休日に音楽を続ける人たちのドキュメント-松ノ葉楽団3rdアルバム『Holiday』リリースインタビュー
「生活が第一」を掲げるバンドが描く新作『Holiday』
改めて『Holiday』は前作『JOURNEY』から3年ぶりの作品となります。この間に松葉さんは仕事の関係で2年間フランス・パリに行かれていましたが、その間は休止していたのでしょうか?
夏だけ帰ってきて、その間だけライヴするという活動でしたね。でもそれぞれ別のバンドもやっているし、残っている3人でライヴもやった。なので休止していた感覚はあまりないですね。
合間に日本に帰ってくる時に、かなりの数の新曲を持ちこんで、その時にガッと作ってライヴしたり。今回の作品に入っている曲は去年の夏ごろからまた日本に戻ってきたのでそこから仕上げていった形ですね。
どういうアルバムにしたいという構想はありましたか?
1枚目(『タイム・ラグ』/ 2014年)、2枚目(『JOURNEY』/ 2016年)は曲が溜まったから活動ペースとして出した方がいいだろと、受動的に作っていた部分もありました。でも今回はしっかり取捨選択して、1枚の作品を作りたいなと思って。だから録音したけど結果入れなかった曲もあるし、アルバム全体の質感とか曲の長さと流れも意識して、コンセプチュアルなものにしたかった。
どんなコンセプトでしょうか?
今回は抽象的な歌詞表現はせずに、日常の出来事を並べたような短編集にしたかったんです。なおかつアルバム全体を通して、朝起きて夜寝る時までの一日の流れを描きたかった。でも一日の流れを追う上で、仕事があると、ストーリーに空白が生まれる。だからある休日を描くという意味でタイトルは『Holiday』にしました。あと僕たち自身も普段は仕事をしているので、この作品はリアルにHolidayに作っている。そんな仕事や生活がありながら休日になったら思わず音楽活動をしてしまっているという、自分たちのドキュメント的な空気感も出したかったんです。
自分たちの音楽活動ができる時間こそを作品として描くと。
「働きながら音楽活動をすることを考える」みたいなこと過去アンテナでも取り上げていたり、各所で言われていますよね。それは興味深いのですけど、自分たちにとっては考えるまでもなくって、自然にそうなっているんです。両立していくという意識すらない。バンドってメンバーがいないと出来ないし、何か月後にこれがあるからみんな有給使って、とか色々大変なことがあると思うけど、僕らはもっと適当にやっていて。「再来週にライヴ入りそうけどいける?」「3人いけたから、やろっか」くらいな感じ。
オファー受けたら「何とかしまっす」って(笑)。
僕たちのバンドのルールが「生活が第一」なんです。しんどくなったら活動を減らしたらいいし、例えば誰かが結婚したり子どもが生まれた時は制約も出てくるけど、それぞれの生活を応援できるバンドでありたい。そんなスタイルだからこそ作れる音楽、出せる空気感もあるんじゃないかなって……何の話ですっけ?
『Holiday』のコンセプトです!(笑)。でも本当に生活の匂いが立ち込めてきますし、仲間と音楽をするのが楽しいという肩の力が抜けた空気感に溢れていると感じました。アルバムの中身の話に戻しますが、松葉さんがパリに住んでいたことで曲作りに反映された部分はありますか?
M6 “白いスタジアム” とか?
僕が住んでいたところの近くにスタッド・シャルレティというスタジアムがあったんです。人がすごく集まっているけど、全く何の競技をやっているのかもわかんなくって窓の外からワーって歓声が上がっている情景のことです。M1 “Morning Call” も現地で買ったミニギターを引きながら公園で作った曲ですね。一旦バンド活動も休止するから音楽的にもゼロからやろうと思って、日本からはアコギも持っていかずに行ったことで生まれた曲です。
では明確に曲作りにおいても切り替えようという意識があったんですね。
ありました。以前あったバンドのイメージをいったんゼロに戻して、自由に発想してみるようにはしていました。
楽器も今までとは変わっていて、自分はエレキギターを弾くようになったり、かんじょうさんは生ピアノで録音している。そういう意味でサウンドも大きく変化していると思います。
最後の曲はM8 “Midnight Special” です。レッド・ベリーが歌詞をつけて、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)のカバーなどでも知られているスタンダード・ナンバーですが、松葉さんによる訳詞で収められています。なぜこの曲を入れたのでしょうか?
高木大丈夫君と一緒に演奏した時にコラボしようとこの曲を持ってきてくれて知りました。3コードで簡単やけど、心に残るメロディで素晴らしいなと思って。歌詞調べたら色々背景がある曲なんですよ。それを日本語で歌いたいなと思って。
原曲は刑務所にいる囚人が外に出たいという切実な願いの歌ですよね。以前からエイモス・ミルバーン “One Scotch,One Burbon,One Beer” も訳詞して演奏されていますが、今なかなか海外の曲を訳詞で歌おうとするミュージシャンも少ない気がしていて。
そうなんですかね。やっぱり英語で聴いてすっと理解できない人もいるだろうし、英語の響きも魅力だけど、あえて日本語にして歌っている人がやっぱり好きなんですよね。バンバンバザールとかカンザス・シティ・バンドとか。今回この曲に最後に入れたのは次の朝を感じさせる曲だからです。救われることを信じて寝るんだけど、でも救いはこなくてまた朝になる。僕としては循環している感覚で、もう1回頭の “Morning Call” から繰り返し聴ける感じがします。
この前、朝の通勤でこの曲聴いていたら、めっちゃブルーになった。
あかんやん。松岡さんは僕が歌詞を持っていったら深読みしてくれるんです。「ブラック企業の歌やん!」って。
松葉君の書く詞はいつも優しいんですよ。差別がなくて、どんな人も傷つかない。女らしさや男らしさを声高にいうこともない。だからこれもサラリーマンに光を照らしているのか?と感じてしまって。
「照らしておくれ やさしい光を」と松葉さんの訳詞はやさしいですよね。またそれがサラリーマンの悲哀に聞こえるのはすごく面白い。日本では武蔵野タンポポ団の訳詞カバーが有名ですが「おお切なやポポ 夜汽車は泣く」と高田渡が歌っているような切実な感触はなくって。
逐語訳が苦手で自分なりに膨らましてしまったので、また別の味が出ているといいですね。
10周年を超えた松ノ葉楽団が目指す越境
紆余曲折を経て10年間を超えた松ノ葉楽団ですが、今後もバンドを続けていく上での目標とか、どうありたいのかということを最後に伺いたいのですが。
そうですねぇ……。今回かなりシンプルで短い曲が揃った作品を作ったので、壮大な曲を作りたくなっています。めっちゃ転調するような曲やアレンジの凝った曲ですね。あとはやっぱり僕らの周りにいいなと思うバンドがたくさんいて。そんな人らみたいになりたいというのが原動力です。Pirates Canoe、ラリーパパ&カーネギーママ、高木大丈夫とNo Problems、ハチャトゥリアン楽団、大石みつのんさん(exちょい濡れボーイズ)、ラヴラヴスパーク、カサスリムさん、ROBOW……。身近やけど、そこに憧れ続けているからまだまだ続けていかないとなと。
あと今後は自分たちが色んな人たちと繋がってきたことを発信していくこともやっていきたいですね。自分たちは京都のバンドですけど、京都のライヴハウス・シーンではお目にかかれないバンドとやることが多いので。
アコースティック主体であったり、ルーツ系のバンドはいわゆる京都のライヴハウスにあまり出ていないので、そこのハードルを下げたい。それぞれが界隈として固まりたくないですし、いかに越境していくかを考えていきたいです。
その越境は、最初ロック・バンドとしてライヴハウスからスタートした松ノ葉楽団だからこそ出来ることですね。
ライヴハウスやフェスももっと出たいし、色んなところで通用していきたいし。
ボロフェスタとか本当に出たいもんね。ナノボロフェスタは一回あるけど(2014年)。
あのKBSホールのメインステージに出て、ステンドグラスが開くところでやるのがバンドのステータスみたいなのがあるじゃないですか。でも僕たちこの前KBS京都主催のラジオまつりのイベントに呼んでもらって、実はそこで叶ってしまって…!ステンドグラス前にバーンと巨大なスクリーンにイベントタイトルが掲げられていましたが。ボロフェスタとは全然違う客層の中でスーダラ節をやりました(笑)。
そんな越境の仕方、ある意味ボロフェスタより稀有な経験していると思います!(笑)
作品情報
松ノ葉楽団 3rdアルバム『Holiday』
価格:¥2,000(税抜)
収録曲
1. Morning Call
2. グラスを空けよう
3. Hot Coffee Rag
4. あかりがつけば
5. ダイヤのリング
6. 白いスタジアム
7. Girl In A Poster
8. Midnight Special
公式サイト 松ノ葉楽団
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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