大阪・八尾出身のシンガーソングライター、ローホー。2015年に自主製作でリリースされた1st『Garage Pops』はアコースティックギター1本と歌のみのシンプルな作品でありながら、ギターのボディをパーカッシブに叩くスラム奏法を駆使した演奏とその上にラップを乗せていく独自の演奏スタイルが話題を呼び、翌2016年にはP-VINEからの全国流通まで至った。“ロックもレゲエもヒップホップでも意志が一つならみな同胞”と自己紹介代わりに放つ口上が表す通り、単にジャンルやシーンを横断するのではなく、そもそも音楽に境界なんてないんだ、というような姿勢を貫く歌。それは木村充揮、清水興、石田長生といった大阪に息づくブルースの臭いを放ちながら、ヒップホップ系のイベントに混じって唯一生演奏で出演するような現場に軸足を置いていたり、一方東京では老舗ライヴハウス・高円寺JIROKICHIからプッシュを受け定期的にライヴを行うなど、アウェーの場所に乗り込んで風穴を開けるようにホームへと変えていく活動にも表れている。
そんな彼の活動がすさまじい速度と規模感で広がりを見せたのが2016年以降だ。三宅洋平(犬式 (INUSHIKI))が参議院選挙に出馬した際の「選挙フェス」に大阪から駆け付けライヴパフォーマンスで帯同。またYoutubeのライヴ動画を見た現地からのオファーや驚異的な人脈と縁によって台湾、タイ、シンガポール、カンボジア、韓国、香港で次々ライヴを決行。言語の壁すらものともしないパフォーマンスにより投げ銭で札が舞うほど荒稼ぎ、次の国で換金したところ為替によって札束となり、そしてその夜には遊び倒して使い切ってしまうような、刺激的な海外経験は視野を広げ現場感覚も研ぎ澄まされていった。
今年は大阪から川崎への移住も果たし、そんなあらゆる変化と成長の2年半を経て完成した本作は“亜細亜媒体”とのタイトルが指し示す通り、アジアを股にかける活動を行ってきたその放浪記録であり、現場レポートと言えるだろう。ストリートとはスタイルやジャンルなんかじゃない、生き様なんだと言わんばかりの精神が血判のように刻まれた全7曲が収録されている。
前作同様アコースティックギターと声のみで録音された本作は冒頭、未開の地を渡り歩く旅路を歌った“ASIAN MEDITATION”から始まる。コード進行や曲の構成に動きは少なく、瞑想しながらリリックを唱えていくような歌唱には、タイの伝統音楽モーラムもチラつき、合いの手で沖縄のお囃子まで飛び出す。出会ったもの全てに刺激を受けてやるとの気概が感じられる新境地。後半に繰り返し叫ばれる「No pain, no gain」=“苦労なくして、得るものなし”の教訓が内実伴って突き刺さってくる。“THIS IS THAT”はスラム奏法が炸裂するファンク・ロック。「Kabuki、Geisha、Ninja、Sushi、ローホー」のコール&レスポンス必至のキラーワードも飛び出し、前作収録“浮き草”にも通じた今後の代表曲にもなりうるアッパー・チューンだ。全編スライドバーを使って演奏される“ASOBO”で淡々と連呼される「世間にNoを聞き直すぜ」にはデモ集会でのコールすら思わせるが、選挙フェスも経験した彼にとって政治とは生活を語ることだとし、日常のパーティーを意地でも続けて遊んでいくローホー流のアジテーションにも聴こえてくる。
またもう一方で人懐っこくも繊細な人間性がにじみ出たメロウ・チューンも冴えわたる。“ドライフルーツ”は女性と酒を酌み交わす楽しく愛おしい描写、それでもまた明日にはこの場を離れて旅を続けるローホーなりのフーテン・ラヴソングとでも言おうか。人との出会いは一期一会、だが絶対また会えることも信じている風通しの良い名曲だ。反して“チュンダイ”は7分半のドキュメントとも言える仕上がり。スラム奏法もラップもなく、ギター・アルペジオに乗せて歌詞にも登場するエイミー・ワインハウスを思わせる堕ちてしまった一人の女性について歌われる。彼の孤独に寄り添って語り掛けるような歌唱は変わり果てた仲間への慈愛と悲哀、そして少しのロマンチックを内包している。
見据える視野は前作から格段に広がれど、総じて現場で出会った一人一人と懸命にコミュニケーションを取ろうとする、卑近な世界を歌っていることに変わりはない。そんなタフな愛嬌に溢れた作品だ。
ローホー『ASIA MEDIA』
2018年10月10日発売
1. ASIAN MEDITATION
2. THIS IS THAT
3. 羅生門
4. ASOBO
5. ドライフルーツ
6. チュンダイ
7. MAMACITA
ライヴ会場および以下オフィシャルショップで販売 https://roho.official.ec/
WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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