「自分の音楽ってこれかも!」と辿り着いた喫茶ロック作品
2016年の結成以降、名乗ってきた「Bluems」から今年「生活の設計」とバンド名を改称。それから初作品となるアルバム『季節のつかまえ方』を楽しむことなんて実に容易い。飛びきりウェルメイドで、ポップ・アルバムとしての間口が広い逸品だ。今まで彼らのことを知らなくたって、頭からお尻まで聴けばいいだけである。とろけるようなメロディと甘酸っぱいグルーヴが口いっぱいに広がるだろう。
より深く味わいたくなったら “夢うつつ’19”も聴いてみることをおすすめしたい。Bluems時代の2019年に発表された楽曲で、今回の音楽性へと大きく方向転換するきっかけとなった。この時初めて取り入れたというメジャーセブンスやテンションを加えたコード感など今に至る連続性を舌先に感じながら、まだ幾分オイリーでガツンとロックしているテイストを比べてみるといい。
そしたらもう彼らの音楽の虜だ。さらに遡ってBluemsの他の楽曲や、大塚真太朗(Vo / Gt)と大塚薫平(Dr)の兄弟が在籍していた前身バンド、恋する円盤(2011~2015年)まで聴いてみるのもよし。また“夢うつつ’19”から本アルバムに至る鍵となった「喫茶ロック」の文脈にある音楽、シュガーベイブや、稲村一志と第一巻第百章、カーネーション、ママレイド・ラグ、ゲントウキ、Lampなどに移行していくのもよし。もちろんシティポップの諸作でも構わない。ここまで聴けばもう抜けられないだろう。
……おっと。『季節のつかまえ方』を真正面から楽しんでもらうべく書き始めたが、ついついこれまでのキャリアや、本作のリファレンスにまで飛び火してしまった。しかし音楽を聴くという行為そのものに対する愛おしさ、彼らの横軸 / 縦軸上にある音楽にまで滑らかに興味が移り行く心地など、久しぶりのツボを刺激されたような感動が押し寄せてきたことを告白しておきたい。
そしてその魅力は、それまでガレージロックに日本語詞とメロディを乗せることを命題としていたBluemsの3人が、前述の“夢うつつ’19”で今までと違う手ごたえを知覚し、2000年代初頭に言語化・キュレーションされた「喫茶ロック」を発見。これが近しいものだと定義づけ(ここには「シティポップとは違うのか?」という吟味の過程も含まれる)、一心不乱に血肉化していった道程によって備わったものであろう。つまり「自分の音楽って実はこれかもしれない!」と気づいたピュアな高揚感による部分が大きい。しかもバンド名まで変えてしまうほど高い熱量の。
一方で重要なのは本作が「喫茶ロック・ラヴァーによるアルバム」ではなく、あくまで「ミュージック・ラヴァーが喫茶ロックのフォーマットを取り入れたアルバム」であること。Aメロまで終始「A♭on B♭」の1コードで進行する“ありふれた銀河”は喫茶ロックと呼ぶにはファンキーすぎるし、“最近どうなの”での辻本秀太郎(Ba / Cho)が弾くベースラインはあまりにおしゃべりだ。“雨の匂いはメッセージ”のアウトロではNeil Sedaka(ニール・セダカ)の“Laughter In The Rain(雨に微笑を)”を大胆に引用しているし、“むかしの魔法”のアレンジはThe Fifth Avenue Band(フィフス・アベニュー・バンド)の“Nice Folks”が下敷きになっている。喫茶ロックを参照しているが、その枠組みにあてはめようとしていないところはむしろしたたかさを感じるのだ。また最終的には真太朗の書くメロディと歌詞、そして歌声に備わる、恋する円盤時代から一貫した人懐っこさとカラッとした明るさがあればブレるはずがないという自信もある。
バンド名の由来はErnst Lubitsch(エルンスト・ルビッチ)監督による、1933年製作のソフィスティケイテッド・コメディ映画のタイトルから。今回自らの音楽性を「設計」し直したことも踏まえた、座りのよさを感じる。季節を描いた楽曲も多く、それゆえに冠した『季節のつかまえ方』というアルバム名も含め、オリジナルのメソッドを体得した喜びに満ち溢れている作品だ。
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季節のつかまえ方
発売:2023年4月19日(水)
フォーマット:CD / デジタル
価格:¥2,000(税込)
配信リンク:https://lnk.to/kisetsu_no_tsukamaekata
収録曲
1. 季節のつかまえ方
2. 昼に起きれば
3. ありふれた銀河
4. 雨の匂いはメッセージ
5. 永夜想街
6. 最近どうなの
7. 春にして君を離れ
8. 海辺のできごと
9. むかしの魔法
アコースティック編成ワンマンライブ『季節のつかまえ方』解体編
日時 | 2023年5月13日(土) |
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会場 | 梅ヶ丘 hmc studio |
出演 | 生活の設計(ワンマンライブ) |
料金 | ¥3,000(+1drink) |
チケット | https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSe-SwtIPKEmWNp3FpV4DLwnVSody3-ytFNrEDMi59zYaThh0w/viewform |
アルバム発売記念ワンマンライブ『季節のつかまえ方』実践編
日時 | 2023年6月2日(金) |
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会場 | 青山 月見ル君想フ |
出演 | 生活の設計 |
料金 | ¥3,200(+1drink) |
チケット |
生活の設計
東京を中心に活動する3人組バンド。
2016年1月 前身バンド“恋する円盤” のメンバーだった大塚兄弟を中心に5人組バンド“Bluems” として大学の音楽サークルで結成。
2016年8月 結成から半年にして「SUMMER SONIC 2016」出演。
2018年8月 メンバー脱退を経て3人編成となる。
2018年12月 1stミニアルバム『恋について』をリリース。
2020年2月 両A面シングル『夢うつつ’ 19 / Modern Tears』をリリース。
2023年 バンド名を“生活の設計” に改名し、1stフル・アルバム『季節のつかまえ方』をリリース。
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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