夜な夜な登場したステージでの、目の焦点をあちらこちらに飛ばしながら、尻を突き出し、ギターを弾いて歌うその所作ったら。2018年はしばらくのライヴ活動休止を表明したと思いきや、一緒にスプリット・アルバムをリリースした経験のあるバレーボウイズが音楽を務める映画『下鴨ボーイズドントクライ』の主要キャストとして役者デビューしちゃうその跳躍ぷりったら。大阪人丸出しの屈託なく憎めないキャラクターも含めて、その魅力のつかみどころは難しいが、ひとまずこの自己紹介に尽きるのだ“俺、「てら」ってんだ”。
2008年頃から歌い始め、お米、寺内将明と名義を変えつつ活動してきた大阪在住シンガーソングライターてらによるこれまでのキャリアを総括するベストアルバム的歌集『歌葬』。ライヴでの弾き語りとは違い、一人多重録音で打ち込みやエフェクトも過剰に含まれたアシッドでくぐもった質感は銀杏BOYZ『光の中に立っていてね』『BEACH』にも通じるカオス状態だ。しかしそんな押し寄せる音の壁を全身で浴びるというよりは、サウンドの中からにじみ出る濃厚で不安定なフォークの情緒と、歌物語にどんどん泥酔していくような聴きごたえが本作の肝のように感じる。またその歌声は同世代である安部勇磨(never young beach)や角舘健悟(Yogee New Waves)とも肩を並べるいなたさを残した色気を放つが、楽曲によっては知久寿焼、友川カズキ、友部正人など日本のフォーク・シンガーの影響を思わせる声色ものぞかせているのが面白い。
歌われるのは常にてら自身のドキュメンタリーである。2019年には30歳を迎える中で今や娘もいる人生の幸せを噛みしめる冒頭の“三十路”、酒に呑まれてばかりの日々が描かれる“十三どうでしょう”や“午前五時の味園ビル”、しそ焼酎への愛が最後には“カノン”のメロディーに乗せて歌われる“鍛高譚”、彼なりのプロポーズソングのようだが「真っ赤なゲロ」というワードも出てきてやはり泥酔状態である“信号”を始め、だらしなくて愛おしくて不条理で、そしてグロテスクなまでにリアルな生活の歌に溢れている。
白眉は打ち込みも排され歌詞がむき出しとなった弾き語りでのラスト2曲。“とーさん”は実父の最後に際して語り掛けていく9分に及ぶ大作。病床の丁寧な描写から想いが溢れ絶唱になっていく様が胸に迫る名演だ。そして“三十路”にも店名が登場する両親が営む居酒屋を歌った“さわ”は店が潰れるまでの顛末を描く。壮絶で粗雑な環境だが確かな両親からの愛を感じる歌詞描写と歌唱には、現代版“ヨイトマケの唄”のような凄みすら感じる。父と、実家が営む店という今は亡き自身のアイデンティティーを強烈に形成したものへ送る2曲で幕を閉じる仕上がりは、正に「歌」での「葬り」だ。
ここまで音楽に自分をさらけ出せる人がいるだろうか。生々しくて酒臭い生き様が刻まれた、てらのハード・フォークに乾杯を。
WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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