INTERVIEW

あがた森魚による音楽集会『タルホピクニック』とは何だったのか?

今年デビュー52周年を迎えるミュージシャンのあがた森魚が、2024年6月16日(日)に東京都北区・王子の〈飛鳥山公園〉でフリーコンサート『ラストタルホピクニック』を開催した。コロナ禍などの社会状況への問いかけとして2020年6月から毎月開催してきた音楽集会『タルホピクニック』が「ラスト」と銘打ったその意図とは?またライブイベントでも、デモ集会でもない『タルホピクニック』とはそもそもなんなのか?当日のレポートとあがた森魚へのインタビューで解き明かす。

MUSIC 2024.07.16 Written By 峯 大貴

第1部:パレードはいつまでも終わらない -『ラストタルホピクニック』レポート

6月16日、筆者はJR王子駅に初めて降り立った。まぶしいくらいの日差しにクラっとするが、気温は30度を少し超えるくらい。どちらかと言えば昨日の雨による湿度の高さが、うだるような暑さをもたらしていた。とはいえ梅雨のこの時期に見事晴天に恵まれてしまう、音楽家・あがた森魚の神通力ったら。

 

『タルホピクニック』とは、あがたが王子駅近くにある〈飛鳥山公園〉で行っている月例音楽集会だ。あがたが敬愛しており、作品や彼の発言にも度々登場する作家・稲垣足穂(1900年~1977年)の月誕生日である26日の前後に、楽器を持ち寄った参加者たちと演奏しながらパレードをしている。

 

コロナ禍に突入した2020年6月に「ギターを背負って歩く練習」と称して始めてから、丸4年。第49回目となる6月16日の開催は『ラスト』と称し、〈飛鳥山公園〉にある野外ステージ「飛鳥舞台」でのフリーコンサートと併せて開催されることを発表した。あがたによるステートメントでは「丸4年、毎月、行ってきた『タルホピクニック』をひとつの区切りとして6月16日を未来への展望とする」と、余白を残しながら。

 

事前にアナウンスされていたこの日のスケジュールは、13時30分に〈飛鳥山公園〉の麓に集合。1時間ほどかけて公園中を練り歩き、飛鳥舞台に到着して30分ほどフリーコンサートを行うというもの。予定している演奏曲、楽器は各自持ち寄り、曲を知らない方も途中参加、途中離脱自由、観覧フリーという注釈は、他の音楽イベントと一線を画している。

予定されている13時30分。集合場所に到着するともぬけの殻で、数10m先の方に、ひと際にぎやかな群衆がいる。どうやらあがたが予定より早く歩き始めたらしい。この時点で50人近くはいるだろうか。常連の参加者に聞くと普段の倍以上はいるとのこと。それぞれ持ち寄る楽器はギター、ベース、パーカッション、ラジオ、アコーディオン、バイオリン、一番数が多いのはあがたが特に熱を入れているアフリカの民族楽器、シェケレだ。あがたが演奏を先導。循環するコード進行が参加者たちに伝播し、波紋のように広がっていくことでメロディとグルーヴを形成していく様は今まで感じたことのない音楽体験だった。

群衆はあがたを先頭に王子駅から上中里駅方向へと行進を開始した。JR京浜東北線と〈飛鳥山公園〉に挟まれた「飛鳥の小径」をゆっくりと進む。あじさいの名所で知られるこの道だが、この日が今年一番の見頃であり、あがたはどうしてもこの日にやりたかったそう。写真を撮りにくる一般の通行人も多く、通行スペースの確保を徹底してパレードしていく。群れから長い長い一列になることで徐々に先頭の演奏は、後方まで届かなくなり、ずれていく。そのうち公園に入る階段を登り、跨線橋を渡りながら折り返すことで、列の先頭が後方と再び出会い、また演奏がジャストになっていく。このパレードしながらアンプラグドで音を出すことによる、グルーヴの伸縮、音のうねりこそが『タルホピクニック』の音楽的特徴の一つだと言えるだろう。

公園内に入り、再び列は大きな一群となり演奏は一体感を取り戻す。あがたは時折、参加者の一人に目くばせし、ソロパートを取らせていく。一般の公園の利用客は何をしているのか不思議な眼差しを向けるものもいれば、気になって付いてくるものもいれば、「あがたさんがまたやっている」とすっかりこの公園での日常の風景として見る家族連れもいる。児童エリアに展示されている都電6080の保存車両を通り抜け、噴水広場までたどり着きパレードはいよいよクライマックス。あがたはシェケレを持った参加者10人ほどを集め、全員が一斉に振り出し、“ブリキ・ロコモーション”の演奏を開始した。1980年代前半にあがたが「A児」と名前を変えて取り組んでいたニューウェイヴ・バンド、ヴァージン VSとして発表された楽曲だ。「シュワットベイビー・ロコモーション」と歌詞を繰り返しながら、目指す先は飛鳥舞台。あがたを待ち受けるように、今回のイベントの実働面をサポートしている《Waikiki Record》のサカモトが率いるバンド、ELEKIBASSを中心としたメンバーが続々とステージに並んでいく。そこにあがたもゆっくりと到着。3カウントで、PAを通した大音量での“ブリキ・ロコモーション”が始まる。シームレスにフリーコンサートへとなだれ込んだのだ。

驚いたのは、ここまでパレードしてきたシェケレを始めとする楽器隊も演奏に加わり続け、プロアマ問わず20~30人がステージ上に結集していること。演者と観客、コンサートとピクニックの垣根をにじませ、この場所に集った人全員を表現者にしてしまうアートフォームに感動してしまった。飛鳥舞台周辺まで視野を広げるとざっと見る限り150人ほどが集っていた。

 

その後も“MEZCAL (はじめに歌ありて)”、“俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け”とコールアンドレスポンスや観客と一体となって歌う賑やかな楽曲が続いていく。その後、代表曲である“赤色エレジー”では楽器隊は一度ステージを降り、“春の嵐の夜の手品師”では大きな紙を持ち出しパフォーマンスをするなど、あがたの指揮により、コンサートはさらに厳かな雰囲気を醸す。終始MCは控えめであったが「今日の『タルホピクニック』は一応ラストとしているけど……また来月ここに来てみればわかる!今日はありがとう!」とその真相は濁しながら、“大道芸人”と“太陽がくれた海の日々”を披露して約45分ほどのフリーコンサートを終えた。

……が、しかし『タルホピクニック』はまだ終わっていない。「これからこっちの楠の森の方に去っていくからさ、時間がある人一緒に来て!最後は音無川の方までいくかもしれない」と言って、“太陽がくれた海の日々”の演奏を続けながら、ステージを降りて再びパレードに戻る。小休憩を挟みながら、飛鳥山を飛び出し、歩道橋を渡り、都電荒川線を挟んで向こう側に位置する〈音無親水公園〉まで、さらに40分ほど練り歩き続けたのだ。

 

この今まで味わったことのない音楽体験での気づきは大きく二つ。一つはこの日の暑さも伴って最初から最後まで見届けるだけでも筆者はすっかりバテてしまったが、前後のパレードとコンサートを悠然とやり切ったあがたの強靭なバイタリティだ。そもそも1972年に“赤色エレジー”で旋律なデビューを飾り、本曲やこの日披露された“大道芸人”が収録された『乙女の儚夢』(1972年)を始め、先鋭的なコンセプトアルバムを50作以上も世に放ってきた、日本音楽界の巨人である。今年76歳を迎える今なお、大勢の有志たちを巻き込んで、まだ目の当たりにしたことのない光景を作り出そうとする実行力と体力に魅せられてしまった。

 

そしてもう一つ、『タルホピクニック』はこの日「区切りをつけた」だけで恐らく続くだろう。ただどう続くかはまだあがたの胸の内にのみある、いやそれすらないかもしれない。ではなぜ今、このタイミングで『ラスト』と銘打ったのだろうか、そもそも『タルホピクニック』をあがた本人がどのような考えを持って続けてきたのか、聴いてみたくなった。

第2部:あがた森魚が総括する『タルホピクニック』

『ラストタルホピクニック』から3日後。あがた森魚本人から話を訊く機会を得て、彼が20年以上住まう埼玉県川口の街に赴いた。杖をつきながらゆっくりと取材場所に現れた彼の顔には、大きなイベントを終えたことによる安堵と、まだ少し残る疲労がうかがえた。

 

しかし、ひとたび今回語ってほしかった「『タルホピクニック』とはなんだったのか?」について質問を投げかけると、熟考しながら、大きく横道に逸れながら、タイトルにも冠した作家・稲垣足穂の言葉を借りながら、洪水の如く語ってくれた。まるで話しながら、今もまだ答えを探っているかのように。

 

今なおフレッシュなアイデアでアルバムや映画の製作を続け、昨年にはヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』にも俳優として出演するなど、多作で多面的なあがた森魚の世界。その50年以上を誇るキャリアの中で、2020年代というディケイドに色濃く刻み込まれた、運動?デモンストレーション?ギターを背負って歩く練習?である『タルホピクニック』について、本人と総括を試みた。

コロナ禍に始めた個人的な営みから、人が集い、パレードへ

──

『ラストタルホピクニック』の開催前、スタッフに向けて「今年と来年は自分にとってすごく重要になる」と仰っていたそうですが、なぜそう捉えているのでしょうか?

あがた

自分がキングレコード傘下の《ベルウッドレコード》の第1弾アーティストとしてデビューしたのは1972年。この年は既存のポップスや歌謡曲、演歌に当てはまらないフォークやロック、後のニューミュージックを手掛けるようなレーベルがメジャーレコード会社の中にもできてきた重要な年です。でも決して自分自身でデビューを狙っていたわけではなく、1971年にたまたま『全日本(中津川)フォークジャンボリー』で“赤色エレジー”を歌っているところを見た、ベルウッドのプロデューサー三浦光紀さんが面白がった。あい前後してはちみつぱいとも出会い、早川義夫さんとも出会い、いろいろなことが偶発的に起きたことで世に出るようになり、もう50年以上経ちます。だから今年や来年が重要だと感じるのも、何かの機運に吸い寄せられているところはある。もちろん、現実的に僕の実年齢からくる焦りみたいなものも、ないわけではない。

──

あがたさんは今年76歳を迎えます。先日の『ラストタルホピクニック』に私も参加させていただきましたが、炎天下の中で約3時間に渡るパレードとステージの演奏をこなされていて、その体力とバイタリティに驚きました。

あがた

そのことは記事の中で触れてほしい(笑)。でも健康状態や、いろいろな考え方やスタイルの人がいるからね。ただバイタリティやクリエイティビティがずっとあって、活動を続けていればいいわけではない。ずっと迷いながらやっています。僕もライブのMCでは「後期高齢者になりました」ってネタっぽくいったりするけどさ。

──

制作においても、2011年から10年間は毎年アルバムを出す計画をされていましたが、2020年代に入ってもペースは衰えず、多作傾向は現在も続いています。

あがた

欲深いというか……ずっと達成感がないんですよね。だから今回、4年ほど続けてきたこの『タルホピクニック』を「ラスト」と一区切りをつけたのも、たとえ小さくてもエポックになるような達成感が欲しかったのかもしれない。

──

『タルホピクニック』は2020年6月に始動。あがたさんの創作にも影響を及ぼし続けている作家・稲垣足穂さんの月誕生日である26日前後に開催されてきました。毎月続けてきたものを「ラスト」としたのも達成感を得たかったのが一番の理由だったのでしょうか?

あがた

このままの形で月1回、ずっと続けてもいいはずなんです。そもそもはコロナ禍が来て、ライブも何もかもできなくなった現象に対する問いかけとして、「ギターを背負って歩く練習」という一個人の営みとして始めました。そこから徐々に人が集まって、円盤少女やThe Rollsのメンバーがしょっちゅう来てくれたり、みんな楽器を持ってくるようになって、演奏しながら練り歩くようになる。徐々に『タルホピクニック』が僕の中でのコロナ禍における表現の母体になっていって、大きなテーマであり課題にもなっていった。それがうまくやりくりできなくなっていったという部分もなくはないです。

──

行動制限があったコロナ禍での活動として始まりましたが、制限が撤廃されたここ1~2年は、その意味合いも変わったのではないでしょうか?

あがた

仰る通りです。おわかりいただきにくい話かもしれませんが、ロックが政治とも宗教とも、経済、商業、テクノロジーとも切り結び、また切り離されていた、1960年代のウッドストックやヒッピーイズム、サマー・オブ・ラブにも通じるような……自分たちの生きている証みたいな独自の運動形態ですよね。つまり『タルホピクニック』はリアルタイム性を持ちながら、自分たちらしい営みを行う一つの拠点である、とは言えると思います。

 

ただ2020年6月に始まり、数ヶ月〜半年~1年、そしてコロナが明けて3年、4年と続く中で、もっと様々に展開していく可能性もあった。でも割とコロナ禍に確立された範囲の中で継続してしまった感じもある。それは悪いことではない。今ではどんな時でも毎回数10人は集まるんだから。ギャラが出るわけではないのに、『タルホピクニック』の持つ魔力に惹かれて集まってくれる。なんて贅沢なことでしょう。ただ僕も70代後半~80代のここから何ができるのか考えて、自分の中の妄想も広げたときに、『タルホピクニック』をどうしていくか。ひとまず出した小さな結論として一区切りをつけようと思ったんです。

『タルホピクニック』とは社会と向き合いながら、自分らしく生きていく中で表出するグルーヴ

──

実際にパレードや野外ステージでのライブを観て印象に残っているのが、演者と観客、コンサートとピクニックの垣根がまるでなかったところです。客席からステージを観るという構図のライブハウスやコンサートホールでは実現できない、フレッシュな音楽表現だなと感じました。

あがた

観客は演奏者である僕たちを見ている。でも僕たち演奏する側にとっては、観客という存在をなくしてしまっても問題ない。その状態が『タルホピクニック』なんです。ここに集まった私とあなたで生み出されるものであり、観客という概念がないことで成立していると言ってもいい。別にエキセントリックでダダイスティックでシュールな表現がやりたいわけではない。コロナやいろいろな社会情勢の中で、キャリアやテクニック、どんな人かも関係なく、シェケレを振って、ギターを鳴らして、トランス状態になっていることに、それぞれがどんな意味を見出すのかが重要。

──

各々がシェケレや、パーカッション、ギター、ベース、アコーディオン、ラジオまで持ち寄ったり、たまたま遭遇した人も「これはなんのデモですか?」と気になって自然とパレードの列に交じっている。とことん自由なのに空気を乱す人がいなくて秩序が保たれているのがまた素晴らしいです。

あがた

それ自体はどこかのお祭りでも、ジャムバンドやセッションイベントでもよくあることなのかもしれない。僕が作りたいのは、観客にシェケレ渡して「あなたもこれ振って」と巻き込むのではなく、気が付いたら観客も演奏者もわけわかんなくなって一体になっている状態なんです。この前の「ラスト」はそれに近い状態が実現できていたのかもしれないね。パラドキシカルな幸福をあの場所にいるみんなと分かち合えた。

──

そもそもシェケレは『タルホピクニック』を象徴する民族楽器ですが、注目したのはなぜですか?

あがた

20年くらい前に、久保田麻琴からブラジルに行こうと誘われて、カーニバルの時期を目掛けて2年連続で行ったんです。彼はその時ブラジル音楽のノルデスチのルーツを探求していました。ノルデスチのサウンドにはシェケレが大きな役割を担っていて、ある地域の祭りに行ったら、30人以上の女性たちがシェケレにもついているビーズの文様の服を着て、ターバン巻いて、一斉に振ってグルーヴを作っていました。シェケレはこうやって首を持つようにして振るんだけど、僕にはそれが子どもを抱いてあやしているように見えたんですよね。単なる演奏ではなく、この地域に住まう方たちの有様を表現しているようで、すごく感銘を受けました。これをいつか自分もやってみたいと常々思っていて、ようやく『タルホピクニック』が合致したんです。

──

あがたさんが意識的に持ち込んだものだったんですね。

あがた

そうなんです。だから本当は『タルホピクニック』でもみんなで一体感のある衣装を着て、もっとシェケレの人数を増やして、あの時体感したグルーヴを自分たちだったらどう作れるか、というところまでもっとためしたかった。自発的にそういう機運が生まれたらいいなと。でもあくまでこの営みは「今日は時間があったから遊びに来ました」というだけでもいい。コロナや社会情勢と向き合う時に、いろんな情報があるけど、最後に判断を下すのは自分です。人間の朗らかさ、愚かさを感じたり、考え方の違う個が群れになる時の混乱もありながら、自分たちらしく生きている中で表出するグルーヴ。それが『タルホピクニック』なんだから。

──

あがたさんが旗を振っている営みだけれども、決してあがたさんの求める表現をみんなで実践するプロジェクトではない。あくまで「僕はこうするけど、あなたはどうするの?」と投げかけて、それぞれがどう反応・判断するかで成り立っている。あがたさん自身が『タルホピクニック』の頭数の一人であるとも言えますが、ご自身の活動にはどのようなフィードバックがありましたか?

あがた

それはいい質問だね……。僕は歌い手だからあくまで「音楽」として表現したいんです。ノイズもあっていいけど、複雑すぎないもの。これだけの人数でシェケレを振ったり、いろいろな楽器を鳴らせば、倍音でうねりが生じる。なぜうねるのか、そのうねりとは何なのか確認しようにもわからない。自分の出す音に集中しながら、普段の自分から解放されながら、第三者とどう向き合うのか考えながら。スコア通りの演奏ではない、様々な可能性がある中で行う、このジャムセッション、インプロビゼーション、アドリブ……。これは今の非常に危うい世界情勢や社会に対する、僕たちなりの音楽を用いたデモンストレーションになるんじゃないかという期待は持っています。古典的な言葉を使えばアナーキー(無政府状態、自己決定)で、偶発性を残したまま、「音楽」を鳴らす。これは僕にとってすごく大事な経験になった。

 

実は今回「ラスト」と銘打つにあたって、さらにいろいろな人に声をかけて来てもらおう思ったけど、できなかった。気おくれしたんです。自分が飛鳥山というお山の大将になってどうするんだという問いかけもあった。でもそれをしなくたって、今回は非常に不特定多数の人が集まって、本当に有意義な時間だった。もっと自信を持たないといけない。

──

常に偶発性を残し、自分の判断で参加を募っていた『タルホピクニック』だったからこそ、豪華なゲストに声をかけて華々しくやるのではなく、これまでの延長線上で開かれて多くの人が集まった特別な回になったのは、非常に全うで誠実な「ラスト」だったと思います。

あがた

そう理解してくれることはとてもうれしい。『タルホピクニック』はこの4年間で培われた強力な軍団によるデモンストレーションではない。常にありのままに流動していることを忘れないようにしなければならない。そのことによって集権化された権力や、人々を悲惨なことに巻き込んでいく現在への抵抗や問いかけでもあるんです。

やめるでも続けるでもなく「区切り」を付け、あがたはまた次の旅に出る

──

今後の『タルホピクニック』について、ステージでは「また来月ここにくればわかる!」と仰っていていました。あくまでも「区切り」であり、続く可能性も示唆されていましたが、どのように考えていますか?

あがた

どうなるだろうね……。これっきりにするのか、『タルホピクニック・アゲイン』をやっていいのか、はたまた違う場所でやるのか。やるならやっぱりブラジルのノルデシチでやりたい。じゃあカーニバルにあわせて来年の2月か(笑)

──

2020年に「あがた森魚」名義での作品制作を辞めることを宣言し、「あがた森魚るびぃ」名義に移行していましたが、昨年12月の『遠州灘2023』から再び「あがた森魚」に回帰しました。全国各地を旅しながら、様々な変化や決断をしながらも、その時々の成り行きに身を任せているのが、あがたさんなので、いつの間にか『タルホピクニック』が復活しているのも十分ありうるし、少なくとも今回参加した人たちはその覚悟ができているとは思います(笑)

あがた

ソロシンガーは解散できないからね。ヴァージンVSで「A児」と名乗っていたこともあるけど、変身したり区切りをつけたくなる時期はくるんです。とにかく今は『ラストタルホピクニック』を終えて、この4年ほどやっていたことはまんざらなことではなかったと知ることができた。飛鳥山で行われる小さなデモンストレーション、シェケレによるグルーヴ、稲垣足穂の世界観などいろいろな要素が融和している欲張りな営みでした。もっと盛大に、もっと自分が考えていたテーマが届くようにしたかった気持ちもなくはない。でもこの規模でも十分だった。ともかく不特定多数の人々が集まって音のグルーヴをたしかめあう。その体験が貴重だった。すごく満足しています。

──

このあがたさんが始めた営みから何か受け取った人が、次の『タルホピクニック』的な何かが生まれてくるような気すらします。

あがた

今まで関わってくれた人が何かの気配を察知したり、次の表現や行動に繋がるかは確かに重要ですね。先にやったからすごいというわけじゃなくて、でも50年後、100年後、こういう形のものがもっと面白くなって存在しているかもしれない。まさに稲垣足穂の『美のはかなさ』的であり、吉田兼好の徒然草にも通じる未来系デジャブ感(既視感)です。

Photo:高梨はるの

あがた森魚のキンダーロック

日時

2024年10月1日(火)
open 18:30 / start 19:00

会場

北トピア つつじホール

出演

あがた森魚

料金

一般 ¥5,500(全席指定)/ 小学生以下¥1,500
※2歳以下は保護者の膝上鑑賞に限り無料。お席が必要な場合はチケットをお求め下さい。

チケット

https://eplus.jp/sf/detail/4135510001-P0030001

WRITER

RECENT POST

REVIEW
出会い別れ、痛み哀しみ喜びを意地でもポップスに昇華する、美しくも生々しい4作目-路地『わかりあえない…
REVIEW
東京であぐねる一人の社会人による暮向の記録-砂の壁『都市漂流のために』
INTERVIEW
こぼれ落ちてゆくものに眼差しを向けるーリクオがこの世界で想像力を維持していくための『リアル』
REPORT
『春一番 2024』後編 ー 福岡風太が命を燃やしている
REPORT
『春一番 2024』中編 ー 継承しながらそれぞれの道を行く、二代目たちの群像
REPORT
『春一番 2024』前編 ー 福岡風太が生きてるうちは、この野外コンサートをやり通す
INTERVIEW
新たな名曲がベランダを繋ぎとめた。 新作『Spirit』に至る6年間の紆余曲折を辿る
COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レ…
REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest …
INTERVIEW
孤独な青年の思春期が終わった、 LAIKA DAY DREAMなりのグランジ作品『Shun Ka S…
REVIEW
この先鋭的なバンドサウンドは、2020年代の京都音楽シーンを代表する-YUNOWA『Phantom』
INTERVIEW
Ribet townsは12人組プロジェクトチーム!? 現代社会を楽しく生き抜く処世術を歌う、新作に…
REVIEW
松井文『窓から』-歌い手としての自分を見つめ直した、3枚目の1stアルバム
REVIEW
畠山拓郎“September”-KANの遺伝子も感じるニューポップスターによるソウルバラード
REPORT
発令!アジアに向けた日本からの開国宣言-BiKN shibuya 2023 クロスレポートNo.1
INTERVIEW
「日本とアジアを混ぜっ返すんだ!」アジアン・ショーケース『BiKN shibuya』に至る衝動
REVIEW
劇伴音楽を経て、本格的にバンドとなったロマンたっぷりのロックサウンド-KiQ『空想』
INTERVIEW
「おせっかい」な京都のスタジオ、マザーシップ。エンジニア野村智仁が語る、人付きあいと音作り
REVIEW
Tocago『Wonder』- 沖ちづるの音楽にかける熱意に再び火が灯るまで
INTERVIEW
歌うたいは人たらし。小野雄大が仲間と共に自分の歌を見つけるまでの道程
COLUMN
〈Penguinmarket Records〉作品ガイド
INTERVIEW
「Music has no borders」を掲げ、京都から世界へ-Penguinmarket Re…
REVIEW
多様な可能性のごった煮状態という意味での“GUMBO”- 砂の壁『GUMBO』
INTERVIEW
ソー・バッド・レビューから続く道。 シンガーソングライター&ピアニスト / 翻訳家 チャールズ清水…
REPORT
『春一番 2023』後編 ー 平和を夢見る福岡風太が仕掛けた、音楽による革命の実験場
REPORT
『春一番 2023』前編 ー 「祝」でも「終」でもない、大阪名物野外コンサートのゆくえ
INTERVIEW
「大阪を代表するバンドになりたい」ショーウエムラ(アフターアワーズ)が語る、地元に育てられたバンドマ…
REVIEW
生活の設計『季節のつかまえ方』 ー 「自分の音楽ってこれかも!」と辿り着いた喫茶ロック作品
REVIEW
屋敷『仮眠』 – のんびりとした虚無感、幻想的だが後味の悪さもある、積層的なフォーク作品
REVIEW
FALL ASLEEP#3 全曲レビュー
REVIEW
幽体コミュニケーションズ『巡礼する季語』 – 言葉とサウンドをコラージュ的に組み合わせ、季節を描く京…
INTERVIEW
スーパーノアが語る、『ぬくもりはたしかに』に込めたリズムと歌の最適解
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2022-世田谷ほっつき歩き編
REVIEW
Eri Nagami『ど​ち​ら​か​と​い​う​と​そ​う​思​う(Moderately Agre…
REVIEW
岡林風穂『刺激的な昼下がり』 – 岐阜拠点のシンガーによる、こそばゆい刺激に惹きつけられる作品
REPORT
ボロフェスタ2022 Day4(11/6)- クリープハイプ、リベンジ。過去2年を取り戻す気概の最終…
INTERVIEW
マーライオン、変わる!-もっとみんなに喜ばれる音楽をつくるための模索と研鑽
INTERVIEW
生活は変われど、再び日々を鳴らし始めた路地の『KOURO』
REVIEW
ヨットヘヴン『健康快樂』 – 今を楽しく生きようとする生活者の歌
REVIEW
ガリザベン『ほっぺのかんじ』 – シャイとユーモア、関西に息づくブルースが香り立つうた
COLUMN
たけとんぼ 平松稜大・きむらさとしに影響を与えたアルバム5選
INTERVIEW
伝道と更新を目指すアコースティック・サウンド – たけとんぼインタビュー
REVIEW
kiss the gambler “ベルリンの森” – 自分の心の居場所はどこにある?
REVIEW
KiQ『FuU』ー多彩な仲間と共に漂着した、退屈な日々を彩るフォーク・ロック
INTERVIEW
音楽のアーキビスト、金野篤が体現する「売りたいモノは自分で作る」という生き方
REVIEW
kiss the gambler “台風のあとで” – 折り合いのつかない喪失感を歌う素直さに胸が打…
INTERVIEW
大石晴子が探る、これからの生きていく道とは ー『脈光』インタビュー&全曲解説
REVIEW
伏見◎Project “Dawn-town” – 京都伏見を冠するニュー・コンボによるムーディーな楽…
REVIEW
みらん『Ducky』 – 22歳の今しか表現できないことを歌っている、理想的なデビュー作
REVIEW
徳永憲『今バリアしてたもん』何重にもねじれたユーモアが満載、歌とアコギが主体の12作目
REVIEW
国でも建てるつもりなのか – グッナイ小形
REVIEW
NEKOSOGI – NEKOSOGI
REVIEW
たまき – 門脇沢庵
REVIEW
夢の日々 – ミチノヒ
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2021年の5曲 Part.2
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2021年の5曲 Part.1
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2021-武蔵野散歩編
REVIEW
FALL ASLEEP#2 全曲レビュー
INTERVIEW
ぶっちゃけ上京ってどう?-ベランダ×ギリシャラブ×Crispy Camera Club 京都発・東京…
INTERVIEW
いちやなぎとひらまつ-平成6年生まれ、ウマが合う歌い手の2人
COLUMN
「シーン」から「モード」に移ろいゆく – 京都音楽私的大全
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2021 Day3 – 2021.10.31
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2021 Day2 – 2021.10.30
COLUMN
“ニュー・ニート”ゆうやけしはすが目論む、ローカルから興すロック・ルネッサンス
INTERVIEW
グローバルな視野を持って、ローカルから発信するーリクオが『リクオ&ピアノ2』で打ち出す連帯の姿勢
REVIEW
ズカイ – たくさん願い溢れて
INTERVIEW
みらんと話した日ー兵庫在住シンガー・ソングライターによる互いの気持ちを尊重する歌を探る
INTERVIEW
つくるひとが二人、はみ出す創作を語る-井戸健人×畠山健嗣 対談
REVIEW
秘密のミーニーズ – down in the valley
REVIEW
ラッキーオールドサン – うすらい
COLUMN
ご当地ソングからはみ出る方言詞|テーマで読み解く現代の歌詞
REVIEW
ベルマインツ – MOUNTAIN
INTERVIEW
もどかしくもシンプルを求めトガっていく。シャンモニカが語る『トゲトゲぽっぷ』
INTERVIEW
シンガーソングライターという自覚の芽生え – ぎがもえかインタビュー
REVIEW
たけとんぼ – 春はまだか / 旅の前
REVIEW
いちやなぎ – album
REVIEW
ショーウエムラ – 大阪の犬
INTERVIEW
2020年をポジティブに転化するために - 中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)が語る新作『ハビタブ…
REVIEW
かさねぎリストバンド – 踊れる
COLUMN
従来のイメージを跳ね返す、日本のフォークの変革 - 『#JAPANESE NEWEST FOLK』前…
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2020
COLUMN
編集部員が選ぶ2020年ベスト記事
COLUMN
〈NEWFOLK〉作品ガイド
INTERVIEW
音楽のすそ野を広げる、影の歌の送り手 - 〈NEWFOLK〉主宰 須藤朋寿インタビュー
INTERVIEW
自分の言葉を持つ人の歌が、心に入ってくる - 浮(BUOY) インタビュー
REVIEW
クララズ – 台風18号
INTERVIEW
“2023”で次の扉を開いた3人のハイライト – ベルマインツ インタビュー
REVIEW
岡林信康 – 岡林信康アルバム第二集 見るまえに跳べ
REVIEW
田中ヤコブ – おさきにどうぞ
REVIEW
上田正樹と有山淳司 – ぼちぼちいこか
REVIEW
ザ・ディランⅡ – きのうの思い出に別れをつげるんだもの
REVIEW
Bagus! – 恋はうたかた
REVIEW
ベルマインツ – ハイライトシーン
REVIEW
ヤユヨ – ヤユヨ
INTERVIEW
清水煩悩との雑談(後編)– 天川村から新たな船出『IN,I’M PRAY SUN』
REVIEW
小野雄大 – 素粒子たち
INTERVIEW
覚悟が決まった第二章 – Easycome『レイドバック』インタビュー
INTERVIEW
生きている日が歌になる – ダイバーキリン『その美しさに涙が出る』インタビュー
REVIEW
のろしレコード – のろし
REVIEW
松井文 – ひっこし
REVIEW
gnkosaiBAND – 吸いきれない
REVIEW
イハラカンタロウ – C
REVIEW
折坂悠太 – トーチ
REVIEW
西洋彦 – fragments
REVIEW
クララズ – アメリカン
REVIEW
阿佐ヶ谷ロマンティクス – 独り言
REVIEW
平賀さち枝とホームカミングス – かがやき / New Song
REVIEW
TATEANAS-縄文人に相談だ/君と土偶と海岸で
REVIEW
ズカイ – 毎日が長すぎて
INTERVIEW
30代になった酩酊シンガーてらがRibet townsと鳴らす家族の歌
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2019-『ナイトサークル』リリースインタビュー
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2018
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 3日目
INTERVIEW
キタが語る、オルタナティヴ・バンドthanの正史ー2ndアルバム『LINES』リリース・インタビュー
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 1日目
INTERVIEW
はちゃめちゃなエンタテインメントがやりたいーチャンポンタウン“Giant step”リリース・インタ…
INTERVIEW
3人で歌の本質を確かめる場所―のろしレコード(松井文、夜久一、折坂悠太)『OOPTH』リリース・イン…
INTERVIEW
清水煩悩との雑談(前編)-新MV“まほう”・“リリィ”を公開&クラウドファンディング始動
REVIEW
アフターアワーズ – ヘラヘラep / ガタガタep
REVIEW
河内宙夢&イマジナリーフレンズ – 河内宙夢&イマジナリーフレンズ
INTERVIEW
休日に音楽を続ける人たちのドキュメント-松ノ葉楽団3rdアルバム『Holiday』リリースインタビュ…
INTERVIEW
日常に散らばった、ささやかな幸せを愛でるー大石晴子 1st EP『賛美』インタビュー
REVIEW
THE HillAndon – 意図はない
REPORT
リクオ『Gradation World』スペシャル・ライヴat 代々木・Zher the ZOO レ…
REVIEW
Ribet towns – メリーゴーランド / CRUSH / みまちがい
REPORT
峯大貴が見た祝春一番2019
INTERVIEW
今また初期衝動に戻ってきた – リクオ『Gradation World』リリースインタビュー–
REVIEW
HoSoVoSo – 春を待つ2人
REPORT
峯大貴が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
ここから踏み出す、ギリシャラブの“イントロダクション” – 2nd Album『悪夢へようこそ!』リ…
INTERVIEW
その時見たもの、感じたことを記録していく – ダイバーキリン『忘れてしまうようなこと』リリースインタ…
REVIEW
チャンポンタウン – ごきげんよう
REVIEW
宵待 – NAGAME
INTERVIEW
cafe,bar & music アトリ
REVIEW
てら – 歌葬
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day3】ULTRA CUB / Gateballers /…
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day2】Homecomings / Moccobond /…
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day1】ベランダ / Crispy Camera Club…
INTERVIEW
KONCOS:古川太一 × ボロフェスタ主催 / Livehouse nano店長:土龍対談 - 音…
REVIEW
ローホー – ASIA MEDIA
REVIEW
影野若葉 – 涙の謝肉祭
REVIEW
Pale Fruit – 世田谷エトセトラ
REVIEW
原田知世 – music & me
REVIEW
Traveller – Chris Stapleton

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

COLUMN
【2024年8月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年8月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REVIEW
出会い別れ、痛み哀しみ喜びを意地でもポップスに昇華する、美しくも生々しい4作目-路地『わかりあえないことから』

出会い別れ、痛み哀しみ喜びを意地でもポップスに昇華する、美しくも生々しい4作目 …

REPORT
湯上りで、歌に浸かる『いい湯歌源』【きょうもどこかで音楽が Vol.1】

JR円町駅を下車して西大路通を北上。途中で細い路地を右に曲がり、小さな橋を渡ったところにある昔ながら…