
京都拠点のローカルな視点からインディペンデントな活動を行っているバンドマンやシンガーたちにスポットを当ててきたANTENNAの音楽記事。REVIEWでも主に関西のライブハウス・シーンで活動しているアーティストの新作を論じてきました。
そんな「今」を捉えてきたレビュー記事に新たな軸が加わります。題して『Greatest Albums in 関西』。ANTENNAが拠点を構える京都、ひいては関西から生まれた数ある名盤の中でも現在の音楽シーンにも影響を与え続けているアルバム作品を、2020年代に突入した現在の視点から取り上げていきます。
関西の音楽には全国的なムーヴメントに発展した音楽も数多あります。1960年代末の関西フォークから、70年代のソウル・ブルース、関西NO WAVE、ゼロ世代……『Greatest Albums in 関西』はこの地域の音楽文化史を作品を通して徐々に編んでいこうとする壮大なプロジェクトです。どうぞ長い目でお楽しみください。
ファーストペンギンを貫き通す、偉大なる脱線1号作品
1960年代末のアングラ・フォーク(関西フォーク)の先頭に立ち、“フォークの神様”として祭り上げられたことに辟易し、一度蒸発。Bob Dylanに感化され、THE BANDさながらはっぴいえんどをバンドに抜擢し、ロックに取り組んだ作品。という功績もあり、2作目にして現在まで岡林信康の代表作として挙げられることも多い。いわゆる「はっぴいえんど史観」に敢えて立ってみると、1970年リリースの『はっぴいえんど』(ゆでめん)と、彼らが最初にバックを務めた遠藤賢司『niyago』と本作の3枚がその歴史の起点、Vol.0にあたる。岡林本人も「ロックをやったのは俺が最初なんだということを言っておきたかったんだな(笑)。どうせそのうちみんなやりだすんだから」(1)と語っており、ロックに対する先見の明は確かなものだった。しかし関西フォーク勢の中でも高石ともやに次ぐ年長者であり、幾多のシンガーが彼の影響から歌い始めたカリスマだったにも関わらず、「岡林信康史観」とはならなかったのは、次作のタイトルの通りメインストリームからは常に『俺らいちぬけた』と我関せず、ファーストペンギンを貫き通したキャリアの歩み方によるものかもしれない。
なぎら健壱にして「日本のフォーク・ブームは岡林信康に始まり、岡林信康と共に終わったのではなかろうか」(2)と評される通り、フォークを求める大衆の期待をするりとかわして本作以降ロックに活路を見出すと、フォーク全体が次第に一部はロックと結合し、一部はニュー・ミュージックに舵を切っていった。そうなると岡林自身はロックへの興味も演歌や歌謡曲に移ろっていき、1980年代には「エンヤトット」の境地に辿り着く……という一見気まぐれなその変遷は、常にそれまでの信者を振るい落とすことにもつながっただろう。当初はファンに戸惑われたという日本の民謡や韓国のサムルノリをロックに取り入れた「エンヤトット」だが、ソウル・フラワー・ユニオンに大きな影響を与え、民謡クルセイダーズもいる現在においては日本独自のダンス・ミュージックとして極めて自然に聴くことが出来る。結果的にここでも岡林はファーストペンギンだったのだ。
フォークを捨てロックに取り組んだ本作に話を戻すと、『見るまえに跳べ』はそんな岡林の偉大なる脱線主義第1号だといえる。山下達郎もライブのMCで「とりわけ好き」と発言し近年のライブでカバーしている“今日をこえて”は、1stアルバム『わたしを断罪せよ』にも収録されていたが、はっぴいえんどをバックに早々に飄々とやり直している。ファンキーなバンド・サウンドで朗々と「しがみつくのは もうやめさ」と歌う岡林の達観した色っぽさよ。また“自由への長い旅”の歌詞「信じたいために うたがいつづける 自由への長い旅を一人」は、そのまま彼の指針表明となっており、半世紀以上に渡るキャリアの全てがこの一節に集約されている。
音楽性は移ろいながらも、長らく田舎住まいのある種、都会の文明や潮流から隔世された環境で自分の音楽を探し続けるというスタイルにおいて彼はずっと変わらないのだ。75年ごろから京都府亀岡市に居を構え、今も精力的に全国でコンサートを行っている。岡林はフォークの神様ではなく、ずっとアンダーグラウンドの神様なのだ。
(1)『岡林、信康を語る』岡林信康 著、disk union(2011年)
(2)『日本フォーク私的大全』なぎら健壱 著、ちくま文庫(1999年)
岡林信康アルバム第二集 見るまえに跳べ
アーティスト:岡林信康
発売:1970年6月1日
収録曲
1.愛する人へ
2.おまわりさんに捧げる歌
3.性と文化の革命
4.自由への長い旅
5.私たちの望むものは
6.NHKに捧げる歌
7.堕天使ロック
8.ロールオーバー庫之助
9.ラブ・ゼネレーション
10.無用ノ助
11.今日をこえて
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WRITER

- 峯 大貴副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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