このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューのひとつです。
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パワー・ポップと渋谷系との折衷案
ナードマグネットは引用をよく使うバンドだ。『MISS YOU』の中でも、表題曲「MISS YOU」はギター・フレーズや終盤でアンセムの如く叫ぶのはウィーザーの「Perfect Situation」の引用であるし、「海辺のルーシー」の歌詞やテーマは恋愛映画「50回目のファースト・キス」から影響を受けて作られている。つまり彼らの楽曲は影響を受けた音楽や映画がダイレクトに投影されており、この“ダイレクトな元ネタ使い”はこのバンドの一つの特徴だと言ってもいいだろう。さて、このような元ネタ使いをみると、私はあるバンドを思い出す。フリッパーズ・ギターのことだ。
フリッパーズもまた、並外れたリスペクトから自分たちの敬愛する音楽を人力でマッシュアップし、一つの新しい音楽を作り上げるバンドであった。特に小山田圭吾、小沢健二の二人体制になった『CAMERA TALK』は、アズテック・カメラ、スタイル・カウンシル、マーデン・ヒルといった多岐にわたる引用と、その敬愛っぷりが万華鏡的に繰り広げられる大変ポップな作品であり、“渋谷系”という過去の引用から新しい音楽を生み出す、編集者的音楽の礎になった作品でもあった。そう考えれば渋谷系とパワー・ポップ、90年代に交わることがなかった2つの音楽の折衷案として登場したバンド、それがナードマグネットなのかもしれない。
第二回【3×3 DISCS】:ナードマグネット『MISS YOU』を中心とした9枚のアルバム
選定:ki-ft・アンテナ
WRITER
- マーガレット 安井
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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