったが、そうではなく「おすすめしたいバンドがある」との内容。早速音源を聴いてみるとこれがなかなかいい。キャッチーで洒落たバンドサウンド。ささやくように歌う女性ボーカル。渋谷系に影響されたと紹介文には書かれていたが、サウンドを聴いて真っ先に思い出したのはポスト渋谷系と呼ばれたCymbalsであった。音楽をひとしきり楽しんだ後、バンド名を確認した。名前はNagakumo。
Nagakumoは2021年に結成された大阪のインディーズバンドだ。シンガーソングライターとして活動していた彩こと、コモノサヤ(Vo / Gt)を中心に、揺れるドレス(活動休止中)のホオニシレイジ(Gt / Cho)とオオムラテッペイ(Ba)、そしてRudoのホウダソウ(Dr)の4人で活動する。そんな彼らが2021年2月17日(水)に『PLAN e.p.』をリリースした。フリッパーズ・ギターやカジヒデキなどを思い起こさせるような、心ときめくネオアコサウンドと、コモリサヤのカヒミカリィのような、キュートでささやきながらも伸びがある歌声が聴きどころとなっている。
このように書いてしまえば、「渋谷系に影響された」という言葉が出てくるかもしれない。だが、このサウンドには渋谷系と「決別した何か」を感じた。その要因がはっきりとしたのは4曲目の“CITY GIRL”だ。この曲でのベースとギターの音の歪ませ方は渋谷系ではなく、Dinosaur Jr. (ダイナソーJr.)など90年代オルタナティブロックの文脈に近い。
それがわかったうえでなぜ僕が渋谷系のバンド群ではなく「Cymbalsだ」と感じたのかも理由がはっきり分かった。Cymbalsの沖井礼二は熱狂的な Pete Townshend (ピート・タウンゼント)と渋谷系のファンであった。その両立した形がCymbalsであり、洒落たサウンドの中で時折見せる、ファズを利かせたギターサウンドやソロのギタープレイは渋谷系にないものであった。洒落た音楽にロックの素養。しかしNagakumoに対してCymbalsを思い起こさせた理由はそれだけではない。
Nagakumoの音楽は、90年代、2000年代、2010年代に聴いたとしても、古さを感じず「今の音楽」としてとらえたように感じる。それは彼らの音楽がエバー・グリーンを感じさせるものであるからだ。その普遍さはCymbalsも同様である。2003年の解散以降も現在に至るまでメンバーの三人がそれぞれ第一線で音楽を作り続けており、Cymbalsのエッセンスはアップデートを続けながら今もリスナーに享受されている。そしてそのエッセンスは2020年のNagakumoにも引き継がれている。まだ時期尚早なのは百も承知だが、あえて言いたい。Nagakumoこそ2020年代のCymbalsになるのではないかと。
PLAN e.p.
アーティスト名:Nagakumo
フォーマット:CD(ライブ会場、通販限定)
発売:2021年2月17日
価格:¥1,100(税込)
収録曲
1. テレビショウ
2. タイム・トラベル・プランナー
3. 偶然
4. CITY GIRL
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WRITER
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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