峯大貴が見たボロフェスタ2019 2日目
ボロフェスタの間口が拡がっている
令和元年10月26日(土)。まぶしいくらいの晴天で2日目を迎えた。ボロフェスタはやはり晴れてこそだ。タイムテーブルが記載された大きな看板が立つ駐車場エリアには、物販、ドリンク、フード各店舗や、レコード・CDショップのJET SETが立ち並ぶ。そこで地べたに座りながらご飯を食べたり、久しぶりに出会う人と喋ったり、お酒を飲みながら次に見る演者を迷う時間もボロフェスタの醍醐味。出番前後の演者もフラッと出てきて、関係者やファンと気軽に喋っている光景もざらだ。
また立て看板に竹を通して流水でそうめんやタピオカをふるまう『川の流れのように流しそうめん』や、設置された内田裕也と樹木希林の顔出しパネルから顔を出して声量を競う『大声ダイヤモンド選手権』などのゲリラ企画も繰り広げられていた。主催メンバーであるゆーきゃんが、か細い声を張り上げて場を仕切っている。ボロフェスタが「手作り」や「文化祭」と称される所以はこういう遊び心にこそある。
この場所で友人と談笑をしながらも、筆者は例年と違う雰囲気を感じていた。ボロフェスタにくる観客は昨年までは10代~20代が中心だったように思う。それは大学街・京都という場所柄もあるし、MC土龍が店長を務めるLive house nanoを始めとした京都ライブハウス・シーンのお祭りという側面もあり、必然的に普段から遊んでいる人たちが集まっていたからだろう。そしてその中から次の時代を担う新星が頭角を示していくという循環にまたわくわくする。今年の大トリを務めるHomecomingsなんてその際たる例だ。しかしチケットもソールドアウトしたというこの日の観客は大学生から、イヤーマフを付けた子ども連れや中高年まで、老若男女幅広い人たちで溢れていた。それはこの日のトリ、BiSHが昨年からも更なる一般的な認知を得たこともあれば、セン・モリモトの招集、eastern youthとZAZEN BOYSが同日に出演するなど、多方向に対して間口の広い魅力を掲げた賜物だろう。
特に京都生まれで現在はシカゴ在住のマルチ・プレイヤー、セン・モリモトが来日ツアーの一環としてステージに立ったのは今年の象徴だ。ドラム、ベース、そしてバック・シンガーというよりもはやモリモトと共にバンドの両翼を担う存在感を放つKAINA(Cho / Key)を連れ添って登場。〈88rising〉からのフックアップを受け、注目されるきっかけとなった“Cannonball”からステージを始めた。ジャズやヒップホップにシカゴのインディーロックがぬるぬると交錯していくようなバンド・アンサンブルが奇妙で心地よい。またキーボードとサックスを使い分けながら、ポツリポツリと歌っていくモリモトの多彩なプレイは言わずもがな。合間に見せる屈託のない笑顔と、「ボロフェスタ―!」と煽るその所作一つ一つにぐっと惹きこまれてしまう。後半にはこの後Tempalayとしての出演を控えているAAAMYYYを呼び込みCibo Matto(チボ・マット)の“Suger Water”をコラボで披露。長らくニューヨークを拠点として活動していた日本人二人組の代表曲をカバーし、AAAMYYYとモリモトが観客にシンガロングを促していく。ボロフェスタと繋がろうとしながら、ニュートラルにシーンや国を越境していこうとするモリモトの基本姿勢が見て取れた。
Photo:堤 大樹
京都に根を張るものたちの熱量
そんな間口の広さはあれど、もちろん地元・京都を拠点に活動する演者のステージもハイライトだ。ミノウラヒロキによるマジックショーがこの日のどすこいSTAGEの幕開けを景気づけたが、その後に登場した河内宙夢の出で立ちはお昼間にも関わらず、すでに祭りのあとの寄る辺なさがにじんでいた。先日リリースされた自身のバンド・河内宙夢&イマジナリーフレンズのアルバムに収録された“裸の夏の夜”、“好きって”などを中心に披露していく。めがねの位置がずり落ちながら、徐々に歌の熱量が上がることで一層沸き立つ哀愁。裏で演奏するAge Factoryの轟音とはまた違うアプローチ、孤高の表現にジワリと胸打たれた。
Photo:岡安いつ美
一方で活動15周年を迎えるNABOWAはコイチ(Key / ex.Sawagi)を迎えた5人編成で夕焼けSTAGEに登場。新作『DUSK』からの楽曲を次々披露していくが、徐々にステージ前方の観客から身体が揺れていき、その波紋がじわりと後方に広がり、目に見えて場を掌握していく様がなんとも美しい。そんな会場中にたまったパッションが爆発したのは2曲が融合した“pluse / aurelia”。通底する打ち込みフレーズに呼応してグルーヴを積み上げていく。螺旋状に熱量が吹き上がっていくのに連れて、景山奏(Gt)が満面の笑みを浮かべながらぴょんぴょん飛び跳ねる。思えば京都の路上ライブからキャリアをスタートさせた彼らの、どうにかして路傍の衆の心を巻き込む、引き寄せるという野望のルーツが、地元でフレッシュにむき出しになっていた。
Photo:堤 大樹
またボロフェスタとの縁の深さでいえばメシアと人人の二人を挙げずにはいられないだろう。2013年から出演者としてだけではなくスタッフとしても関わり続けてきた北山(ギターとうた)とナツコ(ドラムとうた)。地下ステージ(街の底STAGE)、ホールのサブステージと徐々にのし上がっていき、7年目にして初のメイン・夕焼けSTAGEの出演だ。加えてeastern youthの次の出番という絶好のタイムテーブル。終始ゴキゲンで喜びを爆発させる北山はその内シャツを脱ぎ捨て上裸になる。「二十歳の時に作った曲」と前置きして“お金”のギターを弾き始めるなど単に熱量を爆発させるでなく、これまでを総括するように丁寧に歌う姿が印象的であった。“ククル”で「頭の中は楽しいことで埋めたから」と叫びながらギターをかき鳴らす。最後にはギターを投げ捨ててステージ降りた北山。もちろんボロフェスタへの思い入れも感じたが、もはやこの場所で育ったバンドの晴れ舞台じゃない。日本を代表するツーピースのオルタナティブ・バンドとしてメインステージに立つに相応しい気概だった。
Photo:堤 大樹
ここにいない誰かに想いを馳せる場所
今勢いにのる全国的な人気者たちが華やかに彩るのもボロフェスタの魅力。特にこの日でいえば、イトケン(Dr)、かわいしのぶ(Ba)、岡田拓郎(Gt)、ラミ子(Cho)という強力なメンバーによるinFIREを従えた柴田聡子のなんと奔放なことか。バンドに駄々をこねるように歌のタガがはみ出していくのがたまらなかった。また“大作戦”ではラミ子が後ろでポンポンを振っていたり、“ワンコロメーター”での歌を躍らせるグルーヴ効いたバンド演奏は柴田を甘やかすようで、一層ポップな歌心が爆発していた光景であった。一方出番前の夕方にはどすこいSTAGEでゲリラ的に小原綾斗(Vo / Gt)が弾き語りを披露し、フロアをパンパンにしていたTempalay。トリであるBiSH目当ての人が増えていく直前の出番ながらも、まるで逆手にとって会場をかき乱していくような、ひらひらとした立ち振る舞いが痛快だ。会場の空気をゆるりと楽しみながらも“どうしよう”、“そなちね”、“革命前夜”と後半にかけてダンスチューンを畳みかけていく、したたかさすら感じた。
Photo:岡安いつ美
Photo:ヤマモトタイスケ
そしてこの日のボロフェスタらしい名シーンと言われれば福岡のシンガーソングライター・ボギーだろう。例年最後に“贈る言葉”で観客全員を巻き込み「ボキ八先生―!」の号令と共に胴上げをするのが風物詩となっている、どすこいSTAGEの帝王だ。サウンドチェックから忌野清志郎や知久寿焼のモノマネで、会場をくすぐっていく。そして冒頭から「予定調和を壊す!」と言って“贈る言葉”のトラックを流し、1曲目から胴上げをキめた。今年のボギーはなにか違う。その後もクイーン“We Will Rock You”を悲哀こめてパロディしていく“ロックンロールのうた”、奥村靖幸として振り付けまで岡村靖幸をモノマネする“家庭教師”、“襟裳岬”を発展させてなぜかM.C.ハマー“U Can’t Touch This”になだれ込む“ERIMO岬”、そして北島三郎“まつり”のボサノバ・アレンジ“カーニバル”。次々繰り出される音楽ネタに常時観客は爆笑に沸いていた。その間にはボギーと同じく昨年までどすこいSTAGEを根城としながら、今年はホール内のど真ん中に櫓を設置し、縦横無尽にパフォーマンスしたクリトリック・リスがボギーを見に来たのを見つけて酒相撲を煽る。クリトリック・リスも応戦しビールを振舞う一幕も。そして最後には再び“贈る言葉”を流して2回目の胴上げ(その後ゆーきゃんも胴上げされる顛末に)。例年のオチをフリとして転化した、今年のボギー’sコメディーショー。常連だけに設けられた高いハードルを全力で超えてくる底力を見た。
Photo:堤 大樹
またこの日は主催メンバー、ゆーきゃんがどすこいSTAGEに登場。昨年惜しまれつつ閉店した京都のバーの話をしたのちに、その店名の元となったディランⅡの“プカプカ”のカバーや、GEZANが出演キャンセルとなったことを受け、マヒトゥ・ザ・ピーポーの想いを代弁すると前置きし“うたの死なない日”などを弾き語りで披露していく。隣のホールステージではZAZEN BOYSが演奏中。その音圧はゆーきゃんのか細い声をかき消してしまいそうなほどだ。しかし主催者として、シンガーソングライターとして、今自分がこの場所に立っている意味をMCと歌で懸命に伝えようとするさまに魅せられてしまう。3日間のオープニングで流れた映像についてもMCで触れていく。幕開けを告げるアッパーな演出の合間に先日の台風19号の被害を伝えるニュース映像が差し込まれていた。自分たちがこうやって音楽を楽しんでいる同じ時にも、別の場所では大変なことが起こっていることを忘れてはならない。自分は見られないけど、伝えたいことは最後に流れるエンドロールに込めたから是非見ていってほしいと言う。現在彼は富山で小学校教員として生活をしながら、変わらず毎年ボロフェスタに関わり続けている。ここ数年、最終日は最後まで見届けることなく、翌日からの日常のために富山へ帰ってしまう。ここにいない離れた場所にいる、誰かのことを慮る、想いを寄せる。ゆーきゃんが“エンディングテーマ”を歌うのを聴きながら、自分のこれまでの想い出にいる、今年ボロフェスタにいない人たちのことを考えていた。
「目を閉じて浮かぶのはモノクロームの笑顔
マンネリの奇跡にも飽きてきたところだよ
エンディングテーマは馬鹿げた歌を選ぼう」(ゆーきゃん“エンディングテーマ”)
Photo:ヤマモトタイスケ
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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