神戸を拠点とする6人組バンド、宵街。1st EPとなる本作はこれまでのシングルからの代表曲“Neon”、“honne”に新曲を加えた4曲とクラブ・リミックス3曲で構成されている。ライヴハウスはもちろんクラブ、バーのDJイベントまで、神戸を中心にフットワーク軽く遊んでいくスタイルの表れだ。バンド編成で日本語ラップを展開するとなればビブラストーンから今の最前線ではSANABAGUN.やBullsxxtなどいくつでも挙げられる。そんな中で彼らのアプローチは70~80年代のミネアポリス・サウンドやフュージョンなどをサンプリングしたメロウなヒップホップを、バンド演奏によってポップに消化したものと言えるだろう。そんな歪な系譜を辿って再び生演奏に帰還した都会的なサウンドは、おしゃれなだけではなく、昭和の匂いを残した昔気質な要素や、ニュータウンの何でもあるようでどこか無機質な一面などが、継ぎはぎながら同居している神戸の街の光景とも共鳴している。
本作のアーバン・サウンドには松任谷由実“タワー・サイド・メモリー”や、tofubeatsもカバーした桜田淳子“神戸で逢えたら”のような港町のリゾート感はなく、リリックも常に内省的だ。時には二人で甘く切なく、時には仲間と楽しく、夜通し遊ぶ様をプッシュ(MC)がオフビートなトーンでラップしていくスタイルは全曲に通じている。だがその後“Neon”ではタンタン(Gt / Vo)による倦怠感ある歌声が現れて、客観的にそれは自分がただ夜に流されているということを告げる。“BE”もサウンドとしてはアッパーなディスコ・ファンクであるが最後には紅一点のサラ(Key / Vo)が「いつも探しているココにいる理由」と嘆きも交えて歌う。彼らのポップスにはYogee New Wavesが“CLIMAX NIGHT”で描いたような夜への陶酔だけでは終わらず、最後にスッと無情な現実への引き戻しがあるのだ。バンド名に冠す宵待の如く20代のまだ何者にもなっていないBefore Sunriseな心情を吐露している。その上で「いつも通り いつもの様に神戸遊べ」とシンガロングする“いつも通り”はいつまでもこのままでいるわけにはいかないからこそ、今を懸命に刻み込もうとする様が愛おしい。
作品名の『NAGAME』も目標となる一点を見定めることはまだ出来ず、ぼんやりとした自分たちの行く末を眺望するモラトリアムが表れているようだ。ここから一体どこへ向かうのか、まだどこへでも行ける。本作が宵待のスタートラインだ。
WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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