“ニュー・ニート”ゆうやけしはすが目論む、ローカルから興すロック・ルネッサンス
全国各地に散らばる地域に根差したインディペンデントな活動を日々追っているANTENNAだが、本稿ではソロ・ミュージシャンゆうやけしはすの目論見が水面下から徐々に動き出していることに注目したい。地元・藤沢で制作された1stソロ・アルバム『ニュー・ニート登場!!』の制作。レコードでのリリースのためのクラウドファンディングを実施し、見事達成。そしてこの度、自身が愛好するロックンロールの復権を掲げたイベントの企画にも着手。10月3日に手始めとして藤沢市江ノ島で1回目が開催された。そんなゆうやけしはすとはどんな音楽家なのだろう。彼の発言やイベントの模様も通して、解き明かしていく。
「ゆうやけしはす」こと林祐輔の存在はロック・バンドすばらしかのキーボーディストとして知った。有象無象の出来事からにじみ出る孤独と哀愁を孕んだ日本語詞やメロディ、ルーツ・ロックを一望しつつ斜めの視点からふてぶてしく鳴らすリズム&ブルースのアンサンブル。2017年の全国流通盤『灰になろう』でデビューして以降、現在も東京を中心に活動を続けているバンドだ。ライブで見た時の林はニッキー・ホプキンスばりのブギーなオルガンを弾きながら、フロントマンである福田喜充(Vo / Gt)とせめぎ合うようにがなり、吐き捨てる声でコーラスを入れていたのが印象的だった。
すばらしかの詞曲は福田が手掛けているが、林も“嘘は魔法”(2018年)と“彼女は搾取されている”(2020年)を残している。どちらもビートルズやスライ&ザ・ファミリー・ストーンのサイケデリックな側面をポップに濃縮しながらも、どこか虚ろな表情を湛えた楽曲だ。伸びた髪でヒッピーな風貌も相まって、すばらしかの中では確かなスパイス、いや劇薬的な存在感を放っていたのだ。
しかし林は自身のソングライターとしての表現欲求が高まっていき、2019年からはソロ・ミュージシャン「ゆうやけしはす」としての活動も開始する(すばらしかはその後2020年6月に脱退)。この名義はジム・モリソン(ドアーズ)が自身の名前のアルファベットを入れ替え「Mr Mojo Risin’」と名乗ったことにインスパイアされたアナグラムだ。1stアルバム『ニュー・ニート登場!!』(2019年)では福田喜充を始め、岩出拓十郎(本日休演)や石指拓朗など交流のあるミュージシャンたちも参加している。中でも田中ヤコブ(家主)が10曲に参加しパートナー的スタンスで関わっていることで、林の内面に蠢くルーツ志向が放出されたデッドな音質でありながらも、風通しよく聴こえるロックンロール・アルバムに仕上がった。
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自身を「ニュー・ニート」と自虐的に称したコンセプト・アルバムでもあり、“毎日が日曜日”や“11次元的逸脱的発想”を始めとする楽曲のそこかしこに現代社会への反抗的な皮肉やユーモアも垣間見える。しかし一方で単に無業者やならず者的意味合いだけではなく、60~70年代ヒッピーやフラワー・ムーヴメントへの憧れもあれば、東京のライブハウスを中心とするインディーシーンからも一歩距離を置いたインディペンデントでローカルな姿勢が込められたワードのようにも感じられるのだ。
本作のレコーディングは彼の地元であり、現在も住まう藤沢市、湘南・江ノ島の〈ACE GENERAL STORE〉で行われた。古着屋ではあるが美容室、サーフボードレンタル、飲食も併設しており、Suchmosのアルバム・ジャケットやツアーTシャツのデザインも手掛けているカルチャー・スポットだ。自分が信用できる人と共にクリエイティビティを発揮していくこと。古くから残っているものにはそれぞれ歴史と物語が詰まっていること。林はこの店やここに集う人々の感性に大きく影響を受けたという。YouTubeでは、ここに併設する美容院〈ROCKERS〉の佐藤裕大とSuchmosのYONCE、OK、KCEEを迎えたセッション動画を観ることが出来る。
そんなゆうやけしはすの次なる目論見として、ローカルなスポットで、自分のルーツであるロックンロールを盛り上げるイベントを興していくことを始めた。その動機について彼は次のように語る。
「自分は60年代のクラシックなロック・ミュージックが大好きでやってきた。今は下北沢のライブハウスを見ていてもシティ・ポップとかも含めて全部オルタナティブなものになっているじゃないですか。クラシックがあってのオルタナなのに。だからもっと古典的なロックを盛り上げたいと、すばらしかにいた時から思っていたんです。自分は〈THREE〉の『Block Party』※を間近に見ていた世代だから、あんな感じの場所がロックにもあればいいと思ったので、ちょっとずつやっていこうかなと」
※Block Party:2016~2019年に〈下北沢THREE〉で毎週末金曜日に行われていた入場完全無料のイベント『Block Party at shimokitazawaTHREE』。 2017年にはKiliKiliVillaとのダブルネームですばらしか、JAPPERS、CAR10、suueat.、Tha Bullshitらが参加したオムニバスアルバムもリリースされた。
その第1回目のイベントが10月3日に江ノ島の〈CURRY DINER OPPA-LA〉で行われるということで、筆者は足を運んだ。江の島ビュータワーの4階に位置し、外に目をやれば橋から繋がる江ノ島を一望できるスポットだ。共演に迎えたのはKiQ BAND、SHINSHIN BAND。林が「60年代のロックを大事にしている」という視点で共感を寄せるバンドを集めた。
KiQはやまのは(ex余命百年)のソロプロジェクト。フォーク・ロックとニューウェイブがゆっくり溶け合う過程を見ているような揺蕩うサウンドだ。そのアンサンブルによって徐々に陶酔感が襲ってくるが、やけに生活の匂いが立ち込めるやまのはの歌と対比されることで、歪なサウンドスケープを描いて引き込んでくる。続くSHINSHIN BANDはやまのはが引き続きギターを務め、ゆうやけしはすもキーボードに入った布陣。しんしん(Gt / Vo)の実直な歌がサイケデリック・ロックやレゲエに彩られていく。フロアと分け隔てのないフラットなステージからの演奏で会場の雰囲気は徐々に緩まっていき、観客の多くは地べたに座りながら楽しんでいた。
そして最後はゆうやけしはすによる弾き語りだ。世の中をおちょくりながらダルそうに歌う“1億円保険金殺人ブルース”から始まり、スライの和訳カバー“Runnin’Away”、フランスのスタンダードなポップ・ソング“夢見るシャンソン人形”を中年男性の悲哀に替え歌した“夢見るおじさん人形”など、彼のナンセンスなパロディ楽曲は怪しくも光り輝いている。かと思えばビートルズの“Martha My Dear”の実直なカバーや、問答無用で観客を沸かせるブギー“ブリブリブギウギ”など、ロックンロール愛を表明しながら多様な角度で聴かせられる器用な歌い手、弾き手であることを存分に感じさせるステージだった。
本来は彼が目指すイベント・コンセプトに合わせてバンドセットを目論んでいたようだが、折が合わず頓挫。やむを得ず弾き語りとなったそうだ。ロックを盛り上げる場所を作りたいという志は高い一方で、うまく立ち回っていくのはこれからという部分が残っているのも、また彼の音楽と一致していてほっとけない魅力がある。今後は地元・藤沢に留まらず〈原宿クロコダイル〉、〈国立地球屋〉、〈東高円寺UFO CLUB〉など……彼が嗅ぎ取ったロックンロールが残っている場所でもイベントを展開したいと考えているそうだ。
「誰もやらないから、自分が内田裕也になるしかないんで(笑)。グレイトフル・デッドのキャンプみたいな場所がいつかできるようになるのが理想です」
ゆうやけしはす アイキャッチ写真:佐藤麻衣
INFORMATION
日時 | 2021年11月6日(土) |
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会場 | 京都・西院 LIVE&SAKE 陰陽 nega-posi 〒615-0002 京都府京都市右京区西院東今田町40 |
料金 | 前売 ¥2,000 / 当日 ¥2,500 |
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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