人間の内面を描く、陽だまりのような初バンド編成アルバム
シンガーソングライターのてらがバンド編成となり、初めてのアルバム『太陽は昼寝』を2023年9月13日にリリースした。
てらの作り出す楽曲は人間臭い。例えば、“フードコート -2023”では若いころは酒とタバコに明け暮れていたが、今ではフードコートのキッズエリアを血眼で探す日常が描かれ、味園ビルで出会った人々の人生模様を描いた“午前五時の味園ビル”では、刈り上げピアスで威圧感を発しているお兄さんだが、転勤したばかりで右も左もわからない状態であると歌う。ステレオタイプではなく、「身近にこのような人物はいる」というリアリティのある人物描写が、てらの音楽を人情味のあるものへと仕上げる。
その持ち味は弾き語りを中心に活動していたころからも感じていたが、現在のバンド編成をスタートさせて、更にパワーアップしたように感じる。そもそも2020年時点でのANTENNAでのインタビューで、「ある程度限界もわかったから、全部一人でやるのはやめようと決めた」と語っていたように、それまでの歩みを総括するベストアルバム的歌集『歌葬』(2018年)でソロとしてのキャリアは一区切りついたと思える。同作以降に、Coughs、清水煩悩、Ribet townsと、一人ではなく「誰か」と自分の音楽を作り上げたことからもそれは明らかだ。そしてバンドとなったことで、音数やアレンジの手数も増え、今まで以上に創造性を発揮できる状態となり、歌詞の持つ人物描写を、より色彩豊かに、よりダイナミックに表現できるようになっている。
本作の収録曲の中でそれが顕著に表れているのが“とーさん”だ。穏やかで優しいサウンドの中で、今際の際の父親にこれまでの思い出を語りかけている。中盤にさしかかると、バンドサウンドが弾き語りとなり、成人したら一緒にお酒を飲もうと思ったがその夢がかなわなかったことが歌われ、「棺桶から出ておいでよ」と声を枯らしながら歌われた瞬間に一気にバンドサウンドがなだれ込む。ソロ時代の音源と聴き比べると“とーさん”の持つエモーショナルな部分がバンドサウンドによって増強され、ストーリーラインのメリハリがくっきりと浮かび上がっているのだ。
また現在のサウンドは、ソロとして活動していた時とは根の部分も変化したように感じる。『歌葬』ではエフェクトを過剰に使用し、酩酊感がありながら霞がかった音像は、彼の内面にある狂気がにじみ出ているように思えた。しかし『太陽は昼寝』にあるのはポップなサウンドと、陽だまりのような温かい歌声だ。その変化はまるで一人で作るという使命感がなくなり、誰かと一緒に音楽を作る喜びにあふれているかのようにすら感じる。そしてこれこそが今のてらのあるべき姿であると、宣言しているのだ。
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太陽は昼寝
アーティスト:てら
仕様:デジタル
レーベル:FunLandRyCreation
リリース:2023年9月13日(水)
収録曲
1. 午前五時の味園ビル
2. フードコート -2023
3. スーベニア
4. サイダーとタイムマシン
5. おやすみ
6. とーさん
7. ライブ -2022
プロフィール
てら(Vo)、39(Gt)、みん(Dr)、上月大介(Ba)により、2020年結成。
2021年より、現在に至るまで配信シングルを3作品リリース。
2023年9月13日に初のフルアルバム『太陽は真昼』リリース 。
おこがましくも、いつかのどこかの誰かのよりどころになるものを作り続ける。
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WRITER
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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