東京都杉並区永福町を拠点とする4人組ポップバンドmogsan。昨年タレントの野呂佳代をボーカルに迎えた楽曲“さよならサマー”を本サイトで紹介した時には「まるでティン・パン・アレーのようにプロデュース・チームとして周りのファミリーを巻き込みながら、独自のポップスを追求している」と評した。ボーカルの役割を他の人が担っても、山内健司(Vo / Gt)のソングライティング力と、メンバーそれぞれが持つ、ボサノヴァ、アフロ・キューバン、フォーク、AOR、民謡などの具材を合わせてJ-POPの出汁で炊いて調理したかのような演奏とアレンジからは、やはりmogsanとしか言いようのない、豊かな香りが漂ってくるのだ。
山内の書く歌詞も特徴的で、家族や友人、恋人など、あるコミュニティーにフォーカスを当てて、言葉が醸す情景の力を借りながら日常を描写していくことで愛着を沸き立たせている。中でも情景描写が巧みなのが“恋する縄文”(2017年)だ。デートの時間まで雨宿りに入った図書館で手に取った「縄文人の暮らし」を読みながら、一万年前の縄文時代に思いを馳せると同時に、デートに向けた高揚が入り混じっていく主人公の様子がたまらなく愛らしくて感情移入してしまうのである。
mogsan 1stアルバム『月と健康』(2017年)
ここで収録された2曲はいずれも縄文時代をテーマにしたバンドという異次元のシチュエーション・ポップスといえる。レキシの“狩りから稲作へ”のような先行例はあれど、日本史をフィルターとして取り入れるのではなく、生活の中に縄文時代との接点を見つけ、日常に新たな彩りを加えていく歌詞描写は、いわば“恋する縄文”の続編と言うべき仕上がりだ。
『縄文ZINE』でのお悩み相談記事と同タイトルの“縄文人に相談だ”は、家事も仕事もサボりたい逃避欲求が太古の昔へと心をいざなっていく、アコースティック・ディスコ・チューン。Grover Washington Jr(グローヴァー・ワシントン・ジュニア)“Just the two of us(クリスタルの恋人たち)”を思わせる鉄板のコード進行とグルーヴを取り入れつつ、大石の昨年作EP『賛美』の質感にも通じる、倦怠感を滲ませる歌声と、菊池のシンセプレイが光っている。一方の“君と土偶と海岸で”は土偶(=アイドル)とかけた、片思いを歌う縄文ラブソング。“サマー・モノクローム”(2018年)に通じる、まったりとしたサーフィン・サウンドに合わせて山内と大石が囁くように歌い交わすデュエットからは、月明かりの下の海沿いにぽつんと佇む男女の光景が浮かんでくる。
mogsanが送り出す家内制手工業のポップ・ミュージック。単なるノベルティ・ソングと侮るなかれ。
WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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