岐阜拠点のシンガーによる、こそばゆい刺激に惹きつけられる作品
岐阜県多治見市を拠点とするシンガーソングライター岡林風穂(かざほ)。活動開始は2018年頃ということだが、筆者がその存在を知ったのは1年ほど前に名古屋のライブハウス〈KDハポン〉のライブスケジュールで目にした時だった。この名字にしてアコースティックギター弾き語りとなると、ついつい岡林信康を浮かべてしまったが、YouTube検索で出てきた“めっちゃめっちゃ春”を聴くと、繰り返される「全然悪びれた様子がない 地下駐車場にフルカスタム超高級車」という初めて歌詞で耳にするあっけらかんとした一節が妙に頭にこびりついた。
詞先で書かれたと思われるメロディの隙間を埋めるような詞が印象的な楽曲は、岡林信康などいわゆるフォークの形式とはどこか遊離していて、むしろ川本真琴やandymori時代の小山田壮平などを思わせる。しかし眠気を湛え、開き直り交じりの声で放たれる言葉の乱麻は、饒舌というよりただ日々を過ごす中で頭に浮かんだことを並べていったら、なんだか気持ちよかっただけと言わんばかりだ。こののんびりとした全能感こそが最大の魅力と言えるだろう。
今年に入るとkiss the gamblerと約半年に渡って全国のライブハウスを周るツアーを行うなど、岐阜・愛知エリアから外に向けての活動も積極的になる中で、本作は初の全国流通盤となる3rdアルバム。過去2作『風と穂』と『めっちゃめっちゃ春』は完全な弾き語り作品だったが、今年始動したバンドセット(岡林風穂 & RIVERSIDE GANG)と録音した“誘い”、“サービスエリアでソフトクリーム”や、名古屋在住のトラックメイカー/電子音楽家であるHouse of Tapesが参加したメランコリーなサウンドの“褒められたポメラニアン”、“SHIGEKI”など、アプローチは多彩になった。
全15曲と大作だが、まるで彼女との距離を確かめる56分のおしゃべりタイムのようだ。幼少時の記憶を思い出して共感を呼んだり、うまいことを言ったり、ちょっぴり悪態をついてみたり……。シニカルというほどではない、こそばゆいくらいの刺激が効いた言葉選びが心地いい。
「プールサイド走る子どもがおしなべてエリマキトカゲの走り方」“小さな失敗”
「水色のラパンで夜の高速道路 Bluetoothのスピーカーで聴く荒いスピッツ
子供の頃知らず知らず覚えた 美しく尖った言葉たちの連なり」 “褒められたポメラニアン”
「2番と3番の曲の隙間に長めの間奏があるから ここでは踊らなければいけません
そんな風に言われている気がする」“スライス・オブ・ライフ”
表題曲“刺激的な昼下がり”はその真骨頂。「ソフトクリームとクレープは出落ちだから」という見事なパンチラインも飛び出す、ルーズな日常に張り巡らされたあるあるワンダーランドといった様相だ。(次曲にアレンジverである“SHIGEKI”も収録)
素朴でささやかな作品であることは間違いない。しかし何でもない事象を愛おしくしたり、居心地悪くもしてしまう想念そのものに惹きつけられるシンガーが、岐阜にいるということを見せつけるには十分すぎる作品だ。
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刺激的な昼下がり
アーティスト:岡林風穂
発売:2022年11月30日
フォーマット:CD
価格:¥2,750(税込)
レーベル:TANUKINEIRI RECORDS
収録曲
1.私が育てたアロエ
2.誘い
3.小さな失敗
4.褒められたポメラニアン
5.ふたりで遠くに
6.サービスエリアでソフトクリーム
7.なんかすごい夢
8.りんごをウサギの形にした時の耳の尖り
9.スリーピースバンド
10.うつくしさ
11.スライス・オブ・ライフ
12.lovesick
13.こもれび
14.刺激的な昼下がり
15.SHIGEKI
岡林風穂
2018年より音楽活動を開始。アコースティックギターでの弾き語りの曲を主に、自主制作で1stアルバム『風と穂』、2ndアルバム『めっちゃめっちゃ春』をリリース。凛とした歌声、身の回りの出来事をユーモラスな切り口で歌いあげる。3rdアルバム『刺激的な昼下がり』は、初のバンドセットを収録した、初の全国流通盤である。
Twitter:https://twitter.com/kazaho_o
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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