『girl』は奈良県出身のシンガー・ソングライター藤山拓の初となるフルアルバムだ。ライブでは弾き語りをメインに活動しているが、本作ではバンドアレンジに挑戦。アフターアワーズのタミハル(E.Gt)やsoratobiwoのキャプテンOG(E.Gt / Ba)、senoo ricky(Dr)らが参加し、彩を添えている。また収められている楽曲は既にライブで何度も披露されてきた鉄板のナンバーばかりであり、そういう意味では自信をもって送り出すベストアルバム的な作品だともいえる。しかし本稿で語りたいのは、そういう部分ではない。もっと根本的な、臭いの話である。
藤山の楽曲は男性目線でありながら男性臭さがあまりしていない。妄想の彼女像を描いているが、銀杏BOYZが持っていた性春の香りはしないし、かといってback numberのような未練がましく、女々しい感じもない。彼の歌は男の持つ生々しさがなく、対象者や自身に対してネガティブさをぶちまけたりしない。男性内の多様性にも配慮された、優しい歌なのだ。その根元を紐解けば、例えば歌詞の一人称を俺ではなく僕で徹底していたり、セクシュアルな表現自体をあまり使わず、使うとしてもリアリティラインを上げすぎず抽象度の高い書き方(例えば“夏の庭”における女性の胸を「小さく揺れる桃源郷」と表現するなど)をすることで、男性的な妄想をさらっとスムーズに聴ける音楽へと昇華させる。また藤山の歌声は優しい。表題曲でもある“girl”では、柔らかくささやくように語りかける。一方で別れた後の悲しみの心境を紡いだ“girl2”では情緒的でがなるように歌われるが、その声からは悲痛さよりも温かさがにじみあふれる。
「男性内の多様性に配慮された歌」という点では藤山は大江千里に似ている。ピアノを軸にしたきらびやかなポップサウンドの大江と、フォーキーな藤山のサウンドは対極かと思われるかもしれない。しかし大江の歌詞は代表曲である“かっこ悪い振られ方”や“rain”にも表れている通り、男性臭さをあまり出さず、弱さも見せる男性像を提示している。
また男の弱さを見せても未練がましさを押し付けたりはしない。どんな対象にもネガティブを向けることはないし、もちろんその矛先を自己にも向けようともしない。そんな姿勢が藤山にも引き継がれている。ただし藤山は大江のようなアイコンとしてではなく、どこにでもいる青年という立ち振る舞いでギター片手に歌う。男性内の多様性を考えながら、特別ではなくごく身近な存在として歌われる音楽。それが藤山拓の『girl』というアルバムではないか。
girl
アーティスト:藤山拓
仕様:CD
発売:2021年10月2日
価格:¥2,500(税込)
収録曲
1.飛行機雲
2.引き出しの手紙
3.girl2
4.きみのいた部屋
5.夏の庭
6.台風10号
7.港
8.国境は身体
9.刺青
10.girl
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藤山拓
Photo by katsunori abe
奈良在住。SSW。
2017年より本格的に音楽活動を始める。
関西を中心に全国のライブ会場へ積極的に足を運び精力的に活動中!
Twitter:https://twitter.com/tochanto
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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