このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューの中心となる1枚です。
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大人になることを拒む子供たちの歌
相米慎二監督の映画『台風クラブ』はいわば“大人になることを拒んだ子供たちの話”でもある。大人になるというのは、いくつもの可能性の中から自分の道を一つに決めたということであり、それは同時に“開かれた可能性を閉じる”ということでもある。考えてほしい。映画の終盤で、高見理恵はなぜ台風の最中に家へと帰ったのかを。台風の中で、学校に閉じ込められた生徒がなぜ下着姿で踊ったのかを。それは可能性を閉ざされたくない子供の反抗であり、ラストで大人に愛想を尽かし自死を選んだ三上恭一はその象徴ではないだろうか。
そして『台風クラブ』で明示される“大人になることを拒んだ子供たち”というのは近年のHomecomingsを語るうえで重要なキーワードだ。『Songbirds』における表題曲「Songbirds」では孤独のあとで、友達ができ、葛藤を経て充足した思いで空に舞い上がる様を描き出し、前作「Play Yard Symphony」のリアレンジ楽曲である「Play Yard Symphony (for New Neighbors) 」では旅に出る直前の心境を歌に乗せる。つまり本作で描かれている世界は青春時代に誰でも訪れる葛藤、不安、期待といったものであり、子供たちが大人へ向かう物語をHomecomingsは「Songbirds」「Play Yard Symphony」と続けて何度も私たちに語り掛けているのだ。そしてそれを聴きながら私たちに有り得た未来の可能性を追体験する。しかしHomecomingsの立場から考えれば、繰り返して開かれた可能性を子供の立場で歌っている姿は大人になることを拒んだ子供たちの音楽と言ってもいいだろう。彼らの心の中には、『台風クラブ』の高見理恵や三上恭一魂が宿っているのかもしれない。
第三回【3×3 DISCS】:Homecomings『Songbirds』を中心とした9枚のアルバム
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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